Title  グリーン・カード 29  緑の札 29  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二日(火曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき饗宴 三  Description 「でも………」  祕密工塲へ入ることを許されな い、さう宣言されることは、助手 としての不信任を宣言されたと同 じことだつた。  ヒカルの眼には涙が光つた。次 の言葉が出なかつた。 「でも………。妾、あなたの助手 でございますわ」  やつとこれだけいつてハンカチ を眼にあてた。  しかしアキラは冷然と見かへり もしない、彼は社長に眼くばせし て扉をあけさせた。  社長につゞいて入らうとするア   【×××:三字抹消】 キラの腕を、腕にヒカルはすがり ついた。 「ハナド。あなたはどうしても妾 をなかへ入れてくれないんです か」 「仕方がありません、これは科學 者としての僕の立塲がさうさせる のです」 「ハナド、ではあなたは妾を、あ なたの助手を信任しないといふん ですね」 「ヒ力ル、氣をわるくしてはいけ ない、あなたはハインリツヒ教授 と、タキとの二人まで推薦者を持 つてゐる、僕はあなたを絶對に信 任してゐるんです」 「では、こゝへ入れてくれても良 いじやありませんか、ねヱ、ハナ ド、お願ひです、ごなきや妾、あ なたの助手として何の資格があり   【。」】 ませう」。それに引つゞいて「こ の機械を製作することになつたと きあなたは助手をいつも除けもの にするつもりなんですか?」 「特許が下りたら、喜んで詳し く説明しませう。ヒカル、この機 械だけは誰ひとり見せてゐないん です。こゝの技師だつて、恐らく 部分品だけは知つてゐても、組立 てゝ出來上つたものゝ性能は知ら ないでせう、祕密工塲といつても 部分品だけで、その組立ては更に 別室で僕が立會つてやることにな つてゐるんです」 「ぢやあ尚更こゝへ入つたつて良 いぢやありませんか、部分品を見 た位で、妾にその祕密が判ると思 つて? また判つたつて、あなた の忠實な助手がどうかすると思つ て?」  アキラは沈默した。 「ねヱ、ハナド、お願ひです、入 れて下さい、妾第一、こゝの社長 に對しても羞しいぢやありません か、ねヱ、後生です」  ヒカルは眼に一ぱい涙をためて 哀願した。 「ねヱ、ねヱ」  アキラの腕を握つて、顏を胸に あてゝ、すゝり泣いた。  アキラはヒカルを胸から離した【。】 「お入り」  ブツ切ら棒にさういひ放つて、 アキラはなかへ入つた。 「まあ! うれしい」  ヒカルもつゞいた。涙はあとか たもなかつた。  さつきから二人の入るのを侍つ てゐた工塲社長は、部分品を入れ た箱の鍵をアキラに渡した。  約二十個ばかりの箱を一々開い て、部分品の一つ一つを熱心に檢 討してゐたアキラは、ものゝ一時 間も立つてから、漸くそれを終つ た。  ヒカルもアキラについて、一つ 一つ熱心に見た。かゞやいた眼は さつきまでの女性のそれとはちが つた冷たい刄のやうな科學者の眼 だつた。 「社長、大丈夫です。これだけ揃 つてゐればあとは十日もあれば僕 が二三人の技師を相手に作つて見 せますよ。大丈夫です」  彼の聲は元氣だつた。  End  Data  トツプ見出し:   三緊急對策を提げ   愈よ政戰に乘り出す   十五日の大會までに具體案を   けふ政友聯合會で決定  廣告:   海貴來總發賣元 河合洋行  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二日(火曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月04日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月20日  $Id: gc29.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $