Title  グリーン・カード 18  緑の札 18  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月十日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle 【二つの申出 三】  二つの申出で 三  Description  ミムラ頭取を歸したアキラが、 もとの席に着くか、つかぬかに、 再びべルの音がけたゝましく鳴り ひゞいた。  今度の來訪者はアキラには珍ら しい若い女性だ。  スクリーンにそれが冩ると、ア キラは果して小首をかたげた、そ して別の呼鈴を鳴らして、たゞ一 人の老僕を呼んだ。  玄關へ出た老僕は、しばらくし て手に一通の手紙と名刺を持つて 入つて來た。  〃ミナミ・ヒカル〃  ヒカルが訪ねて來たのだ。アキ ラは名剌の裏を見た。  〃貴下の良き助手となるであら うヒカルを御紹介します       タキ・ハルキ〃  タキ博士の紹介状だ。  手紙はアキラの恩師ハインリツ ヒ教授からのものだつた。  アキラは改めて應諾のボタンを 押して、部屋の入口まで出迎へ た。  スクリーンから拔けて本當の姿 を現はしたヒカルは、何とはなし に陰氣なアキラの部屋を一時に明 るくした。それほど彼女は華やか な笑顏だつた。 「始めまして、あなたがハナドで すか、妾ヒカルです。」 「始めまして、僕ハナドです。よ うこそ」 「早速ですが、先生の御紹介状を 見て下すつて?」 「拜見しました。二つとも」 「で----いかゞでせう、妾非常な 决心と大變な希望をかけて伺つた んですが、あちらからこゝへ來る までの間、あなたのアツシスタン トになれるといふ希望と喜びに夢 中だつたんですわ」 「ありがたう、しかし私が先生に 誰か良い助手をお世話下さいと頼 んだのは、もう半年も前なんです」 「ヱツ!ぢやあもう誰か別な人 が來てゐらつしやるんですの。だ つて先生は何にも仰しやらないで 急に思出したやうなお話だつたん ですもの、でも妾大喜びで承諾し たんですわ。困りましたわねヱ。」  ヒカルは失望の色を深く表はし た、それはむしろ誇張されたほど の落膽ぶりだつた。 「イヤ待つて下さい」  アキラは制した。 「決して誰も他の人が來たわけぢ やないんです」 「アラ! ぢやまだ誰も伺つてな いんですの、では妾を使つて下さ いますわねヱ」 「ところが----もう助手は要らな いんです」 「要らない?何故ですの?」 「僕の仕亊はスツカリ完成したん です」 「完成した!」  ヒカルはガツカリしたらしかつ た。今度は本當に落膽したらしか つた。イスに腰を埋めて、しばら くは顏も上げず、默つてゐた。し かしアキラは一向氣の毒さうな氣 色を見せなかつた。 「折角ですが、さういふわけです から」歸つてくれ、といはんばか りの挨拶だつた。  ヒカルは顏を上げた。 「ねヱ、ハナド、妾べルリンから 大急ぎで驅けつけて來たのよ」  とヂツとアキラの瞳を見つめ た、アキラはちよつと不快の色を 示した。 「それであなたは僕に、女性に對 する禮儀を要求するんですか。 つまり最大の遺憾を表明するため に。どうしたら良いのですか?」 「ホヽヽヽ」 ヒカルはくづれるやうに笑つ た。  End  Data  トツプ見出し:   死都!長沙の街   慘虐の跡を觀る   全滅に近き邦人の被害   長沙にて 佐藤特派員【七日發】  廣告:   かつけ アンチベリベリン   膓内強力殺菌新藥 ワカ末   強精藥 キングオブキング  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月十日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月26日 ターミネーター3  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年07月31日  $Id: gc18.txt,v 1.7 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $