Title  拾玉集 五  Description ----  信西入道が子どもは一人もあだなふは見えぬ中にも圓位上人宮川歌合定家侍從判して奥に歌よみたりけるを、上人和歌起請の後なれど、是は伊勢御神の御事思ひ企てしことの一つ名殘にあらむを非可黙止とてかくしたりければ、それは其の文を傳へ遣したりし返事に定家申したりし 八雲たつ神代久しく隔たれどなほ我が道は絶えせざりけり  立ち返り返しに申しやる 知られにき五十鈴川原に玉敷きて絶えせぬ道をみがくべしとは  その判の奥書に、久しく拾遺にて年へぬる恨みなどをほのめかしたりしに、其後三十日にだにも足らずやありけむに、程なく少將になりたれば、ひとへに御神の惠と思ひけり。上人も判を見てこの惠に必ず思ふこと叶ふべしなど語りしに詞もあらはになりにけり。上人願叶神慮かと覚ゆること多かる中に、これもあらたにこそ。 ----  文治六年二月十六日未の時圓位上人入戚臨終などまことにめでたく存生に振舞ひ思はれたりしに更にたがはず、世の末に有難き由なむ申し合ひける。其の後よみおきたりし歌ども思ひつゞけて、寂蓮入道の許へ申し傳へし 君知るや其の如月といひおきて詞におくる人の後の世 風になびくふじの煙にたぐひにし人の行方は空に知られて 千早振る神に手向くる藻鹽草かき集めつゝ見るぞ悲しき  これは願はくは花のもとにて我死なむ其のきさらぎの望月のころとよみおきて、それにたがはぬことを世にもあはれがりけり。又風に靡く富士の煙の空に消えて行方も知らぬ我が思ひかなも、此の二三の程によみたり。是ぞ我が第一の自讃歌と申しゝ事を思ふなるべし。又諸社十二巻の歌合、大神宮にまゐらせむと營みしをうけ取りて沙汰し侍りき。外宮のは一筆にかきて既に見せ申してき。内宮のは時の手書どもに書かせむとて、料紙など沙汰することを思ひてかく三首はよめるなり。 朝夕に思ひのみやる瑞垣の久しくとはぬもろ心かな 山川に沈みしことは浮びぬるをさてもなほすむ我心かな 諸共にながむべかりし此春の花も今はのころにもあるかな  返し                   寂蓮 君はよし久しく思へ瑞垣の昔とならむ身の行方まで ----  円位上人の十二巻の歌全の瀧原の下巻書きて遣すとて                    大納言實家 心ざし深きに堪へず水莖の淺くも見えぬあはれかけなむ  返し 心ざし深く染めける水莖は御裳濯川の浪にまかせつ  End  底本::   著名:  西行全集 第二巻   校訂:  久曾神 昇   発行者: 井上 了貞   発行所: ひたく書房   初版:  1981年02月16日 第 1刷発行  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: Apple Macintosh Performa 5280   入力日: 2001年03月27日  校正::   校正者:   校正日: $Id: syugyoku2.txt,v 1.4 2015/04/16 07:57:52 saigyo Exp $