Title  グリーン・カード 71  緑の札 71  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月二十八日(火曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  鬪爭 七  Description  あわてた支配人をグツとセキが にらんだ。 「お死に!!ほんとうに、あの人達 に敗かされるやうなら、死んでお 終ひ!!」  セキの命令はどこまでも冷たく 嚴しかつた。 「自決致します……」  支配人は、まるで死刑囚のやう に室内から去つた。 「ハナドさん、ところで。」  トヤマは、目の奧で嗤つた。 「かふいふ大切な機會に貴女の味 方に此の力強いわたしを加へる意 思はありませんかな?」  かういつてトヤマは興春煙のパ イプを咥へた 「トヤマ!あなたはほんとうにあ たしの味方になつて下さる方でせ うか?」 「妙なことをおつしやいますね? トヤマ・ハジメは貴女の味方にな る資格は、たしかにあるものだと は信じてをりますが……」 「ぢや、トヤマ、あなたはこの航 空會社の支配人になつては下さら ない?」 「地下街經營會社でのわたしの責 任を濟ませて下されば----。」 「トヤマ!あたしは犧牲を拂つて あなたの責任を濟まします!」  決然とセキは立ち上つて大きい 金庫の扉に手をかけた。  やがて----。  アジア銀行宛の小切手がセキの 手からトヤマの手に渡された。  〃\1200000.00〃  小切手には、おびたゞしい數字 が記刻されてゐた。元利合計の決 濟數字だ。  トヤマはその小切手を握つてゆ     チヱアー2 つたりと椅子から身を起した。 「ハナドさん、どうも有難う、こ れでわたしの地位も安全です!」 「え!?」  セキは怖ろしい權幕で飛び上つ た。 「安全だつて?誰がです?」 「わたし、トヤマ・ハジメの地下 街經營會社での地位が安全だと申 し上げてゐるのです。」      チヱアー2  トヤマは椅子から離れると又し ても興春煙のパイプを咥へて、ゆ つたりと煙を吐いた。 「あなたは----あなたはあたしを 騙したんですね。」 「騙した?ハヽヽ、そんな意味に なりますかな?しかし、騙したの が貴女で、騙されなかつたのが、わ たしといふことになりますが…。」  奮然と、セキの暴君的な冷めた い、鋭い、自我の神經が今までの 後退を馳け飛ばした。----彼女は あくまでも男性の領域に進出し、 その領城に君臨せなければ承知し ない----醜い彼女の野望の本能が 露出したのだ。 「トヤマ!覺えてゝ下さい!今に このハナド・セキはあなたの地下 街經營會社を買收して見せます。 その時には、トヤマ、あたしは存 分に----支配人としてのあなたに お禮の言葉を述べませう!」  いひ終へて、彼女はまた、奧齒 をキリと噛みしめた。 「成程----」  トヤマの鼻の先が微妙に動い た。 「地上の支配者であるといふ女王 !貴女がもしわたしの地下街經營 會社を買收するやうな日が巡り來 るものだとすれば、トヤマ・ハジ メは天を仰いで自殺します。」 「自殺する?トヤマ!その言葉を 忘れないで!」 「貴女こそお忘れのないように! そして、見苦しい自殺はなさらな いように……」  セキの手は瞬間、卓子の上に載 せられてゐたグラス・カツプをト ヤマの胸に投げつけた。  カツプはトヤマの胸でパツト割 れた。  End  Data  トツプ見出し:   御十日ぶりに   聖上還幸   浦賀水道で 飛行天覽  廣告:   毛髮若返り香油 ビタオール 定價一圓  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月二十八日(火曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月08日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc71.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $