Title  拾玉集(慈円)  Subtitle  拾玉集第四  5106:  円位上人無動寺へのぼりて、大乗院のはなちでにうみをみやりて にほてるやなぎたるあさに見わたせばこぎ行く跡の浪だにもなし  5017:  かへりなんとて、あしたの事にてほどもありしに、今は歌と申すことは思ひたえたれど、結句をばこれにてこそつかうまつるべかりけれとてよみたりしかば、ただにすぎがたくて和し侍りし ほのぼのとあふみのうみをこぐ舟の跡なきかたに行くこころかな  Subtitle  拾玉集第五  5150:  円位上人宮川歌合、定家侍従判して、おくに歌よみたりけるを、上人和歌起請の後なれど、これは伊勢御かみの御事思ひ企てし事のひとつなごりにあらむを、非可黙止とてかへししたりければ、その文をつたへつかはしたりし返事に定家申したりし 八雲たつ神代ひさしくへだたれど猶わがみちはたえせざりけり  5151:  たちかへり返しに申しやる しられにきいすずがはらに玉しきてたえせぬみちをみがくべしとは   その判の奥書に、ひさしく拾遺にて年へぬるうらみなどをほのめかしたりしに、其後三十日にだにもたらずやありけむに程なく少将になりたれば、ひとへに御神のめぐみと思ひけり、上人も判を見て、このめぐみにかならずおもふ事かなふべしなどかたりしに、ことばもあらはになりにけり、上人願念叶神慮かとおぼゆる事おほかる中に、これもあらたにこそ  5158:  文治六年二月十六日未時、円位上人入滅臨終などまことにめでたく存生にふるまひおもはれたりしに更にたがはず、世のすゑに有りがたきよしなん申しあひけり、其後よみおきたりし歌ども思ひつづけて寂蓮入道の許へ申し侍りし 君しるやそのきさらぎといひおきてことばにおへる人の後の世  5159: 風になびくふじのけぶりにたぐひにし人の行へは空にしられて  5160: ちはやぶる神にたむくるもしほ草かきあつめつつみるぞかなしき  5161:  これは、ねがはくは花の下にてわれしなんそのきさらぎのもち月のころ、とよみおきて其にたがはぬ事を世にもあはれがりけり、又、風になびくふじのけぶりの空にきえて行へもしらぬわが思ひかな、もこの二三年の程によみたり、これぞわが第一の自嘆歌と申しし事を思ふなるべし、又諸社十二巻の歌合太神宮にまゐらせんといとなみしをうけとりてさたし侍りき、外宮のは一筆にかきてすでに見せ申してき、内宮のは時の手共にかかせむとて料紙などさたする事をおもひてかく三首はよめるなり 朝夕に思ひのみやる水がきのひさしくとはぬもろごころかな  5162: 山川にしづみしことばうかびぬるをさても猶すむわが心かな  5163: もろともにながむべかりしこの春の花も今はの比にも有るかな  5164:  返し                   寂蓮 君はよしひさしくおもへ水がきのむかしとならん身の行へまで  5165:  此間所労大事にてみなも御返事え申さず、水がきばかりを所労述懐によせて申し候とてかくなん、後日に所労のびのびに令和進とて五首送之 いさぎよくさぞすみぬらむ山河にしづむと見えてうかぶこころは  5166: 思ひあまり身にしむ風もいかがせんはなも今はの比となりなば  5167: いひおきし心もしるしまとかなる位の山にすめる月影  5168: たぐひなくふじのけぶりを思ひしにこころもいかにむなしかるらむ  5169: 伊勢のうみにかきあつめてぞもしほ草をはりみだれぬえにはなりける  End  親本::  底本::   著名:  新編国家大観 第三巻        私家集編Ⅰ 歌集   編者:  「新編国歌大観」編集委員会   発行所: 株式会社角川書店   発行日: 昭和60年5月16日 初版発行   国際標準図書番号: ISBN4-04-020132-9  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: Fujitsu FMV DESK POWER   入力日: 2001年07月10日  校正::   校正者:    校正日: