Title 東海道名所圖會  Book 東海道名所圖會卷之一  Book 東海道名所圖會卷之二  Section 近江 土山  Subtitle 0216 鈴鹿山  Description 坂路八町廿七曲一名多津加美坂といふ  「拾遺」                齋宮女御 世にふれば又も越けり鈴鹿山むかしを今に成にやあるらん  「新古」                西行法師 すゞか山うきよをよそにふり捨ていかに成行我身なるらん  「風雅」                純宣朝臣 下紅葉いろ/\になるすゞか山時雨のいたくふればなるべし  Section 伊勢 四日市  Subtitle 西行菴蹟  Description 朝明川の上方二里許福の山の麓なりといふ今舊址さだかならず  「山家」  いせの西ふく山と申所に侍りけるに庭の梅芳しく匂ひけるを                西行法師 柴の庵による/\梅のにほひきてやさしきかたも有すまひかな  Subtitle 名物燒蛤  Description 東富田おぶけ兩所の茶店に火鉢を軒葉へ出し松毬にて蛤を焙り旅客 を饗す桑名の焙蛤とはこれなり  Subtitle 2273 津島渡 尾州門眞庄津島渡八雲御抄出古詠多し  Description  「秋禰覺」                西行法師 津島より棹さしくれば長江なる甲斐川過て泉野の原  Book 東海道名所圖會卷之三  Subtitle 3322 衣の浦 鳴海より辰巳の方なるべし  Description  「名寄」                西行法師 波あらふ衣のうらの袖貝をみぎはに風のたゝみ置哉  Subtitle 3336 八橋古蹟  Description 池鯉鮒より八町許東の方牛田村の松原に石標あり是より左へ入る事 七町許こゝに一堆の丘山ありて古松六七株其側に凹なる池の形の芝 生あり是むかし杜若のありし址といふ北の方に遇妻川の流ありこゝ に土橋をわたすこれは八橋をわたせし流といふ都て此邊田畑にして 八橋燕子花の俤もなしむかしは此所官道にして今も鎌倉道の名あり て道幅も廣しかの丘山に業平塚といふ石塔婆あり後人準へ立るもの ならん又業平の碑銘あり今八橋村無量寺へ移す 【中略】  「夫木」                西行法師 五月雨は原野の澤に水こゑていづく三河のぬまの八橋  Subtitle 3353 二村山  Description 和名鈔に尾張國山田郡兩村と云云契冲吐懷編に和名鈔によれば三河 にはあらぬにや但詞花集にはたしかに三河とあり按ずるに此哥は橘 能元にて詞書に武藏國より登り侍けるに三河國二村山の紅葉をみて よめるなるべしとあり一説に猿投山ともいふ又擧母里の東北にあり となん今さだかならず 【中略】  「夫木」                西行法師 三河なる二村山をわかれては此世もわれもあらじとぞおもふ  「山家」                西行法師 出ながら雲にかくるゝ月かげをかさねてまつや二むらの山 【以下略】  Subtitle 3386 高師山  Description 高志或は高石と書す遠江記云白菅より續きて北山までの間をいふ又 或云高師山は今天神祠より白須賀の邊まで續きし山をいふ海邊の眺 望旅中の奇觀なり 【中略】  「夫木」                西行法師 朝風に湊をいづる友船は高師の山の栬なりけり 【以下略】  Book 東海道名所圖會卷之四  Figure 4448-4449 佐夜中山  Description  「新古今」                西行法師 年たけて又こゆへしとおもひきやいのちなりけりさよの中山  Section 4450 遠江 日坂  Description 新坂或は西坂とも書す金屋まで壹里二十九町此所の名物に蕨餅を製 して沽なり  丙辰紀行云 此所の民わらび餅を賣る往還の者飢を救ふゆへにいにしへより新坂 のわらび餅とて其名あるものなり或は葛の粉をまじへて蒸餅とし豆 の粉を鹽に和して旅人にすゝむ人その蕨餅なりとしりて其葛餅とい ふ亊をしらず諸越に茯神を買て老芋を得たる人もありけるとかや                羅山 婆叫焦兮婦喚烘 停人鄙食在途中 憑誰救得西山餓 馬首吹來餅&M044099;風  Subtitle 4450 佐夜中山  Description 日坂の東北の方なり東海道筋荒井舞坂より東に北を兼たり故に東北 とす佐夜中山は八雲御抄にさやの中山とあり宗祇の方角抄にはたゞ 小夜の山西の麓を新坂といふとぞ宗久が都のつとといふ書にさやの 中山にもなりぬこゝをさよの中山さやの中山といふ兩説あり中納言 師長公當國の任にて下り給ひける時土民はさよの中山と申侍りける とて中古の先達などもさやうに讀れて侍る又源三位頼政はさよの長 山とぞ申ける此たび老翁に尋ね侍りしかばさやの中山と答侍りきと 云々又或ガ云夜のこゝろを讀ざるにはさやといふとかたりき按るに 此山遠江國佐野郡なりさやとさよとは五音相通なり此例まゝ多しい にしへより名高き名所にて勅撰に古詠多し 【以下略】 丙辰紀行 圓位法師がいのちなりけり佐夜の中山と詠ぜしはこゝに ての亊なり                羅山 坂道升降是早天 夢殘馬上不成眠 此山無限西行壽 能使詠歌千古傳 夜泣石 佐夜中山海道の眞中にあり 夜哭松 夜泣石の東壹町ばかり左側にあり 妊婦塚 夜泣松の傍にあり此三箇の由來を板行にして小夜新田の茶 店に賣なりこれを見るにむかし日坂に妊身の女ありて金谷の宿の夫 に通ふある夜此さよの中山に山賊出て戀慕し從ざるによりて斬殺し 衣裳を剥とり行衞なし此婦の日頃念じ奉る觀音出て僧と現じ亡婦の 腹より赤子を出しあたりの賤女に預け飴をもつて養育させ給ひけり 其子成人の後命なりけり佐夜の中山と常に口號み諸國にめぐりて終 に池田の宿にてかの盜賊の敵に出合ひ親の敵をやす/\と討しとぞ 其證詳ならず因是くはしくしるす亊なし  Subtitle 4509 久能山  Description 駿府東南三里にあり當山の開基は古人の紀行貝原益軒呉嬬記羅山子 の丙辰紀行等に見へたればこゝに略す  「山家」  久能の山寺にて月を見てよめる                西行法師 なみだのみかきくらさるゝ旅なれやさやかに見よと月はすめども  Book 東海道名所圖會卷之五  Figure 5570  Description 【略】  「新古今」               西行 風になひくふしのけふりの雲にきえてゆくゑもしらぬ我思ひかな  Figure 5654 鴫立澤 鴫立菴  Description 【略】  Subtitle 5656 鴫立澤  Description むかし西行上人東路行脚の時此ほとりの澤邊を通り給ふに折から秋 の暮の物淋しきに鴫に立去りてなほも寂寞たる風情を感じ詠給ふを 新古今に撰まれ三夕の名哥の其一首とす  「新古今」                西行法師 心なき身にもあはれはしられけり鴫立澤の秋の夕ぐれ されば鴫立澤といふ所をさしたる名所はあらざるべし後人此大磯小 磯の海濱をなぞらへいふなり井蛙抄云俊成卿千載集を撰給ふ時は西 行上人吾妻の方にありけるが勅撰ありと聞て上洛しける道にて登蓮 法師に行遇たり勅撰の亊を尋給ひければ早披露に及び師の御哥も多 く入たりと答ふ西上人云く鴫立澤の哥や入たりと問給ひければそれ は見へ侍らずと答ふ扨は見て用なしとてそ山より又東國へ取て返し 下り給ひけるとかや其後の勅撰新古今集に撰ばれ給ひしは本懷とや いふべき ○一とせ飛鳥井亞相雅章卿勅使として吾妻に下り給ふ時此所に致り 駕をとめられ鴫立澤の跡を見んとて所の者に案内させてこゝのかし このとて其かたさだかならざりしに  彌生の頃鴫立澤により侍りて                飛鳥井雅章卿 哀さは秋ならねどもしられけり鴫立澤のむかしたづねて  寶永二年秋通りける時                松平左近將監邑乘 今もなほむかしの秋を思ふぞよ鴫立澤の夕ぐれの空 【でんりふあん3】          【みちかぜ3】 ○鴫立庵 小磯の路傍にあり寶永年中俳諧師三千風此草庵を結んで 鴫立澤の古蹟をとゞむ ○西行上人像 草堂に安ず相傳ふ上人六十才の肖像にて高雄の文覺 坊鉈作りの像といふ又西行上人の杖同色紙など什物とす眞なる物と は見へず ○虎御前像 草堂に安ず十五歳の像大磯の虎といふより後人作りて こゝにをくなるべし側に東鑑の文石刻して立 ○鴫立碑 此地闕きし時三千風これを建る麗文にもあらざれども三 千風が芳志を感じてこゝに載る  銘曰 心なき 身にも哀は しられけり 鴫立澤の 秋の夕 暮とよまれしは とばのゐん ほくめんの武士 のりきよの かしらおろして つゐの身は 西へ行名の しるしにや 佛道哥道 いみじくて 見ぬ世の旅の 門いでの 命なりけり 佐夜の山 うつの山への うつゝなき 風になびきし ふじのねの けぶりとならん 身のひまを あくる箱根や こよろぎの いそげと告る 友ちどり ともねの鴫の 澤水の めいほくなれや 新古今 三の夕の 名ところを したふや時の 和哥所 あすかゐ雅章 麓を立て 折しも春の あはれさは 秋ならねども しられけり 鴫立澤の 證歌ゆへ 我もあんぎやの 笠松や 月より外は とふ人も 嵐のよする 高すなご かきならしつゝ この澤の あるじを願ふ さちありて その名高雄の もんがくの なた作りてふ みゑい堂 和哥三神や 虎心堂 猶五智尊を かいきせし 宗雪居士の はか所 吾方をこゝに 夜臺しを 謠につくり あるは又 田鳥集に 國/\の 詩哥連俳 あつめつゝ 五百年忌の たむけまで 滿願せしを 我國の いせのいさはの 友津人 施入をなして たのもしや 心なき身の 西へ行 道しるべにと 立しいしぶみ  元祿十三暦辰二月望日     東往居士三千風誌之  Book 東海道名所圖會卷之六  Subtitle 6684  【かヘりのまつ2】 西行顧松  Description 片瀬村へ行路傍にあり西行上人こゝに來り都の方顧り松枝を西の方 へ捩給ひしとて捩松ともいふ  Subtitle 6684 砥上原  Description 片瀬川の西にあり此北に八ツ松原といふ所もあり源平盛衰記に見へ たり  「西行物語」  とがみが原を過るに野原の露のひまより風にさそはれ鹿の啼聲聞  えければ                西行 柴松のくずのしげみに妻こめてとがみが原に小鹿嗚なり 【以下略】  Subtitle 6685.2 袖の浦  Description 稻村崎の海濱袖の如し故に名とす又出羽にもあり哥によつてこれを 分つ 【中略】  「山家」                西行 しきなみにひとりやねなん袖の浦さわぐ湊による船もなし  Figure 6726  Description 西行上人は 鎌倉の 將軍家に 於て三日三夜 軍法を脱れ たる其恩謝 に銀の猫の 香爐を賜ふ これを携出られ *心*界にに益 なしとて門前 の童にとらせて かへられけり阿房 の賦に県は*の 如く*は右の 如く金は塊の ごとく銀は礫の の如しと出れ しも同日の論 ならめと其* より人みな 西上人の徳を 賞しけるとぞ 聞えし  End  底本の親本::   書名:  東海道名所圖會   發行:  寛政九年   著者:  秋里籬島   畫 :  竹原春朝齋  底本::   書名:  日本図会全集 東海道名所図会 上下巻   発行日: 昭和三年   発行所: 日本随筆大成刊行社  画像データベース::   所蔵: 北海道大学 附属図書館   書名: 東海道名所図会  入力::   入力者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力機: SHARP Zaurus MI-E21   編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日: 2006年03月20日 $Id: zue_tokaido.txt,v 1.20 2020/01/06 03:45:05 saigyo Exp $