Title  井蛙抄第六 雑談  Author  頓阿  Description ----  9 又云中納言入道慈鎮和尚に進ける状に我歌 の事を書に西行法師所称日本第一歌人と 云といへとも亡父歌に比するに十分一に不及 云々  10 或人語云西行自歌を番て宮川哥合定家少年比 判をこひけり被判之後西行人のもとにつか はしける状に侍従こそ哥判していたして候へ是 もよからんするけにこそと云々 ----  34   寺 徳大臣には哥のまと云所あり寝殿の西の角 の間也是後徳大寺左府西行に被対面ける所 なり一条法印云左大将家六百番哥合の時左 右人数日々に参て加評定て左右申詞を被書 けり自余人数不参日あれとも寂蓮顕昭は毎日 に参ていさかひ有けり顕昭はひしりにて独 古を持たりける寂蓮はかまくひをもたてゝいさ かひけり殿中の女房例の独古かまくひと名付ら れけりと云々 ----  60 戸部云文学上人哥五首詠て京極禅門許 に持来皆その心珍重也仏法練行心通和歌歟之 由記録被書載都賀尾明恵上人は此道数寄異他 也仍新勅撰に歌あまた被撰入又自遣心集といふ 集をかきて哥をあつめられたり文学上人数寄 被相読歟  61 心源上人語云文学上人は西行をにくま れけりそのゆへは遁世の身とならは一すちに 仏道修行外不可他事数寄をたててこゝか しこにうそふきありく条にくき法師なりい つくにてもみあひたらはかしらを打わるへき よしつねのあらましにて有けり弟子とも 西行は天下の名人なりもしさる事あらは可為 珍事となけきけるに或時高尾法花会に 西行まいりて花の陰なとなかめありきける 弟子とも是かまへて上人にしらせしとおもひて 法花会もはて坊へ帰りけるに庭に物申候はんと 云人あり上人たそととはれたりけれは西行と申 ものにて候法花結縁のために参て候今は日くれ 候一夜此御庵室に候はんとて参て候といひけれは 上人うちにて手くすねさ引ておもひつる事 かなひたるていにてあかり障子をあけてまち出 けりしはしまもりてこれへ入給へとて入て対面 してとし比承及候て見参に入度候つる御尋悦 入候よしなとねん比に物かたりして非時など饗 応して次朝又時なとすゝめて被帰けり弟子達 手をにきりつるに無為に帰ぬる事悦思ひて 上人はさしも西行にみあひたらはかしらうちわ らんなと御あらまし候しに殊に心閑に御物 語候つる事日来仰にはたかひて候と申けれは あらいふかひなの法師ともやあれは文学にう たれんする物のつらやうか文学をこそそた てんする者な山と被申けるにと云々  62 或人云千載集の比西行在東国けるか勅撰有 と聞て上洛しける道にて登蓮にあひにけ り勅撰の事尋けるにはや披露して御うた も多く入たると云けり鴫たつ沢の秋の夕暮と云 哥入りたりととひけれはみえさりしとこたへけれは さてはみて要なしとてそれより又東国へ下 りけると云々  63 或聖西国よりのほりけるか住吉に参りて通 夜して侍りける夢に御社のまへに僧俗男女 貴賎まいりあつまりたりゆゝしき人もおほし 猶人をまたるゝ躰なりしはらくありて黒衣 僧一人参たるを御殿のうちへ召入られて後け たかき御こゑにて心なき身にもあはれはしら れけり鴫たつ沢の秋のゆふくれと云哥を講 せられけるとみ侍るよし語けるとなん ----  此六巻文明十八年五月十七日常徳院以御内書御懇望之  条備之俄於燈下書写之畢然同八月正  本被返下重而右御内御自筆書同伊勢  守貞宗状有之者也   延徳元年四月二日    法印判  明応九季令懇望式仁写留之正本在禁  裏之由承及之此本曽以不可他借有之  書籍多以紛異者也行年七十二               沙弥判 ----  Note とんあ 【頓阿】 (1289-1372) 南北朝時代の歌人。俗名、二階堂貞宗。下野守光貞の子。和歌を冷泉為世に学び、為世没後も二条派の平明温雅な歌風を守り、同派中興の歌人とされる。和歌四天王の一人。「新拾遺和歌集」の撰に参与。家集「草庵集」、著書「愚問賢註」「井蛙(せいあ)抄」など。「続千載和歌集」以下の勅撰集に四六首入集。 大辞林 第二版 頓阿 とんあ 1289‐1372 (正応 2‐文中 1) 鎌倉・南北朝期の僧侶,歌人,歌学者。 〈とんな〉ともいう。 俗名二階堂貞宗。 京都の人。 二条為世に師事し,その没後も二条宗家に仕えた。 《新拾遺和歌集》の斤⊿の途中で没した二条為明を継いで同集を完成した。 兼好,浄弁,慶雲とともに,和歌四天王と称される。 家集に《草庵集》《続草庵集》,歌学書に《井蛙 (せいあ) 抄》や二条良基と問答形式の《愚問賢蔦⊿》などがある。 〈月宿る沢田の面にふす鴫の氷より立つ明方の空〉 (《続草庵集》)。 小高 道子 『ネットで百科@Home』  End  底本:   井蛙抄雑談篇 本文と校異   野中 和孝   和泉書院   1996年4月30日 初版第1刷発行   ISBN4-87088-805-X $Id: tona.txt,v 1.4 2019/07/09 02:30:53 saigyo Exp $