Title 紀伊國名所圖會  Book 紀伊國名所圖會卷之一  Subtitle 東屋峯  Description 櫻池の乾にあり今東屋嶽といふ葛城峯中なり 「山家集」 神無月しぐれはるれば東屋のみねにぞ月はむねとすみける  Subtitle 笠松  Description 東屋峰の邊にあり東屋明神影向の松といふ其形によりて元和年中笠 松と稱へたまふといふ  Subtitle 千草ヶ嶽  Description 東屋嶽の北にあり葛城峯中なり 「山家集」 わけてゆく色のみならず梢まで千草の嶽は心そみけり 上人の家集を按ずるに此歌并に東屋峰の歌當國の名所とする事其證 なし恐らくは誤ならん  Subtitle 粉河寺  Description 粉河村にあり補陀洛山施音寺と號す天台宗の靈塲なり西國順拜第三 札所 【中略】 「山家集」  高野のふもとあまのと申す山にすまれけりおなじ院[待賢門院]の  帥の局都の外の栖とひ申さではいかゞとてわけおはしたりけるあ  りがたくなんかへるさに粉川へまゐられけるに御山よりいであひ  たりけるをしるべせよとありければぐし申して粉川へまゐりたり  ける  Book 紀伊國名所圖會卷之二  Book 紀伊國名所圖會卷之三  Book 紀伊國名所圖會卷之四 高野山上  Subtitle 天野神社  Description 丹生四所明神と稱す高野一山の鎭守なり 【中略】 ○西行堂 本社の西南四町にあり今大に廢せり堂の前に西行が狹田といふ田あ り 西行上人墓 堂の前にあり上人は建久元年年七十三にして河内に卒 す後人此舊跡にも五輪を營みて菩提を訪へるならん 上人は藤原秀郷九世孫左衞門尉康清の子にして佐藤義清といふ[或は 憲清に作る]累世武を以て著る勇敢にして射を善くし頗韜略に通ず鳥 羽上皇に仕へて北面の士たり和歌を嗜みて玄妙にいたる上皇其才を 愛して親遇したまふ然れども素より榮利を喜ばず常に世を避くる志 あり遂に妻子を棄てゝ嵯峨に往きて僧となり名を圓位といひ又西行 と改むときに歳二十三とかや其後暫山上及此地に在りて密教を修す 故に高野の風詠最多し妻室並に娘も亦尼となりて此地に居たる事 「撰集抄」「西行物語」「發心集」等に見ゆ「山家集」に待賢門院 の中納言局小倉を捨てゝ高野のふもと天野に住みける頃同じ院の帥 の局尋ねきたる事見えたり  西行法師のりきよといひしときの妻尼となりて天野に  すまれしあとゝて今に草庵あり秋のころ                似雲 なく蟲の草にやつれていく秋かあまのに殘る露のやどりぞ 【中略】 ○地藏堂 清水村にあり此堂より山上まで六地藏とて六體ありその一なり 西行上人像 堂内に安ず坐像背に包を負へり長七寸許西行此地にす みしといふ 西行松 堂の側にあり                芭蕉 西行の草履もかゝれ松の露 衣掛櫻 堂の前にあり光嚴院法皇の御衣をかけたまへる櫻の古木の 枯れたるあとなりとて今さくらの小樹を植ゑたり                橘可折 とりかけし御衣の雫かしこみて今も涙のちる櫻かな  Book 紀伊國名所圖會卷之五 高野山  Subtitle 愛宕大權現社  Description 草創詳ならず 【中略】 「山家集」  寂然もみぢのさかりに高野に詣で出でにける  またの年のはなのをりに申しつかはしける                西行法師 もみぢせし高野の峰の花盛たのめし人のまたるゝやなど  かへし                寂照法師 ともに見し峰の紅葉のかひなれや花の折にも思ひ出でけり 【中略】 西行櫻舊跡 三昧堂の前にあり西行の愛樹なりしとぞ 「山家集」  三昧堂の方へ分け參りて秋の草ふりかはり  鈴蟲の音幽にきこえてあはれなりければ                西行上人 おもひ置きしあさちの露を分けいればたゞ纔なるすゞむしの聲  Book 紀伊國名所圖會卷之六 高野下  Description ○御供所 右にあり毎日御廟に奉獻の茶湯鈑香花悉此處より調進す故に御供所 といふ其供物善美を盡せり大黒天辨才天を以て守護神とすまた大師 自開眼加持したまふ大黒天別に有り 「山家集」  みやだてと申しけるはしたものゝとしたかくなりてさまかへ  などしてゆかりにつきてよしのにすみ侍りけりおもひかけぬ  やうなれども供養をのべんれうにとてくだものを高野の御山  へつかはしたりけるに 花と申すくだもの侍りけるを見て申  し遣しける                西行 おりびつに花のくだものつみてけりよし野の人のみやだてにして                曲* はつものゝ飛脚つきたり春のくれ ○御廟橋 御廟の正面に架せり俗みめうの橋とよぶ此橋板三十七枚は蓋金剛界 會の三十七尊に表し裏面に一々其種字を書す故に犯罪障障ある人は 是を渡る事をえず 【中略】 「山家集」  高野の奧院の橋の上にて月あかゝりければもろともにながめ  あかして西住上人京へ出でけり其夜の月忘れがたくて又お  なじ橋の月のころ西住上人の許へいひ遣しける                西行法師 ことゝなく君こひわたる橋の上にあらそふものは月の影のみ  かへし                西住上人 おもひやる心はみえで橋の上に争ひけりな月のかげのみ  End  底本::   書名:  紀伊名所圖會   発行:  天保九年   著者:  加納諸平   画 :  西村中和 他  参照::   書名:  紀伊名所図会(全四巻)   発行:  平成三年三月二十五日   発行所: 東洋書院  入力::   入力者: 新渡戸 広明(nitobe@saigyo.net)   入力機: SHARP Zaurus MI-E21   編集機: IBM ThinkPad X31 2672-CBJ   入力日: 2006年06月11日 $Id: zue_kii2.txt,v 1.6 2019/07/09 02:30:53 saigyo Exp $