Title  西行花伝抄  Data  「西行物語」の和歌を抄出したものが成立するのなら、「西行花伝」の和歌を抄出してもいいじゃないか。やってしまおう。平成十ニ年師走。新渡戸広明  Subtitle  序の帖  藤原秋実、甲斐国八代荘の騒擾を語ること、ならびに長楽寺歌会に及ぶ条々  *和歌なし  Subtitle  一の帖  蓮照尼、紀ノ国田中荘に西行幼時の乳母たりし往昔を語ること、ならびに黒菱武者こと氷見三郎に及ぶ条々  *和歌なし  Subtitle  二の帖  藤原秋実、憑女黒禅尼に佐藤憲康の霊を喚招させ西行年少時の諸相を語らしむること、義清成功に及ぶ条々  *和歌なし  Subtitle  三の帖  西住、草庵で若き西行の思い出を語ること、鳥羽院北面の事績に及ぶ条々  0001:P122L16  (京極太政大臣中納言と申しけるをりしきくおびただしき程にしたてて鳥羽院にまゐらせ給ひたりけり。鳥羽の南殿の東面のつぼに、ところなきほどにうゑ給ひたりけり。公重の少将人々すすめてきくもてなされけるに、くははるべきよしありければ) 君が住む宿の坪をば菊ぞかざる仙の宮とやいふべかるらん  Subtitle  四の帖  堀川の局の語る、義清の歌の心と恋の行方、ならびに忠盛清盛親子の野心に及ぶ条々  0002:P144L17 堀河局  長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ  0003:P148L05 兵衛局  よろづ代のためしし見ゆる花の色をうつしとどめよ白河の水  Subtitle  五の帖  西行の語る、女院観桜の宴に侍すること、ならびに三条京極第で見る弓張り月に及ぶ条々  0004:P183L03  (月によする恋) 弓張の日に外れて見る影のやさしかりしはいつか忘れん  Subtitle  六の帖  西住、病床で語る清盛論争のこと、ならびに憲康の死と西行盾世の志を述べる条々  0005:P210L03  (述懐十首 1/10)                はこや いざさらば盛り思ふもほどあらじ藐姑射が峯の花にむつれし  0006:P210L12  (述懐十首 2/10) 山深く心はかねておくりてき身こそ憂き世を出でやらねども  0007:P210L14 捨てがたき思ひなれども捨てて出でむまことの道ぞまことなるべき  0008:P212L15 柴の庵と聞くはくやしき名なれども世にも好もしき住居なりけり  Subtitle  七の帖  西住、西行の出離と草庵の日々を語り継ぐこと、ならびに関白忠通の野心に及ぶ条々  0009:P214L08 捨てしをりの心をさらに改めて見る世の人に別れ果てなん  0010:P228L01 惜しむとて惜しまれぬべきこの世かは身を捨ててこそ身をも助けめ  0011:P230L06 世の中を背きはてぬと言ひ置かん思ひしるべき人はなくとも  0012:P231L13 思へ心人のあらばや世にも恥ぢんさりとてやはと勇むばかりぞ  0013:P236L06 散るを見で帰る心や桜花昔にかはるしるしなるらん  0014:P238L07 わりなしや氷る筧の水ゆゑに思ひ捨ててし春の待たるる  0015:P239L07 世の中を捨てて捨て得ぬ心地して都離れぬわが身なりけり  0016:P239L18 さればよと見るみる人の落ちぞ入る多くの穴の世にはありける  0017:P240L06 雲晴れて身にうれへなき人の身ぞさやかに月のかげは見るべき  0018:P241L02 わがものと秋の梢を思ふかな小倉の里に家居せしより  0019:P241L04 牡鹿なく小倉の山のすそ近みただひとりすむわが心かな  0020:P244L04 花に染む心のいかで残りけん捨て果ててきと思ふわが身に  Subtitle  八の帖  西行の語る、女院御所別当清隆の心変りのこと、ならびに待賢門院の落飾に及ぶ条々  0021:P245L12 知らざりき雲居のよそに見し月のかげを袂に宿すべしとは  0022:P246L16 今日ぞ知る思ひ出でよとちぎりしは忘れんとての情なりけり  0023:P247L10 おもかげの忘らるまじき別れかな名残りを人の月にとどめて  0024:P247L17 月見ばと契りおきてしふるさとのひともやこよひ袖めらすらむ  0025:P257L06 恋しさや思ひ弱るとながむればいとど心をくだく月影  0026:P257L10 身の憂さの思ひ知らるることわりにおさえられぬは涙なりけり  0027:P258L01 かかる身に生したけけんたらちねの親さへつらき恋もするかな  0028:P258L13 うちむかふそのあらましの面影をまことになして見るよしもがな  0029:P259L01 あはれとも見る人あらば思ひなん月のおもてにやどる心は  0030:P273L05 主いかに風わたるとてたとふらんよそにうれしき梅の匂ひを  Subtitle  九の帖  堀川局の語る、待賢門院隠棲の大略、ならびに西行歌道修行の委細に及ぶ条々  0031:P286L09 雲晴れて身にうれへなき人の身ぞさやかに月のかげは見るべき  0032:P289L06 捨てて後はまぎれし方おぼえぬを心のみをば世にあらせける  0033:P289L14 もの思へどもかからぬ人もあるものをあはれなりける身の契りかな  0034:P290L10 月にいかで昔のことを語らせてかげに添ひつつ立ちも離れじ  0035:P295L12 俊成  いかばかり嬉しかりけむさらでだに来む世のことは知らまほしきに  0036:P295L16 遅桜みるべかりける契あれや花の盛は過ぎにけれども  0037:P303L10 掘河  君こふるなげきのしげき山里ほただ蜩ぞともに鳴きける  Subtitle  十の帖  西行の語る、菩提院前斎院のこと、ならびに陸奥の旅立ちに及ぶ条々  0038:P308L07 山おろす嵐の音のはげしさをいつならひける君がすみかぞ  0039:P303L12 兵衛  うき世をばあらしの風に誘はれて家を出でにしすみかとぞ見る  0040:P317L10 篠むらや三上が嶽を見渡せば一夜のほどに雪の積れる  0041:P317L18 春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり  0042:P319L01 寂超  もろともに散る言の葉をかくほどにやがても袖のそぼちぬるかな  0043:P319L05 年経れど朽ちぬときはの言の葉をさぞしのぶらん大原の里  0044:P328L12 たづぬとも風のつてにも聞かじかし花と散りにし君がゆくへを  0045:P328L16 掘河  吹く風のゆくへ知らするものならば花と散るにもおくれざらまし  0046:P329L03 掘河  限りなく今日の暮るるぞ惜しまるる別れし秋の名残と思へば  0047:P329L11 崇徳院  限りありて人はかたがた別るとも涙をだにもとどめてしがな  0048:P329L15 兵衛  散り散りに別るる今日の悲しさに涙しもこそとまらざりけれ  0049:P330L15 崇徳院  あいがたき法にあふぎの風ならば心の塵を払へとぞ思ふ  0050:P331L07 ちりばかり疑ふ心なからなん法をあふぎて頼むとならば  0051:P332L16 この春は君に別れの惜しきかな花のゆくへを思ひ忘れて  0052:P333L07 六角  君が往なん形見にすべき桜さへ名残りあらせず風誘ふなり  0053:P333L16 陸奥のおくゆかしくぞおもほゆる壷のいしぶみ外の浜風  0054:P334L04 さりともとなほ逢ふことをたのむかな死出の山路を越えぬ別れは  0055:P334L13 鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらん  Subtitle  十一の帖  西行が語る、陸奥の旅の大略、ならびに氷見三郎追討に及ぶ条々  0056:P337L17 都出でて逢坂越えしをりまでは心かすめし白川の関  0057:P345L04 あはれしる人見たらばと思ふかな旅寝の床に宿る月影  0058:P354L18 白川の関屋を月のもる影は人の心を留むるなりけり  0059:P355L07 年月をいかでわが身におくりけん昨日の人も今日はなき世に  0060:P361L11 とりわきて心もしみて冴えぞわたる衣川見にきたる今日しも  Subtitle  十二の帖  寂然、西行との交遊を語ること、ならびに崇徳院の苦悶に及ぶ条々  0061:P375L16 ひまもなき炎のなかの苦しみも心おこせば悟りにぞなる  0062:P375L18 朝日にやむすぶ氷の苦は解けむ六つの輪をきく暁の空  0063U:P378L06           為盛  思ふにもうしろあはせになりにけり  0063L:P378L14           西行 うらがへりたる人の心は  0064:P379L12 身を捨つる人はまことに捨つるかは捨つる人こそ捨つるなりけれ  0065U:P380L09           西住  ひがさ着るみのありさまぞあはれなる  0065L:P380L17           西行 雨しづくともなきぬばかりに  Subtitle  十三の帖  寂念、高野の西行を語ること、ならびに鳥羽院崩御、保元の乱に及ぶ条々  0066:P406L07 たぐひなき思ひいではの桜かな薄紅の花のにほひは  0067:P410L03 身をわけて見ぬこずゑなく尽くさばやよろづの山の花の盛りを  0068:P410L13 吉野山こずゑの花を見し日より心は身にもそはずなりにき  0069:P411L03 うかれ出づる心は身にもかなはねばいかなりとてもいかにかはせん  0070:P419L08  一院(鳥羽院)崩れさせおはしましてしやがての御所へ渡しまゐらせける夜、高野より出であひてまゐりあひたりける、いと悲しかりけり。この、後おはしますべき所(安楽寿院)御覧じ初めけるそのかみ(はじめて御覧になった昔)の御供に、右大臣実能、大納言と申しける候はれけり。 忍ばせおはしますことにて、また人候はざりけり。その御供に候ひけることの思ひ出でられて、折しも今宵にまゐりあひたる、昔今のこと思ひつづけられて詠みける 今宵こそ思ひ知らるれ浅からぬ君に契りのある身なりけり  0071:P478L03  世の中に大事出で来て、新院あらぬ様にならせおはしまして、御髪おろして、仁和寺の北院におはしましけるにまゐりて、兼賢阿闍梨出であひたり。月明かくて詠みける かかる世にかげも変らずすむ月を見るわが身さへ恨めしきかな  Subtitle  十四の帖  寂然の語る、新院讃岐御配流のこと、ならびに西行高野入りに及ぶ条々  0072:P486L06           崇徳院  思ひきや身を浮き雲になしはてて嵐のかぜにまかすべしとは  0073:P495L16           寂然  雲居にて昔ながめし月のみや旅の空仁も離れざるらん  0074:P496L16           顕仁  うき事のまどろむほどは忘られて覚むれば夢の心地こそすれ  0075:P499L06           寂然  慰めに見つつも行かむ君が住むそなたの山を雲な隔てそ  0076:P499L11  返し       崇徳院  思ひやれ都はるかに沖つ波立ち隔てたる心細さを  Subtitle  十五の帖  寂然、引きつづき讃岐の新院を語ること、ならびに新院崩御に及ぶ条々  0077:P508L06           崇徳院  みづぐきの書き流すべきかたぞなき心のうちは汲みて知らなん  0078:P508L13  返し       西行 ほど遠み通ふ心のゆくばかりなほ書き流せみづぐきの跡  0079:P509L16 家の風吹き伝へけるかひありて散る言の葉のめずらしきかな  0080:P510L03  返し       公能  家の風吹き伝ふとも和歌の浦にかひある言の葉にてこそ知れ  0081:P512L17  (入道寂然大原に住み侍りけるに、高野よりつかはしける) 山深みさこそあらめと聞えつつ音あはれなる谷の川水  0082:P513L01 山深み真木の葉分くる月影ははげしきもののすごきなりけり  0083:P513L03 山深み窓のつれづれ訪ふものは色づきそむる黄櫨のたちえだ  0084:P513L05 山深み苔のむしろの上に居て何心なく啼く猿かな  0085:P513L07 山深み岩にしだるる水溜めんかつがつ落つる橡拾ふほど  0086:P513L09 山深みけ近き鳥の音はせでものおそろしきふくろふの声  0087:P513L11 山深み木暗き峯のこずゑよりものものしくもわたる嵐か  0088:P513L13 山深み榾伐るなりと聞えつつ所にぎはふ斧の音かな  0089:P513L15 山深み入りて見と見るものはみなあはれもよほすけしきなるかな  0090:P513L17 山深み馴るるかせぎのけ近さに世に遠ざかるほどぞ知らるる  0091:P514L03  (かへし)     寂然  あはれさはかうやと君も思ひやれ秋暮れがたの大原の里  0093:P514L05  ひとりすむおぼろの清水友とては月をぞすます大原の里  0094:P514L07  炭竈のたなびくけぶりひとすぢに心ぼそきは大原の里  0095:P514L09  なにとなく露ぞこぼるる秋の田に引板引き鳴らす大原の里  0096:P514L11  水の音は枕に落つるここちして寝覚めがちなる大原の里  0097:P514L13  あだにふく草の庵のあはれより袖に露置く大原の里  0098:P514L15  山風に峯のささ栗はらはらと庭に落ち敷く大原の里  0099:P514L17  ますらをが爪木にあけびさし添へて暮るれば帰る大原の里  0100:P515L01  葎這ふ門は木の葉にうづもれて人もさしこぬ大原の里  0101:P515L03  もろともに秋も山路も深ければしかぞ悲しき大原の里  0102:P516L15 言の葉の情絶えにし折節にあり逢ふ身こそ悲しかりけれ  0103:P517L03  返し       寂然  敷島や絶えぬる道に泣く泣くも君とのみこそ跡をしのばめ  0104:P518L06 世の中を背く便りやなからまし憂き析節に君逢はずして  0105:P518L15 あさましやいかなるゆゑの報いにてかかることしも有る世なるらん  0106:P519L01 その日より落つる涙を形見にて思ひ忘るる時の間もなし  0107:P519L10 ながらへてつひに住むべき都かはこの世はよしやとてもかくても  0108:P522L06           崇徳院  いとどしく憂きにつけてもたのむかな契りし道のしるべたがふな  0109:P523L10           崇徳院  かかりける涙にしづむ身の憂さを君ならでまた誰か浮かべん  0110:P523L16 ながれ出づる涙に今日は沈むとも浮かばん末をなほ思はなん  Subtitle  十六の帖  西行、宮の法院の行状を語ること、ならびに四国白峰鎮魂に及ぶ条々  0111:P535L07:山0393  (月歌あまたよみけるに17/33) ゆくへなく月に心のすみすみて果はいかにかならんとすらん  0112:P536L12:聞0015  (安楽行品 深入禅定 見十方仏) 深き山にすみける月を見ざりせば思ひ出もなきわが身ならまし  0113:P536L17:山0077  (花の歌あまたよみけるに5/25) 吉野山こずゑの花を見し日より心に身にもそはずなりにき  0114:P547L13:山1170  (宮の法院、高野にこもらせ給ひて、おぼろげにてはいてじと思ふに、修行のせまほしきよしかたらせ給ひけり。千日はてて、みたけにまゐらせ給ひて、いひつかはしける) あくがれし心の道のしるべにて雲にともなふ身とぞなりぬる  0115:P548L01:山1171  (返し) 山の端に月すむまじと知られにき心の空になると見しよに  0116:P549L03:山0998  (ことのほかにあれさむかりけるころ、宮の法印高野にこもらせ給ひて、この程のさむさはいかがとて、こそで給はせたりける又のあした申しける) 今宵こそあはれみ厚き心地して嵐の音をよそに聞きつれ 0117:P556L16:山1445  (さぬきにまうでて、まつやまのつと申す所に、院おはしましけむ御あとたづねけれどかたもなかりければ2/2) 松山の波の景色は変らじをかたなく君はなしましにけり  0118:P561L11:山1446  (しろみねと申しける所に御はかの侍りけるにまゐりて) よしや君昔の玉のゆかとてもかからん後は何にかはせん  Subtitle  十七の帖  秋実、西行の日々と歌道を語ること、ならびに源平盛衰に及ふ条々  0119:P564L15:山1222  (津の国にやまもとと申す所にて、人をまちて日かずへければ) なにとなく都の方を聞く空はむつまじくてぞながめられける  0120:P568L15:山1465  (まなべと申す島に、京よりあき人どものくだりて、やうやうのつみのものどもあきなひて、又しはくの島にわたりたり。あきなはむずるよし申しけるをききて) 真鍋より塩飽へ通ふあき人はつみをかひにて渡るなりけり  0121:P568L17:山1468 (おきなるいはにつきて、あまどものあはびとりけるところにて) 岩の根にかたおもむきに並み浮きて鮑を潜く海士のむらぎみ  0122:P572L11:山0934  六波羅太政入道持経者千人集めて、津の国和田と申す所にて供養侍りけり。やがてそのついでに万燈会しけり。夜更くるままに、燈火の消えけるを、各々点しつぎけるを見て 消えぬべき法の光の燈火をかかぐる和田の泊なりけり  0123:P573L07:山1143  常よりも道辿らるるほどに雪深かりける頃、高野へまゐると聞きて、中宮大夫(時忠)の許より、かかる雪にはいかに思ひ立つぞ、都へはいつ出づべきぞ、と申したりける返事に 雪分けて深き山路に籠りなば年かへりてや君に逢ふべき 0124:P573L13:山1144  返し       時忠(卿) 分けて行く山路の雪は深くとも疾くたち帰れ年にたぐへて  0125:P575L15:山1460  (大師のむまれさせ給ひたる所とて、めぐりのしまはして、そのしるしにまつのたてりけるをみて) あはれなり同じ野山に立てる木のかかるしるしの契りありける  0126:P577L02:山1448  (すみけるままに、いほりいとあはれにおぼえて) 今よりはいとはじ命あればこそかかるすまひのあはれをも知れ  0127:P577L10 ここぞとて開くる扉の音ききていかばかりかはをののかるらむ  0128:P577L17(再掲:0061) ひまもなき炎のなかの苦しみも心おこせば悟りにぞなる  0129:P578L07 ここをまたわれ住み憂くて浮かれなば松はひとりにならんとすらん  0130:P592L05  福原へ都遷りありと聞きし頃、伊勢にて月の歌詠み侍りしに 雲の上や古き都になりにけりすむらむ月の影は変らで  Subtitle  十八の帖  秋実、西行の高野出離の真相を語ること、蓮花乗院勧進に及ぶ条々  0131:P607L05           堀河局  西へ行くしるべとたのむ月影のそらだのめこそかひなかりけれ  0132:P609L16  世の中に武者おこりて、西東北南いくさならぬところなし。うちつづき人の死ぬる数きくおびただし。まこととも覚えぬ程なり。こは何事のあらそひぞや。あはれなる事のさまかなと覚えて 死出の山越ゆる絶え間はあらじかしなくなる人の数つづきつつ  武者のかぎり群れて死出の山越ゆらむ。山だち(山賊)と申すおそれあらじかしと、この世ならば頼もしくや  0133:P611L10  木曾と申す武者、死に侍りにけりな 木曾人は海のいかりをしづめかねて死出の山にも入りにけるかな  0134:P619L09:山0848  (諸行無常の心を) はかなくて過ぎにしかたを思ふにも今もさこそは朝顔の露  0135:P620L16:家0106 世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ  Subtitle  十九の帖  西行の独語する重源来訪のこと、ならびに陸奥の旅に及ぶ条々  0136:P644L11:家0477  (東の方へあひしりたりける人のもとへまかりけるに、さやの中山見しことのむかしになりたりけるを思ひ出られて) 年たけてまた越ゆべしと思ひきやいのちなりけり小夜の中山  0137:P647L11:山0515  (あき、ものへまかりけるみちにて) 心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮  0138:P650L16:聞0348  (恋34/64) 風になびく富士の煙の空に消えて行方も知らぬ我思ひかな  Subtitle  二十の帖  秋実の語る、玄徹治療のこと、ならびに西行、俊成父子に判詞懇請に及ぶ条々  0139:P669L02:山0844  (月前述懐) 月を見ていづれの年の秋までかこの世にわれが契りあるらん  0140:P671L13:山0560  (冬歌よみけるに4/4) さびしさにたへたる人のまたもあれな庵ならべん冬の山里  0141:P674L02  西行法師高野に籠りゐて侍りしが、撰集の様なるものすなりと聞きて、歌書き集めたるもの送りて包紙に書きたりし           西行法師 花ならぬ言の葉なれどおのづから色もあるやと君拾はなん  0142:P674L07  かへし      俊成 世を捨てて入りにし道の言の葉ぞあはれも深き色も見えける  0143:P676L03:山0618  (冬歌十首10/10) 宿ごとにさびしからじとはげむべし煙こめたるをのの山ざと  0144:P679L14  円位上人(西行)宮川歌合、定家侍従判して、奥(末尾)に歌よみたりけるを、上人和歌起請(和歌をもはや詠まぬよう神に誓った)の後なれど、これは伊勢御神の御事思ひ企てし事のひとつ名残りにあらむを、非可黙止とて、かへし(返歌)為たりければ、その文を伝へ遣はしたりし返事に定家申したりし ハ雲たつ神代久しく隔たれどなほ我が道は絶せざりけり  0145:P680L05  たちかへり返しに申しやる 知られにき五十鈴川原に玉敷きて絶せぬ道をみがくべしとは  Subtitle  二一の帖  秋実、慈円と出遇うこと、ならびに弘川寺にて西行寂滅に及ぶ条々  0146:P693L18           道快  今はわれまことに家を出でてこむ何故そめし衣とかしる  0148:P694L06           道快  思たつ道にしばしもやすらはじさもあらぬ方た迷ひもぞする  0149:P694L11           道快  しのぶべき人もあらしの山寺にはかなくとまる我心かな  0150:P699L11:聞0099 散る花も根にかへりてぞまたは咲く老いこそ果ては行方しられね  0151:P705L03:拾玉集  (圓位上人無動寺へ登りて、大乘院のはなち出に湖を見やりて) にほてるやなぎたるあさに見わたせばこぎ行跡の浪だにもなし  0152:P705L07:拾玉集  (歸りなむとて朝のことにて程もありしに、今は歌と申すことは思斷ちたれど、これに仕るべかりけれとて詠みたりしかばた志にすぎ難くて和し侍りし 〔慈鎭〕)           (慈円)  ほのぼのとあふみのうみをこぐ舟の跡なきかたに行くこころかな  0153:P706L14:山0088  (花の歌あまたよみけるに16/23)  かの上人、先年に桜の歌多くよみける中に 願はくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃  0154:P706L18  かくよみたりしを、をかしく見たまへしほどに、つひにきさらぎ十六日、望日をはりとげけること、いとあはれにありがたくおぼえて、物に書きつけ侍る  願ひおきし花のしたにてをはりけり蓮の上もたがはざるらん  0155:P707L10:山0089  (花の歌あまたよみけるに17/23) 仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば  底本::   著名:  西行花伝   著者:  辻 邦生   和歌:  西行 他   発行所: 新潮社   初版:     国際標準図書番号:ISBN4-10-106810-0  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: Apple Macintosh Performa 5280   入力日: 2000年11月27日-  校正::   校正者:   校正日: