Title  追而加書西行上人和歌 次第不同  Description  文學博士 藤岡作太郎 校及著  東京 本郷書院藏版  Section  追而加書西行上人和歌 次第不同  0001:玉葉  しづかならんとおもひ侍ける頃、花見に人々まうで來りけ  れば。           來1 花見にとむれつゝ人のくるのみぞ、あたら櫻のとがには有ける。  0002:同  題不知           (庵1) 山ふかみ霞こめたる柴の戸に、友なふ物は谷の鶯。  0003:○新古  伴勢太神宮にて。 宮ばしらしたつ岩ねにしきたてゝ、露もくもらぬ日の御影哉。  0004:○同  神路山にて。 神路山、月さやかなるかひありて、天ノ下をばてらすなりけり。  0005:           木綿四手4         (ん1) (て1) さか木ばに心をかけてゆふしでのおもへば神も佛なりけり。  0006:○  二見の浦にて、月のさやかなりけるに。 おもひきや、ふた見のうらの月をみて、明暮袖に浪かけんとは。  0007:○  御裳濯4  みもすそ川のほとりにて。                      ウエ1 岩戸あけしあまつみことのそのかみに櫻を誰か殖始メけん。  0008:○  内宮のかたはらなる山陰に、庵むすびて侍ける頃。 爰も又都のたつみ鹿ぞすむ、山こそかはれ、名は宇治の里。  0009:  風の宮にて。 この春は花ををしまでよそならん、心を風の宮にまかせて。  0010:○  月よみのみやにて。 梢みれば秋にかはらぬ名なりけり、花おもしろき月よみの宮。  0011:○續古  櫻の御まへにちりつもり、風にたはるゝを。 神風に心やすくぞまかせつる、櫻の宮の花のさかりを  0012:○      御標3          〔いかばかり4〕 かみ路山、みしめにこむる花ざかり、こはいかばりうれしからまし。  0013:續後撰  春の歌の中に。 かすまずば何をか春とおもはまし、まだ雪き&M069452;ぬみよしのゝ山。  0014:○新古  伊勢の月よみの社に參て、月をみてよめる。 さやかなる鷲のたかねの雲井より、影やはらぐる月よみの森。  0015:○續拾  壽量品 鷲の山、くもる心のなかりせば、誰も見るべき有明の月。  0016:同  題不知    (待もをらむと7) 年をへてまつもをしむも、山櫻、花に心をつくすなりけり。  0017:續後撰   ゛ なに&M069691;をいかにおもふとなけれども、袂かわかぬ秋の夕暮。  0018:玉葉 秋ふかみよわるは虫のこゑのみか、聞ク我とてもたのみやはある。  0019:同 秋の夜をひとりやなきてあかさまし、友なふ虫のこゑなかりせば。  0020:新古 &M069425;ぼつかな、秋はいかなるゆゑのあれば、すゞろにものゝかなしかるらん。  0021:○同   這1    葛3 松にはふまさきのかづらちりぬなり、外山の秋は風すさむらん。  0022:○同        里2      生駒3 秋しのや外山のさとや時雨ルらんいこまのたけに雲のかゝれる。  0023:續後撰           降1          カミナヅキ3 あづまやのあまりにもふる時雨哉、誰かはしらぬ無神月とは。  0024:○新古 道のべの清水ながるゝ柳影、しばしとてこそ立とまりつれ。  0025:○同 よられつる野もせのくさの影ろひて、凉しくくもる夕立の空。  0026:玉葉  月照寒草                枯野3 花におく露にやどりし影よりも、かれのゝ月はあはれなりけり。  0027:同  山家冬月 冬がれのすさまじげなる山里に、月のすむこそ哀なりけれ。  0028:○千載  高野山をすみうかれてのち、伊勢國二見浦の山寺に侍りけ  るに、太神宮の御山をば神ぢ山と申、大日の埀跡をおもひて、  よみ侍りける。 ふかく入て神路のおくを尋れば、又うへもなき峰のまつかぜ。  0029:玉葉  寂然大原に住けるに、高野より、山ふかみといふことを上に  おきて、十首ノ歌よみてつかはしける中に。        鹿3   近2 山ふかみなるゝかせぎのけぢかさに、世にとほざかる程ぞしらるゝ。  0030:同  人のもとより、いとゞしくうきにつけてもたのむかな、ちぎ  りし道のしるべたがふなと、申&M069425;こせて侍ける、返事に。 たのむらんしるべもいさや、ひとつ世の別にだにもまどふ心は。  0031:千載  世をそむきて後、修行し侍けるに、海路にて、月をみてよめる。 わたの原はるかに浪をへだてきて、都に出し月をみる哉。  0032:○  相模3  砥上3 原2  さがみの國とがみがはらにて。      葛2 しかまづのくずのしげみにつまこめて、とがみ河原にをじか鳴也。  0033:○  美濃2  みのゝくにゝて。 郭公、都へゆかばことづてん、こ&M069452;くらしたる山の哀を。  0034:              千束3      (すれ2) 立そめてかへる心は、錦木のちづか待べき心ちこそせね。  0035:玉葉  旅の歌ノ中に。                 (ぞ1)    (ける2) 風あらき柴の庵は、つねよりもねざめて物はかなしかりけり。  0036:同  なげくこと侍ける人を、とはざりければ、あやしみて、人にた            るカ  づぬと聞て、申遣しけり。   (みな2)       (なさけを2) なべて見る君が歎をとふ數に、&M069425;もひなされぬ言のはも哉。  0037:○新古  人に&M069425;くれてなげきける人に遣しける。          身1 なき跡の面影をのみみにそへて、さこそは人の戀しかるらめ。  0038:玉葉  紀伊二位身まかりてけるあとにて。 ながれ行ク水に玉なすうたかたの、あはれあだなるこの世なりけり。  0039:續後拾        &M000000;                  (みれ2)續後拾        &M000000; (に1)             (しれ2) なき人もあるを&M069425;もふも、世ノ中はねぶりのうちの夢とこそなれ。  0040:○玉葉  鳥羽院に出家のいとま申とてよめる。 をしむとてをしまれぬべきこの世かは、みをすてゝこそみをもたすけめ。  0041:○同  前大納言成通世をそむきぬときゝて、遣しける。 いとふべきかりのやどりはいでぬなり、今はま&M069691;の道を尋ネよ。  0042:○續後撰  前大僧正慈鎭無動寺に住ミ侍けるに、申遣しける。 いとゞいかに山を出でじと&M069425;もふらん、心の月を獨すまして。  0043:○同  返し                 【慈鎭】 うきみこそなほ山陰にしづめども、心にうかぶ月をみせばや。  0044:玉葉  小侍從やまひ&M069425;もくなりて月ごろへにけると聞て、とぶら                 〔こしよろしきとて人に10〕  ひにまかりたりけるに、このほどすこしよろしきと  もきかせぬ和琴のてひきなし侍けるを聞て。 ことのねになみだをそへてながす哉、た&M069452;なましかばと&M069425;もふあはれに。  0045:○  月ノ歌ノ中に。 かくれなくもにすむ虫のみゆれども、我からくもる秋のよの月。  0046: したはるゝ心やゆくと、山のはにしばしな入そ、秋のよの月。  0047:玉葉  戀ノ歌ノ中に。 あま雲のわりなきひまをもる月の影ばかりだにあひみてし哉。  0048:○同 うらみてもなぐさみてまし、中/\につらくて人のあはぬと思はゞ。  0049:同                      身1 今よりはあはで物をばおもふとも、後うき人にみをばまかせじ。  0050:○新古 はるかなる岩のはざまにひとりゐて、人目つゝまで物思はゞや。  0051:同 面影のわすらるまじき別かな、名殘を人の月にとゞめて。  0052:○同 有明はおもひであれや、よこ雲のたゞよはれつるしのゝめの空。  0053:續後撰 から衣立はなれにしまゝならば、かさねて物はおもはざらまし。  0054:○同    田子2 我袖をたごのもすそにくらべばや、いづれかいたくぬれはまさると。  0055:○新古 人はこで風のけしきのふけぬるに、哀に雁の&M069425;とづれて行。  0056:○同 たのめぬに君くやとまつよひのまは、ふけゆかでたゞ明なまし物を。  0057:            (な1)       (なさけ3) あはれとて人の心の情あれや、數ならぬにはよらぬなげきを。  0058:同 物&M069425;もひてながむるころの月の色に、いかばかりなる哀そふらん。  0059:  〔を1〕                 (ましやは4) みさほなる涙なりせば、から衣かけても人にしられざらまし。  0060:○            象潟4  遠く修行し侍けるに、きさがたと申所にて。 松嶋4  雄嶋3 まつしまやをじまの磯も何ならず、たゞきさがたの秋のよの月。  0061:○  題不知 月の色に心をふかくそめましや、都を出ぬ我身なりせば。  0062:○ 風さむみいせの濱荻分ゆけば、衣かりがね浪に鳴なり。  0063:○    白良3 濱2 白貝4 月影のしらゝのはまのしろかひは、なみもひとつに見&M069452;わたる哉。  0064:内裏貝合 しほそむる3)小貝3      色2 しほ煙ますほのをがひひろふとて、いろの濱とは云にやあるらん。  0065:同           雀3      (にも2) 浪よする竹のとまりのすゞめ貝うれしき世々にあひにける哉。  0066:                       〔いそに3〕  (かくる3)   簾貝5          磯2   (ん) なみよする吹上の濱のすだれがひ、風もぞおろす、い■■ひろはゞ。  0067:○  はじめ&M069425;ろかにして、すゑにまさる戀と云事を。 我戀はほそ谷川の水なれや、すゑにくはゝる音聞ゆ也。  0068:○  見我人不知戀を。 余古2    三嶋3 よごの海の君をみしまにひくあみのめにもかゝらぬあぢの村鳥。  0069:○ 我戀はみしまが澳にこぎ出て、なごろわづらふあまのつり舟。  0070:○ 奈呉2 なごの海かれたるあさの島がくれ、風にかたよるすかの村鳥。  0071:○                        諏訪2 とりそむる氷をいかにいとふらん、あぢむらわたるすはの水うみ。  0072: 波にちる紅葉の色をあらふゆゑに、錦の島といふにやあるらん。  0073:○新古 山ふかくさこそ心はかよふとも、すまで哀は知らん物かは。  0074:○同     身1  (もり2)新古 (ては2)同 數ならぬみをも心のもちがほにうかれても又歸りきにけり。  0075:○同 おろかなる心のひくにまかせても、さてさはいかに、つひの住かは。  0076:○同 うけがたき人のすがたにうかび出て、こりずや誰も又しづむらん。  0077:○ 世をいとふ名をだにもさはとゞめおきて、數ならぬみの思出にせん。  0078:同  としの暮に、人につかはしける。 &M000000;       (したふ3)          (の1) &M069425;のづからいはぬをもとふ人やあると、やすらふ程に年ぞ暮ぬる。  0079:○同  寂蓮、人々すゝめて、百首ノ歌よませ侍けるに、いなび侍て、熊野  にまうでける道に、[夢に、]なに事もおとろへゆけど、此みちこ  そ、世のすゑにかはらぬ物はあれ、なほこの歌よむべきよし、  別當湛快三位俊成に申と見侍りて、&M069425;どろきながら、此歌を  いそぎよみ出して、つかはしける&M069425;くに、かき付侍ける。 すゑの世もこの情のみかはらずと、見し夢なくばよそに聞カまし。  0080:新古     〔掘河局2〕  侍賢門院掘河のもとよりよび侍けるに、まかるべきよし申                       門2  ながら、まからで、月のあかゝりける夜、そのかどをとほり侍            (たのむ3)  に、にしへゆくしるべとおもふ月影の、空だのめこそかひな  かりけれと、申侍ける返事。 さし2)(雲路をよぎし5)   (心や4) たち入らで雲まを分し月影は、またぬけしきや空に見&M069452;けん。  0081:  春たつこゝろを。           (おもひねに5) 年くれぬ、春くべしとはおもはねど、まさしくみえてかなふはつ夢。  0082:六花          (氣色にて3)   (くまれぬるかな7) とけそむるはつ若水の氷にて、春たつことのまづくまれぬる。  0083:同  菜1    早乙女4             (なる2) 磯なつむあまのさをとめ心せよ、おきふく風に浪たかくみゆ。  0084:○同 山櫻かざしの花に折そへて、かぎりの春のいへづとにせん。  0085: 折2       垣2             (つる2) をりならぬめぐりのかきの卯花を、うれしく雪のさかせける哉。  0086:               (初瀬3) 郭公きゝにとてしもこもらねど、はつせの山はたより有けり。  0087:六花                (かたまほり3) むらさきの色なき程の野べなれや、かた祭にてかけぬ葵は。  0088:○同 五月雨は野原の澤に水こ&M069452;て、いづれなるらん、ぬまの八橋。  0089:○同 山がつの折かけがきのひまこ&M069452;て、となりにもさく夕がほの花。  0090:○同       蓮3 露つゝむ池のはちすのまくりばに、衣の玉を&M069425;もひしる哉。  0091:  月照瀧水     那智2 雲きゆるなちの高嶺に月たけて、光をぬけるたきの白糸。  0092:  熊野へまうで侍けるとて、那智のたきをみて。                    (ぬる2)  身1                     三重3 みにつもることばの罪もあらはれて、心すみけり、みかさねのたき。  0093:  花山院の御庵室のほとりにて。 木のもとにすみけるあとをみつる哉、なちの高根の花を尋て。  0094:○ 三笠山、春はこゑにて知られけり、氷をたゝく鶯のたき。  0095: 浪にやどる月を汀にゆりよせて、鏡にかくる住よしの岸。  0096:○                       御裳濯4 はつ春をくまなくてらす影をみて、月にまづしるみもすその岸。  0097: 千鳥鳴ク繪島の浦にすむ月を、浪にうつしてみるこよひ哉。  0098:○万代 諏訪2             木曾2麻衣4 すはの海に氷すらしも、夜もすがらきそのあさぎぬさえわたる也。  0099:      ハナゾノ2 時雨そむる花苑山に秋暮て、錦の色をあらたむる哉。  0100:     (ひたのたくみ6)          笠取 まさ木わるひものたつみや出つらん、村雨すぎぬ、かさとりの山。  0101: 河合や4)     夕だてはカ 谷あひのまきのすそ山石たてば、杣人いかに凉しかるらん。  0102:                茵3 青根山、苔の莚の上にして、雪はしとねの心ちこそすれ。  0103:                        まなくカ    (まくに2)        (べし2)(さ浪よる5) 杣くだす伊吹が奧の川上に、たつ木うつ[ら]し、苔さなしちる。  0104:○ 吹出て風はいぶきの山の端に、さそひて出る關の藤川  0105:          (まどふ3) 雁がねはかへる道にやまよふらん、こしの中山霞へだてゝ。  0106: 〔穗津丹波ニアリ〕                  (こさまし4)  (越2) こほりわる筏の棹のたゆければ、もちやこすらん、ほつの山をば。  0107:○  松上殘雪 箱根3 はこね山、梢も又や冬ならん、ふた見は松の雪の村ぎ&M069452;。  0108: 〔紀州〕                千草3 嶽2 わけて行ク道のみならず、梢さへちくさのたけは心すみけり。  0109: 菫1         (生1) すみれさくよこ野のつ花老ぬれば、おもひ/\に人かよふなり。  0110:○ 倉部3 くらぶ山、かこふ柴やのうちまでも、心をさめぬ所やはある。  0111:○                      槌2 さ夜ごろも入野の里に打ツならし、遠く聞けるつちの音哉。  0112:○ 我物と秋のこずゑを見つる哉、小倉の山に家ゐせしより。  0113:     枕3 水の音はまくらに&M069425;つる心地して、ねざめがちなる大原の里。  0114:○     身延3        巣立3 雨しのぐみのぶの郷のかき柴に、すだちはじむる鶯のこゑ  0115: 伏2 ふし見過ぬ、岡の屋になほとゞまらじ、日野まで行て駒心みん。  0116: むつのく4)     &M000000;     壷2 碑4   外2 濱2 みなそこの奧ゆかしくぞ&M069425;もほゆる、つぼのいしぶみ、そとのはま風。  0117: 辛洲3    小石3      白2     菅島4 からす崎の濱のこいしとおもふ哉、しろもまじらぬすがしまのくろ。  0118:   松魚3   並2         (うかびて4) 伊良湖3 (り1) (うきてはかちの6) 崎にかつをつる舟ならびうき、はるけき浪にうかれてぞ[よる]。  0119:          (下ぶし4)      霰3 杣人の眞木のかり屋のあだぶしに、音する物はあられなりけり。  0120:○ となりゐぬ畑のかり屋にあかす夜は、物哀なるものにぞ有ける。  0121:            賤2 女1 くみてこそ心すむらめ、しづのめがいたゞく水にやどる月かげ。  0122:○ そこすみて浪しづかなるさゞれみづ、わたりやしらぬ山川のかげ。  0123:○ 我もさぞ庭の眞砂の出あそび、さて老たてるみこそ有けれ。  0124:              (けれ、はては5)鳴1 しばしこそ人目づゝみにせかれける、さては涙やなる瀧の川。  0125:〔○〕續古             仇野4 誰とてもとまるべきかは、あだしのゝ草のはごとにすがる白露。  0126:新勅 大原4               (ほどを3) おほはらやひらの高根の近ければ、雪ふる戸ぼそおもひこそやれ。  0127:  大峰修行のとき、屏風の嶽といふところにて。             (ひけん3)     (ちご1) びやうぶにや心をたてゝおもふらん、行者はかへり、鬼はとまりぬ。  0128:  蟻の戸わたりといふ所にて。 サゝ1 篠ふかみ霧たつ嶺を朝立て、なびきわづらふありのとわたり。  0129:○  吉野にて。 一すぢにおもひ入なん、吉野山、又あらばこそ人もさそはめ。  0130:           (はあやな2)        (ほ1)            (ける2) 心せん、しづが垣根の梅の花、よしなく過る人とゞめけり。  0131:○  東國修行のとき、ある山寺にしばらく侍て。                         〔が1〕 山たかみ岩ねをしむる柴の戸に、しばしもさらば世をのかればや。  0132:○ 雲にまがふ花の本にてながむれば、おぼろに月はみゆるなりけり。  0133:     (ひはらの4)      田原3 ゆふざれやたはらがみねをこ&M069452;行ケば、すごくきこゆる山ばとのこゑ。  0134:                  ヌエ1 (明ぼの4) さらぬだに世のはかなさを思ふ身に、鵺鳴わたるしのゝめの空。  0135:                 ミヤマ2 秋たつと人はつげねどしられけり、太山のすその風のけしきに。  0136:○        曇2 いかに我きよくくもらぬ身と成て、心の月の影を見るべき。  0137:○ 君もとへ、我もしのばん、先だゝば月を形見におもひ出つゝ。  0138:續古   (か1)                (せ1) 何ゆゑに今日まで物をおもはまし、命にかへて逢フ世なりせば。  0139:○續古 うきをうしと&M069425;もはざるべき我身かは、何とて人の戀しかるらん。  0140:續千  題不知 侍&M069691;ははつ音までかと&M069425;もひしに、聞ふるされぬ郭公哉。  0141:〔○〕同  法花勸持品の心を。 いかにしてうらみし袖にやどりけん、いでがたく見し有明の月。  0142:同  無量壽經、易往而無人の心を。 西へ行月をやよそにおもふらん、心にいらぬ人のためには。  0143:玉葉  四國のかた修行し侍けるに、同[行の都へ歸り侍りけるが、い]  [つ]かへるべきなど申しければ。 柴の庵のしばし都へかへらじと、思はんだにも哀なるべし。  0144:同  戀ノ歌の中に。 打たへて君にあふ人いかなれや、我身も&M069425;なじ世にこそはふれ。  0145:同  修行し侍けるとき、花&M069425;もしろかりける所にてよみける。                         (くらさん4) ながむるに花の名立のみならずば、木のもとにてや春を&M069425;くらん。  0146:○  後鳥〔[羽]〕院、位に&M069425;はしましけるとき、をり/\の行幸など思  出られて、隱岐國へ奉りける。 &M000000;      交2             水無瀬3 &M069425;もひ出ヅや、かた野の御狩かりくらし、かへるみなせの山のはの月。  0147:○ 見ればまづなみだながるゝ水瀬川、いつより月の獨すむらん。  0148:新千載                  船岡4  七月十五日の夜、月あかゝりけるにふなをかにまかりて。          身1 いかで我今夜の月をみにそへて、しでの山路の人をてらさん。  0149:○夫木集内少々 浪たてる川原柳のあをみどり、凉しくわたる岸の夕風。  0150:              (そゞろがましき5)    ソトモ2(たかき木に5) 山郷の外面の岡のたかがきに、心がましき秋ぜみのこゑ。  0151:○ あさでほすしづがはつ木をたよりにて、まとはれてさく夕がほの花。  0152:○                       白木綿4 しのにおるあたりも凉し、川社、榊にかくる浪のしらゆふ。  0153: 雲雀3   (野1)&M000000;             (心かな3) ひばりたつあら田に&M069425;ふる姫百合の、何につくともなき我身哉。  0154:                 畔2   土2 五月雨に小田の早苗やいかならん、あぜのうきつちあらひこされて。  0155:      田1   (は1) 五月雨に山だのあぜの瀧枕、數をかさねておつるなりけり。  0156:重出 川わだのよどみにとまるながれ木の、うき橋わたる五月雨の頃。  0157:同            勝間田4 水なしときゝてふりぬるかつまだの池あらたむる五月雨のころ。  0158:○ 橘の匂ふ梢にさみだれて、山郭公こゑかほるなり。  0159:重出 五月雨に水まさるらし、宇治橋のくもでにかゝる浪の白糸。  0160:                   水嵩3 廣瀬3     (沖2) (つくし3)   (らし2) ひろせ川、わたりのせきのみをじるし、みかさそふべし、五月雨の頃。  0161:○                     舫2 ながれやらでつたの入江にまく水は、舟をぞもやふ、五月雨の頃。  0162:                    (うき1) 五月雨は行べき道のあてもなし、小篠が原も瀧にながれて。  0163:○                                         滋賀2 郭公なきわたるなる浪の上に、こゑたゝみおくしがのうらかぜ。  0164:○ タガ1                梢2 誰かたに心ざすらん、郭公、さかひの松のうれになくなり。  0165:○ あやめふく軒に匂へる橘に、きてこゑぐせよ、山郭公。  0166:         標2   鈴2 思ふことみあれのしめに引クすゞの、かなはずばよもならじとぞおもふ。  0167: 龍田3              堰塞3 たつた川、岸のまがきを見わたせば、ゐせきの波にまがふ卯の花。  0168:               塒3 思ひ出て古巣に歸る鶯は、旅のねぐらやすみうかるらん。  0169:                〔ヲグラ2〕           夕2映2  オグラ2        (かげ2) つゝじ咲ク山の岩ねにゆふば&M069452;て、尾倉はよその名のみなりけり。  0170:           畔2 菫3      (わりなかりけり7) たれならん、あら田のくろにすみれつむ人は心のわかなゝるべし。  0171:○                 枯野3 雉子3 生かはる春のわか草待わびて、原のかれのにきゝす鳴なり。  0172: (岡1)       キゞス2 片山に柴うつりして鳴ク雉子、たつ羽音してたかゝらぬかは。  0173: 梢うつ雨にしをれてちる花のをしき心を何にたとへん。  0174:○ ときはなる花もやあると、吉野山、&M069425;くなく入てなほ尋みん。  0175:○ くれなゐの雪は昔のことゝ聞に、花の匂ひのみつる今日哉。  0176:              (か1)         (な&M069452;て3) 月みれば風に櫻の枝たれて、花よとつぐる心地こそすれ。  0177:                       香1      (梅2)     (は1) (梅1) つくりおきしこけのふすまに、鶯のみにしむ花のかやうつすらん。  0178:            (に1) 年ははや月なみかけてこえてけり、むべつみけらし、ゑぐのわかたち。  0179:○                          野邊2 あはれみし袖の露をば結かへて、霜にしみゆく冬がれののべ。  0180:        碎2         (吹なる4) 霜がれてもろくくだくる荻のはを、あらくわくなる風の音哉。  0181:     網代3  (よる2)  布2 (そめて3)(くるゝ3)  紅葉よりあじろのぬのゝ色かへて、ひをくゝるとはみゆるなりけり。  0182:○ 川わだにおの/\つくるふし柴を、ひとつにとづるあさ氷哉。  0183:○ 篠原4  三上3 嶽2 しのはらやみかみのたけを見渡セば、一夜の程に雪は降けり。  0184:          (さすまゝ4)(の1)   たけのぼる朝日の影のさま%\に、都に雪はきえみ、きえずみ。  0185:       上葉3 枯はつる萱がうはゞに降ル雪は、さらに尾花の心ちこそすれ。  0186:重出 うらかヘすをみの衣とみゆる哉、竹の葉分にふれる白雪。  0187:           (からさき3)     足柄4 雪とくるしみゝにしだく笠さぎの、道ゆきにくきあしがらの山。  0188:      木居2   (たる2) 鷂4   (とゝし3) あはせつるこゐのはしたかをきとらし、犬かひ人のこゑしきるなり。  0189:○                    葛3 神人の庭火すゝむるみかげには、まさきのかづらくりかへせども。  End  底本::   書名:  異本 山家集   校及著: 藤岡 作太郎   發行:  本郷書院   初版:  明治三十九年十月十二日發行   再版:  明治四十一年二月十日發行  入力::   入力者: 新渡戸 廣明(info@saigyo.net)   入力機: SHARP Zaurus MI-E21   編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日: 2005年07月10日-2005年08月17日  校正::   校正者:   校正日: $Id: ihon_otte.txt,v 1.15 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $