Title
真言宗勤行法則
Section
勤行の心得
Description
一、先づ御仏前を荘厳つて香華、燈明、飲食等を供養致します。
二、手を洗ひ口を漱ぎ普礼の真言を誦えながら叮嚀に心から三度礼拝して
座に着き、塗香を手に塗つて合掌します。
三、お経を取つて恭しく香に薫し、頂戴てから経文の読誦を始めます。
四、誦経が終つたなら次に合掌して心に念ずる所を御仏に祈願致します。
五、最後には又普礼の真言を誦えながら三度礼拝して座を退きます。
Section
真言宗勤行法則
Subtitle
先 普礼真言 三遍
Note
十方一切の諸仏に帰命して礼拝し奉つる
Description
おんさらば たたぎやた はなまんなのう
きやろみ
Subtitle
次 懺悔文 一遍
Note
我等が無始より以来造りし所の身口意の
一切の罪障を今仏前に於て懺悔し奉る
Description
我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋痴
従身語意之所生 一切我今皆懺悔
Subtitle
次 三帰 三遍
Note
御仏と聖法と之を伝持弘通する僧宝とに
帰依し奉る
Description
弟子某甲 尽未来際 帰依仏
帰依法 帰依僧
Subtitle
次 三竟 三遍
Note
御仏と聖法と之を伝持弘通する僧宝とに
帰依し竟る
Description
弟子某甲 尽未来際 帰依仏竟
帰依法竟 帰依僧竟
Subtitle
次 十善戒 三遍
Note
我等の身口意の三業を清浄ならしめんが
為めに
Description
弟子某甲 尽未来際 不殺生 不偸盗 不邪
淫 不妄語 不綺語 不悪口 不両舌 不慳
貪 不瞋恚 不邪見
Subtitle
次 発菩提心真言 三遍
Note
浄菩提心を発さんが為めに
Description
おん ぼうぢしつた ぼだはだやみ
Subtitle
次 三昧耶戒真言 三遍
Note
御仏の本誓に入り奉らんが為めに
Description
おん さんまや さとばん
Subtitle
次 開経偈
Note
御仏の教法に遭ひ奉ることは難し、然るに今御仏の真実の妙法
を拝読し奉ることを得、願はくは其の真実義に通達せんことを
Description
無上甚深微妙法 百千万劫難遭遇
我今見聞得受持 願解如来真実義
Subtitle
次 心経
Description
仏説摩訶般若波羅蜜多心経
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空
度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空
空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相
不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受
想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界
乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦
無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩
提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣碍無罣碍故無
有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依
般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般
若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等
等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪
即説呪曰 羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提
娑婆訶 般若心経
Subtitle
次 観音経
Description
妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五
爾時無尽意菩薩即従座起偏袒右肩合掌向仏而
作是言世尊観世音菩薩以何因縁名観世音仏告
無尽意菩薩善男子若有無量百千万億衆生受諸
苦悩聞是観世音菩薩一心称名観世音菩薩即時
観其音声皆得解脱
若有持是観世音菩薩名者設入大火火不能焼由
是菩薩威神力故
若為大水所漂称其名号即得浅処
若有百千万億衆生為求金銀瑠璃硨磲碼碯珊瑚
琥珀真珠等宝入於大海仮使黒風吹其船舫飄堕
羅刹鬼国其中若有乃至一人称観世音菩薩名者
是諸人等皆得解脱羅刹之難以是因縁名観世音
若復有人臨当被害称観世音菩薩名者彼所執刀
杖尋段段壊而得解脱
若三千大千国土満中夜叉羅刹欲来悩人聞其称
観世音菩薩名者是諸悪鬼尚不能以悪眼視之况
復加害
設復有人若有罪若無罪杻械伽鎖検繋其身称観
世音菩薩名者皆悉断壊即得解脱若三千大千国
土満中怨賊有一商主将諸商人齎持重宝経過険
路其中一人作是唱言諸善男子勿得恐怖汝等応
当一心称観世音菩薩名号是菩薩能以無畏施於
衆生汝等若称名者於此怨賊当得解脱衆商人聞
倶発声言南無観世音菩薩称其名故即得解脱無
尽意観世音菩薩摩訶薩威神之力巍巍如是
若有衆生多於淫欲常念恭敬観世音菩薩便得離
欲若多瞋恚常念恭敬観世音菩薩便得離瞋若多
愚痴常念恭敬観世音菩薩便得離痴無尽意観世
音菩薩有如是等大威神力多所饒益是故衆生常
応心念
若有女人設欲求男礼拝供養観世音菩薩便生福
徳智慧之男設欲求女便生端正有相之女宿植徳
本衆人愛敬無尽意観世音菩薩有如是力若有衆
生恭敬礼拝観世音菩薩福不唐捐
是故衆生皆応受持観世音菩薩名号無尽意若有
人受持六十二億恒河沙菩薩各字復尽形供養飲
食衣服臥具医薬於汝意云何是善男子善女人功
徳多不無尽意言甚多世尊仏言若復有人受持観
世音菩薩名号乃至一時礼拝供養是二人福正等
無異於百千万億劫不可窮尽無尽意受持観世音
菩薩名号得如是無量無辺福徳之利
無尽意菩薩白仏言世尊観世音菩薩云何遊此娑
婆世界云何而為衆生説法方便之力其事云何
仏告無尽意菩薩善男子若有国土衆生応以仏身
得度者観世音菩薩即現仏身而為説法応以辟支
仏身得度者即現辟支仏身而為説法応以声聞身
得度者即現声聞身而為説法応以梵王身得度者
即現梵王身而為説法応以帝釈身得度者即現帝
釈身而為説法応以自在天身得度者即現自在天
身而為説法応以大自在天身得度者即現大自在
天身而為説法応以天大将軍身得度者即現天大
将軍身而為説法応以毘沙門身得度者即現毘沙
門身而為説法応以小王身得度者即現小王身而
為説法応以長者身得度者即現長者身而為説法
応以居士身得度者即現居士身而為説法応以宰
官身得度者即現宰官身而為説法応以婆羅門身
得度者即現婆羅門身而為説法応以比丘比丘尼
優婆塞優婆夷身得度者即現比丘比丘尼優婆塞
優婆夷身而為説法応以長者居士宰官婆羅門婦
女身得度者即現婦女身而為説法応以童男童女
身得度者即現童男童女身而為説法応以天龍夜
叉乾闥婆阿修羅迦楼羅緊那羅摩睺羅伽人非人
等身得度者即皆現之而為説法応以執金剛神得
度者即現執金剛神而為説法無尽意是観世音菩
薩成就如是功徳以種種形遊諸国土度脱衆生是
故汝等応当一心供養観世音菩薩是観世音菩薩
摩訶薩於怖畏急難之中能施無畏是故此娑婆世
界皆号之為施無畏者無尽意菩薩白仏言世尊我
今当供養観世音菩薩即解頚衆宝珠瓔珞価直百
千両金而以与之作是言仁者受此法施珍宝瓔珞
時観世音菩薩不肯受之無尽意復白観世音菩薩
言仁者愍我等故受此瓔珞爾時仏告観世音菩薩
当愍此無尽意菩薩及四衆天龍夜叉乾闥婆阿修
羅迦楼羅緊那羅摩睺羅伽人非人等故受是瓔珞
即時観世音菩薩愍諸四衆及於天龍人非人等受
其瓔珞分作二分一分奉釈迦牟尼仏一分奉多宝
仏塔無尽意観世音菩薩有如是自在神力遊於娑
婆世界
爾時無尽意菩薩以偈問曰
世尊妙相具 我今重問彼 仏子何因縁 名為観世音
具尊妙相尊 偈答無尽意 汝聴観音行 善応諸方所
弘誓深如海 歴劫不思議 侍多千億仏 発大清浄願
我為汝略説 聞名及見身 心念不空過 能滅諸有苦
仮使興害意 推落大火坑 念彼観音力 火坑変成池
或漂流巨海 龍魚諸鬼難 念彼観音力 波浪不能没
或在須弥峯 為人所推堕 念彼観音力 如日虚空住
或被悪人逐 堕落金剛山 念彼観音力 不能損一毛
或値怨賊繞 各執刀加害 念彼観音力 咸即起慈心
或遭王難苦 臨刑欲寿終 念彼観音力 刀尋段段壊
或囚禁枷鎖 手足被杻械 念彼観音力 釈然得解脱
呪詛諸毒薬 所欲害身者 念彼観音力 還著於本人
或遇悪羅刹 毒龍諸鬼等 念彼観音力 時悉不敢害
若悪獣囲繞 利牙爪可怖 念彼観音力 疾走無辺方
蚖蛇及蝮蝎 気毒煙火然 念彼観音力 尋声自回去
雲雷鼓掣電 降雹㴻大雨 念彼観音力 応時得消散
衆生被困厄 無量苦逼身 観音妙智力 能救世間苦
具足神通力 広修智方便 十方諸国土 無刹不現身
種種諸悪趣 地獄鬼畜生 生老病死苦 以漸悉令滅
真観清浄観 広大智慧観 悲観及慈観 常願常瞻仰
無垢清浄光 慧日破諸闇 能伏災風火 普明照世間
悲体戒雷震 慈意妙大雲 㴻甘露法雨 滅除煩悩焔
諍訟経官処 怖畏軍陣中 念彼観音力 衆怨悉退散
妙音観世音 梵音海潮音 勝彼世間音 是故須常念
念念勿生疑 観世音浄聖 於苦悩死厄 能為作依怙
具一切功徳 慈眼視衆生 福聚海無量 是故応頂礼
爾時持地菩薩即従座起前白仏言世尊若有衆生
聞是観世音菩薩品自在之業普門示現神通力者
当知是人功徳不少仏説是普門品時衆中八万四
千衆生皆発無等等阿耨多羅三藐三菩提心
Subtitle
次 地蔵経
Description
地蔵菩薩本願経嘱累人天品第十三
爾の時に、世尊、金色の臂を挙げ、又地蔵菩薩摩訶薩の頂をな
で、是の言をなしたまはく。地蔵、地蔵、汝の神力は不可思議
なり、汝の慈悲は不可思議なり、汝の智慧は不可思議なり、汝の
弁才は不可思議なり、たとへ十方の諸仏にして汝の不思議なる
事を讃歎し宣説したまはんに、千万劫の中に於てすとも能く尽
くすことを得ざらん。地蔵、地蔵、記せよ吾れ今日、忉利天の中
に在して百千万億不可説不可説の一切の諸仏菩薩、天龍、八部
の大会の中に於て、載び人、天、諸の衆生等の未だ三界を出で
ずして、火宅の中にある者を汝に付嘱す。是の諸の衆生をし
て、一日一夜なりとも悪趣の中に堕せしむることなかれ。何に
況や、更に五無間及び阿鼻地獄に落ち動すれば、千万億劫を経
るも出づるの期あることなけんをや。地蔵、是の南閻浮提の衆生
は志性定ることなく、悪を習ふ者のみ多し、たとへ善心を発し
ぬるとも須臾にして退せん、若し悪縁に遇ひなば念念に増長せ
ん。是の故に吾れ是の形を分つこと、百千億にして化度し、その
根性に随つて度脱せん。地蔵、吾れ今慇懃に、天人衆を汝に付嘱
す。未来の世、若し天人及び善男子、善女人ありて、仏法の中
にして、少善根を種ゑんに、一毛一塵一沙一渧ならんをも、汝は
道力を以つて是の人を擁護し、漸く無上道を修して退失せしむ
ることなかれ。復次に、地蔵、未来世の中に於て、若しは天にも
あれ、若しは人にもあれ、業の随に報ひ応じて悪趣に落ち、悪
趣の中に臨随き、或は門首に至らんときに、是の諸の衆生のた
めに、苦し能く一仏名、一菩薩名、一句一偈の大乗経典をも念
じ得なば、是の諸の衆生は汝の神力をもつて方便救抜し、是の
人の所にして無辺の身を現じ、地獄を砕き、天に生ぜしめ、勝
妙の楽を受けしめん。爾の時、世尊、偈を説きて言はく。
現在未来の天人衆を
吾れ今慇懃に汝に付嘱す
大神通を以つて方便して度せよ
諸の悪趣に堕在せしむることなかれ
爾の時、地蔵菩薩摩訶薩、胡跪し掌を合せ、仏に白して言さく。
世尊、唯、願はくは世尊、慮りをしたまはざれ、未来世の中に、
若し善男子、善女人ありて、仏法の中にして一念も恭敬せば、
我れも亦百千の方便をもつて是の人を度脱し、生死の中より速
かに解脱することを得しめん。何に況や、諸の善事を聞き念念
に修行せんをや。自然にして無上道より退転せざらん。是れを説
きたまふ時、会の中に一りの菩薩あり、虚空蔵と名く。仏に白し
て言さく。世尊、我れ自ら忉利天に至り、如来の地蔵菩薩の威
神力の不可思議なるを讃歓したまふを聞きぬ。未来世の中に、
若し善男子、善女人のみならず、一切の天龍に及ぶまで、此の
経典及び地蔵の名字を聞き、或は形像を瞻礼せんに、幾種の福
利を得るや。唯、願くは世尊、現在未来の一切の衆等のために、
略して之れを説きたまへ。仏、虚空蔵菩薩に告げたまはく、諦
かに聴け、諦かに聴け、吾れ汝がために分別して之れを説かん。
若し未来世に善男子、善女人ありて地蔵の形像を見、及び此の
経を聞き、乃至、読誦、香華、飲食、衣服、珍宝、布施、供養
讃歎、瞻礼せんに、二十八種の利益を得てん。一には天龍に護
念せられ、二には善果日に増し、三には聖上の因を集め、四に
は菩提を退せず、五には衣食豊かに足り、六には疾疫に臨まず、
七には水火の災を離れ、八には盗賊の厄なく、九には人に欽敬
せられ、十には神鬼に助け持たれ、十一には女は男身に転じ、
十二には王臣の女となり、十三には端正なる相好をそなへ、十
四には多く天上に生れ、十五には或は帝王となり、十六には宿
智命通を得、十七には求むることあらんに皆従はん、十八には
眷族歓び楽しみ、十九には諸の橫災銷滅し、二十には業道永へ
に除かれ、二十一にはいかなる去処も尽く通じ、二十二には夜
夢みるも安楽ならん、二十三には先亡は苦を離れ、二十四には
宿福ある生を受け、二十五には諸聖に讃め歎へられ、二十六に
は聡明利根ならん、二十七には慈愍の心饒かにして、二十八に
は畢竟じて成仏せん。復次に虚空蔵菩薩、若し現在未来の天龍、
鬼神、地蔵の名を聞き、地蔵の形を礼し、或は地蔵の本願の事
行を聞き、讃歎し瞻礼せんに、七種の私益を得てん。一には速
かに聖地に超へ、二には悪業銷滅し、三には諸仏に護り臨られ、
四には菩提を退せず、五には本力を増長し、六には宿命皆通じ、
七には畢竟じて成仏せん。爾の時、十方一切の諸方より来れる
不可説不可説の諸仏如来及び大菩薩、天龍八部は釈迦牟尼仏の
地蔵菩薩の大威神力の不可思議なるを称揚し讃歎したまふを聞
き、未曽有なりと歎へつ。是の時忉利天は無量の香華、天衣、
珠瓔を雨ふらし、釈迦牟尼仏及び地蔵菩薩を供養したてまつり、
一切の衆会は倶にまた瞻礼し合掌して退しき。
Subtitle
舎利礼
Description
一心頂礼 万徳円満 釈迦如来 真身舎利 本地法身
法界塔婆 我等礼敬 為我現身 入我我入 仏加持故
我証菩提 以仏神力 利益衆生 発菩提心 修菩薩行
同入円寂 平等大智 今将頂礼
Subtitle
十句観音経
Description
観世音 南無仏 与仏有因 与仏有縁
仏法僧縁 常楽我浄 朝念観世音
暮念観世音 念々従心起 念々不離心
Subtitle
真言宗安心
Description
夫れ真言密宗安心の至要を示さば、大日経王には、実の如く
自心を知なりと説給ひ、高祖大師は、真如外に非ず身を棄てゝ
何か求めんと述給へり、されば朝夕に妄念妄執にほだされ、貪
瞋邪見にまつはるゝ有漏雑染の我等が胸中に五智四身の徳、一
も闕ることなく、本来円満して備れりと達悟する是を凡聖不二
の宗要とす、但下根劣慧の者は、偏に此旨を信じて疑はず、深
く大日如来の普門の誓願にすがり奉りて、一真言に往生の信を
決し、木樵水くむ其間も、唯光明真言を唱ふれば、如来の本誓
空しからざるが故に無始已来造り累ねし、煩悩罪障の黒暗も、五
智丹満の大光明に照されて、知らず識らず消滅し、娑婆の因縁
未だ尽ざる内に、往生浄刹決定せりと露ばかりも疑はざる、是
を平生往生の真言行者と申すべきなり。
つらつら真言密教の大意を案ずるに、生仏自他の差別なく本
初不生の心地に居し共に三平等の観に住して、深く凡聖不二の
旨を信ずるを以て、総じて安心の宗要とす、是故に高祖大師は
医眼の視る所、百毒変て薬となり、仏慧の照らす所、衆生即ち
仏なりと仰せられたり、是れ則ち諸法平等にして、本より生仏
一味解脱の床に住すれども、我等衆生は悟らざるが故に隔歴妄
執の我見に蔽はれて、長夜に苦を受く、此衆生をして、悉く覚
悟せしめんが為に、仏みづから真言密教を説き、群機に普応し
給ふなり、是故に此教に依る機は勝慧劣慧斉しく其益を蒙らず
と云ふことなし、是を以て興教大師は浅観但信は真に浄土に遊
び、深修円智は現に仏道を証すと述べ給へり、是れ勝慧は直に
不二の深理に契ひ、劣慧は順次に往生を成ずるの意なり、され
ば下根劣慧の衆生と雖、浄土に往生せば、再び六道の苦界に輪
廻することなく、常に諸仏菩薩に教化を受け、終に生仏同体の
悟を開き、真言秘教の理に応ぜんこと、露も疑あるべからず、
依て此度といふ此度を六道輪廻の終とし、密教値遇の縁に依り、
浄土に往生することの貴さを歓び、怠りなく真言念誦の相続を
励ますべきなり。
抑大日如来と申奉るは、十方諸仏の本地、三世種覚の尊主、
四十二地の所帰、二十五有の能度の尊にましますが故に、頓漸
の法門を施設し、利鈍の万機を摂取し給ひて一も漏し給ふこと
なし、凡そ仏陀神明数多ましますと雖、一仏一尊として、大日
如来の差別智身に非ざる無し、是故に大日如来を帰命し奉る時
は諸仏諸菩薩を帰命し奉るに異ることなし、又白浄信心を決定
して、真言を唱へ、往生成仏を欣ふ時は、一切の神明までも、
皆其本懐なりと思召し、真言念誦の者を守護し給ふなり、何と
なれば仏菩薩の大悲、一切衆生をして終に仏法に勧め入れしめ
んが為に、方便して仮に迹を垂れ給ふ所の神明なれば、皆悉く
大日如来を帰命する中にこもれる故なり、依て大日如来の御誓
願の中には弥陀如来の四十八願も薬師如来の十二上願も其他あ
らゆる諸仏諸菩薩の誓願本誓一として漏ることなし、是故に興
教大師は一切の仏菩薩の誓願本誓は此の大日の誓願に非ること
なし、故に又能く、彼の諸願を超ゆと述べ給へり、されば大日
如来の真実本願大潅頂の光明真言を唱ふる時は自一切の仏菩薩
の本誓に契ふが故に、道俗男女諸共に悉く密厳浄土へ往生せら
るゝこと疑なき者なりと諦信法定致すべきなり。
Subtitle
光明真言袖鑑
Description
抑我等一切衆生は生れながらの仏にて五智四身の仏徳一も欠
たることなしといへども、無明煩悩に覆はれて我本よりのほと
け成る事をしらず、身の外に仏を求て遠劫生死に流転する事尤
あさましきことにあらずや、爰に毘盧舍那大日如来は諸仏の本
地衆生の父母にておはしませば、同体の大悲止ことを得たまは
ずして本より仏身にそなはるところの五智の光明功徳をもつて
廿三字の梵文に封じ籠させたまふ、これを衆生にあたへて無明
の闇を照し本来成仏の悟を開かしめ玉ふ、これを光明真言とい
ふ。故にこの真言は直に五智如来の光明なれば往生成仏の速な
〔オン〕
ることこれに及べるはなし。初に&M101871;とはこれ供養の義なり、僅
にこの字を唱るときは一切の諸仏菩薩の思召にかなへる香華燈
明飯食衣服などこの字の中よりながれいでゝ、真実に供養する
〔アボキャ〕
にふそく有ことなし。次に&M101920;&M102603;&M102003;とは不空の義なり、いはくこの
真言をとなふるものは、現世の願望不空して成就し、未来の成
仏もむなしからずして速なる義なり、即これ北方成所作智不空
〔べイロシヤノウ〕
成就仏の光明にて釈迦如来なり。次に&M102597;&M102535;&M102005;*とは中央本地法界
〔マカボダラ〕
体性智大日如来なり、&M102483;&M102652;&M102379;&M103849;とは東方大円鏡智阿閦如来なり、即
是薬師如来と同体なりこの真言をとのふるもの業病鬼病などを
〔マニ〕
も治するといふはすなちこの句あるがゆへなり。&M102483;&M102341;とは如意宝
珠の義なり、いはく宝珠より一切の宝をふらして世間出世の願
望を成就せしむる義なり、すなはちこれ南方平等性智宝生如来
〔ハンドマ〕
なり。&M102329;*とは西方妙観察智阿弥陀如来なり、この真言を唱る人
の極楽に往生するはこの句あるがゆへなり。以上を五智の如
〔ジンバラ〕
来といふ。&M115977;*とは光明の義なり、いはく一切の諸仏菩薩諸天諸
〔ハラバリタヤ〕
神の光明皆この句のなかにこもれり、&M103849;&M102487;*&M102484;とは転易の義なり
いはく五知如来の光明にてらされて貧を転じて富貴を成ことや
すく、愚鈍を転じて智慧をうることやすく、悪業をてんじて善
業となし、短命をてんじて長命ならしめ、乃至地獄を転じて成
〔ウン〕
仏せしむることやすき義なり。&M101879;とは成就の義なり、此光明真
言の功力にて何にてもおもひのまゝに決定して成就せずといふ
ことなき義なり。されば経軌のなかに光明真言の功徳を説てい
はく、若しばらくもこの呪の声をきくものは十悪五逆四重の大
罪も忽に消滅して初地の菩薩の位を得べし、若畜類ならばその
業をめつして天上に生れあるひは人間に生ずべし、いはんや自
これを唱ふる功徳をや。もし信心をもてわずかに一遍誦する功
徳は八万四千の一切経を読誦する功徳にもすぐれたり、若また
臨終の人のためにとのふること一遍せば阿弥陀如来その亡者の
手を引て極楽浄土に往生せしめたまふべし、若また十悪五逆の
大罪人ありて一生のあいだ微塵ばかりの善根をもなさず、経念
仏を教化ども用ざる人死して地獄に堕たらんは、いづれの仏法
の中にもたすくべき方便なし。若かくのごとくの罪人をすくは
んとならば真言の阿闍梨の加持せる光明真言の土砂をもつて、
かの死骸の上あるひは墓所に散ずべし。即時に土砂の中より五
色の光明をはなつて罪人の身を照すとき、忽に重罪を滅し地獄
の苦をまぬがれて極楽に往生すべしと云云。これみづから真言を
となふるにもあらず、しかも大重罪の人なれども法力の勝たる
功徳にて我知らず極楽に往生すること、誠に他力の中の大他力
なり、大日如来の本願力仰になほ余りあり。されば明恵上人は
かゝるふしぎの利益をおもへばたとひ百千両の金を積ともなほ
土砂一粒のあたひにもたらず、若これを得たらん人は如意宝珠
を得たるがことくすべしとの玉へり。今現に土砂をかけて死骸
のやはらかになるは、五智如来の光明にてらされて重罪を滅す
る証拠なれども世間の人これをしらず、すでに重罪の人の死骸
にかけたるばかりにさへ罪を滅して浄土に往生す、いはんや存
生の内より守として身に添へ真言念仏をつとめん人なんぞ現当
の大利益をこうむらざらんや、みな人不祥災難病苦は過去の罪
業なれば心ある人々苦しき時は加持土砂を水にいれ、光明真言
を一心に唱へてのめば重罪を消滅し諸願成就すべし、また死人
に用るばかりを知て現世の急用利益を知らざる人多し愚なるこ
となり、凡そ八万の仏教はこれ真言の廿三字に縮り、この真言は
〔アビラウンキヤン〕 〔アビラウンキヤン〕 〔ア〕
又&M101920;&M102501;&M102485;&M101879;&M102141;の五字に縮り、&M101920;&M102501;&M102485;&M101879;&M102141;の五字は唯&M101920;字の一字
〔ア〕
に縮まれり、これこの&M101920;字は大日如来の一字の真言にて一切諸
教の命根、されば弥陀釈迦等の一切諸仏もみなこの阿字を悟て
成仏し玉ふと説玉へり、されば常途の仏法に至極とする所の真
如実相の妙理さへ、なをこの阿字より生ずと説けり。いはんや
三世諸仏の因位の行願十方浄土の荘厳の功徳をや、すべてあら
ゆる仏法この一字にもれたるはなし、その阿字とはすなはちこ
の真言の初にありて廿三字の肝心なれば、阿字即ち光明真言な
り若人の臨終などには経文念仏のみじかきもなを難行となりて
となへがたし、かゝるときは余の勤をさしおいてそのかわりに
唯阿字を念ずべし。阿字とはこれ我等が出入の息風なれば、二
六時中相続して眠の中にも絶間なくとなふるは唯此真言ばかり
なり。故に摂真実経には阿字を自性成就の真言なりと名づけた
まへり、この義をよく心得て臨終するときは真言念仏はいふに
及ばず、惣じて八万の仏法を唱ながら終をとる人なり、往生成
仏の秘術これにすぎたるはなし。まことに易修易行やすくたす
かることの最第一速疾成仏の神通乗なり。若信ありて誦せんと
おもはば真言の阿闍梨にあふて伝授すべし、しかれども授べき
縁なくんばこの真言ばかりはさずからずとも、よく/\ただし
おぼえて怠なくとなふべし、もし又真言師にあはば度々授りて
唱ふれば増功徳広大成べし。
Subtitle
次 祈願
Description
今上天皇 宝祚長遠 国体鞏固
万民豊楽 仏日増輝 常転法輪
殊には先祖代々 頓証菩提 家内安全 子孫長
久 父母師長 六親眷属 現当二世安楽 乃至
法界 平等利益
Subtitle
次 光明真言 二十一遍又は百遍若は千遍
Description
おん あぼきや べいろしやなう まかぼだら ま
にはんどま じんばら はらばりたやうん
Subtitle
次 大日如来真言
Description
おん あびらうんきやん
Subtitle
次 正観世音菩薩真言 七遍
Description
おん あろりきや そわか
Subtitle
次 千手観世音菩薩真言 七遍
Description
おん ばざら たらまきりく
Subtitle
次 十一面観世音菩薩真言 七遍
Description
おん まか きやろにきや そわか
Subtitle
次 如意輪観世音菩薩真言 七遍
Description
おん はんどめい しんだまに じんばらうん
Subtitle
次 不動明王真言 七遍
Description
なうまくさんまんだ ばざらだん せんだまかろしや
だ そわたや うんたらた かんまん
Subtitle
次 毘沙門天王真言 七遍
Description
おん ばいしら まんだや そわか
Subtitle
次 薬師如来真言 七遍
Description
おん ころ/\ せんだまりまとうぎ そわか
Subtitle
次 地蔵菩薩真言 七遍
Description
おん かかかび さんまえい そわか
Subtitle
次 弥勒菩薩真言 七遍
Description
おん ばいたれいや そわか
Subtitle
次 高祖宝号 七遍
Description
南無大師遍照金剛
Subtitle
次 宗祖宝号 七遍
Description
南無興教大師
Subtitle
次 派祖宝号 七遍
Description
南無専誉僧正
Subtitle
次 廻向文
Note
上来修する所の功徳を以て普く有縁無縁一切の人
々に廻向し諸共に仏道を成ぜんことを祈願し奉る
Description
願以此功徳 普及於一切
我等与衆生 皆共成仏道
Subtitle
次 普礼真言 三遍
Note
十方一切の諸仏に帰命して礼拝し奉つる
Description
おんさらば たたぎやた はなまんなのう
きやろみ
Section
十三仏真言
Subtitle
不動明王真言
Description
なうまくさんまんだ ばざらだん せんだまかろしや
だ そわたや うんたらた かんまん
Subtitle
釈迦如来真言
Description
なうまくさまんだ ぼだなんばく
Subtitle
文殊菩薩真言
Description
おん あらはしやなう
Subtitle
普賢菩薩真言
Description
おん さんまや さとばん
Subtitle
地蔵菩薩真言
Description
おん かかかび さんまえい そわか
Subtitle
弥勒菩薩真言
Description
おん ばいたれいや そわか
Subtitle
薬師如来真言
Description
おん ころ/\ せんだまりまとうぎ そわか
Subtitle
観世音菩薩真言
Description
おん あろりきや そわか
Subtitle
勢至菩薩真言
Description
おん さんざん さんさく そわか
Subtitle
阿弥陀如来真言
Description
おん あみりた ていぜい からうん
Subtitle
阿閦如来真言
Description
おん あきしゆびや うん
Subtitle
大日如来真言
Description
おん あびらうんきやん
Subtitle
虚空蔵菩薩真言
Description
なうぼうあきやしや きやらばや おんありきや ま
りぼり そわか
Subtitle
弘法大師聖語
Note
般若心経秘鍵の一節
Description
夫れ仏法遥かに非す、心中にして即ち近し、真如外に非ず身を
棄てゝ何くんか求めん、迷悟我に在れば則ち発心すれば即ち到
る、明暗他に非ず則ち信修すれば忽ちに証す、哀れなる哉哀れ
なる哉長眠の子、苦しい哉痛い哉狂酔の人、痛狂は酔はざるを
笑ひ酷睡は覚者を嘲ける、曽て医王の薬を訪はずんば、何れの
時にか大日の光を見ん、翳障の軽重覚悟の遅速の若きに至つて
は、機根不同にして二教轍を殊んじて手を金蓮の場に分ち、五
乗&M040798;を並べて蹄を幻影の埒に踠かす、其解毒に随て薬を得る
こと即ち別なり、慈父導子の方大綱此れに在り乎。
Subtitle
興教大師聖語
Note
勧発頌の一節
Description
諸仏は三等を悟て万徳の真城に住し、衆生は一如に迷つて四生
の幻野に&M037368;らふ、三有皆な是れ苦なり、九界悉く常に非す 聖
すら猶ほ無常に随ふ凡何ぞ必滅を遁れん、一生は既に夢の如し
百年那んぞ電ちに異ならん、風葉の身は持ち難く霜露の命消え
易し、毒箭已に体に入れども法薬未だ心に薫ぜず、無常の嵐一
たび扇けば有待の身四もに散じなん、燃石を救ひ去てずんば何
ぞ能く泥梨を免れん、謬つて一たび黄泉に沈まば恐らくは永く
白法に別れん、古賢猶ほ能く怖る今愚何そ慎まさらん。
Note
弘法大師=空海 Wikipedia
興教大師=覚鑁 Wikipedia
End
底本::
書名: 真言宗勤行法則
発行: 大本山 護国寺
発行日: 平成十年八月十日
入力::
入力者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)
入力機: SHARP Zaurus MI-E21
編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ
入力日: 2005年11月04日
校正::
校正者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)
校正日: 2006年01月21日
$Id: gongyo.txt,v 1.21 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $