Title  異本 山家集   付録 西行論  Description  文學博士 藤岡作太郎 校及著  東京 本郷書院藏版  Description  西行上人集序 この本は、少なくとも三百年前の古寫本ならむ、その載するところの歌 は、刊本の山家集より過半少なきも、同集になきもの百六十六首あり、普 通の本とは、全くその内容を異にし、頓阿・周嗣の奧書さへのせたれば、こ れぞ、上人の集として、最古の面目を存せるものといふべき、また尾崎雅 嘉氏の群書一覽に、同氏の所藏なりとて、異本山家集なるものを掲げ、頓 阿・周嗣の奧書を抄出せるを見るに、全くこの本と同じきものに似たり、 されば、こは、尾崎氏の手澤本ならむも知れず、いまや偶、君が手に落つ、安ぞ 知らむ、上人の詩魂、君が高風を慕ひて、來り託するにあらざるかを、   明治卅九年五月下浣                      辱知 田中義成 拜職  Description  序 詩歌を爲るの人&M069425;のづからにして二種あり。其の一は吾が詩歌の必 らず佳にして必らず不佳ならざらんことを欲するの人なり。山谷の 如き定家の如きは此の一種に屬す。等の人の詩歌を作る、奇を求 め巧を求め、字錬句烹、一語苟くもせざるところより幾篇の妙詩歌 を做し出し來る。他の一は吾が詩歌の佳ならんことを欲せざるにあ らずといへども、又必らず佳にして必らず不佳ならざらんことを苦 求せず。興動き感來れば自然に吟咏するの人なり。淵明の如き西行 の如きは此の一種に屬す。此等の人、天分もと高く、感壞また雅、 風の水上に行きておのづからに文を成すが如く、自然に幾篇の妙詩 歌を做し出し來る。公平に之を論ずれば、彼此互に一長一短あり。 一は詩歌に役せらる、卑しとすべきに似たり。一は詩歌に役せられ ず、高しとすべきに似たり。然りと雖も飜つて之を觀れば一は詩歌 に忠なり、尚むべきに似たり。一は詩歌に忠ならざるなり、疎んず               【ママ】 べきに似たり。此の故に彼の作るとろには絶妙特奇の什甚だ多から ずと雖も平淺粗笨の者も亦殆ど無く、此の作るところには絶妙特奇 の什甚だ少からずと雖も平淺粗笨のものも亦時に存するを免れず。 譬へば一は名公鉅卿の庭園未だ必らずしも神工鬼斧の勝ある能はず と雖も、而もまた一の惡草俗石無きが如く、一は山水勝景の郷の、 人をして恍惚たらしむるものありと雖も、而もまた其の中間、空山凡 流草穢磧礫の地の點在する無き能はざるが如し。西行上人の山家集 を讀みて未だ必らずしも佳ならずとすべきの歌に會ふあるも怪むに 足らざるなり。 然りと雖も高明淡泊の人もまた既に好んで詩歌を爲れば心を辭藻に 留めざる能はず。西行上人身を竺教に委ねて早く名利を忘ると雖も、 心を和歌に染めて長く吟咏に耽る。理を以て之を推せば、其の人既 に名利を忘る、其の爲るところの歌の佳不佳の如きは問ふところに あらざる可きが如きも、情を以て之を測れば、其の人深く吟咏に耽 る、夢寐の間猶ほ筆墨を忘る能はざるべし。世に傳ふ、當時勅選和 歌の擧あるや、西行人に遇ひて吾が鴫立澤の吟の選に入りしや否や を質したりと。其の和歌に關心したるの淺からざる、見るべき也。 然るに今傳ふるところの山家集を見るに、其の佳なるもの固より多 し、而して其の不佳なるものも亦少からず、甚だ疑ふべき也。 蓋し世おのづから寃屈の事多し、詩歌の道亦然らざる能はず。詩歌 の佳ならざるにあらずして、而も世に流傳するに至らず、巨璧實劔、 不幸にして和雷に遭はず、終に空しく埋沒し湮滅するに至る。是も とより一寃屈なり。幸にして世に流布するも、傳寫日久しくして、 魯魚漸く多く、爛脱訛舛、眞を失ふに至る。是も亦一寃屈なり。爛 脱訛舛は猶忍ぶべし、不幸にして妄人の妄爲を被り、或は他人の詩 歌を竄入せられ、魚目蚌珠遽に辨じ難きを致すが如き、或は又立意 深遠、措辭幽玄、凡眼淺識を以て即ち測り難きのところ、臆度武斷 に遇ひて胡亂に點定加削せられ、改頭換面、美人發痘の慘に遭ふが 如き、是亦實に一大寃屈なり、况やまた手寫の本の梓行せらるゝに 及んで、不幸にして佳本刊刻せられず、惡本世に行はれて、永傳遠 播し、其の勢牢として拔くべからざるに至るが如き、是亦實に天長 地久の一大寃屈なり。西上人の歌名既に當時に高く、其の集夙に世 に行はると雖も、今傳ふるところの山家集は、果して上人をして寃 を抱かしめざるや否や、深く考ふべし。 今の山家集の訛誤爛脱少からざるべきは、予かつて名著文庫に山家 集を收むるに當つて、其の卷端に之を記せり、六家集中の山家集の 疑はしき事、並びに山家集に異本ありて、之を流布本に比すれば歌 數少きは、尾崎雅嘉之を郡書一覽に説けり。流布本の悉く信ずべか らざるや、もとより論無きなり。 私に謂ふ、流布本の是の如くなるも蓋し亦因る所無くんばあらず。 西上人既に歌名一世に高く、而して其の人雲水の遊を好み、窮郷僻 地また足跡を印す。然れば則ち眞詠の訛傳、僞作の假托、既に當時 に於て之無きを保すべからず、隨つて一部山家集、頭より尾に至る まで盡く皆上人の親撰に成るにあらざれば、採録結集するもの、編 成の初に於て、夙く過つて誤を傳へ僞を混ぜしや測り知るべからず。 且つ上人の歌を作る、たゞ眞情の流露して吟興の油然たるを尚び、 法度の森嚴、措辭の精緻は、其の必らずしも期するところにあらざ るに似たり。是を以て他の歌客に在つては、視て以て蕪陋穢雜なり として之を用うるを欲せざるの俚言俗語をも、上人は隨意に捃摭 到處に使用して、夷然として忌まず、予が所謂詩歌に役せらるゝに 似たるの人にあらずして、詩歌に役せられざるに似たるの人なり、 詩歌を作る、必らず佳にして必らず不佳ならざらんことを欲するの 人にあらずして、吾が詩歌の佳ならんことを欲せざるにあらずとい へども、又必らずしも佳にして必らずしも不佳ならざらんことを苦 求せざるの人なり、此の故に上人の集中、上人の眞に作るところの 歌と雖も、實は時に或は不佳の什無きを保せざるのみならず、是の 如き人の家集は、他人の假托の惡歌の攛入を招致し、兼ねて眞詠の 訛舛爛脱を包容するに最適の情状を有するものなるを以て、年處を 經るに從つておのづから玉石雜陳眞僞錯出の惡本を生成するに至る。 蓋し詩歌を作る、法度森嚴、措辭精緻の人の集は、たま/\一僞一 誤あるも、名公鉅卿の庭園の、内に一樹の歪倒せるあり、一石の俗 惡なるあれば、十目之を視て怪み、十指之を指して訝るが如し。お のづからにして人皆其の僞誤を悟り、之を正し、之を檢して、其の 眞を失し實を亂るを避くるを得るの情状あり。之に反して、眞山水 は、一樹の歪倒せるあり、一石の俗惡なるあるも、人之を等閑に看 過して異とせざるが如く、高人の詩歌の集は、實に後の淺人の爲に 過まらるゝ多し。淵明集は篇什甚だ多からず、而して或は誤つて顧 長康の詩を收め、或は刑天舞干戚を形夭無千歳となせるが如き、僞 誤甚だ少からず。僞誤はおのづから是僞誤にして、もとより高人を 累するに足らずと雖も、宋本夙く既に僞誤を傳へて、徒に後人の紛 紜を致し、劉斯立は顧詩に其の句あるを知つて而も猶淵明の句なら んを疑ひ、當に是凱之此を用ゐて全篇を足成せるなるべしと云ひ、 周必大は當に刑天舞干戚に作るべしといへる曾紘の説を排して、猶 形夭無千歳を可とせるが如き、實に淵明をして屈を負はしむといふ べし。西上人其の人となり彼の如く、其の歌を爲るまた彼の如し。 今傳ふるところの所謂山家集、果して上人をして寃屈を抱かしむる 無きや否や、深く考ふべし。 藤岡君近者僧周嗣傳ふるところの山家集を得て之を刊す。周嗣もと 西上人自筆の本を藏したりしといへば、其の諸本中の最古最眞のも のに屬するや疑ひ無し。歌集の類、皆訛誤爛脱多しと雖も、就中最 も甚しき從來の山家集に&M069425;ける疑雲、此の本を得て對校すれば、蓋 し多くは照破するを得ん、實に深く悦ぶべし。 然りと雖も周嗣本は上人自筆本に依るといへば、何人も自巳の手を 以て自巳の全集を成し得るもの無きを以て、西行上人の歌の周嗣本 に盡きざるや、是亦論無きなり。この點に於て周嗣本に存せずして 今の流布本に載するところの上人の歌を別録せるは、實に其の用意 の周匝深到せるを見る。是愈、深く悦ぶべき也。 明治丙午夏、藤岡君藏本山家集を借覽し、且つ君が覆刻の擧あるを 聞きて、偶感の數言をしるす。                           幸田露伴  Description  例言 一本書は西行上人集(即ち異本山家集)、これに附屬したる追加、拾遺、及び 附録西行論より成る。 一異本山家集は未だ剞劂に附せられざりし珍書なり、今始めてこれを 刊行するに當り、務めて原書の面目を存せんと欲して、送假名、當字の 如き、正式には合はぬものも、その儘になし置たり。(送假名の不足にて 訓みにくきところは、本文のわきに片假名にて小さくこれを加へ置 きたり。)假名遣、文字の誤などは誤解を招く恐多き故、正しき方に改め たり。 一歌の上に丸符あるは、流布本山家集にこれなきものなり、符なきは、此 にも彼にも通有せるものなり。肩書に新古、玉葉などあるは、新古今集、 玉葉集などの歌集にもある由を示せるものにて、これは新たに調査 したるにあらずして、原書の儘に從ひたるなり、實際は漏れたるもの もあるべし。 一内ナシと肩書せるは、西行法師家集の内閣本と比較して、この本に無 きを示し、補内とあるは内閣本によりて補へるものをいふ。 一間々本文のわきに漢字を當てたるは、了解に便ならしめんが爲の校 訂者の老婆心にして、括弧内にある傍註は、流布本山家集によりて異 同を示せるもの、特に内と記したるは、内閣本の異同を擧げたるもの なり。 一[ ]の符あるところは、衍文もしくは蠧蝕あるところなり、その中に 文字あるは校訂者が試みに充てたるなり。 一歌序も、これを流布本に比するに、異同甚だ多けれども、煩を厭ひて概 ね示さず。なほこれらの事につきては、附録西行論の第一章を見よ。 一追加即ち追而加書西行上人和歌とあるは、校訂者が所藏の本に附屬 したるもの、後人の編輯にかゝり、最初の原本に存するものにはあら ざるべしといへども、今その儘に掲ぐ。軆裁すべて前にいへる異本山 家集の例に凖ずべし。 一拾遺は流布本山家集にのみありて、異本になきもの拾ひあげたる なり。兩本通有のものは、既に異本のうちに明かなれば、固よりこゝに はすべて抹殺したり。 一拾遺は、印刷中、佐々木信綱氏の所藏にかゝり、その先代弘綱翁が古本 によりて校訂せられし本を恩借して、凡そその半を校訂したり、これ によりてまた和歌一首を増補することを得たるが、西行論の中にあ げたる和歌の數は、なほその以前に數へたるまゝなり。 一附録西行論は西行及びその作品につきての愚案を記せるものなり。 なほこの歌人につきては、余が國文學全史平安朝篇の末章に論じた れば、就いて參照せられんことを讀者に請ふ。 一西行論は小田原にありて草す、假寓の中資料に乏しく、歴史上の事實 は、書を裁して友人平出鏗二郎君の教を請ひたるところ少からず。 一この書の草稿の成れるは、長女光がその祖母に具せられて、小田原に 來らん日を指折り數へつゝ、暑中の清遊を夢想せる時なりき。今、印刷 成るや、愛兒は相州に客死して、既に七々日を過ぎたり。この人生の不 幸に逢ひて後、更に西行の和歌に對するに、殊に沈痛の感あり、前に論 せしところのなほ輕浮なりしことを覺&M069452;ずんばあらず、噫。  明治三十九年九月下旬             藤岡作太郎識  Note  送りカナは底本では小フォントである。  校注  (かっこ):校訂者(藤岡)注  〔かっこ〕:正誤表  【かっこ】:入力者(新渡戸)注  Description  目次 異本山家集・・・・・・・・・・・・一   春・・・・・・・・・・・・・・一   夏・・・・・・・・・・・・・一六   秋・・・・・・・・・・・・・二〇   冬・・・・・・・・・・・・・三四   戀・・・・・・・・・・・・・四〇   雜・・・・・・・・・・・・・四六 追加・・・・・・・・・・・・・・八五 拾遺・・・・・・・・・・・・・一〇九   春・・・・・・・・・・・・一〇九   夏・・・・・・・・・・・・一二一   秋・・・・・・・・・・・・一二九   冬・・・・・・・・・・・・一四八   戀・・・・・・・・・・・・一五七   雜・・・・・・・・・・・・一六六 附録西行論・・・・・・・・・・・・一   第一章 山家集・・・・・・・・一   第二章 撰集抄・・・・・・・一八   第三章 西行の經歴・・・・・三一   第四章 西行の性格・・・・・四四   第五章 崇徳天皇と西行法師・五五   第六章 西行の和歌・・・・・六九     (以上)  Section  西行上人集  Subtitle  春  0001:○新古  初春 岩間とぢし氷も今朝はとけそめて、苔の下水みちもとむらん。  0002:○同 ふりつみし高ねのみ雪とけにけり、清瀧川の水の白浪。  0003: 立かはる春をしれとも見せがほに、年をへだつる霞なりけり。  0004: くる春は嶺の霞をさきだてゝ、谷のかけひをつたふなりけり。  0005:           (たえ2)  (そむる3) こぜりつむ澤の氷のひま見えて、春めきにけり、櫻井の里。  0006:              &M000000;      &M000000;  信樂4 春あさみすゞのまがきに風さ&M069452;て、まだ雪き&M069452;ぬ、しがらきの里。  0007:     (の1)          ドモ1 春になる櫻がえだは何となく、花なけれ共むつまじき哉。  0008:             (の1)          (を1) すぎて行ク羽風なつかし、鶯よ、なづさひけりな、梅の立えに。  0009:   田舎3       (だみたるこゑは6) 鶯はゐなかの谷の巣なれども旅なる音をば鳴ぬなりけり。  0010: かすめども春をばよその空にみて、とけんともなき雪の下水。  0011:      (下水2)(くる2) 春しれと谷の細水もりぞ行ク岩間の氷ひまた&M069452;にけり。  0012:  鶯 鶯のこゑぞ霞にもれてくる、人目ともしき春の山里。  0013:○ 我なきて鹿秋なりと思ひけり、春をぞさてや鶯のしる。  0014:○  霞 雲にまがふ花のさかりをおもはせて、かつ/\かすむみ吉野の山。  0015:  社頭の霞と申ス事を、伊勢にて讀侍しに。 浪こすとふたみの松の見えつるは、梢にかゝる霞なりけり。  0016:  子日 春ごとに野邊の小松をひく人は、いくらの千代のふべきなるらん。  0017:     初子3  若菜、はつねのあひたりしに、人の許へ申遣し侍し。 若なつむけふははつねのあひぬれば、まつにや人のこゝろひくらん。  0018:續拾  雪中若菜を。      &M000000;                   ナリ1 けふはたゞ&M069425;もひもよらで歸りなん、雪つむ野邊の若菜成けり。  0019:  雨中若菜。          &M000000;               (手ぬきれ4) 春雨のふる野の若菜&M069425;ひぬらし、ぬれ/\つまん、かたみぬきいれ。  0020:  寄若菜述懷を。  (生る2)   &M000000; 若菜&M069425;ふ春の野守に我なりて、浮世を人につみしらせばや。  0021:  住侍し谷に、鶯のこゑせず成にしかば、何となく哀にて。 古巣3      〔り1〕正誤 ふるすうとく谷の鶯なるはてば、我やかはりてなかんとすらん。  0022:  梅に鶯の鳴侍しに。                       (山ざと3) 梅がゝにたぐへて聞ケば、鶯のこゑなつかしき春の明ぼの。  0023:  旅宿の梅を。 獨ぬる草のまくらのうつり香は、かきねの梅の匂ひなりけり。  0024:  嵯峨に住侍しに、道をへだてゝ、隣の梅のちりこしを。 ぬしいかに風わたるとていとふらん、よそにうれしき梅の匂ひを。  0025:  きゞすを。 &M000000;               枯2 &M069425;ひかはる春の若草待わびて、原のかれ野にきゞすなくなり。  0026:  &M000000;                野1 も&M069452;出る若菜あさるときこゆなり雉子嗚のゝ春の明ぼの。  0027:  霞中かへる雁を。 何となく&M069425;ぼつかなきは、天の原霞にき&M069452;て歸る雁がね。  0028:  歸雁を長樂寺にて。                    &M000000; 玉づさのはしがきかとも見ゆるかな、とび&M069425;くれつゝ歸るかりがね。  0029:○  歸雁 いかで我とこ世の花のさかりみて、ことわりしらむ、歸るかりがね。  0030:○  燕           ツバクラ1 歸る雁にちがふ雲路の燕め、こまかにこれやかける玉章。  0031:○  梅 色よりも香はこきものを、梅の花、かくれん物か、うづむ白雪。  0032:○                (數1)内イ(手折3)内 とめゆきてぬしなき宿の梅ならば、勅ならずともをりて歸らん。  0033:○ 梅をのみ我垣ねには植置て、見に來ん人に跡しのばれん。  0034:○新古 とめこかし、梅さかりなる我宿を、うときも人はをりにこそよれ。  0035:  柳風にしたがふ。  【たせ1】 見わせば、さほの川原にくりかけて、風によらるゝ青柳の糸。  0036:新古  山家柳を。     片岡4      (庵1)                 境3 山がつのかたをかかけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳。  0037:○  花   〔ば1〕正誤 君こずは霞にけふも暮なまし、花待かぬる物がたりせよ。  0038:○新古      &M000000;  (ふ1)内 &M000000; 吉野山櫻が&M069452;だに雪ちりて、花&M069425;そげなる年にも有哉。  0039:玉                      (も1) (り1) 山さむみ花さくべくもなかりけり、あまりかねてぞ尋きにける。  0040:○ 山人に花さきぬやと尋ぬれば、いさ白雲とこたへてぞ行ク。  0041:○新古 吉野山こぞのしほりの道かへて、まだみぬかたの花を尋ねん。  0042: よしの山人にこゝろをつけがほに、花よりさきにかゝる白雲。  0043:○内ナシ 咲やらぬ物ゆゑかねて物ぞ&M069425;もふ、花に心のた&M069452;ぬならひに。  0044:○玉葉 花を待ツ心こそなほ昔なれ、春にはうとくなりにし物を。  0045:                   (こころ2) かたばかりつぼむと花を思ふより、空また風の物になるらん。  0046:○ またれつる吉野の櫻さきにけり、心をちらせ、春の山風。  0047:○ さきそむる花を一&M069452;だまづ折て、昔の人のためと&M069425;もはん。  0048:○ あはれわがおほくの春の花をみて、そめ&M069425;く心誰にゆづらん。  0049:        &M000000;(に1) 山人よ、吉野の&M069425;くのしるべせよ、花もたづねん、また思ひあり。  0050:千載 おしなべて花のさかりになりにけり、山の端ごとにかゝる白雲。  0051:○ 春をへて花のさかりにあひきつゝ、思ひでおほき我身なりけり。  0052:續古                  キサラギ3 ねがはくは花の下にて春しなん、その着更衣のもち月のころ。  0053: 花にそむ心のいかで殘けん、すてはてゝきと思ふ我身に。  0054:新古             身1 よしの山やがて出じと思ふみを、花ちりなばと人や待らん。  0055:○ ちらぬまはさかりに人もかよひつゝ、花に春あるみよしのゝ山。  0056:                    身1 あくがるゝ心はさても山櫻、ちりなん後やみにかへるべき。  0057: 佛には櫻の花をたてまつれ、我後の世を人とぶらはゞ。  0058:          (なら2)       (は1) 花ざかり梢をさそふ風なくて、のどかにちらん春にあはゞや。  0059: 白河の木ずゑをみてぞなぐさむる、吉野の山にかよふ心を。  0060:續古 わきて見ん、老木は花もあはれなり、今幾たびか春にあふべき。  0061: 老2 おいづとに何をかせまし、この春の花待つけぬ我みなりせば。  0062:○ よしの山、花をのどかに見ましやは、うきがうれしき我身なりけり。  0063:○ 山路わけ花をたづねて日は暮ぬ、宿かし鳥の聲もかすみて。  0064:○ 鶯のこゑを山路のしるべにて、花みてつたふ岩のかけ道。  0065:○                〔かり2〕正誤 ちらばまたなげきやそはん、山櫻、さりかになるはうれしけれども。  0066:○    〔路1〕正誤        來1 白川の關跡の櫻咲にけり、あづまよりくる人のまれなる。  0067:○ 谷カ 谷河)内 濱風の花の波をし吹こせば、ゐせきにたてる嶺の村まつ。  0068:○                      付1  那智に籠りし時、花のさかりに出ける人に、つけて遣ける。 ちらでまてと都の花をおもはまし、春かへるべき我みなりせば。  0069:○ いにしへの人の心のなさけをば、ふる木の花の梢にぞしる。  0070:○ 春といへば誰も吉野の山とおもふ、心にふかきゆゑやあるらん。  0071:○ あかつきとおもはまほしき音なれや、花に暮ぬる入あひのかね。  0072:○ 今の我も昔の人も、花みてん心の色はかはらじものを。  0073:○ 花いかに我を哀と思ふらん、見て過にけり、春をかぞへて。  0074: 何となく春になりぬと聞ク日より、心にかゝるみよしのゝ山。  0075:○                 (と1)内 さかぬまの花には雲のまがふとも、雲には花のみ&M069452;ずもあらなん。  0076:                (やすくまちつゝ7) 今さらに春をわするゝ花もあらじ、おもひのどめてけふもくらさん。  0077:續後拾 吉野山木ずゑの花を見し日より、心は身にもそはずなりにき。  0078:        ミ1       〔さ1〕正誤 勅とかやくだす御かどのいませかし、つらば&M069425;それて花やちらぬと。  0079: 風越4 かざごしの嶺のつゞきにさく花は、いつさかりともなくやちるらん。  0080:○      (すすきに咲花は8)内 芳野山、風にすゝきに花さけば、人のをるさへをしまれぬかな。  0081:玉葉 散そむる花のはつ雪ふりぬれば、ふみわけまうきしがの山ごえ。  0082:     (吹雪1) 春風の花の錦にうづもれて、ゆきもやられぬしがの山道。  0083: 吉野山、たにへたなびく白雲は、嶺の櫻のちるやあるらん。  0084: たちまがふ嶺の雲をばはらふとも、花を散さぬ嵐なりせば。  0085: 木のもとに旅ねをすれば、芳野山、花の衾をきする春風。  0086: 峯にちる花は谷なる木にぞさく、いたくいとはじ、春の山風。  0087:     〔ず1〕正誤 風あらみ木すえの花のながれ來て、庭に浪たつ白川の里。  0088:     &M000000; (うごかで4)     咎2 春ふかみ&M069452;だもゆるがでちる花は、風のとがにはあらぬなるべし。  0089:                         身住2 おもへたゞ花のなからん木の本に、なにをかげにて我みすみなん。  0090:○                     身1 風にちる花の行へはしらねども、をしむ心はみにとまりけり。  0091:                    (染はじめ5) 何とかくあだなる花の色をしも、心にふかく&M069425;もひそめけん。  0092: 花もちり人も都へかへりなば、山さびしくやならんとすらん。  0093: よしの山一村見ゆる白雲は、咲&M069425;くれたるさくらなるべし。  0094:玉葉           夜2         晝2 ひきかへて花見る春はよるもなく、月みる秋はひるなからなん。  0095:○                       (みつれ3)内 打はるゝ雲なかりけり、吉野山、花もてわたる風と見ゆれば。  0096: 初花のひらけはじむる梢より、そばへて風のわたるなる哉。  0097:                 (をり2) おなじくは月の折さけ、山櫻、花みるよひのた&M069452;まあらせじ。  0098: 木ずゑふく風の心はいかゞせん、したがふ花のうらめしきかな。  0099: いかでかはちらであれともおもふべき、しばしとしたふなさけしれ花。  0100:         (吹1) あながちに庭をさへはく嵐かな、さこそ心に花をまかせめ。  0101:○ をしむ人の心をさへにちらすかな、花をさそへる春の山風。  0102:               君2 浪もなく風ををさめし白川の、きみのをりもや花はちりけん。  0103: をしまれぬ身だにも世にはある物を、あなあやにくの花の心や。  0104:玉葉 うき世にはとゞめ&M069425;かじと、春風のちらすは花ををしむなりけり。  0105:○新古 世中をおもへばなべてちる花の、我みをさてもいづちともせん。  0106:○ 花さへに世をうき草になしにけり、ちるををしめばさそふ山水。  0107:○                               (は1)内 風もよし、花をもちらせ、いかがせん、おもひはつればあらまうきよぞ。  0108:○ 鶯の聲に櫻ぞちりまがふ、花のこと葉を聞ク心ちして。  0109:                          身1 もろともに我をもぐしてちりね花、浮世をいとふ心あるみぞ。  0110:新古 ながむとて花にもいたくなれぬれば、ちる別こそかなしかりけれ。  0111:                       (たれに3) ちる花ををしむこゝろやとゞまりて、又こんはるのたねとなるべき。  0112:○                 又2 花もちりなみだももろき春なれや、またやはとおもふ夕暮の空。  0113:  朝に花を尋ぬるといふ&M069691;を。       クル1 さらに又霞に暮る山路哉、花をたづぬる春の明ぼの。  0114:  獨尋花。 誰か又花を尋ねて、芳野山、こけふみわくる岩つたふらん。  0115:  尋花心を。 吉野山雲をばかりに尋いりて、心にかけし花をみるかな。  0116:            屋上3  熊野へまゐり侍しに、やかみの王子の花ざかりにて、&M069425;もし  ろかりしかば、社に書付侍し。                        三栖2 待ちきつるやかみの櫻さきにけり、あらくおろすなみすの山かぜ。  0117:  上西門院の女房、法勝寺の花見られしに、雨の降て暮にしか                          御幸3  ば、かへられにき。又の日、兵衞の局のもとへ、花のみゆき思ひ  出させ給ふらんと&M069425;ぼ&M069452;てなど、申さまほしかりしとて、申  &M069425;くり侍し。                 (べし2)                 (らん2)内 見る人に花も昔を思ひ出て、戀しかるらし、雨にしほるゝ。  0118:  返し         (と1)          友2 いにしへを忍ぶる雨に、誰か見ん、花もその夜のともしなければ。  0119:  花のしたにて、月をみて。                      (は1) 雲にまがふ花のしたにてながむれば、おぼろに月のみゆるなりけり。  0120:  カキタエ2  書絶、ことゝはずなりたりし人の、花見に山里へまかりたり  しに。     &M000000;    (と1) 年をへて&M069425;なじ木ずゑに匂へども、花こそ、人にあかれざりけれ。  0121:千載  白川の花のさかりに、人のいざなひ侍しかば、みにまかりて  かへりしに。 ちるをみてかへる心や、櫻花、昔にかはるしるしなるらん。  0122:○  すみれ 故郷の昔の庭を思出て、すみれつみにとくる人もがな。  0123:○  杜若              小1 つくりすてあらしはてたる澤を田に、さかりにさけるうらわかみ哉。  0124:  早蕨を。           野1 〔ら1〕正誤 なほざりにやきすてしのゝさわうびは、をる人なくてほどろとやなる。  0125:  ヤマブキ2  欵冬     (さくさとに5) 山ぶきの花のさかりに成ぬれば、こゝにもゐでとおもほゆるかな。  0126:  かはづ 眞菅3  (山田2) ますげおふる荒田に水をまかすれば、うれしがほにも鳴ク蛙哉。  0127:  春の中に郭公を聞といふ&M069691;を。         (わかぬ3) うれしともおもひぞはてぬ、郭公、はるきくことのならひなければ。  0128:          〔侍1〕正誤  三月、一日たらで暮待しに。           &M000000;     三十日3 春ゆゑにせめても物を&M069425;もへとや、みそかにだにもたらで暮ぬる。  0129:○  暮春 春くれて人ちりぬめり、芳野山、花のわかれを&M069425;もふのみかは。  Subtitle  夏  0130:  卯月朔日になりて後、花を思ふといふことを。 青葉さへみれば心のとまるかな、ちりにし花の名殘と思へば。  0131:  夏歌よみ侍しに。     路2       (に1) 草しげるみちかりあけて、山里は花みし人の心をぞ見る。  0132:  社頭卯花                 木綿2 神がきのあたりに咲もたよりあれやゆふかけたりとみゆる卯花。  0133:  無言し侍しころ、郭公のはつ音を聞て。 時鳥、人にかたらぬ折にしも、はつね聞こそかひなかりけれ。  0134:玉葉     黄昏時6 里なるゝたそがれどきの郭公、聞かずがほにて又名のらせん。  0135:  郭公をまちて、むなしく明ぬといふことを。                     (ぞきこゆなる5) 時鳥なかで明ぬとつげがほに、またれぬ鳥の音こそ聞ゆれ。  0136:  時鳥の歌あまたよみ侍しに。                   (ぬ1)                      (なりせば4) 郭公聞ぬものゆゑまよはまし、花をたづねし山路ならねば。  0137:                       〔か1〕正誤 時鳥おもひもわかぬ一こゑを、きゝつと人にいかゞがたらん。  0138:  &M000000;          高間3 聞&M069425;くる心をぐして、郭公たかまの山の嶺こえぬなり。  0139:  雨中の郭公を。 五月雨のはれまも見&M069452;ぬ雲路より、山時鳥鳴て過なり。  0140:  郭公 我宿に花橘をうゑてこそ、山郭公待べかりけれ。  0141:○新古                    〔杉1〕正誤 聞ずともこゝをせにせん、時鳥、山田の原の松の村立。  0142:○ 世のうきを&M069425;もひし知れば、やすきねをあまりこめたる郭公哉。  0143:○ うき身しりて我とはまたじ、時鳥、橘にほふとなりたのみて。  0144:○ 橘のさかりしらなん、郭公、ちりなん後にこゑはかるとも。  0145:○ 待かねてねたらばいかにうからまし、山時鳥、夜をのこしけり。  0146:○ 郭公、花橘になりにけり、梅にかほりし鶯のこゑ。  0147:○            藍2 鶯の古巣より立ツ時鳥、あゐよりもこきこゑの色かな。  0148:○ 時鳥こゑのさかりに成にけり、たづねし人にさかりつぐらし。  0149:○ 浮世おもふわれかはあやな、時鳥、あはれもこもるしのびねのこゑ。  0150: 郭公いかなるゆゑの契りにて、かゝるこゑある鳥となるらん。  0151:○新古 時鳥ふかき嶺より出にけり、外山のすそにこゑの&M069425;ちくる。  0152:○ 高砂の尾上を行ケど人もあはず、山郭公里なれにけり。  0153:  五月雨    綱手3  (沖2) 早瀬川つなでの岸をよそにみて、のぼりわづらふ五月雨の頃。  0154:                   (と1)内 (わた2)             (わたす3) 河ばたのよどみにとまるながれ木のうき橋になる五月雨の頃。  0155:            勝間田4 水なしときゝてふりにしかつまだの池あらたむる五月雨のころ。  0156:              (や1)            宇治2    (かゝる3) 五月雨に水まさるらし、うぢ橋のくもでにかくるなみの白糸。  0157:  花橘によせて懷舊といふ&M069691;を。 軒ちかき花橘に袖しめて、昔を忍ぶ涙つゝまん。  0158:  夕暮のすゞみをよみ侍しに。             楢1 夏山の夕下風の凉しさに、ならの木陰のたゝまうき哉。  0159:  海邊夏月 露のぼる蘆の若葉に月さ&M069452;て、秋をあらそふ難波江のうら。  0160:  雨後夏月                        〔ば1〕正誤                      ハス1 夕立のはるれば月ぞやどりける、玉ゆりすうる荷の上はに。  0161:  對泉見月といふ&M069691;を。    手1          清水3 むすぶてに涼しき影をそふる哉、しみづにやどる夏のよの月。  0162:  夏野月 御秣4 に1 (小薄4)             鹿2 みまくさのはらのすゝきをしかふとて、ふしどあせぬとしかおもふらん。  0163:  旅行野草深といふことを。                    菅2 小笠3 たび人のわくる夏のの草しげみ、はずゑにすげのをがさはづれて。  0164:續後撰    ソトモ2 ヤマサト2 山郷は外面の眞葛はをしげみ、うらふき返す秋を待哉。  Subtitle  秋  0165:  山家の初秋を。    (の1)               ミヤマベ3 さま/\にあはれを籠て、木ずゑふく風に秋しる太山邊のさと。  0166:          鳴尾3  はじめの秋の頃、なるをと申所にて、松風の音を聞て。                    身1 (心ちこそすれ6) つねよりもあきになるをの松風は、わきてみにしむ物にぞ有ける。  0167:○新古 おしなべて物を&M069425;もはぬ人にさへ、心をつくる秋のはつ風。  0168:  七夕を。                    (る1) 舟よする天の川瀬の夕暮は凉しき風や吹わたすらん。  0169:○ 七夕のながき思ひもくるしきに、この瀬をかぎれ、天ノ川なみ。  0170:○  秋風 あはれいかに草葉の露のこぼるらん、秋風立ぬ、宮城野の原。  0171:○ 堪1 身1 たへぬみにあはれおもふもくるしきに、秋のこざらん山里もがな。  0172:  鴫    身1 心なきみにも哀はしられけり、鴫たつ澤の秋の夕暮。  0173:○  ひぐらし 足引の山陰なればとおもふまに、木ずゑにつぐる日ぐらしのこゑ。  0174:  露                  &M000000;〔は1〕正誤 大かたの露には何のなるならん、袂に&M069425;くば涙なりけり。  0175:  月 身1 みにしみてあはれしらする風よりも、月にぞ秋の色は見&M069452;ける。  0176:○新古・内ナシ 山陰にすまぬこゝろのいかなれや、をしまれて入ル月もある世に。  0177: 待出てくまなきよひの月みれば、雲ぞ心にまづかゝりける。  0178:○ いかにぞや、殘り&M069425;ほかる心地して、雲にかくるゝ秋のよの月。  0179: 打つけに又來む秋のこよひまで、月ゆゑをしくなる命哉。  0180:玉葉 人も見ぬよしなき山の末までも、すむらん月のかげをこそ思へ。  0181:内ナシ なか/\に心つくすもくるしきに、曇らばいりね、秋の夜の月。  0182:新古 夜もすがら月こそ袖にやどりけれ、昔の秋を思ひ出れば。  0183:内ナシ                        (ながめん3)     灘2         (あたりおもはぬ6) 播磨がたなだのみおきにこぎ出て、にしに山なき月をみる哉。  0184:玉葉 わたの原浪にも月はかくれけり、都の山を何いとひけん。  0185:○ あはれしる人見たらばとおもふかな、旅ねの袖にやどる月影。  0186:○新古 月見ばとちぎり&M069425;きてし古郷の、人もやこよひ袖ぬらすらん。  0187:同 くまもなき折しも人をおもひ出て、心と月をやつしつる哉。  0188:            (ぬ1) 物おもふ心のたけぞしられける、夜な/\月をながめ明して。  0189:○ 月のためこゝろやすきは雲なれや、浮世にすめる影をかくせば。  0190:○ わび人のすむ山里のとがならん、くもらじ物を、秋のよの月。  0191:○玉葉                       (にける3)内 うきみこそいとひながらも哀なれ、月を詠て年をへぬれば。  0192:○續後撰・内ナシ 世のうさに一かたならずうかれゆく、心さだめよ、秋のよの月。  0193:續拾   ゛&M000000;               (にて2) なに&M069691;もかはりのみ行ク世の中に、おなじ影にもすめる月哉。  0194:                        (ふなる3) いとふ世も月すむ秋になりぬれば、ながらへずばと思ひける哉。  0195:玉葉                      (こそすれ4) 世中のうきをもしらですむ月の影は、我みの心ちにぞある。  0196:○ 捨1 すつとならば浮世をいとふしるしあらん、我にはくもれ、秋のよの月。  0197:○            馴1 いにしへのかたみに月ぞなれとなる、さらでの&M069691;はあるは有かは。  0198:○ ながめつゝ月にこゝろぞ&M069425;いにける、今いくたびか世をもすさめん。  0199: いづくとてあはれならずはなけれども、あれたる宿ぞ月はさびしき。  0200:○ 山里をとへかし、人にあはれみせん、露しく庭にすめる月かげ。  0201:           (ぬるは3)     (あるらん3) 水の面にやどる月さへ入ぬれば、池の底にも山や有ける。  0202:        (も1)      夜2 有明の月のころにしなりぬれば、秋はよるなき心ちこそすれ。  0203:  八月十五夜を。 かぞへねどこよひの月のけしきにて、秋のなかばを空にしるかな。  0204: 秋はたゞこよひ一よの名なりけり、おなじ雲井に月はすめども。  0205:                     (れる2)                 十夜2    五日 さやかなる影にてしるし、秋の月、とよにあまりていつか成けり。  0206: おもひせぬ4)            (や)内 老もせぬ十五の年もあるものを、こよひの月のかゝらましかば。  0207:  八月十五夜くもりたるに。 (みれ2) 月まてば影なく雲につゝまれて、こよひならずばやみに見&M069452;まし。  0208:  九月十三夜   &M000000;             今宵3  (おへり2) 雲き&M069452;し秋の中ばの空よりも、月はこよひぞ名に出にける。  0209: こよひはと心得がほにすむ月のひかりもてなす菊の白露。  0210:  後の九月に。              (哀心4)内 月みればあきくはゝれる年は又あかぬ心もそふにぞ有ける。  0211:  月の歌あまたよみ侍しに。 秋のよの空にいづてふ名のみして、影ほのかなる夕月よ哉。  0212: うれしとや待人ごとに&M069425;もふらん、山の端出る秋のよの月。  0213: 入ぬとや東に人はをしむらん15) あづまには入ぬと人やおもふらん、都にいづる山のはの月。  0214:     &M000000;           光3 異2 天のはら&M069425;なじ岩とをいづれども、ひかりことなる秋のよの月。  0215:     〔ば1〕正誤 (つる2) 行末の月をはしらず、過來ぬる秋まだかゝる影はなかりき。  0216: ながむるもまことしからぬこゝちして、世にあまりたる月の影哉。  0217:     晝2   (が1)           夜2 月のためひるとおもふはかひなきに、しばしくもりてよるをしらせよ。  0218: さだめなく鳥や鳴らん、秋のよは月のひかりを思ひまがへて。  0219:玉葉 月さゆる明石のせとに風吹ケば、氷の上にたゝむしらなみ。  0220: 清見がた沖の岩こそ白浪にひかりをかはす秋のよの月。  0221: ながむればほかの影こそゆかしけれ、かはらじ物を、秋のよの月。  0222: 秋風やあまつ雲井をはらふらん、ふけ行まゝに月のさやけき。  0223: 中/\にくもると見&M069452;てはるゝ夜の月は光のそふ心ちする。  0224: 月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめぐりあひぬる。  0225: ゆくへなく月に心のすみ/\て、はてはいかにかならんとすらん。  0226:  野徑秋風を。 末葉3 すゑばふく風は野もせにわたるとも、あらくはわけじ、萩の下露。  0227:  草花路をさへぎるといふことを。          (きえて3) (かぬる3)                     小野2 夕露をはらへば袖に玉ちりて、道わけわぶるをのゝ萩原。  0228:  行路の草花を。         (ぞこぼれける6)         (ぞしほりける6)内&M000000;〔げ1〕正誤                 (の1)内 をらで行ク袖にも露はかゝりけり、萩が&M069452;しけき野ぢのほそ道。  0229:     内ナシ  薄當路野滋といふことを。 花すゝき心あてにぞ分て行、ほの見し道のあとしなければ。  0230:  野萩似錦といふことを。 けふぞしる、その&M069452;にあらふから錦、萩さく野べに有ける物を。  0231:  月前野花 花の色を影にうつせば、秋の夜の月ぞ野守の鏡なりける。  0232:  女郎花帶露といふことを。 (の枝2)&M000000;       (わが2)内 花が&M069452;に露の白玉ぬきかけて、をる袖ぬらすをみなべし哉。  0233:  池邊女郎花 たのみ3)内 たぐひなき花のすがたをおみなべし、池のかゞみにうつしてぞみる。  0234:  月前女郎花                     (ぬる2) 庭さゆる月なりけりな、をみなべし、霜にあひたる花とみたれば。  0235:  野花虫                       〔をも1〕正誤 花をこそ野べの物とは見に來つれ、暮ルれば虫の音をきゝけり。  0236:  田家虫        畔2 小萩さく山田のくろの虫の音に、庵もる人や袖ぬらすらん。  0237:  獨聞虫   〔ね1〕正誤 ひとりぬの友にはならでぎり/\す、鳴ク音を聞ケば物&M069425;もひそふ。  0238:  廣澤にて人々月を翫ブ&M069691;侍しに。 池にすむ月にかゝれる浮雲は、はらひ殘せる水さびなりけり。  0239:  讚岐の善通寺の山にて、海の月をみて。 くもりなき山にて海の月見れば、嶋ぞ氷のた&M069452;ま成ける。  0240:  月前落葉 山颪の4)       (かけ2) 山おろし、月に木の葉を吹ためて、光にまがふ影をみる哉。  0241:玉葉  秋の歌どもよみ侍しに。     垣根3            (けり2) 鹿の音をかきねにこめて聞のみか、月もすみける秋の山里。  0242:                 (の1)                   引板2 庵にもる月の影こそさびしけれ、山田はひたの音ばかりして。  0243: &M000000;               (みだる3) &M069425;もふにも過て哀に聞ユるは、荻のはわくる秋の夕風。  0244:             &M000000;    鳥羽田3 なにとなく物がなしくぞ見&M069452;わたる、とばたの面の秋の夕ぐれ。  0245: 山郷は秋のすゑにぞ思ひしる、かなしかりけり、木がらしの風。  0246:  擣衣 獨ねの夜さむになるにかさねばや、誰がためにうつ衣なるらん。  0247:  山家紅葉                       &M000000; ミヤマベ3 そめてけり、紅葉の色のくれなゐを、しぐると見&M069452;し太山邊の里  0248:  寂然高野に參て、ふかき山の紅葉といふことを、宮法印の御庵            〔侍1〕正誤  室にて、歌讀べきよし申待しに、まゐりあひて。    (に1) さま%\の錦有けるみやまかな、花見し峰を時雨そめつゝ。  0249:續拾  虫歌あまたよみ侍しに。       浪2  苅萱4 秋風に穗ずゑなみよるかるかやの下葉に虫のこゑみだるなり。  0250: 夜もすがら袂に虫の音をかけて、はらひわづらふ袖の白露。  0251:                        (らし)イ 虫の音にさのみぬるべき袂かは、あやしや心物おもふべく。  0252:新古  曉、初雁を聞て。                     〔はつかり3〕正誤 横雲の風にふかるゝしのゝめに、山とびこゆるはつりのこゑ。  0253:同  遠近に雁を聞といふことを。          (行2) 白雲をつばさにかけてとぶかりの、門田の面の友したふなり。  0254:  霧中鹿     ミヤマ2 晴やらぬ太山の霧のた&M069452;%\に、ほのかに鹿の聲聞なり。  0255:  夕暮鹿       (まがひ3) しの原やきりにまどひて鳴ク鹿の聲かすかなる秋の夕暮。  0256:  曉鹿                 野1    (鳴けん4) 夜をのこすねざめに聞ぞ哀なる、夢のの鹿もかくやなくらん。  0257:  山家鹿                   (〔ね1〕  )                   (のみたえぬ5) なにとなくすまゝほしくぞおもほゆる、鹿あはれなる秋の山里。  0258:  田家月           (かへすほずゑ6) 夕露の玉しくを田の稻莚かけほすすゑに月ぞやどれる。  0259:  菩提院の前の齋院にて、月ノ歌よみ侍しに。 くまも3) くもりなき月のひかりにさそはれて、幾雲ゐまで行心ぞも。  0260:○  老人翫月といふ心を。 我なれや、松の梢に月たけて、みどりの色に霜ふりにけり。  0261:  春日にまゐりて、つねよりも月あかく哀なりしに、みかさ山  を見あげて、かく覺待し。 ふりさけし人の心ぞしられける、こよひ三笠の月をながめて。  0262:  雁 からす羽にかく玉づさの心地して、雁なきわたる夕やみの空。  0263:○  鹿 三笠山、月さしのぼる影さ&M069452;て、鹿鳴そむる春日のの原。  0264:○                     〔を1〕正誤 かねてより心ぞいとゞすみのぼる、月待嶺のさほしかのこゑ。  0265:○ 山里はあはれなりやと人とはゞ、鹿の鳴音をきけとこたへよ。  0266:○       〔こ1〕正誤        〔を1〕正誤 小倉山ふもとをそむる秋霧に、立もらさるゝさほしかのこゑ。  0267:新古  田家鹿 を山田の庵ちかく鳴ク鹿の音におどろかされて&M069425;どろかす哉。  0268: (忍西2)  西忍入道西山にすみ侍けるに、秋の花いかに&M069425;もしろかる      ユカシ2  らんと、床敷きよし申つかはしたりける返事に、色々の花を  折てかく申ける。         (ど1)内         皆見3 しかのねや心ならねばとまるらんさらでは野邊をみなみする哉。  0269:  返し 鹿のたつ野べの錦のきりはしは、殘おほかる心ちこそすれ。  0270:○新古  虫                  〔わ1〕正誤 きり%\す夜さむに秋のなるまゝに、よはるか、こゑのとほざかり行。  0271:○同  雜秋 誰すみてあはれしるらん、山郷の雨降すさむ夕暮の空。  0272:○同 雲かゝる遠山ばたの秋ざれは、思ひやるだにかなしき物を。  0273:○補・内 立田やま、時雨しぬべく曇空に心の色をそめはじめつる。  0274:  秋の暮 なにとなく心をさへはつくすらん、我なげきにて暮ルる秋かは。  0275:  終夜秋ををしむといふことを、北白川にて人々よみ侍しに。                    (の1) をしめども鐘の音さへかはるかな、霜にや露を結かふらん。  Subtitle  冬  0276:○  時雨 初時雨あはれしらせてすぎぬなり、&M069425;とに心の色をそめにし。  0277: かねてより木ずゑの色を思ふかな、時雨はじむるみやまべのさと。  0278:○新古 月をまつ高ねの雲は晴にけり、心ありけるはつ時雨哉。  0279:              〔か1〕正誤  十月のはじめの頃、山郷にまつりたりしに、すゞむしのこゑ  のわづかにし侍しに。                        〔こ1〕正誤                     (に1) 霜うづむ葎がしたのきり%\す、あるかなきかの聲きけゆなり。  0280:續後撰  曉落葉 時雨かとねざめの床にきこゆるは、嵐にたへぬ木のは成けり。  0281:  水邊寒草 霜にあひて色あらたむる蘆のはのさびしくみゆる難波江の浦。  0282:  山家寒草 かきこめしすそのゝ薄霜がれて、さびしさまさる柴の庵哉。  0283:千載  閑夜冬月 霜さゆる庭の木のはをふみ分て、月はみるやととふ人も哉。  0284:  夕暮千鳥 あはぢ嶋せとの鹽干の夕暮に、すまよりかよふ千鳥鳴なり。  0285:  寒夜千鳥                      具1 さゆれども心やすくぞ聞あかす、川瀬の千鳥友ぐしてけり。  0286:  船中霰 せとわたるたななしを舟心せよ、あられみだるゝ、しまきよこぎる。  0287:玉葉  落葉          &M000000;              (けれ2) 木がらしに木のはの&M069425;つる山郷は、涙さへこそもろく成ぬれ。  0288:○ くれなゐの木のはの色を&M069425;ろしつゝ、あくまで人にみゆる山風。  0289:○ 瀬にたゝむ岩のしがらみ浪かけて、錦をながす山川のみづ。  0290:○  冬月 秋すぎて庭のよもぎのすゑみれば、月も昔になる心ちする。  0291:○ さびしさは秋見し空にかはりけり、かれ野をてらす有明の月。  0292:○新古 小倉山ふもとの里に木のはちれば、梢にはるゝ月をみる哉。  0293: ひとりすむ片山陰の友なれや、嵐にはるゝ冬のよの月。  0294:○ 槇2             (も1)内 まきのやの時雨の音を聞ク袖に、月のもり來てやどりぬる哉。  0295:  凍 水上に水や氷をむすぶらん、くるとも見&M069452;ぬ瀧の白糸。  0296:玉葉  雪 雪うづむ薗の呉竹&M069425;れ伏て、ねぐらもとむる村すゞめ哉。  0297:    〔み1〕正誤 うら1)    小忌2 打返すをけの衣と見ゆるかな、竹の上葉にふれる白雪。  0298:○ 道とぢて人とはずなる山郷のあはれは雪にうづもれにけり。  0299:○  〔鳥1〕正誤  千烏    吹飯3 千鳥鳴ふけひのかたを見わたせば、月影さびし、難波江のうら。  0300:新古  山家の冬の心を。 さびしさにたへたる人の又もあれな、庵ならべん、冬の山郷。  0301:  冬の歌どもよみ侍しに。       〔も1〕正誤 花もかれ、紅葉よちりぬ、山里はさびしさを又とふ人もがな。  0302: 玉かけし花のかつらも&M069425;とろへて、霜をいだゝく女郎花哉。  0303: つの國の蘆のまろ屋のさびしさは、冬こそわきてとふべかりけれ。  0304:             〔芳1〕正誤 山櫻はつ雪ふれば咲にけり、茅野はさらに冬ごもれども。  0305: よもすがら嵐の山に風さ&M069452;て、大井のよどに氷をぞしく。  0306:   &M000000;     〔が1〕正誤 風さ&M069452;てよすればやかて氷つゝ、かへるなみなきし賀のからさき。  0307:            〔に1〕正誤〔音1〕正誤 山郷は時雨し頃のさびしさは、あられの言はやゝまさりけり。  0308:續千 芳1〕正誤 茅野山ふもとにふらぬ雪ならば、花かとみてやたづね入まし。  0309:○  雪のあした、靈山と申ところにて。 立のぼる朝日のかげのさすまゝに、都の雪はき&M069452;みき&M069452;ずみ。  0310:  山家雪深といふ&M069691;を。               (とぢて3) とふ人も初雪をこそ分こしか、道たえにけり、みやまべの里。  0311:玉葉  世のがれて東山に侍しころ、年の暮に、人々まうで來て、述懷  し侍しに。 年くれしそのいとなみはわすられて、あらぬさまなるいそぎをぞする。  0312:  年の暮に、高野より京へ申つかはしける。 &M000000;    &M000000;                 (ゆく2) &M069425;しなべて&M069425;なじ月日の過ゆけば、都もかくや年は暮ぬる。  0313:○新古  歳暮 昔おもふ庭に浮木をつみ&M069425;きて、見し世にもにぬ年のくれ哉。  Subtitle  戀  0314: 弓はりの月にはつれて見しかけのやさしかりしはいつか忘れん。  0315:千載 しらざりき雲井のよそに見し月の影を袂にやどすべしとは。  0316:                (人の心3)            宵2    (*1) 月待ツといひなされつるよひのまの心の色を袖に見&M069452;ぬる。  0317:玉葉 あはれとも見る人あらば&M069425;もひなん、月の&M069425;もてにやどす心を。  0318:新古           (はてし3)      身1 數ならぬ心のとがになしはてゝ、しらせでこそはみをもうらみめ。  0319: 難波がた浪のみいとゞ數そひて、うらみのひまや袖のかはかん。  0320:         〔あら2イ〕正誤          足2 日をふれば袂の雨のあしそひて、はるべくもなき我心哉。  0321: かきくらす涙の雨のあししげみ、さかりにものゝなげかしき哉。  0322: いかに3) いかゞせん、その五月雨の名殘よりやがてをやまぬ袖のしづくを。  0323: さま%\に&M069425;もひみだるゝ心をば、君がもとにぞつかねあつむる。  0324:新古 身1      (には又にも2)内 みをしれば人のとがとはおもはぬに、うらみがほにもぬるゝ袖哉。  0325:内ナシ  〔る1〕正誤    身1            親2&M069425;(つらき3) かゝなみにおほしたてけんたらちねの&M069425;やさへくらき戀もする哉。  0326:玉葉 とにかくにいとはまほしき世なれども、君がすむにもひかれぬる哉。  0327:内ナシ本ノマゝ むかはらば我がなげきのむくいにて、誰ゆゑ君が物をおもはん。  0328: あやめつゝ人しるとてもいかゞせん、しのびはつべき袂ならねば。  0329:○ けふこそはけしきを人に知られぬれ、さてのみやはとおもふあまりに。  0330:                   水尾2逢瀬3 物おもへば袖にながるゝ涙川、いかなるみをにあふせありなん。  0331: もらさじと袖にあまるをつゝまゝし、情を忍ぶ涙なりせば。  0332:内ナシ 合字2】 こと付て今朝の別はやすらはん、時雨をさへや袖にかくべき。  0333: き&M069452;かへり暮待ツ袖ぞしをれぬる、おきつる人は露ならねども。  0334:     (なれぬ3)              身1 なか/\にあはぬ思ひのまゝならば、うらみばかりやみにつもらまし。  0335:○                     〔お1〕正誤 さらに又むすほゝれ行心か那、とけなばとこそをもひしかども。  0336:○ 昔より物おもふ人やなからまし、心にかなふなげきなりせば。  0337:          &M000000;          (哀2) 夏草のしげりのみ行&M069425;もひかな、またるゝ秋の思ひしられて。  0338: くれなゐの色に袂の時雨つゝ、袖に秋ある心地こそすれ。  0339:新古 今ぞしる、&M069425;もひ出よとちぎりしは、忘れんとての情なりけり。  0340: 日にそへてうらみはいとゞ&M069425;ほ海のゆたかなりける我涙かな。  0341: わりなしや、我も人目をつゝむまに、しひてもいはぬ心づくしは。  0342: (かげ2)内     住1       (なる2) 山がつのあら野をしめてすみそむるかたゞよりなき戀もする哉。  0343:○ うとかりし戀もしられぬ、いかにして人をわするゝ&M069691;をならはん。  0344: 中/\に忍ぶけしきやしるからん、かゝる思ひにならひなきみは。  0345:玉葉 いくほどもながらふまじき世ノ中に、物をおもはでふるよしもがな。  0346:○ よしさらばたれかは世にもながらへんと、思ふをりにぞ人はうからぬ。  0347:○新古 風になびく富士の煙の空にき&M069452;て行へも知らぬ我思哉。  0348:同     (などとふ人の6) あはれとてとふ人のなどなかるらん、物&M069425;もふ宿の荻の上風。  0349:同                    身1 思ひ知る人あり明の世なりせば、つきせずみをばうらみざらまし。  0350:千載 あふと見しその夜の夢のさめであれな、ながきねぶりはうかるべけれど。  0351:                       世1   苦2 あはれ/\この世はよしやさもあらばあれ、こんよもかくやくるしかるべき。  0352:千載 物&M069425;もへどかゝらぬ人もある物を、哀なりける身のちぎり哉。  0353: (け1) 歎くとて月やは物を&M069425;もはする、かこちがほなる我涙かな。  0354:○ 七草にせりありけりとみるからに、ぬれけん袖のつまれぬるかな。  0355: ときは山、しひの下柴かりすてん、かくれておもふかひのなきかと。  0356:○ 我&M069425;もふいもがりゆきて、郭公、ね覺の袖のあはれつたへよ。  0357:                 (こはさはいかに7)(心1) 人はうし、なげきは露もなぐさまず、さはこはいかゞすべき思ひぞ。  0358:○續古               〔ゝ1〕正誤      〔そ1〕正誤  (をばあられば6)續古     (よ1)同 浮世にはあはれはあるにまかせつ>、心にいたく物な&M069425;もひぞ。  0359:○                      〔わ1〕正誤 今さらに何と人目をつゝむらん、しぼらば袖のかはくべきかは。  0360:○                  〔としも2〕正誤 うきみしる心にもにぬ涙かな、うらみん年もおもはぬ物を。  0361: などか我&M069691;のほかなるなげきせで、みさをなるみに生れざりけん。  0362:續古・内ナシ                      (涙1) 袖の上の人目しられし折まではみさをなりける我心かな。  0363:○同 とへかしな、なさけは人のみのためを、うき我とても心やはなき。  0364: うらみじとおもふ我さへつらきかなとはで過ぬる心づよさを。  0365:           (と1) ながめこそうき身のくせになりはてゝ、夕暮ならぬをりもわかれね。  0366: わりなしや、いつを思ひのはてにして、月日を送る我みなるらん。  0367:玉葉 心から心に物をおもはせて、身をくるしむる我身なりけり。  0368:            根1         &M000000; (する2) かつすゝぐ澤のこぜりのねをしろみ、清げに物を&M069425;もはずもがな。  0369:玉葉      &M000000;                 (は1) 身のうさの&M069425;もひしらるゝことわりに、おさへられぬる涙なりけり。  0370:          〔參1〕正誤  みあれの頃、賀茂に來たりけるに、精進にはゞかる戀といふ  ことをよみけり。 こ1〕正誤 いとづくるみあれのほどをすぐしても、なほや卯月の心なるべき。  0371:                 絶1  常2      ドモ1 なほざりのなさけは人のある物を、たゆるはつねのならひなれ共。  0372:新古 何となくさすがにをしき命かな、ありへば人や思ひしるとて。  0373:             (思ふ2)内 心ざしありてのみ、やは人をとふ、なさけはなどゝおもふばかりぞ。  0374:○                             (まに2)内 あひみてはとはれぬうさぞ忘れぬる、うれしきをのみまづおもふまで。  0375: 今朝よりぞ人の心はつらからで、明はなれ行ク空をながむる。  0376:新古 あふまでの命もがなと&M069425;もひしは、くやしかりける我心かな。  0377:○同 うとくなる人を何とてうらむらん、しられずしらぬ折もありしを。  Subtitle  雜  0378:  院熊野の御幸の次に、住吉に參らせ給たりしに、 かたそぎのゆきあはぬまよりもる月や、さえてみそでの霜におくらん。  0379:○  伊勢にて、 ながれた&M069452;ぬ浪にや世をばをさむらん、神風凉し、みもすその川。  0380:  承安元年六月一日、院熊野へ參せおはします次に、住吉へ御  幸ありけり。修行しまはりて、二日、かの社に參て見まはれば、  住吉4  すみの&M069452;の釣殿あたらしくしたてられたり、後三條院のみ  ゆき、神も&M069425;もひ出給ふらんとおぼ&M069452;て、釣殿に書付侍し。 た&M069452;たりし君がみゆきを待つけて、神いかばかりうれしかるらん。  0381:  松のしづえあらひけむ浪、古にかはらずこそはとおぼ&M069452;て。 いにしへの松のしづ&M069452;をあらひけん浪を心にかけてこそみれ。  0382:續拾          〔住1〕正誤  俊惠天王寺に籠て、往吉に參て、歌よみ侍しに。     (が1)續拾 〔&M069425;1〕正誤 住吉のまつの根あらふ浪のをとを、梢にかくるおきつしほ風。  0383:玉葉  昔心ざしつかまつりしならひに、世のがれて後も、賀茂社へ      〔で[ゝ]1〕正誤  まゐりまうで、なんとしたかくなりて四國のかたへ修  行すとて又かへりまゐらぬ&M069691;にてこそはとおぼ&M069452;て、仁安 (二1)          〔ゐ1〕正誤  三年十月十日夜、まゐりて幤まいらせしに、内へもいらぬ事     (たなこ3)内  なれば、たなの社に取付てたてまつれとて、心ざし侍しに、木  のまの月ほの%\と、つねより物哀に覺て。 こゝろにもなみだの月に10)内        &M000000; (心1) かしこまるしでに涙のかゝるかな、またいつかはと&M069425;もふ哀に。  0384:  寂超入道大原にて止觀の談儀すと聞て、遣しける。 ひろむらん法にはあはぬみなりとも、名を聞ク數にいらざらめやは。  0385:                    (又の日に9)内  阿闍梨勝命、千人集メて、法花經に結縁させけるに、露もかは  らじとて、つかはしける。 つらなりし昔に露もかはらじと、おもひしられし法の庭哉。  0386:  法花經序品を。 ちりまがふ花の匂ひをさきだてゝ、光を法の莚にぞしく。  0387:  法花經方便品の深着於五欲の心を。                   身1 こりもせずうき世のやみにまどふかな、みを思はぬは心なりけり。  0388:  勸持品                      姨捨4 あま雲のはるゝみ空の月影に、うらみなぐさむをばすての山。  0389:千載  壽量品 鷲の山、月を入リぬと見る人は、くらきにまよふ心なりけり。  0390:新古  觀心       (そら2) やみはれて心のうちにすむ月は、西の山邊やちかくなるらん。  0391:  心經   &M000000;              (をも)内   ゛&M000000;              (は1) なに&M069691;もむなしき法の心にて、罪ある身とも今はおもはじ。  0392:○  美福門院の御骨、高野の菩提心院へわたされけるを、見たて  まつりて。    (おもふ)内 けふや君おほふ五の雲はれて、心の月をみがきいづらん。  0393:○  無常の心を。                〔を1〕正誤 なき人をかぞふる秋のよもすがらしほるゝ袖や鳥べのの露。  0394:玉葉 道かはるみゆきかなしきこよひかな、限のたびと見るにつけても。  0395:○續古 かた%\にはかなかるべきこの世かな、有を思ふも、なきを忍ぶも。  0396: ことゝなくけふ暮にけり、あすも又かはらずこそは、ひますぐるかげ。  0397:○ 世中のうきもうからず思ひとけば、あさぢにむすぶ露の白玉。  0398:              (いまき3) 鳥べ野を心のうちにわけ行ば、いそぢの露に袖ぞそぼつる。  0399:新古 年月をいかで我身におくりけん、きのふの人もけふはなき世に。  0400:  ちりたる櫻にならびてさきそめし花を。 ちるとみて又さく花の匂ひにも、おくれさきだつためし有けり。  0401:  曉無常を。    (し1)     (さ1)  曉4 つきはてんその入あひの程なきを、このあかつきにおもひしりぬる。  0402:  きり%\すの枕近クなき侍しに。        〔が1〕正誤             すみか1イ そのをりのよもぎかもとの枕にも、かくこそ虫の音にはむつれめ。  0403:  月前無常を。               (この世に我がちぎり8) 月をみていづれの年の秋までか、この世中にたのみあるらん。  0404:                     かぎりイ                    (とひもこそ5) 哀とも心におもふ程ばかり、いはれぬべくはいひこそはせめ。  0405:          (哀にも5)内      流内ナシ 世中を夢と見る/\、はかなくもなほおどろかぬは我心哉。  0406: 櫻花ちり/\になる木のもとに、名殘をゝしむ鶯のこゑ。  0407:  &M000000;                    〔露1〕正誤  (ぬめる3)&M000000;                 身1 き&M069452;にける本のしづくをおもふにも、たれかは末の霧のみならぬ。  0408:○新古 つの國の難波の春は夢なれや、蘆のかれはに風わたるなり。  0409:玉葉  大炊御門右大臣大將と申侍しをり、徳大寺の左大臣うせ給  ひたりし服のうちに、母はかなくなり給ひぬと聞て、高野よ  りとふらひ奉とて。                        (とふ2)内 かさねきる藤の衣をたよりにて、心の色をそめよとぞ思ふ。  0410:  親かくれて、又契たりける人はかなくなりて、歎ける程に、む  すめにさへおくれたりける人に。     (さき%\みけん7) このたびはさきに見&M069452;けん夢よりも、さめずや物はかなしかるらん。  0411:  はかなくなりて年へにける人の文どもを、物の中よりもと  め出て、むすめに侍ける人のもとへ遣すとて。 涙をやしのばん人はながすべき、哀に見ゆる水ぐきの跡。  0412:○  鳥邊野にてとかくわざし侍し煙の中より、月を見て。          空2イ          (かな2)内イ とりべ野や鷲の高ねのすそならん、煙を分て出る月かげ。  0413:續後撰  相空入道、大原にてかくれ侍たりしを、いつしかとひ侍らず  とて、寂然申おくりたりしに。        (庭1)續後 とへかしな、別の袖に露ふかきよもぎがもとの心ぼそさを。  0414:同  返し                 身1 よそにおもふ別ならねば、誰をかはみよりほかにはとふべかりける。  0415:千載  同行に侍し上人をはりよくてかくれぬと聞て、申遣したり  し。                [寂然] みだれずとをはり聞こそうれしけれ、さても別はなぐさまねども。  0416:同  返し この世にて又あふまじきかなしさに、すゝめし人ぞ心みだれし。  0417:  跡のことどもひろひて、高野にまゐりてかへりたりしに、又  寂然。 いるさにはひろふ形見も殘りけり、歸る山路の友は涙か。  0418:  返し いかにともおもひわかでぞ過にける、夢に山路を行ク心地して。  0419:  ゆかりなりし人はかなく成て、とかくのわざしに鳥べ山へ  まかりて、歸侍しに。 かぎりなくかなしかりけり、とりべ山、なきを送てかへる心は。  0420:新千載 (院の二位の局3)流、内 (十の2)流、内  紀伊局みまかりて、諸の人々各々歌よみ侍しに。 おくり置てかへりし野べの朝霧を袖にうつすは涙なりけり。  0421:玉葉 舩岡4      塚2             (けん)内 ふなをかのすそのゝつかの數そひて、昔の人に君をなしつる。  0422: 後の世をとへと契し&M069691;のはや、わすらるまじきかたみなるらん。  0423:       葬送4  鳥羽院の御さうそうの夜、高野よりくだりあひて。 とはばやと思ひよりてぞなげかまし、昔ながらの我みなりせば。  0424:  待賢門院かくれさせ給ひたりける御跡に、人々又のとしの  御はてまで候けるに、しりたりける人のもとへ、春花のさか  りにつかはしける。                            (を1) たづぬとも、風のつてにもきかじかし、花とちりにし君が行へは。  0425:  返し ふく風の行へしらする物ならば、花とちるともおくれざらまし。  0426:玉葉  近衞院の御はかに人々ぐしてまゐり侍りたりけるに、露い  とふかゝりければ。       (*を4) みがゝれし玉のうてなを、露ふかき野べにうつして見るぞかなしき。  0427:        常磐3  前伊賀守爲業ときはに堂供養しけるに、したしき人々まう  でくると聞て、云遣しける。                         (なるらめ4) いにしへにかはらぬ君が姿こそ、けふはときはのかたみなりけれ。  0428:  返し (そへて3)内 色かへで獨殘れる常盤木は、いつをまつとか人のみるらん。  0429:○  徳大寺の左大臣の堂に立入て見侍けるに、あらぬことにな  りて、哀なり。三絛太政大臣歌よみてもてなし給ひし&M069691;、たゞ  いまとおぼ&M069452;て、しのばるゝ心地し侍り。堂のあとあらため  られたりける、さることのありとみ&M069452;て、哀なりければ。 なき人のかたみにたてし寺に入て、跡ありけりと見て歸りぬる。  0430:○内閣本脱  三昧堂のかたへわけ參けるに、秋の草ふかゝりけり。鈴虫の  音かすかにきこ&M069452;ければ、あはれにて。 おもひおきしあさぢが露をわけ入ば、たゞわづかなるすゞむしのこゑ。  0431:○内閣本脱  古郷の心を。 野べに成てしげきあさぢをわけ入ば、君が住ける石ずゑの跡。  0432:内閣本脱  寂然大原にてしたしき者におくれてなげき侍けるに、つか  はしける。                        〔を1〕正誤 露ふかき野邊になり行ク古郷は、おもひやるだに袖しほれけり。  0433:○内閣本脱  遁世ののち、山家にてよみ侍ける。 山里は庭の木ずゑのおとまでも、世をすさみたるけしきなる哉。  0434:○内閣本脱       小貝3  伊勢より、こがひをひろひて、箱に入て、つゝみこめて、皇太后  宮大夫のつぼねへつかはすとて、かき付侍ける。 浦嶋がこは何ものと人とはゞ、あけてかひあるはことこたへよ。  0435:○内閣本脱  八嶋内府が松浦にむかへられて、京へ又おくられ給ひけり  武士の、母のことはさることにて、右衞門督の&M069691;をおもふに  ぞとて、なき給ひけると聞て。 夜るの鶴の都のうちを出であれな、このおもひにはまどはざらまし。  0436:○内閣本脱  福原へ都うつりありときこ&M069452;し頃、伊勢にて月ノ歌よみ侍し  に。 雲のうへやふるき都に成にけり、すむらん月の影はかはらで。  0437:内閣本脱  月前懷舊 いにしへを何に付てか思ひ出ん、月さへかはる世ならましかば。  0438:内閣本脱  遇友忍昔といふこゝろを。                      〔を1〕正誤 今よりは昔がたりは心せん、あやしきまでに袖しほれけり。  0439:○内閣本脱  ふるさとのこゝろを。 露しげくあさぢしげれる野に成て、ありし都は見し心地せぬ。  0440:○新古・内閣本脱                 〔ぎ1〕正誤 これや見し昔すみけん跡ならん、よもきが露に月のやどれる。  0441:○内閣本脱 月すみし宿も昔の宿ならで、我みもあらぬ我身なりけり。  0442:新古・内閣本脱  出家後よみ侍ける。   〔さ1〕正誤 身のうきを思ひしらでややみなまし、そむくならひのなきよなりせば。  0443:内閣本脱 世中をそむきはてぬといひおかん、思ひ知べき人はなくとも。  0444:續後撰・内閣本脱  旅のこゝろを。 程ふればおなじ都の中だにも、おぼつかなさはとはまほしきを。  0445:○内閣本脱 旅ねする嶺の嵐につたひきて、哀なりけるかねのおと哉。  0446:内閣本脱   (いにし2) すてゝ出しうき世に月のすまであれな、さらば心のとまらざらまし。  0447:新古・内閣本脱  天王寺にまゐりて、雨のふりて、江口と申所にて、宿をかり侍  しに、かさざりければ。                    (やどりを3) 世ノ中をいとふまでこそかたからめ、かりの宿をもをしむ君哉。  0448:同・内閣本脱  返し                遊女たへ 世をいとふ人とし聞ケば、かりの宿に心とむなと思ふばかりぞ。  かく申てやどしたりけり。  0449:○内閣本脱  伊勢にて、菩提山上人對月述懷し侍しに。 めぐりあはで雲のよそにはなりぬとも、月に成行むつび忘るな。  0450:千載・内閣本脱  西住上人れいならぬこと大事に煩侍けるに、とぶらひに人  々まうできて、又かやうに行あはん事もかたしなど申て、月  あかゝりける折哀に、述懷を。 もろともにながめ/\て、秋の月、ひとりにならんことぞかなしき。  0451:玉葉  世のがれて、都を立はなれける人の、ある宮ばらへたてまつ  りけるに、かはりて。 〔イ本:ある宮ばらに侍ける女房の、都をはなれて、とほくまからんと思ひて、うた〕 〔たてまつるにかはりて○うき世をば嵐の風に、此歌のつゞきにあり。〕   (くも2)  (君1) くやしきは、よしなく人になれそめて、いとふ都のしのばれぬべき。  0452:  大原にて良暹法師の、まだすみがまもならはねばと申けむ  跡、人々見けるに、ぐして罷て、よみ侍ける。 大原やまだすみ釜もならはずと、いひけん人を今あらせばや。  0453:○       咎2  奈良の僧、とがの&M069691;によりて、あまた陸奧國へつかはされし  に、中尊[寺]と申所にまかりあひて、都の物語すれば、涙ながす、  いと哀なり。かゝることはかたきことなり、命あらば物がた  りにもせんと申て、遠國述懷と申&M069691;をよみ侍しに。 涙をば衣川にぞながしつる、ふるきみやこをおもひ出つゝ。  0454:新古  年來あひしりたる人の、陸奧國へまかるとて、とほき國の別  と申&M069691;を、よみ侍しに。                  アヅマ1 君いなば月まつとてもながめやらん、東のかたの夕暮の空。  0455:新古                  常2  みちの國にまかりたりしに、野中につねよりもとおぼしき  塚2  つかのみ&M069452;侍しを、人にとひ侍しかば、中將のみはかとは是  なりと、申侍しかば、中將とは誰がことぞと、とひ侍しかば、實  方の御&M069691;なりと申す、いと哀におぼゆ。さらぬだに物がなし  く、霜がれのすゝきほの%\見&M069452;わたりて、後にかたらんこ  と葉なき心地して。 くちもせぬその名ばかりをとゞめおきて、かれのゝすゝきかたみにぞみる。  0456:  讚岐にまうでゝ、松山の津と申所に、新院の&M069425;はしましけむ  御跡を尋侍しに、かたちもなかりしかば。 松山の浪にながれてこし船の、やがてむなしく成にける哉。  0457:  白峯4  しろみねと申所の御はかにまゐりて。 よしや君、昔の玉のゆかとても、かゝらん後は何にかはせん。  0458:玉葉  善通寺の山に住侍しに、庵の前なりし松をみて。                  (したふ2) ひさにへて、我が後の世をとへよ松、跡忍ぶべき人もなきみぞ。  0459:  土佐のかたへやまからましと、思ひ立こと侍しに。       (うく2)     (は1) こゝを又我すみかえてうかれなば、松やひとりにならんとすらん。  0460:       イハヤ1  大峰の笙ノ窟にて、もらぬいはやもと、平等院僧正よみ給ひけ  むこと、思ひいだされて。 露もらぬ窟も袖はぬれけりと、きかずばいかにあやしからまし。  0461:○  深山紅葉を。 名におひて紅葉の色のふかき山を、心にそむる秋も有哉。  0462:  さゝと申宿にて。 庵さす草のまくらにともなひて、さゝの露にもやどる月哉。  0463:  月を。 ふかき山に住ける月を見ざりせば、思ひでもなき我みならまし。  0464:玉葉   (ば1)    (むめる3) 月すめる谷にぞ雲はしづみける、嶺吹はらふ風にしかれて。  0465:  姨2  をばが峰と申所の見わたされて、月ことに見侍しかば。 姨捨4  信濃3 をばすてはしなのならねど、いづくにも月すむ峰の名にこそ有けれ。  0466: (つゐ&M069452;3)内 (へいち3)  つゐちと申宿にて、月を見侍しに、梢の露のたもとにかゝり  侍しを。                    (ぞ1)内 (なる2)  (と1)内       (の1) 梢もる月をあはれを思ふべし、光にぐして露もこぼるゝ。  0467:玉葉            岩田3  夏、熊野へ參侍しに、いはたと申所にすゞみて、下向し侍ル人に  つけて、京へ西住上人の許へ遣しける。        (岸1) 松がねのいはたの川の夕すゞみ、君があれなと&M069425;もほゆる哉。  0468:續後撰  播磨3 書冩4  はりまのしよしやへ參るとて、野中のし水見侍しこと、一昔  になりて後、修行すとて、とほり侍しに、&M069425;なじさまみなかは  らざりしかば。 昔見し野中の清水かはらねば、我影をもや思ひ出らん。  0469:○  長柄3  ながらをすぎ侍しに。 つの國のながらの橋のかたもなし、名はとどまりて聞&M069452;わたれど  0470:  みちの國へ修行しまはりしに、白河の關にとゞまりて、月つ  ねよりもくまなかりしに、能因が秋風ぞ吹と申けむをり、い  つなりけんとおもひ出られて、關屋の柱に書付たりし。 白川のせきやを月のもる影は、人の心をとむる成けり。  0471:玉葉                       高富4  心ざすことありて、安藝の一ノ宮へ參侍しに、たかとみの浦と                     苫2  申所にて、風に吹とめられて程へ侍しに、とまより月のもり  こしを見て。 浪の音を心にかけてあかす哉、とまもる月の影を友にて。  0472:新古  旅にまかるとて。 月のみやうはの空なるかたみにて、思ひも出ば心かよはん。  0473:○ 見しまゝに姿も影もかはらねば、月ぞ都のかたみなりける。  0474:新古             (よりほかのすさび8) 都にて月を哀と思ひしは、數にもあらぬすまひ成けり。  0475:○  遠ク修行しけるに、人々まうできて餞しけるに、よみ侍ける。 たのめおかむ、君も心やなぐさむと、かへらんことはいつとなけれど。  0476:○新古               るカ  あづまのかたへ、あひしりたり人のもとへまかりけるに、さ  やの中山見しことの、昔になりたりける、思出られて。 年たけて又こゆべしと思ひきや、命なりけり、さやの中山。  0477:○  下野、武藏のさかひ川に、舟わたりをしけるに、霧ふかゝりけ  れば。 霧ふかきけふのわたりのわたし守、岸の船つき思ひさだめよ。  0478:續拾  秋とほく修行し侍けるに、道より侍從の大納言成道の許へ  申おくり侍ける。         (ともなひて5) 嵐吹ク嶺の木の葉にさそはれて、いづちうかるゝ心なるらん。  0479:  返し なにとなくおつる木のはも、吹風にちり行かたはしられやはせぬ。  0480:  とほく修行し侍けるに、菩提院の前に、齋宮にて、人々別の歌  つかうまつりけるに。 さりともとなほあふことを憑む哉、しでの山路をこ&M069452;ぬ別は。  0481:  後の世の事思ひ知たる人のもとへ遣しける。                    (まよはぬ物を7) 世ノ中に心有明の人はみな、かくてやみにはまどはざらなん。  0482:  返し 世をそむく心ばかりは、有明のつきせぬやみは君にはるけん。  0483:○新古  行基菩薩の、何處にか一身をかくさんと、かき給ひたる&M069691;、思  出られて。 いかゞすべき5)新古 いかゞせん、世にあらばやは、世をもすてゝ、あなうの世やとさらに&M069425;もはん。  0484:    貝合5  内にかひあはせあるべしと、きこ&M069452;侍しに、人にかはりて。                         (しなき世は4) かひありな、君がみ袖におほはれて、心にあはぬこともなき哉。  0485:                   (よる2)                      三嶋江4 浦4 風吹ば、花さくなみのおるたびに、櫻がひあるみしまえのうら。  0486: 浪あらふ衣のうらの袖がひを、みぎはに風のたゝみおく哉。  0487:  宮ノ法印高野にこもらせ給ひて、ことの外にあれてさむかり     小袖3  し夜、こそでたまはせたりし、又の朝にたてまつり侍し。        (ぞ1)内       (を) こよひこそあはれみあつき心ちして、嵐の音はよそに聞つれ。  0488:     (堅1)  阿闍梨兼賢世のがれて、高野に籠て、あからさまに仁和寺へ  いでゝ、僧綱に成て、まゐらざりしかば、申つかはし侍し。 袈裟の色やわかむらさきにそめてける、こけの袂を思ひかへして。  0489:    &M000000;          前2  齋院&M069425;りさせ給ひて、本院のまへすぎ侍しをりしも、人のう                      内閣本によりて補ふ16  ちへいりしにつきて、ゆかしう侍しかば、[みまはりて、おはし  ましけん折は、]かゝらざりけんかしと、かはりてけ  ることがら、あはれにおぼ&M069452;て、宣旨のつぼねのもとへ申&M069425;  くり侍し。             有栖川5 君すまぬ御うちはあれて、ありすがは、いむすがたをもうつしつる哉。  0490:  返し おもひきや、いみこし人のつてにして、なれし御うちをきかん物とは。  0491:  ゆかりなりし人、新院の御かしこまりなりしを、ゆるし給ふ  べきよし、申入たりし御返事に。 最上3 もがみ川つなでひくらんいな舟のしばしが程はいかりおろさん。  0492:  御返事たてまつり侍し。                          (納て4) つよくひくつなでと見せよ、もがみ川、その稻舟のいかりおろさめ。  かう申たりしかば、ゆるし侍てき。  0493:  世ノ中みだれて、新院あらぬさまにならせおはしまして、御ぐ  しおろして、仁和寺の北院におはしますと聞て、參たりしに、  兼賢阿闍梨の出あひたりしに、月のあかくて、何となく心も  さわぎ、哀に覺て。                    身1 かゝる世に影もかはらずすむ月を、見る我みさへうらめしき哉。  0494:新古  素覺がもとにて、俊惠と罷合て、述懷し侍しに。   ゛ なに&M069691;にとまる心のありければ、さらにしも又世のいとはしき。  0495:  秋のすゑに、寂然高野に參て、暮の秋、思ひをのぶといふこと  をよみ侍し。                         (暮かな2) なれきにし都もうとくなりはてゝ、かなしさそふる秋の山里。  0496:  中院の右大臣、出家おもひたつよしかたり給ひしに、月あか  く哀にて、明ケ侍にしかば、かへり侍き。そのゝち、ありしよの名  殘おほかるよし、いひ送リ給ひて。                     ゛&M000000;     (し1) 夜もすがら月をながめて、契リ置しそのむつ&M069691;にやみははれにき。  0497:  返し          顯2      (も1) すむと見し心の月しあらはれば、このよのやみははれざらめやは。  0498:  待賢門院の堀川ノ局、世のがれて、西山にすまると聞て、尋まか  りたれば、すみあらしたるさまにて、人のかげもせざりしか  ば、あたりの人にかくと申おきたりしを、聞ていひおくられ  たりし。      苫屋3 しほなれしとまやもあれて、うき浪によるかたもなきあまとしらずや。  0499:  返し                          (けり2) とまの屋に浪立よらぬけしきにて、あまり住うき程は見&M069452;にき。  0500:  同院の中納言ノ局、世のがれて、小倉山のふもとにすまれし、こ     いう(優)カ  とがらいふに哀なり、風のけしきさへことに&M069425;ぼ&M069452;て、書付  侍し。             (を)内   (ける2) 山おろす嵐のおとのはげしさは、いつならひけん君がすみかぞ。  0501:  同院ノ兵衞ノ局、かのをぐら山のすみかへまかりけるに、この歌  をみてかき付られける。                   (ぬる2) 浮世をば嵐のかぜにさそはれて、家をいでにしすみかとぞみる。  0502:  主なく成たりし泉をつたへゐたりし人のもとにまかりた  りしに、對泉懷舊といふ&M069691;をよみ侍しに。 すむ人の心くまるゝ泉かな、昔をいかに思ひいづらん。  0503:  十月ばかりに法金剛院の紅葉見侍しに、上西門院おはしま  すよし聞て、待賢門院の御こと思出られて、兵衞ノ局のもとに  さしおかせ侍し。                  (色1)         紅葉見て君が袂や時雨ルらん、昔の秋の風をしたひて。  0504:  返し                          (日1) 色ふかき木ずゑをみても時雨つゝ、ふりにしことをかけぬまぞなき。  0505:     瀧2 (大覺寺2)  石2  高倉のたき殿のいしども、閑院へうつされて、跡なくなりた  りと聞て、見にまかりて、赤染がいまだにかゝりとよみけん  をり、おもひ出られて。                          (けり2) 今だにもかゝりといひしたきつせの、その折までは昔なりけん。  0506:           軒2  周防の内侍、我さへのきのと書付られしあとにて、人々述懷  し侍しに。     (ついゐし宿6)       (しのぶしるし6) いにしへはつかひしあともある物を、何をかけふのかたみにはせん。  0507:新古       常磐3  爲業朝臣、ときはにて、古郷述懷といふことをよみ侍しに、ま  かりあひて しげき野をいく一むらに分なして、さらに昔をしのびかへさん。  0508:  雪ふりつもりしに。 なか/\に濱のほそ道うづめ雪、ありとて人のかよふべきかは。  0509:玉葉                 (きこもり5)            (うづむ3)            (を1) 折しもあれ、うれしく雪のつもる哉、かきこもりなんとおもふ山路に。  0510:        折敷3  花まゐらせしをしきに、あられのふりかゝりしを。 樒3   阿伽2  (に1)         (とまら3)流、内 しきみおくあかのをしきのふちなくば、なにゝ霰の玉とならまし。  0511:續拾  五條三位歌あつめけると聞て、歌つかはすとて。 花ならぬ&M069691;の葉なれど、おのづから色もやあると君ひろはなん。  0512:續拾  三位返し              (に1)内 世をすてゝ入にし道の&M069691;のはぞ、哀もふかき色は見&M069452;ける。  0513:玉葉  昔、申なれたりし人の世のがれて後、伏見にすみ侍しを、尋て  まかりて、庭の草ふかゝりしを分入て侍しに、虫のこゑあは  れにて。 分入て3)内 分て入ル袖にあはれをかけよとて、露けき庭に虫さへぞなく。  0514:○  覺雅僧都の六條房にて、心ざしふかきことによせて、花の歌  よみ侍けるに。 花ををしむ心の色の匂ひをば、子を思ふおやの袖にかさねん。  0515:  掘河の局のもとより、いひつかはされたりし。 この世にてかたらひおかん、郭公、しでの山路のしるべともなれ。  0516:  返し                      (かゝ2)                       隱2 郭公鳴/\こそはかたらはめ、しでの山路に君しかくらば。  0517:  仁和寺の宮、山崎の紫金臺寺に籠ゐさせ給ひたりし頃、道心  年をおひてふかしと云ことをよませ給ひしに。 あさく出し心の水や湛ふらん、すみゆくまゝにふかくなる哉。  0518:  曉、佛を念ずといふことを。                    御名2 夢さむる鐘のひゞきに打そへて、十たびのみなをとなへつる哉。  0519:新古                 鈴鹿3  世のがれて伊勢の方へまかるとてすゞか山にて。    (うき世をよそに6) すゞか山うき世ノ中をふりすてゝ、いかになり行ク我身なるらん。  0520:○       渚3  中納言家成なぎさの院したてゝ、程なくこぼたれぬと聞て、  天王寺より下向しけるついでに、西住、淨蓮など申ス上人ども  して見けるに、いとあはれにて、各々述懷しけるに。 折につけて人の心もかはりつゝ、世にあるかひもなぎさなりけり。  0521:○  撫子のませに、うりのつるのはひかゝりたりけるに、ちひさ  きうりどものなりたりけるをみて、人の歌よめと申せば。                        名1 撫子のませにぞはへるあこたうり、おなじつらなるなをしたひつゝ  0522:○  五月會に、熊野へまゐりて、下向しけるに、日高に、宿にかつみ  を菖蒲にふきたりけるをみて。                    (くみめ3)内 かつみふくくまのまうでのとまりをば、こもくろめとやいふべかるらん。  0523:  新院百首和歌めしけるに、たてまつるとて、右大將見せにつ  かはしたりけるを、返しつかはすとて。 家の風吹つたへたるかひありて、ちる&M069691;の葉のめづらしき哉。  0524:  祝を。             (むとも3)   (をしらんものかは7) 千代ふべき物をさながらあつめてや、君がよはひの數にとるべき。  0525:      平野3        技2 わか葉さすひらのゝ松は、さらに又&M069452;だにや千代の數をそふらん。  0526:                     松2 君が代のためしになにを思はまし、かはらぬまつの色なかりせば。  0527:  述懷の心を。(或本老後述懷と有)内   ゛&M000000;                  (今2) なに&M069691;につけてか世をばいとふべき、うかりし人ぞけふはうれしき。  0528: よしさらば涙の池に袖なして、心のまゝに月をやどさん。  0529:           (とおとしめ5)         (ける2) くやしくもしづのふせやの戸をしめて、月のもるをもしらで過ぬる。  0530:○ とだ&M069452;せでいつまで人のかよひけん、嵐ぞわたる、谷のかけはし。  0531:○                        (ゐるかな4)内 人しらでつひのすみかに憑べき、山のおくにもとまりそめぬる。  0532: うきふしをまづおもひしる涙かな、さのみこそはとなぐさむれども。  0533: とふ人もおもひた&M069452;たる山郷のさびしさなくばすみうからまし。  0534:○      ミヤマ2 ときはなる太山にふかく入にしを、花咲なばとおもひける哉。  0535:○詞花 世をすつる人はまことにすつるかは、すてぬ人こそすつるなりけれ。  0536:                        〔を1〕正誤                    (のみ2) 時雨かは、山めぐりする心かな、いつまでとなく打しほれつゝ。  0537:○ 浮世とて月すまずなることもあらば、いかゞはすべき、天の下人。  0538:○千載                    止1 來ん世には心のうちにあらはさん、あかでやみぬる月のひかりを。  0539:○新古 ふけにける我世の影を思ふまに、はるかに月のかたぶきにける。  0540:同 栞3 しをりせで、なほ山ふかく分入らん、うきこときかぬ所ありやと。  0541:千載 曉の嵐にたぐふ鐘の音を、心のそこにこたへてぞきく。  0542:○ あらはさぬ我心をぞうらむべき、月やはうとき、をばすての山。  0543:○内ナシ             折2 たのもしな、君/\にますをりにあひて、心の色を筆にそめつる。  0544: 今よりはいとはじ、命あればこそ、かゝるすまひの哀をもしれ。  0545: 身のうさのかくれがにせん、山里は心ありてぞ住べかりける。  0546:千載                (ても2) いづくにかみをかくさまし、いとひ出て浮世にふかき山なかりせば。  0547:○新古                    スギ1 山里にうき世いとはん人もがな、くやしく過し昔かたらん。  0548: 足引の山のあなたに君すまば、入とも月ををしまざらまし。  0549:○内ナシ 浮世いとふ山のおくにもしたひ來て、月ぞ住家の哀をもしる。  0550:        (にて2)  (さす2)内イ 朝日まつ程はやみにやまよはまし、有明の月の影なかりせば。  0551:        (なく2)        (人行にけん5)流・内 古郷は見し世にもにずあせにけり、いづち昔の人は行けん。  0552:○新古 昔見し宿の小松に年ふりて、嵐の音を梢にぞ聞。  0553: 山郷は谷のかけ樋のた&M069452;%\に、水こひどりのこゑ聞ゆなり。  0554:新古        (たつきにををる6) 古畑4           鳩2 ふるはたのそばのたつ木にゐるはとの友よぶこゑのすごき夕暮。  0555:○      (そゞろに4)内  枯野3 見ればけに心もそれになりぞ行、かれのゝ薄、有明の月。  0556:新古          猶2 なさけありし昔のみなほしのばれて、ながらへまうき世にも有哉。  0557:○                古巣3 世を出て溪に住けるうれしさは、ふるすに殘る鶯のこゑ。  0558:○     本ノマゝ あばれ行しばのふたては山里に心すむべきすまひなりけり。  0559:○新古 いづくにもすまれずばたゞすまであらん、柴の庵のしばしなる世に。  0560:○同 いつなげきいつおもふべきことなれば、のちの世しらで人のすぐらん。  0561:○ さてもこはいかゞはすべき、世ノ中に有にもあらず、なきにしもなし。  0562: 花ちらで月はくもらぬ世なりせば、物を思はぬ我身ならまし。  0563:       宵曉5             罪2(つきざらめやは7) たのもしな、よひあかつきの鐘の音に、物おもふつみはぐしてつくらん。  0564: なにとなくせりと聞こそあはれなれ、つみけん人の心しられて。  0565:           (なる1)         (ぞ1)            (らん2)内 はら/\とおつる涙も哀なり、たまらず物のかなしかるべし。  0566:              身1 わび人の涙ににたる櫻哉、風みにしめばまづこぼれつゝ。  0567:玉葉 つく%\と物をおもふに打そへて、をり哀なる鐘のおと哉。  0568:同  (ま1)             (なきと4) 谷の戸に獨ぞ松もたてりける、我のみ友はなきかと思へば。  0569: 松風のおとあはれなる山里に、さびしさそふる日ぐらしのこゑ。  0570:      濱木綿4 みくまのゝはまゆふ&M069425;ふる浦さびて、人なみ/\に年ぞかさなる。  0571:○ いそのかみふるきをしたふ世なりせば、あれたる宿に人すみなまし。  0572:           芭蕉葉4       (なり2)         身1     (より2) 風吹ケばあだにやれ行ばせうばの、あればとみをもたのむべきかは。  0573:新古 またれつる入あひの鐘の音すなり、あすもやあらばきかんとすらん。  0574:                (心をぞ2) 入日さす山のあなたはしらねども、心をかねておくりおきつる。  0575: しばの庵はすみうきこともあらましを、友なふ月の影なかりせば。  0576:                         畔2 わづらはで月には夜るもかよひけり、となりへつたふあぜのほそ道。  0577:                  稻葉3        (玉2) ひかりをばくもらぬ月ぞみがきける、いなばにかへるあさひこのため。  0578: (きよき3) 影き&M069452;ては山の月はもりもこず、谷は木末の雪と見えつゝ。  0579: (吹2)      (つる2) 嵐こす嶺の木の間を分きつゝ、谷の清水にやどる月かげ。  0580:    (外2) 月を見るよそもさこそはいとふらめ、雲たゞこゝの空にたゞよへ。  0581:          (まかせ3)       (の1) 雲にたゞこよひは月をやどしてん、いとふとてしも晴ぬものゆゑ。  0582:○〔重出〕正誤 打はなるゝ雲なかりけり、吉野山、花もてわたる風とみたれば。  0583: なにとなく汲ムたびにすむ心かな、岩井の水に影うつしつゝ。  0584:内ナシ                   窓2 谷風は戸を吹あけて入物を、なにと嵐のまどたゝくらん。  0585: 番2              鴛鴦2 つがはねどうつれる影を友として、をしすみけりな、山川の水。  0586:     (岩ま2)  (も1)            (の1)(と1) おとはせで岩にたばしる霰こそ、よもぎが宿の友こなりけれ。  0587:             (み1)           (ず1)流・内 熊のすむこけの岩山おそろしや、むべなりけりな、人もかよはぬ。  0588:    大幤4 小幤3立2並2 (むなかた4)流・内 里人のおほぬさこぬさたてなめて、むまかたむすぶ野べになりけり。  0589:             蓼2  (からし3)流・内 くれなゐの色なりながら、たでのほのかよしや、人のめにもたてねば。  0590: 楸3 &M000000;  凉3           (打2)流・内 ひさ木&M069425;ひてすゞめとなれるかげなれや、波たつ岸に風わたりつゝ。  0591:  (かゝる3)流・内       洲崎3    鷺2 おりかくるなみの立かと見ゆるかな、すさきにきゐるさぎの村鳥。  0592:                     (はかる3) 浦ちかみかれたる松の梢には、波の音をや風はかくらん。  0593:内ナシ                  (に1)         (ふせ2)  穗末3 しほ風にいせの濱荻ふけばまづ、ほずゑを浪のあらたむる哉。  0594:                  (の山だけ4)内                (くま2) ふもと行ク舟人いかにさむからん、てま山だけをおろす嵐に。  0595: &M000000;     伊吹3颪3  風先4   朝妻4 &M069425;ぼつかな、いぶきおろしのかざゝきに、あさづま舟はあひやしぬらん。  0596:     (あさみ3)内      &M000000;  千嶋3  (け1)   (時2)     蝦夷2 いたちもるあまみがせきに成にけり、&M069452;ぞがちしまを煙こめたり。  0597:          (び1)      (と1) ものゝふのならすすさみはおびたゞし、あけそのしさり、かもの入くび。  0598:○新古・内ナシ 山里は人こさせじとおもはねど、とはるゝことぞうとくなり行。  0599:○補内  太神宮御祭日よめるとあり                       に1イ 何事のおはしますをばしらねども、かたじけなさのなみだこぼるゝ。  0600:○同         にイ かさはあり、其みはいかに成ぬらん、あはれなりける人の行末。  0601:○同 さらばまたそりはしわたす心地して、おふさかゝれるかづらきの山。  Description  此集周嗣禪師不慮被相傳西行上人自筆處於法勝寺僧房                      動1カ  燒失間尋他書書冩之料帋躰被■彼舊本數奇至■感緒者  也。 けぶりだに跡なきうらのもしほ草、又かきおくをあはれとぞみる。                頓阿  此西行上人集葵花園上人此本卷始和歌十一銘奧書歌副  一首新所被灑翰墨也雖未消遺恨之心灰聊擬殘芳之手澤  而己。  觀應貳年辛卯七月日     修行者周嗣判 西行上人集 號山家集  End  底本::   書名:  異本 山家集   校及著: 藤岡 作太郎   發行:  本郷書院   初版:  明治三十九年十月十二日發行   再版:  明治四十一年二月十日發行  入力::   入力者: 新渡戸 廣明(info@saigyo.net)   入力機: SHARP Zaurus MI-E21   編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日: 2005年05月15日-2005年07月10日  校正::   校正者:   校正日: $Id: ihon_sankasyu.txt,v 1.67 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $