Title  グリーン・カード 08  緑の札 08  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年七月二十九日  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  若い科學者 一  Description  〃吾等は信仰と思想を失つた獸 である。吾等の信仰と健全な大和 民族の思想は醜惡な慾望に激成さ れた熔礦爐に叩き込まれて亡失し た。吾等は一枚の双紙のやうにこ の人生を訂正することが出來ない であらうか。一九八〇年の吾等の 生活樣式を訂正した科學文明の進 化! キカイは大自然の凡ゆる性 能を訂正した。だがキカイは獸と なつた人生を訂正し、吾等に健康 な信仰と思想を與へたであらうか ……?〃  これがこの物語の序詞である。 「緑の札」はこのタイトルを綴る 物語だ。     ×  いま日本の空にかゞやける星輝             ヽヽヽ として、科學文明の世界にさんら ヽ んたる存在を示してゐる若い科學 者ハナドアキラも、また大自然の あらゆる性能の訂正者として、一 役を買つてゐた。  彼は日本の産業都市オオサカに その研究所を置いてゐた。  それはあらゆる機械を産業のた めに要求する都市に最もふさはし に存在であつた。  彼は堂々たる研究所をブルヂヨ アのみの住む地上街の一角に持つ てゐた。  その昔研究者學者といへば貧乏 の代名詞のやうになつてゐたころ とはちがひ、このころは、あらゆ る科學界の革命に志す研究家は國 家の保護を受けて十分に惠まれた 生治を營むことができた。  しかし彼の研究所は國家の保護 を受けていない。  彼はこれまでに完成した二三の 發明によつて十二分の資産を貯 へ、いろ/\な施設の完備した研 究所を建てたのだつた。  研究所は地上街の中央部からだ いぶ郊外に近い公立グラスパーク の附近にあつた。  グラスパークは七つの人造光線 から化成した強大な光線を持つて ゐる人工陽灯----またの名をZ光 線と呼んでゐる----の充滿したグ ラスハウスの中に作られた昔の温 室のやうな人工公園である。  そのグラスハウスは四つに分 れ、春夏秋冬どの季節でも好むと ころへ、人々は午後の散歩を樂し むことができた。  アキラはいまいつもの通りこの 四つのグラスハウスを順々に通つ て午後の散歩を終へて出て來た。  アキラは一日の疲勞をたゞこの 散歩によつてのみ瘉やすことがで きた。そして彼はそれで滿足して ゐた。  間もなくアキラは自分の研究室 へ歸つて來た。  研究室には隅にかなり大きな變 壓機がそなへつけてあるのを筆頭 に、奇怪な形態をしたさま%\な 機械や模型類が、中央の大卓子を 中心にして一ぱいにならべられて あつた。  部屋の一隅の大卓子は作業塲と も見られる。そこには小型の電氣 モーターが備へつけられ、ラヂオ の室内アンテナ樣のものや、その ほかいろ/\な電線めいたものが 卓子の正面の壁に蜘蛛の巣のやう に複雜な感じのする部屋だ。  中央の卓子は專ら設計圖が引か れるところだ。  アキラは中央の椅子にドツかと 腰をおろして、ホツと一息ついた が、しばらくして又立上つて部屋 を出た。  End  Data  トツプ見出し:   朝鮮風水害に   三萬圓下賜   侍從を御差遺  廣告:   イマヅ 蚊取香の大懸賞   ツァイス イコン キナモ S10 定價 百九十五圓   うどんや胃膓藥 二十錢   寶塚少女歌劇 レヴユウ パリゼット 三十錢   婦人病新藥 オーレイン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年七月  日 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月16日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年7月26日  $Id: gc08.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $