「さりともと〜」の詞書について
佐佐木信綱先生の「新訂山家集」岩波文庫を入力中に、「さりともと〜」の詞書で「くさかんむり」の二段重ねに出会いました。
0827
遠く修行することありけるに、院の前の齋宮にまゐりたりけるに、人々別の歌つかうまつりけるに
さりともと猶あふことを頼むかな死出の山路をこえぬ別は
何と読むのか分からず、他のテキストを調べると、該当個所は「菩提院」となっているようでした。困り果てて、西行MLの皆さんに質問したところ、「合字」もしくは「抄物書」ではないかとの情報を得られました。サーチエンジンで調べたところ、福井大学で答えを見つける事が出来ました。果たして、 抄物書(しょうもつがき)でした。「くさかんむり」の二段重ねは「ぼさつ」と読み、「ササ菩薩」と呼ばれているようです。それではここは「菩薩院」と読むのでしょうか?
違う歌ですが、山家心中集 伝西行筆(宮本長則氏蔵本)では、
0163
山水春をつくといふことを院の前さい宮にて人々よみはへりしに
はるしれとたにのほそみつもりそくるいはまのこほりひまたえにけり
この部分は「菩提院」です。
「山家集類題」の現物を見ていないので憶測でしかありませんが、
「六家集山家集」〜「山家集類題」〜「新訂山家集」への書写、翻刻のどこかでがになってしまったのだと考えます。
ご参考:
福井大学教育学部岡島昭浩氏のページより
和字大觀鈔巻下
抄物書(シヤウモツガキ)
佛家に用ひ来る。抄物書と云物とは。書籍(シヨジヤク)
を抜書(ヌキガキ)するを云なり。かく写すために略字を作れり。
メメ聲聞ヨヨ縁覺ササ菩薩〓〓菩提〓〓煩悩〓〓
懺悔めめ娑婆〓〓究竟〓〓瑠璃サム荘厳〓〓涅槃
〓摩磨魔〓〓ム私〓麁厂歴鴈〓即〓〓功徳
〓證據ち〓知識〓帰敬〓〓嫉妬〓〓微妙
〓〓譬喩〓〓愚癡〓〓捨離無常〓〓因果
〓〓説法〓〓〓〓虚空〓〓差別〓〓変易〓悪
〓諸〓〓教者〓羅〓疑〓觀〓巻〓密〓
定〓義〓必〓疏〓行〓龍〓聖〓〓具足
〓〓宝樹〓發〓機〓現〓欲〓要〓假〓
得〓利〓信〓非〓誹〓業〓梵〓亦〓滅
〓愛〓毒〓簡〓〓〓廣〓理
知らされば甚よみがたし。しばらく其大概(ガイ)を記すのみ。
画像
漢字音研究(福井大学教育学部岡島昭浩のページの内)
2000年12年15日
2002年08月08日追記
左の写真のとおり、「山家集類題」はに近いような気がします。従って、「新訂山家集」の翻刻の時のミスという事になります。