Title  グリーン・カード 54  緑の札 54  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月四日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 七  Description  アキラは默つて横を向いた。  ヒカルはカードを手に取り上げ て、改めてシノブを見つめた。          ヽヽヽ 「御心配は御無用、あたしハナド に結婚を申込みに來たんぢやない のよ」  シノブのこの言葉はヒカルの取 り亂した態度に對する皮肉のつも りだつた。 「あら、妾のおたづねしたのは、 このカードの出どころなんです わ、まあ御見當ちがひをなさらな いやうに、ホ……」  ヒカルも負けてはゐなかつた。 「上海、南京路のあるところです わ」 「ヱツ!上海?」  それは餘りに豫期しないことだ つた、アキラもシノブもヒカルの あまりの驚きかたに却つて吃驚し てしまつた。      まつさお2  ヒカルは蒼青になつて、アキラ の顏を見つめた。 「ハナド、あなたそして何もかも 聞いて?」  アキラは瞬間ヒカルに祕密のあ ることを悟つた。 「スツカリ!」 「まあ!」     【そ?:印字不鮮明】  ヒカルは■の部屋を驅け出さう とした、アキラがしつかりとその 手を捕つた。 「ヒカル、このカードは何の必要 で君の手にあつたのだ、君は僕の 機械の祕密を盜みに來たのだ、ハ インリツヒ教授の僞手紙を持つて 來て僕を騙したのだ、君はスバイ だ」  咄嗟電銃がヒカルの手に光つ た。しかしそれは直ぐアキラの手 に取り上げられた、アキラは電銃 をヒカルの胸に擬した。  恐しい沈默が三人を支配した。  しばらく………  ヒカルの口からヒステリカルな 笑聲が漏れた。 「ホ…………」  彼女は狂氣したやうに笑つた、 呆氣に取られてシノブはこの異常 な塲面に息をはずませてゐた。           ヽヽヽ 「ハナド、あなた妾がうてる。妾 を殺すことができる? 妾が殺せ る?」  ヒカルはヂツと眼をアキラの顏 に近づけた。 「あなたに妾を殺す勇氣があつ て?」  アキラはヂツと眼を伏せた、電 銃を握つている手をパラリと下 げた。  ハツ! となつたのはシノブだ つた。 「ハナド、あなたは妾に何もかも 許してゐたんぢやないの、今度の 新しい發明も、そしてあなたの ……」  といひかけて彼女はシノブを見 て次の言葉をためらつた。 「機械の祕密はまだ許してゐな い」  かすかにアキラはいつた。 「さうよ、あれだけはまだね。け れど、あれはもう澤山よ、妾、他  ヽヽ のひとから教はるばかりよ」 「他の人?」 「ホ……、ミムラ頭取よ、あの人 も貴方のやうに、スツカリ妾に許 してしまつたのよ」 「ミムラ?」  アキラは凄い眼をしてヒカルに            ヽヽヽ つめよつた、だが直ぐにぬれたや うに光つてゐるヒカルの眼に射す くめられてしまった。 「あなた妾をスパイつていつたの ね、ヱヽさうよ、妾はある國のス パイなの、そしてスツカリ目的通 り、あなたの大切な祕密を知つて しまつたのよ」 「スパイ!」  叫んだのはアキラではなかつ た、シノブだつた。              ピストル2  シノブは咄嗟に落ちた電氣短銃 を拾つてヒカルをうつた。  End  Data  トツプ見出し:   財部海相辭職す   後任は安保大將   けふ午後一時親任式  廣告:   毛髮若返り香油 ビタオール 定價一圓   丸金醤油 大阪中座 觀劇當籖番號           一三  六六 二二三 二二四          二五○ 五一六 五七九 六三二          九三八  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月四日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月26日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc54.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $