Title  グリーン・カード 63  緑の札 63  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月十六日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  死の舞 五  Description  風車と室内のキカイが、廻轉を ぬまぐるしいまでに速めると、數 十の光線が猿の頭に集中した。 ----と。 「兄さん!」               ヽ  思ひがけないタズの聲だ!。ぎ ヽヽ よツとしてアキラはその聲を探つ た。 「兄さん!」  その眼を抑へるやうに、同じ言 葉がS・S・震動電氣放射機の片 側から聞えた。 「あ!危い!」  瞬間、アキラは叫ばずにをられ なかつた。今、その放射機からは 怖ろしい強力な殺人光線が、一つ のキカイに向つて放射されてゐる のだ。 「タ、タズ!前に進んではいけな い!そのキカイからは怖ろしい光 線が放射されてゐるのだ!一歩も 動いてはいけない!」  續けて、アキラは懸命に怒鳴つ た。タズはにつこりと笑つた。笑 つたタズの足が一歩前に進められ た。 「バ、バカ!!」  アキラの聲は空を叩いた。には かにタズの微笑を含んでゐた顏が 嚴しく冷たく光つた。 「兄さん!」  今までに、おそらくは一度も聽 いたことのないほどな人間の聲 を、アキラはその刹那に聽いた のだ。 「……?!」  アキラの唇は開かなかつた。 彼の眼は異樣にひとゝころへ注 いだ。  タズはびり!と身を慄はせた。 「記憶して下さい!兄さん!靈を 支配するものゝ力は獸の力では ありません!神!創造主!!!」  叫んだと思つた瞬間に、タズの 肢體は五六歩前にのめつて、弓な りにばつたりと倒れた。強力な殺 人光線を浴びて、彼女の冷たい、 聖らかな双頬と唇と瞳は忽ち眞    デツス・マスク3 黒な「死の面」に變じた。 「……」  アキラは失神した眼でその光景 を見た。死の跫音が、彼の耳をか すめて走つた。  暗黒の數分間が過ぎた。  キカイは一度に停止した。 「あ!」  彼の瞳は更に新しい世界を發見 したのだ。今まで屍のやうになつ てゐた猿の眼がぱつちりと輝いて    ヽヽ 四方をぢろ!と眺めてゐるではな いか!。  彼は悲慘な數分間前の光景を忘 れてしまつた。 「お!お!己れは靈を創造したの だ!!!」  彼はつか/\と猿の側に近寄つ た。猿は驚いて中心棒の上から飛 び降りた。  猿はきよとん!と彼の顏を見上 げて異樣に泣いた。  アキラはまゝたきもせず猿の動 作に見入つた。  〃猿ではない!猿ではない!人 間だ!人間の生靈だ!!〃  不意に彼の手は猿の頭に飛びつ いた。驚いて、猿は彼の手の中か ら逃げた。  その動作は、まるで人間の動作 ではないか----。  猿を追うて、アキラは實驗室を 駈けずり廻つた。  彼は漸く捕へた猿を抱へて泳ぐ やうに室内から消えた。  ×、アキラの研究室----。  猿を抱へて、アキラは研究室に 駈け込んだ。彼は何よりも永い十 年間、默して呼ばなかつた父に向 つて、この偉大な仕亊の完成の證 しを見せたかつたのだ。 「お父さま!」  アキラは掲げられた冩眞の前で 力限りに叫んだ。 「み、見て下さい!見て下さい! 僕は、僕は今こそ、貴父の子であ つた!と叫びます、お父さま!」  End  Data  トツプ見出し:   内規改正だけは   やつと意見纏まる   亊務規程の方は見込少し   第二回の樞府改革協議會  廣告:   婦女界 十一月號 本號五十錢   福助足袋のせいもん拂です。  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月十六日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月03日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc63.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $