Title  グリーン・カード 65  緑の札 65  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月十九日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  鬪爭 一  Description  太平洋上----。  渺々千里、海また海の太平洋 上。大空は眞黒な雲に包まれて、 突風は海上を噛み讀けた。  大自然の淒壯な叫び!。  さながらにそれは天魔の怒り狂 ふ姿を思はせる。  ----と。  不意に人間の巨大なキカイが現 はれた。キカイは雲と浪の自然と 自然との鬪爭のすきを巧に潛つて 東へ、東へと飛行した。  〃サクラ號!〃  キカイは太平洋航空會社の旅客 機だ。  危く征服されんとした雲と浪は 猛然としてその勢力を人間のキカ イに集中した。  サクラ號の機能はやがて、その 進退の自由さへも失して來た。波 と雲は更に鋭くサクラ號に追ひ迫 つたのだ。  しかしサクラ號は飽くまでもこ の自然の追迫と戰つた。  刹那、今までにない淒壯な大龍 卷が海上に卷き起つた。サクラ號 はうまくその龍卷から逃れた。 ----が【、】  突然!。サクラ號は火を噴きは じめた。サクラ號の機關庫が爆破 したのだ!。  中央天侯調節所----。 巨大な、異樣なキカイの前で、 人々は盛んに活動をはじめてゐ る。  室内の通報機幕には各所からの 通報が點滅する。人々はキカイと 通報機を睨めて活動を續けてゐる のだ。  不意に一人の男が、あ!と叫ん で通報機幕を指した。 「見ろ!サクラ號は危險だ!」  人々は通報機幕を見た。赤色の 最危險と、その位置を示す文字が 火華のやうに人々の眼を射た。 「太平洋航路の三十二度七分の地 點だな!」 「怖ろしい暴風雨だ!」  太平洋上に死哭する三百の生命 のために、中央天候調節所は人も キカイも總動員をは心めたのだ。  航空會社々長室----。  けたゝましい旅客機からの受聲 廣大機のべルが鳴つた。航空課長 が飛び込んで來た。旅客係長が、慌 てゝその後に續いて驅け込んだ。 「サクラ號の機關庫が爆破致しま した、これが最後の通信でござい ます……」 「……?」 「……?」  言葉もなくセキは身を慄はせて デスクを叩いた。次に起る恐ろし い問題が、三百の生命の爆破であ る!。 「航空課長!一體、誰がこの責任 を負ふのです!?」  太平洋上----。  太い火柱が空間に立つた。サク ラ號は眞一文字に墜落した。  End  Data  トツプ見出し:   海軍大演習本舞台に入る   大元帥陛下親しく   洋上に御統裁   けふ霧島に召士れ御發航  廣告:   主婦之友 十一月號 五拾錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月十九日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月04日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc65.txt,v 1.3 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $