Title 北山河 Author 新渡戸 流木 Subtitle 青岬 九〇句 平成七年 0001 寒怒涛鴎紙片のごと吹かれ 0002 ちぎれ凧ひたすら鳥になりたくて 0003 厨より海見えてゐる寒卵 0004 長き冬納屋の暗きに斧錆びて 0005 寒鯉のいつの間に向き変へてゐし 0006 舞ひ降りて鶴は雪原より白し 0007 ユーカラの雪となりたるコタンの夜 0008 降る雪や父が唄ひし子守歌 0009 木の洞に眠る蝦夷栗鼠雪すだれ 0010 運河暮れ屋根に雪積む倉庫群 0011 白鳥のこゑかうかうと凍りけり 0012 よく太る風呂場の軒の氷柱かな 0013 ゆたんぽ 少年の日の湯婆の火傷痕 0014 閧あげて奔流となる雪解川 0015 座らせてもらふ隙なき涅槃図絵 0016 大雪となりたる釧路啄木忌 0017 大粒の春星潤む山の国 0018 切株に年輪の円囀れり 0019 辛夷咲き童画のやうに馬の村 0020 水子にも見えて真赤な風車 0021 三越のライオン像に風光る 0022 連翹や川より覚めし峡の村 0023 天気図の渦がゆがんで花曇 0024 春の雲ローランサンの少女立つ 0025 たいくつな老人ばかり山笑ふ 0026 産む時の吐く息荒し孕み馬 0027 日高野につぎつぎ仔馬生まれつぐ 0028 動くものすべてが不思議仔馬の目 0029 親馬の視野の限りを仔馬跳ね 0030 血統馬ばかりの牧に五月来る 0031 日高野に陽はやはらかし親子馬 0032 野の仔馬少し縮れし尾を振りぬ 0033 花吹雪浴びて仏に逢ひにゆく 0034 どぐい 奪はれしアイヌモシリや青虎杖 0035 恍惚と流木がゆく青岬 0036 大蕗の葉を叩きくる山の雨 0037 太宰忌や遅れて着きし同人誌 0038 青日高どこの牧にも放馬群れ 0039 青牧の馬隠しつつ海霧迅し 0040 青虎杖放馬は海霧に濡れて立つ 0041 郭公に方里目覚める牧の朝 0042 身の底に怒涛響きぬ海霧岬 0043 海鳴りやはまなすの実はまだ青し 0044 書きかけの稿に崩るる壷の薔薇 0045 音なくて薔薇の崩壊知らざりき 0046 明眸も薔薇盗人となってゐし 0047 楸邨忌 師は遠くしんがりの蟻ひた走る 0048 甚平やむかし教師の独語癖 0049 あや 少年に蛇殺めたる前科あり 0050 夏館青の時代のピカソの絵 0051 はばたかぬ万の折鶴原爆忌 0052 墓山を祖霊降り来る盆月夜 0053 盆あとも墓域占めたる山鴉 0054 ジーパンの尻で磨きし青林檎 0055 向日葵は村の見張りの如く立つ 0056 草虱つけて少年バスに乗る 0057 花野にて父母と遊びしことありや 0058 浜薔薇や少女海の香持ち帰る 0059 実はまなす噛めば晩年ほろにがし 0060 実はまなす沖の落日より真っ赤 0061 晩年の余白はわずか銀河澄む 0062 犇いてさんまい谷に曼珠沙華 *「さんまい」は、若狭地方の土葬墓地 0063 媾曵や星降る丘に丹生の傘 0064 夕焼へ少年が吹くトランペット 0065 浜夕焼少年の掌に貝ひとつ 0066 波止場霧全灯点すカーフェリー 0067 天高く柵が隔てし牛と馬 0068 鰯雲日高の牧の果ては海 0069 秋の夜の黄泉の母呼ぶ絵蝋燭 0070 日高嶺の果てへなだるる天の川 0071 野仏は石のかたまり赤のまま 0072 出水後の泥乾ききる道の草 0073 秋の暮この道ゆかば誰に逢はむ 0074 碁盤目の街の黄落始まりぬ 0075 黄落の舗道昏れゆきカレーの香 0076 秋風や牧にどっしりねまる牛 0077 ときをりは木の実に打たれ石仏 0078 無人駅ばかり枯野を一輌車 0079 牧枯れて駈けることなき放ち馬 0080 骨壷に父母の棲みつく枯故郷 0081 老後とはいつからのこと花芒 0082 遠景につぎの世揺るる枯芒 0083 ふるさとは遠くにありておでん酒 0084 雪来るかあと眠るだけ石仏 0085 雪虫のいのち透きつつ舞ひはじむ 0086 しばらくは雲と遊んで山眠る 0087 地球儀に埃のたまる十二月 0088 朱を急ぐ落葉松に雪奥日高 0089 屋上のクレーンが吊るす冬日輪 0090 機織りの女房が鶴となる雪夜 Subtitle 天馬 六六句 平成八年 0091 雪嶺照り鷹が占めたる岳樺 0092 寒夕焼少年の飼ふ鳩還る 0093 鉄臭き男の軍手寒暮来る 0094 瀧凍てて音の失せたる峡の村 0095 晩学や一日多き二月果つ 0096 クリオネの切手の便り流氷去る 0097 日高嶺は雪の連なり卒業歌 0098 淡雪の若狭は常世妣在す 0099 いくつもの墓石を撫でて雪解風 0100 村捨てし青年に鷹遥かなり 0101 潮騒や芽吹き初めたる雑木山 0102 円空の仏彫る旅鳥雲に 0103 地球儀に緯度経度あり鳥帰る 0104 くれなゐの木の芽ぴちぴち雑木山 0105 膝抱いて屈葬思ふ春の山 0106 花種子を夢のかけらのごとく蒔く 0107 春草に厩舎より馬曳き出しぬ 0108 野を駈けて象形文字となる仔馬 0109 春の雷生きもの耳を二つもつ 0110 埋もれし石も仏や延齢草 0111 白き帆の船団となる水芭蕉 0112 若者にラ抜きの言葉さくらどき 0113 ワープロで打つ同人誌桜桃忌 0114 薫風に岬の少女髪ふくらむ 0115 定年のあとは嘱託かたつむり 0116 海霧冷えの港町にも住み慣れし 0117 た たんぽぽの絮シャガールの空へ翔つ 0118 短夜の湾のすみずみまで霧笛 0119 短夜を万の字眠るフロッピー 0120 麦藁帽顔小さくなってゐし 終戦前後回想 六句 0121 青田道少年倶楽部買ひに行く 0122 骨片となりて還りし海霧の村 0123 海底に艦と水兵月涼し 0124 無条件降伏の島灼けつくす 0125 蝉時雨教科書墨で塗りつぶす 0126 あやまちの創いつまでも夾竹桃 0127 夏雲のふくらみを突く岳樺 0128 地球儀に痩せし列島敗戦忌 0129 夕焼の翼広がる牧の丘 0130 夏帽子岬の風に盗られさう 0131 てんとう虫だまし騙してゐるつもり 0132 夕立は空の号泣漁夫の葬 0133 剥製の鳥飛びたがる青嵐 0134 余生とはおまけでありし未草 0135 はまなすや石に還りし風化仏 0136 七月十三日 シンザン逝く 青日高幻となり天馬駈く 0137 夏寒し畦おろおろと賢治の詩 0138 噴水に風のいたづら始まりぬ 0139 はねと 跳っ人にみちのくの闇深まりぬ 0140 白骨になるまでの刻蝉時雨 0141 昆布干し切って束ねて老いにけり 0142 花野駈け少女天使になるつもり 0143 ポプラ吹く風秋となる石狩野 0144 秋桜童女も小さき秘密持つ 0145 少年の画板に止まる赤とんぼ 0146 日高嶺の雲のかがやき草は実に 0147 十勝秋日勝の絵の馬未完 *夭折画家 神田日勝 0148 向日葵は立たされ坊主枯れ尽くす 0149 落葉松の林透けゆく枯日高 0150 穂芒に夕日撫でられつつ沈む 0151 枯山の風のこゑ聞く石仏 0152 末枯や人は老いゆく峡の村 0153 枯故郷わが一族の墓もなし 0154 いち早く山の子に舞ふ雪ばんば 0155 雪来るかどの馬の目も潤みもつ 0156 極月の嶺々尖りだす奥日高 Subtitle 雪牧 六〇句 平成九年 0157 冬籠椅子も机も脚四本 0158 凍てし鶴天翔ける夢見て眠る 0159 落下 する刻閉ぢ込めて滝凍つる 0160 雪牧に干し草を撒き馬放つ 0161 居酒屋に髭剛き漁夫結氷期 0162 寒卵つるりとムンク叫ぶ朝 0163 海側に雪の貼りつく漁夫の墓 0164 ダイヤモンドダスト少女の髪飾り 0165 舞ふ雪に野の風を聞く馬の耳 0166 多喜二忌の港坂道雪汚れ 0167 漁夫娶る沖に流氷かがやく日 0168 雪だるま解けても登校拒否続く 0169 水平に棺出されし牡丹寺 0170 鞦韆を大きく漕いで雲に乗る 0171 嫁が来る話あたたか馬の村 0172 四月馬鹿針千本を呑むつもり 0173 やはらかき風の過ぎゆく延齢草 0174 桜咲く若狭は遠し登美子の忌 0175 さくら咲きアイヌ新法成立す 0176 花曇頻尿の父あたふたと 0177 花吹雪老いゆくことのはづかしき 0178 薫風に尾を振れば馬尻割れて 0179 遠足の子ら大蕗の傘かざす 0180 叱られてゐる子の視野に蝸牛 0181 野の少女鈴蘭鳴るを聞きたるや 0182 海峡を越え来し蝶の動悸かな 0183 許されぬ恋など霧笛鳴る町で 0184 夜明けより太陽病めり海霧岬 0185 ひきがへる 楸邨のもの思ふ顔蟇 0186 噴水に吹きあげられし日一輪 0187 刈り倒す大蕗の水噴けり 0188 男来る西瓜首級のごとく抱き 0189 海霧襖岬へのバス呑まれたり 0190 さい果ての岬民宿明易し 0191 鳥のごと飛びたき日なり青嶺澄む 0192 七月の湖は女の涙壷 0193 家毎に一艘の船昆布刈れり 0194 砂灼けて昆布干場に影もなし 0195 骨壷も蝉聞いてゐる父の国 0196 精霊のこゑの行き交ふ盆の村 0197 高階に少年の飼ふ兜虫 0198 牧草の巨大なロール雲の峰 0199 新涼や朝の山脈紺深む 0200 モナリザの流し目に逢ふ秋画廊 0201 降りてすぐ花野広がる無人駅 0202 秋祭サーカスの娘を恋ひ焦がれ 0203 焙られて秋刀魚哭きだす春夫の詩 0204 九月二十五日 天馬街道開通 トンネルを抜けると十勝花芒 0205 実はまなす襟裳の風に磨かれし 0206 太首の力抜けたる枯向日葵 0207 野分晴牛の涎の光り飛ぶ 0208 枯葦を折るために吹く川の風 0209 枯枝に軟体時計掛けしダリ 0210 落日に火種貰ひしななかまど 0211 晩年の坂降りてゐる枯れの中 0212 全集の蔵書印褪せ漱石忌 0213 同輩のたれかれの訃や冬ざるる 0214 冬眠を忘れし熊の縫ひぐるみ 0215 風小僧来て雪吊りの弦鳴らす 0216 行く年の闇に灯ともす峡四五戸 Subtitle 潮風 六〇句 平成十年 0217 寒卵ころがり影と止まりけり 0218 よ 炉語りの窓を過ぎりし雪女 0219 凍魚の目海恋ふことを忘れしか 0220 地吹雪を抜け来し顔の揃ひけり 0221 恋人とスキーリフトに吊られゆく 0222 源流は吹雪下流は雪解川 0223 三月六日は、わが誕生日 啓蟄や忘れられたる地久節 0224 啓蟄の日の東京に雪降れり 0225 落葉松の芽吹き眩しき大十勝 0226 北辛夷耕馬廃れて野に見えず 0227 制服の両肩堅く入学す 0228 北上の啄木の歌碑春の雲 0229 千年の塔を見にゆく桜どき 0230 恍惚と首締められてゐて朧 0231 陽の牧に四肢投げ出して親子馬 0232 春愁のノートに丸き少女文字 0233 恐ろしきまでの群立青虎杖 0234 草原をゆく少年と捕虫網 0235 戦よあるな麦の禾直立す 0236 復讐は微笑の仮面桜桃忌 0237 油蝉しばらく油売ってゐし 0238 甚平や少し冷たき膝頭 0239 止まっては考へてまた走る蟻 0240 少年と馬暮れなづむ夏野かな 0241 国道に轢死の狐花虎杖 0242 佞武多武者這ひつくばって睨みをり 0243 木下闇鬼に隠れて子がひとり 0244 日焼けしてライダーなほも北めざす 0245 瀧となる落花寸前までの黙 0246 土蔵出て一茶も見しや蟻地獄 0247 万緑や牧の日高は馬の国 0248 瓢箪のくびれの欲しき女かな 0249 段丘に放牛ねまり風は秋 0250 新米の袋絵模様華やかに 0251 赤蜻蛉馬柵につぎつぎ来て止まる 0252 鬼やんま見つつ黒板拭き叩く 0253 馬の死を嘆く少年牧は秋 0254 天高しサラブレッドに賭けし夢 0255 秋風や売れ残りたる馬の貌 0256 秋の波砂絵の女陰消しに来る 0257 少年期より父母は亡し木の葉髪 0258 父母の世のあまり短かしちちろ鳴く 0259 日高嶺の雲掃いてゐる花芒 0260 秋すでに火の恋しくて奥日高 0261 銀杏散る大器晩成とはゆかず 0262 シシャモ 厚司着て柳葉魚の神へカムイノミ 0263 ふるさとは沙流川河口柳葉魚干す 0264 チャシコツ 砦跡にシャクシャイン像枯柏 0265 鮭溯る川にこぼれし番屋の灯 0266 短日の下校チャイムを早めたる 0267 草枯るるばかり一樹もなき岬 0268 獅子独活の枯れて震へる風岬 0269 逢髪を逆立ててゆく枯岬 0270 風に鳴る出稼ぎ村の冬木立 0271 岩壁に並び海向く冬鴎 0272 どうにでもなれと鮟鱇吊るされし 0273 煮凝りの魚眼の白き玉舐る 0274 絵本買ふ親子に聖樹点滅す 0275 雪降らす園長の役聖夜劇 0276 街の灯へ海より雪の殺到す Subtitle 寒林 六〇句 平成十一年 0277 去年今年アイヌモシリのころの闇 0278 のし餅の固さほどよくなりて切る 0279 背景にふるさとの山初写真 0280 寒北斗竪穴縄文人寡黙 0281 煮凝や襟裳の風は家揺する 0282 寒卵地球自転に疲れしか 0283 樹氷林抜けゆく少女透明に 0284 流氷群還らぬ島を繋ぎけり 0285 国引きにあらず流氷接岸す 0286 ふくらんでゐて梟の鋭き目 0287 国語のみノート縦書き卒業す 0288 卒業の先頭の子は車椅子 0289 少年と来て春牧の馬に遇ふ 0290 遠野火や「日勝の馬」半身なし 0291 馬の仔にはじめての牧日の光 0292 4Bの芯やはらかし春の雲 0293 桜咲くこの世見ゆるか壷の父母 0294 花の雲遠くチャペルのクルス見え 0295 手の甲の皺増えてゐし桜餅 0296 花の山ふっくらと闇包みけり 0297 散骨を考へてゐる花吹雪 0298 庭石に落花はりつく雨のあと 0299 天使とは羽ある少女聖五月 0300 七月の岬に赤きスポーツカー 0301 青牧に竹削ぎの耳もつ駿馬 0302 絵タイルの鯨潮噴く街薄暑 0303 大雨の中の噴水ずぶ濡れに 0304 滝壷に一流木の揉まれをり 0305 手花火や徳用函の燐寸減る 0306 白桃の種子より小さき癌育て 0307 少年期より幾たびの敗戦日 0308 炎天へポプラ大樹はみどり噴く 0309 遅れゆく一匹の蟻はげましぬ 0310 嫌はれてゐることなんぞ知らぬ蛇 0311 椅子の背に夏服を掛け夜の講座 0312 ラベンダー畑で蝶となる少女 0313 生きている限り歓喜の蝉の声 0314 遥かより父母来給ひし走馬灯 0315 来し方に瑕瑾いくつか銀河澄む 0316 白樺の幹にイニシャル彫りし秋 0317 真っ青な空より垂れし葡萄もぐ 0318 白露や牧の広がる馬の村 0319 木の実投げ眼下の湖に音もなし 0320 穂芒もマラソンの子を励ましぬ 0321 蓑虫になって少年すねてゐし 0322 くたびれし腰紐となる穴惑 0323 理髪舗の鏡の奥に銀杏散る 0324 野ざらしの捨て子はいかに翁の忌 0325 枯菊を括るや赤子抱くやうに 0326 手袋の片方どこで失ひし 0327 きらめいて魚群となりし灯の飛雪 0328 冬木立ビュッフェ鋭き線で描く 0329 幾重にも怒涛寄せくる冬岬 0330 舫ひ船寒星の綺羅ちりばめし 0331 鮟鱇の涎垂らすはかなしけれ 0332 初等科五年十二月八日朝 0333 雪夜鳴る夢の小函のオルゴール 0334 冬帽子目深晩年急がずに 0335 ひと匙の雪といふ曲ティタイム 0336 しば 原生林の樹液凍れる奥日高
あとがき
第六句集「北山河」には、平成七年から同十一年までの作品三三六句を収録した。 能村研三氏が「寒雷」(平成八年八月号)の同人年間作品評で、私の代表句をとりあげ「日高にこだわって俳句を作るというが、馬の句(略)など、雄大な北海道のすばらしさを謳歌しつつのびのびと詠んでおられる」と評された。 北海道の日高に暮らしているのだからその風土にこだわって句を作のは当然だと考える。ただ、北の風土といっても自然を表面的に甘く表現することではなく、生活者として内なる目で対象を的確に把握することでなければならない。しかし、この課題は重く厳しい。本句集には「にれ」と「寒雷」に発表した作品から自選して掲載した。 終戦直後の物資のない時代から句作を始めた者にとって、現今の豪華な句集出版にはただ驚くばかりである。俳句は誕生の昔から庶民の文芸であったはずだ。私は簡素なふだん着のままでいいのではないかと思っている。 平成十二年 初夏 新渡戸流木
略歴 新渡戸流木 (にとべ・りゅうぼく) [生年] ・昭和6年 北海道門別町富川生まれ。 [結社・協会] ・昭和21年 戦後より句作。「石楠」「樹海」「万緑」「麦」等に所属のち退会。 昭和23年 「寒雷」に所属し、のち暖響会員(同人)。 昭和30年 「緋衣」同人(-35年)、 昭和37年 「氷原帯」同人(-40年)、 昭和53年 「にれ」同人(-平成9年)。 昭和59年 現代俳句協会会員・北海道俳句協会会員。 [主な賞] ・昭和57年 第2回 「にれ」風響賞受賞。 平成6年 第27回 北海道俳句協会・正賞受賞。 平成6年 第20回 浦河町文化奨励賞受賞。 [句集] ・昭和37年 「北国」 昭和49年 「風雪」 昭和59年 「浜薔薇」 平成4年 「青日高」 平成7年 「日高見」 [出身校・職業] 福井県若狭高校・北海道学芸大学函館校。日高管内小中学校教員。 平成3年退職後、浦河町史編纂委員。
句集 北山河 平成十二年六月十日 発行 [私家版] ・著者 新渡戸流木 ・発行者 新渡戸常晴 ・発行所 057-0034 北海道浦河郡浦河町堺町西三丁目十一の三 新渡戸方 牧笛舎 ・印刷所 北海道浦河郡浦河町築地三丁目五の四 (株)サンアイ印刷
栞 -- 句集 北山河 -- 新渡戸流木 --------------- 感動無尽 諸家 ----------------------------------------- 牧笛舎 -- 北海道の日高にこだわって俳句を作るというが、 青虎杖放馬は海霧に濡れて立つ 流木 馬駆ける野はたてがみの色に枯れ 〃 等、雄大な北海道のすばらしさを謳歌しつつのびのびと詠んでおられる。 「沖」副主宰 能村研三 評 定年のあとは嘱託かたつむり 流木 定年、それは人生の終着コースという意味で、誰にとっても潜り抜けねばならぬ一大事には違いない。そして、その後の第二の出発を、「あとは嘱託」と淡々と詠いあげたところが、ベテランらしい軽妙さだが、なによりも結語「かたつむり」という季語が寔に絶妙で、この句にふさわしい。 たんぽぽの絮シャガールの空へ翔つ 流木 シャガールといえば、幻想的なパステル画や版画などで活躍したロシヤ生まれの画家。絶え間なく漂うたんぽぽの絮に、ふとシャガールの絵の世界を連想したというところに若々しさがある。 「にれ」主宰 木村敏男 評 たんぽぽの茎の短き岬道 流木 終日風の岬に咲くたんぽぽは、温暖な地のもののように、のんのんと茎を伸ばすことは出来ない。地に近く咲く野生に花に身をこごめて見入る作者も北辺の人。乾いた空気の中の新鮮な黄。句の背後に白い波頭の寄せてくる海が茫々とひろがっている。 「寒雷」同人 中島鬼谷 評 産むときの吐く息荒し孕み馬 流木 「産むとき」の苦しみが「吐く息荒し」で端的に表現されている。 親馬の視野の限りを仔馬駆く 流木 牧場の中「親馬の視野の限り」を駆ける「仔馬」の奔放な生命力の疼きがたのもしい。 血統馬ばかりの牧場五月くる 流木 「血統馬ばかり」を育てている「牧場」には、心なしかただの牧場とは異なった誇りと緊張感が「五月来る」みずみずしさの中に満ちており、馬の日高でなければ味わえない感触である。 「寒雷」選者 前田正治 評 日高嶺の雲のかがやき草は実に 流木 ここで言う「日高嶺」は日高山脈の総称であろう。日高山脈では十勝岳が著名である。秋も深まり、日高山脈には毎日白い雲がかかって日にかがやいているが、足もとの草は、はや実をつけている。「草は実に」に、季節の足どりに思いを及ぼす作者がいる。 「濱」副主宰 宮津昭彦 評 膝抱いて屈葬思ふ春の山 流木 屈葬はいうまでもなく、手足を曲げた姿勢で葬る方法。主に縄文時代にみられたということで、誰のイメージにも焼きついていよう。 ところで現代は考古学の発掘がブームで、毎年のように新しい遺跡が発掘されて世の耳目を賑わせている。この句の場合も、以前からそうした死者の埋葬に関心を持っていたのか、或いは最近の新しい現象に触発されたのかは分からぬが、ともかく遥かな古代へのロマンを想い巡らせながら、屈葬を思っているというのであろう。「膝抱いて」という措辞に続く中七「屈葬思ふ」は、素直に共感を呼ぶものがあり、「春の山」という季感にもまたふさわしいのではないか。 クリオネの切手の便り流氷去る 流木 この句のクリオネもまた、流氷の天使という観光の宣伝も効いてか大きなブームを呼んだ。このところ句会などにも使われる例が増えており、いずれ北方の季語として市民権を得るようになるかもしれない。 「にれ」主宰 木村敏男 評 止まっては考へてまた走る蟻 流木 日常に目に触れるのは働き蜂である。大地を走り廻る蟻には色々な仕種があって面白い。 楸邨先生にも「春の蟻つやつやと貌ふくさます」があり、大岡信氏も「小動物を描かせたら、日本の俳人の中、この分野で傑出している一人が楸邨である」と書いている。 人類に代って未来の地球を支配するのは、「蟻」と「鴉」ではなかろうかなどと、つい空想してしまうのである。 「寒雷」同人 能登裕峰 評 冬籠椅子も机も脚四本 流木 寒さがきびしく、雪の多い地方では、冬期は家にこもることが多くなる。作者は北海道在住だから冬籠の生活には慣れている。その慣れている眼の捉えた冬籠がこの句である。目のつけどころの面白さに感心。 「鶴」主宰 星野麦丘人 評 新米の袋絵模様華やかに 流木 新米を詰めた袋、昔は俵か麻袋、いまは違う。自慢の米の名と、地方の名所などカラー刷りの袋を使っている。一目で見て何処の米かが判る。その新米の袋が集約され華やかな絵模様が出来上っている。豊の秋らしい。 「屋根」主宰 斉藤夏風 評 牧草の巨大なロール雲の峰 流木 これは北国の長く厳しい冬を動物と共に生きる人の自然への讃歌、生命への讃歌である。「牧草」と「雲の峰」は呼応して育ちつづけている。大らかな人達の風土と生活がいきいきと活写された。 「寒雷」同人 星野歌子 評 行く年の闇に灯ともる峡四五戸 流木 俳句の「深み」は単なる「写生」ではない。その基本を生かしたのがこの作である。「闇に灯ともす」が詩的膨らみを出し「峡四五戸」が詩的写実を醸している。いわば「心の眼」で対象を「写生」している。更には「行く年」が内容を高めている。好情趣である。 「寒雷」同人 新井三七二 評 馬の仔にはじめての牧日の光り 流木 常に風土に根差した真摯な生き方の作者ならではの作。豊かな自然に恵まれた馬産地日高の清澄な空気の中に、溢れる陽光に耀い躍動する馬の仔が見える。馬の仔にとって、生を受けて「はじめての牧」であるというところに、この句の核があり、作者の、命あるもの、稚きもの、若きものへの限りない愛情の深さを思う。 「寒雷」同人 平野謹三 評
(C)Copyright 2000 Tuneharu Nitobe All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
底本:: 著名: 北山河 著者: 新渡戸 流木 発行者: 新渡戸 常晴 発行所: 牧笛舎 発行: 平成12年06月10日 入力:: 入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net) 入力日: 2000年08月23日-2000年09月17日 校正:: 校正者: 新渡戸 常晴 校正日: 2000年09月20日