Title  新古今和歌集  西行関係分抜粋  0007:0001 いはまとぢしこほりもけさはとけそめてこけのしたみづみちもとむらん  0027:0002  春哥とて ふりつみしたかねのみゆきとけにけりきよたき河の水のしらなみ  0051:0003  題しらず とめこかしむめさかりなるわがやどをうときも人はおりにこそよれ  0079:0004 よしの山さくらがえだにゆきちりて花をそげなるとしにもあるかな  0086:0005  花哥とてよみ侍ける よしの山こぞのしほりのみちかへてまだ見ぬかたの花をたづねん  0126:0006  題しらず ながむとて花にもいたくなれぬればちるわかれこそかなしかりけれ  0217:0007  題しらず きかずともこゝをせにせんほとゝぎす山田のはらのすぎのむらだち  0218:0008 郭公ふかきみねよりいでにけりと山のすそに声のおちくる  0262:0009  題しらず みちのべにしみづながるゝやなぎかげしばしとてこそたちとまりつれ  0263:0010 よられつるのもせの草のかげろひてすゞしくゝもる夕立の空  0299:0011  題しらず をしなべてものをおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風  0300:0012 あはれいかに草葉のつゆのこぼるらん秋風たちぬみやぎのゝはら  0362:0013 こゝろなき身にも哀はしられけりしぎたつさはの秋のゆふぐれ  0367:0014 おぼつかな秋はいかなるゆへのあればすゞろにものゝかなしかるらん  0448:0015 を山だのいほちかくなくしかのねにおどろかされておどろかすかな  0472:0016  題しらず きりぎりすよさむに秋のなるまゝによはるか声のとをざかりゆく  0501:0017 よこ雲の風にわかるゝしのゝめに山とびこゆるはつかりの声  0502:0018 白雲をつばさにかけてゆくかりのかど田のおものともしたふなる  0538:0019  題しらず 松にはふまさのはかづらちりにけりと山の秋は風すさぶらん  0570:0020 月をまつたかねの雲ははれにけり心あるべきはつしぐれかな  0585:0021  題しらず あきしのやと山のさとやしぐるらんいこまのたけに雲のかゝれる  0603:0022 をぐら山ふもとのさとにこの葉ちればこずゑにはるゝ月をみるかな  0625:0023 つのくにのなにはの春は夢なれやあしのかれ葉に風わたる也  0627:0024  題しらず さびしさにたへたる人の又もあれないほりならべん冬の山ざと  0691:0025  歳暮に、人につかはしける をのづからいはぬをしたふ人やあるとやすらふほどにとしのくれぬる  0697:0026  題しらず むかしおもふ庭にうき木をつみをきて見しよにもにぬとしのくれかな  0793:0027  みちのくにへまかれりける野中に、めにたつさまなるつかの侍けるを、とはせ侍ければ、これなん中将のつかと申すとこたへければ、中将とはいづれの人ぞととひ侍ければ、実方朝臣の事となん申けるに、冬の事にて、しもがれのすゝきほのぼの見えわたりて、おりふしものがなしうおぼえ侍ければ くちもせぬその名ばかりをとゞめをきてかれ野のすゝきかたみとぞみる  0831:0028  無常のこゝろを いつなげきいつおもふべきことなればのちのよしらで人のすむらん  0837:0029  人にをくれてなげきける人につかはしける なきあとのおもかげをのみ身にそへてさこそは人のこひしかるらめ  0838:0030  なげくこと侍ける人、とはずとうらみ侍ければ 哀ともこゝろにおもふほどばかりいはれぬべくはとひこそはせめ  0885:0031  みちのくにへまかりける人、餞し侍けるに 君いなば月まつとてもながめやらんあづまのかたのゆふぐれの空  0886:0032  とをき所に修行せんとていでたち侍けるに、人々わかれおしみて、よみ侍ける たのめをかん君もこゝろやなぐさむとかへらん事はいつとなくとも  0887:0033 さりともとなをあふことをたのむかなしでの山ぢをこえぬわかれは  0937:0034  題しらず 宮こにて月をあはれとおもひしはかずにもあらぬすさびなりけり  0938:0035 月見ばと契をきてしふるさとの人もやこよひ袖ぬらすらん  0978:0036  天王寺にまうで侍けるに、俄に雨ふりければ、江口にやどをかりけるに、かし侍らざりければ、よみ侍ける 世中をいとふまでこそかたからめかりのやどりをおしむ君かな  0979:0036.5  返し          遊女妙 よをいとふ人としきけばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ  0987:0037  あづまのかたにまかりけるに、よみ侍ける 年たけて又こゆべしと思きや命なりけりさやの中山  0988:0038  旅哥とて 思ひをく人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな  1099:0039 はるかなるいはのはざまにひとりゐて人めおもはで物おもはゞや  1100:0040 かずならぬ心のとがになしはてじしらせてこそは身をもうらみめ  1147:0041 なにとなくさすがにおしきいのちかなありへば人や思しるとて  1148:0042 おもひしる人ありけりのよなりせばつきせず身をばうらみざらまし  1155:0043  題しらず あふまでのいのちもがなとおもひしはくやしかりけるわが心かな  1185:0044  題しらず おもかげのわするまじきわかれかななごりを人の月にとゞめて  1193:0045 ありあけはおもひいであれやよこ雲のたゞよはれつるしのゝめのそら  1200:0046  題しらず 人はこで風のけしきもふけぬるにあはれに雁のをとづれてゆく  1205:0047  恋哥とてよめる たのめぬに君くやとまつよゐのまのふけゆかでたゞあけなましかば  1230:0048 あはれとて人の心のなさけあれなかずならぬにはよらぬなげきを  1231:0049 身をしれば人のとがとはおもはぬにうらみがほにもぬるゝ袖かな  1267:0050 月のみやうわのそらなるかたみにておもひもいでば心かよはん  1268:0051 くまもなきおりしも人を思いでゝ心と月をやつしつるかな  1269:0052 ものおもひてながむるころの月のいろにいかばかりなる哀そむらん  1297:0053 うとくなる人をなにとてうらむらんしられずしらぬおりもありしに  1298:0054 今ぞしるおもひいでよと契しはわすれんとてのなさけなりけり  1307:0055 あはれとてとふ人のなどなかるらんものおもふやどのおぎのうは風  1471:0056 世中をおもへばなべてちる花のわが身をさてもいづちかもせん  1532:0057  題しらず 月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめぐりあひぬる  1533:0058 よもすがら月こそそでにやどりけれむかしの秋をおもひいづれば  1534:0059 月のいろに心をきよくそめましや宮こをいでぬわが身なりせば\  1535:0060 すつとならばうきよをいとふしるしあらんわれみばくもれ秋のよの月  1536:0061 ふけにけるわが身のかげをおもふまにはるかに月のかたぶきにける  1562:0062  題しらず 雲かゝるとを山ばたの秋さればおもひやるだにかなしき物を  1613:0063  伊勢にまかりける時よめる すゞか山うきよをよそにふりすてゝいかになりゆくわが身なるらん  1615:0064  あづまのかたへ修行し侍けるに、ふじの山をよめる 風になびくふじのけぶりのそらにきえてゆくゑもしらぬわが思哉  1619:0065  だいしらず よしの山やがていでじとおもふ身を花ちりなばと人やまつらん  1632:0066  題しらず 山ふかくさこそ心はかよふともすまであはれをしらんものかは  1633:0067 やまかげにすまぬこゝろはいかなれやおしまれている月もあるよに  1642:0068  題しらず たれすみて哀しるらん山ざとの雨ふりすさむゆふぐれの空  1643:0069 しほりせでなを山ふかくわけいらんうきこときかぬ所ありやと  1659:0070 やまざとにうきよいとはんともゝがなくやしくすぎし昔かたらん  1660:0071 山ざとは人こさせじとおもはねどとはるゝことぞうとくなりゆく  1676:0072 ふるはたのそばのたつきにゐるはとのともよぶ声のすごきゆふぐれ  1677:0073 山がつのかたをかゝけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳  1678:0074 しげきのをいくひとむらにわけなしてさらにむかしをしのびかへさん  1679:0075 むかし見し庭のこ松にとしふりて嵐のをとをこずゑにぞきく  1682:0076 これや見しむかしすみけんあとならんよもぎがつゆに月のかゝれる  1748:0077 かずならぬ身をも心のもちがほにうかれては又かへりきにけり  1749:0078 をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは  1750:0079 とし月をいかでわが身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに  1751:0080 うけがたき人のすがたにうかびいでゝこりずやたれも又しづむべき  1780:0081 いづくにもすまれずはたゞすまであらんしばのいほりのしばしなるよに  1781:0082 月のゆく山に心をゝくりいれてやみなるあとの身をいかにせん  1808:0083 またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらばきかんとすらん  1828:0084 世をいとふ名をだにもさはとゞめをきてかずならぬ身のおもひいでにせん  1829:0085 身のうさをおもひしらでやゝみなましそむくならひのなきよなりせば  1830:0086 いかゞすべきよにあらばやはよをもすてゝあなうのよやとさらにおもはん  1831:0087 なに事にとまる心のありければさらにしも又よのいとはしき  1842:0088 なさけありしむかしのみ猶しのばれてながらへまうき世にもふるかな  1844:0089  寂蓮、人々すゝめて百首哥よませ侍けるに、いなび侍て熊野にまうでける道にて、ゆめに、なにごともおとろへゆけど、このみちこそよのすゑにかはらぬものはあれ、なをこのうたよむべきよし、別当湛快、三位俊成に申と見侍て、おどろきながらこの哥をいそぎよみいだしてつかはしけるおくにかきつけ侍ける すゑのよもこのなさけのみかはらずと見し夢なくはよそにきかまし  1877:0090  題しらず 宮ばしらしたついはねにしきたてゝつゆもくもらぬ日のみかげ哉  1878:0091 神ぢ山月さやかなるちかひありてあめのしたをばてらすなりけり  1879:0092  伊勢の月よみのやしろにまいりて、月を見てよめる さやかなるわしのたかねの雲井よりかげやはらぐる月よみのもり  1975:0092.5  西行法師をよび侍けるに、まかるべきよしは申ながらまうでこで月のあかゝりけるに、かどのまへをとおるときゝて、よみてつかはしける     待賢門院堀河 にしへゆくしるべとおもふ月かげのそらだのめこそかひなかりけれ  1976:0093  返し たちいらで雲まをわけし月かげはまたぬけしきやそらにみえけん  1978:0094  観心をよみ侍ける やみはれて心のそらにすむ月はにしの山べやちかくなるらん  承元三年六月十九日書之  同七月廿二日依重 勅定被改直之  以相伝秘本祖父卿真筆具書写校合了  正安二年黄鐘下旬右兵衛督為相  1993:0094.5  題しらず  [被出之] ねがはくは花のしたにて春しなんそのきさらぎのもち月の比  テキスト・データ::   日本語テキスト・イニシアティブURL   新古今和歌集  編集::   編集者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   編集日: 2000年11月17日  校正::   校正者:   校正日: