Title  古来風体抄 上  古來風體抄 上  Author  藤原俊成  Description  やまとうたのおこり、そのきたれることとをいかな。千はやふる神代よりはじまりて、しきしまの國のことわざとなりにけるよりこのかた、そのこゝろをのづから六義にわたり、そのこと葉萬代にくちず。かの古今集の序にいへるがごとく人の心をたねとして、よろづのことの葉となりにければ、春の花をたづね、秋のもみぢをみても、歌といふ物なからましかば、色をも香をもしる人もなく、なにをかは、もとのこゝろともすべき。この故に代々の御門もこれをすて給はず。代々のもろ人もあらそひもてあそばずといふ亊なし。よりてむかしもいまも歌の式といひ、ずいなう歌枕などいひてあるひは所の名をしるし、あるひはうたがはしき亊をあかしなどしたる物は、家々我も我もとかきをきたれば、おなじことのやうながら、あまた世にみゆるものなり。たゞこのうたの姿ことばにをきて、よしの川よしとはいかなるをいひ、なにはえのあしのあしとはいづれをわくべきぞといふことの、なか/\いみじくときのべがたく、しれる人もすくなかるべきなり。しかるにかの天台止觀と申すふみのはじめのことばに、止觀の明靜なること前代もいまだきかずと、章安大師と申人のかき給へるが、まづうちきくより、ことのふかきもかぎりなく、おくの義もをしはかられて、たうとくいみじくきこゆるやうに、このうたの、よきあしきふかきこゝろをしらむも、詞をもてのべがたきを、これによそへてぞ、おなじく思ひやらるべき亊なりける。さてかの止觀にも、まづ佛の法をつたへ給へる次第をあかして、法のみちのつたはれることを人にしらしめ給へるものなり。大覺世尊法を大迦葉につげ、迦葉、阿難につぐ。かくの如く次第につたへて、師子にいたるまで、廿三人なり。此法をつぐる次第を聞に、たうとさもおこるやうに、歌もむかしよりつたはりて、撰集といふ物もいできて、萬葉集よりはじまりて、古今・後撰・拾遺などの歌のありさまにて、ふかくこゝろをうべきなり。たゞし彼は、法文金口のふかき義なり。これは、狂言綺語のたはぶれにはにたれども、ことのふかきむねもあらはれて、これを縁として、ほとけのみちにもかよはさむため、かつは、煩惱すなはち菩提なるがゆへに、法花經には若説俗間經書略之資生業等皆順正法といひ、普賢觀には、なにものかこれつみ、なにものかこれ福、罪福無主我心自空なりととき給へり。よりていま歌のふかきみちも、空假中乃三諦ににたるによりて、かよはしてしるし申なり。歌のよきことをいはむとては、四條大納言公任卿は、金のたまのしふとなづけ、通俊卿の後拾遺の序には、こと葉ぬものゝごとくに、こゝろうみよりもふかし、など申ためれど、かならずしもにしきぬもののごとくならねじも、歌はたゞ、よみあげもし、詠じもしたるに、何となく艷にもあはれにもきこゆる亊のあるなるべし。もとより詠歌といひて、こゑにつきて、よくもあしくもきこゆるものなり。このこゝろは、年ごろも、いかで申のべむとはおもふたまへるを、心にはうごきながら、こと葉にはいだしがたく、むねにはおぼえながら、くちにはのべがたくてまかりすぎぬべかりつるを、いまあるたかきみやまに、このやまとことばのみちのかぜをもふかくしろしめせるあまりに、歌のすがたをもよろしといひ、ことばをもおかしといふ亊は、いかなるをいふべき亊ぞ。すべて歌をよむべきおもむき、あまのたくなはことながくとも、もしほ草かきのべてたてまつるべきよしおほせいだされたる亊あり。これはまことにこのみちを、つくば山のしげりわたつうみのそこまでもふかくしろしめしたるあまりに、たづねおほせらるゝことなり。よにある人は、たゞ歌は、やすくよむ亊とのみこゝろをえて、かくほどふかくたとらむとまでは思ひよらぬものなり。しかるを、このみちのふかきこゝろなどを、こと葉のはやしをわけふんで、のぞみをくむとも、かきのぶべきことば、かたかるべければ、たゞ、かみ萬葉集よりはじめて、中古・古今・後撰・拾遺、しも後拾遺よりこなたざまの歌の、ときよのうつりゆくにしたがひて、すがたもこと葉もあらたまりゆくありさまを、代々の撰集にみえたるを、はし/\しるし申べきなり。それにとりて、歌のすがたこゝろ申のべがたし、とても、ことに、佛道にかよはし、法文によせて申なすことやなをわたくしのためのこのことなどこそあらめ。きみもみそなはさんことは、むねとは、松と竹とのとしをいひ、つるとかめとのよはひなどをこそひくべけれと、そしり思ふ人もありぬべきを、身にとりて、あさぢのすゑの露もとのしづくとならむこと、あすをまつべきにあらぬを、和歌のうらの浪の音にのみ思ひをかけ、すみのえの松の色にこゝろをそめて、しほやのけぶり一かたになびき、入江のもくづさま%\にかきつめむことの、このみちのためもかへりてをろかにやとて、もしふでのあとのしばしもとゞまり、松のはのちりうせざらむほどは、をのづからあはれをもかけ、又そしらんともがらも、このみちにこゝろをいれむ人は、よろづよの春ちとせの秋ののちは、みな此やまと歌のふかき義によりて、法文の無盡なるをさとり、往生極樂のえんとむすび、普賢の願海にいりて、この詠歌のことばをかへしてほとけをほめたてまつり、法をきゝてあまねく十方の佛土に往詣し、まづは娑婆の衆生を引導せむとなり。建久ときこゆるとしの、やとせふむ月のなかのとをかごろ、草のいほりゆふかぜすぐして、こけの袖もあさ露しげきにつけて、するすみも、かつあらはれて、おいのふでの跡もいとゞみだれながら、しるしおはりぬるになむ、この集をば、いにしへよりこのかたのすがたの抄と、なづくといふことしかり。三十一字のうたのはじめは、さらに申もことふりたれど、そさのをのみことの、いづもの國にいたりて、みやづくりしたまふ時、やいろの雲のたちけるによみたまへるうた  0001: やくもたついつもやへがきつまごめにやへがきつくるそのやへがきを 【古事記上卷】 【是以其速須佐之男命。宮可造作之地。求出雲國。爾到坐須賀地而詔之。】 【吾來此地。我御心須須賀賀斯而。其地作宮坐。故其地者於今云須賀也。】 【茲大神初作須賀宮之時。自其地雲立騰。爾作御歌。其歌曰。】 【0001】 【夜久毛多都。伊豆毛夜幣賀岐。都麻碁微爾。夜幣賀岐都久流。曾能夜幣賀岐袁】 【やくもたつ/いづもやへがき/つまごみに/やへがきつくる/そのやへがきを】  あまつかむのみむまご、わたつみひめにすみかよひたまひけるを、うのはふきあはせすのみことをうみをきたてまつりて、わたつみの宮にかへりたまひけるときよみたまへる御歌  0002: おきつとりかもつくしまにわがいねしいもはわすれじよのこと%\に  かくよみたまひたりければ、とよたまひめの御返し  0003: あかたまのひかりはありと人はいへどきみがよそひしたうとくありけれ 【古事記上卷】 【雖恨其伺情不忍戀心。因治養其御子之縁附其弟玉依毘賣而。獻歌之。其歌曰。】 【0007】 【阿加陀麻波。袁佐閇比迦禮杼。斯良多麻能。岐美何余曾比斯。多布斗久阿理祁理】 【あかだまは/をさへひかれど/しらたまの/きみがよそひし/たふとくありけり】 【爾其比古遲答歌曰。】 【0008】 【意岐都登理。加毛度久斯麻迩。和賀韋泥斯。伊毛波和須禮士。余能許登碁登迩】 【おきつとり/かもどくしまに/わがゐねし/いもはわすれじ/よのことごとに】  となんありける。これらは、神代のことなるべし。人の代となりては、おほささきのみことと申けるみこにおはしましける時、おなじき御おとうと宇治わかこと申けると、くらゐをたがひにゆづりたまふとて、なにはにおはしましけるを、なをくらゐにつき給ふべきことちかくなりける時、王仁といふ人の、いぶかりおもひて、よみてたてまつりける歌  0004: なにはづにさくやこの花ふゆごもりいまははるべとさくやこの花 【国文研/古今和歌集/(別巻)/(再掲)】 【1113//】 【なにはつに/さくやこの花/冬こもり/今は春へと/さくやこの花】 【注記:仮名序中にあり、古注によると、王仁の作】  此ことは、應神天皇と申人の代となりて、神武天皇より十六代にやおはしますらむ。この應神天皇と申は、宇佐の宮八幡大菩薩におはします。その御皇子このかみをおほさゝきのみこと申、その御おとうとを宇治わかこと申けり。みかど、宇治わかをや、ことに御あいしにおはしましけん、東宮にたてまつらせ給ひにけり。そののちみかどかくれおはしましにければ、東宮くらゐにつき給ふべきを、「いかでかわれこのかみををきたてまつりてはくらゐにつかむ。おほさゝぎのみこ、はやくらゐにつきたまへ、」と申給ひけるを、又、「われはこのかみなりとも、宇治わかこをまづくらゐにとおぼしければこそ、太子にはたてまつらせたまひけめ。いかでか父の御こゝろざしをたがへたてまつらむ。宇治わかこはやくくらゐにつき給へ。」とて、われは難波におはしましにけり。又宇治わかこもうちにこもりたまひにけり。そのほどに、國々のあまどもも、みつぎ物をもちて、宇治にもてまいれば、「我は天皇にあらず。難波へもてまいれ」とおほせられければ、なにはにもてまいれば、又、「宇治へもてまいれ、」と仰られければ、こちかちもてまいるほども、なにもくちそんじければ、あまどもも、をのが物から、袖をなむぬらしけるといふことも、この御おりの亊なり。かくて三とせをへけるほどに、宇治わかこのたまはく、「われこのかみの王のこゝろざしをむばふべからず、ひさしくいきて天下をわづらはさむや」とて、わざとなるやうにてかくれ給ひにければ、おほさゝぎのみこきゝ給ひて、なにはよりいそぎおはしまして、「いかでわれをすてゝさきにはたちたまふべきぞ、いそぎいきかへり給へ」と棺にむかひてかなしみたまひければ、宇治わかこいきかへり給ひておきゐ給ひて申たまはく、「これは天命なり。かぎりあることなり。いかでかとゞまらむ」と申給ひて、又棺にふしてうせ給ひにければ、おほさゝぎのみこ素服したまひて、かなしみたまひて、うち山のうへにみさゝぎなどしたまひてけり。そののちなむ、おほさゝぎのみかど、つゐに位につきたまひてける。これを仁徳天皇と申なり。そののちたかどのにのぼりて、民の家々を御らんじつかはすに、民の家にけぶりたゝず。ちかつ國だにかゝり、ましてとをつくにぐにいかならむ。いま三年は國々のみつぎ物なたてまつりそ。御膳・御服・御殿のことたゞかくてありなむと。三年すぎて、又たかどのにのぼりて御らんずるに、民の家にみなけぶりたちけり。御らんじて、「民とめり。われすでにとみぬ」と。きさきわらひて申給はく。「とめりとはのたまへど、御膳・御服・御殿しか/\有。なに亊かとみたまへる」と。みかどのたまはく、「いまだ きかず、民とんできみまづしといふことを」と。さてよみたまへる御製なり  0005: たかき屋にのぼりてみれば煙たつ、たみのかまどはにぎはひにけり 【国文研/新古今和歌集/新古今和歌集巻第七/賀歌】 【0707/みつきものゆるされて、くにとめるを御らんして/仁徳天皇御歌】 【高きやに/のほりてみれは/煙たつ/民のかまとは/にきはひにけり】  さて民どもまいりて、「いまは三年すでにすぎぬ。みつぎ物そなへたてまつらむ」と。みかどおほせられていはく、「なをいま四年はみつぎ物なたてまつりそ。七年をすぐしてたてまつれ」と。七年すぎにければ、國々の民、老たるわかきをいはず、材木をかたにかけて、きおひまいりて、みやづくりほどなくしけりとなむ。  此御門はくらゐにおはします亊八十七年なり。すべて御年は、百二十七年なむおはしましける。みかどの第一の御いのりは、たみのうれへとゞめさせ給ふべきなりとぞ、ふみには申て侍るめる。  かつらぎのおほきみを、みちのおくへつかはしたりけるが、くにのつかさまうけなどはしたりけるを、すさまじかりけるにや、うねめなりけるものゝよみける歌  0006: あさかやま、かげさへみゆる山のゐの、あさくは人を思ふものかは 【国文研/古今和歌集/(別巻)/(異本歌)】 【1143//うねめなりける女】 【あさか山/かけさへ見ゆる/山の井の/あさくは人を/おもふものかは】  かくよみたりけるにぞ、おほぎみのこゝろもゆきにけるとぞ。聖徳太子、かたをか山をすぎ給ふ時、みちのつらに、うへ人あり。太子馬よりおりたまひて、むらさきの御そをぬぎて、うへ人に給ふとてよみ給へる御歌  0007: しなてるや、かたをか山のいひにうへてふせるたび人あはれぶべし。おやなしに、な れなりけぬやさすたけのきみはおやなしいひにうへてふせるそのたび人あはれぶべし 【国文研/拾遺和歌集/拾遺和歌集巻第二十/哀傷】 【1350/聖徳太子、高岡山辺道人の家におはしけるに、餓たる人みちのほとりにふせり、太子ののりたまへる馬とゝまりてゆかす、ふちをあけてうちたまへと、しりへしりそきてとゝまる、太子すなはち馬よりおりて、うへたる人のもとにあゆみすゝみ給て、むらさきのうへの御そをぬきて、うへ人のうへにおほひたまふ、うたをよみてのたまはく/】 【しなてるや/*かた岡山に/いゐにうへて/ふせるたひ人/あはれおやなし/*2かた岡山のイに/なれ++けめや/さす竹の/きねはやなき/いひにうへて/こやせるたひひと/あはれ++/といふ歌なり】  これは旋頭歌なるべし。  うへ人返しをたてまつる。  0008: いかるかやとみのをがはのたえばこそわがおほぎみのみ名をわすれめ 【国文研/拾遺和歌集/拾遺和歌集巻第二十/哀傷】 【1351/うへ人かしらをもたけて、御返しをたてまつる/】 【いかるかや/とみのを川の/たえはこそ/わかおほきみの/みなをわすれめ】  太子宮にかへり給ひてのち、つかひをつかはしてみせ給ひければ、うへ人すでに死去しにけり。太子かなしみ給ひて、あつくはうぶらしめ給ひつるなど、たかくつかれけるを、大臣馬子宿禰七のまうちぎみなど、そしりたてまつりていはく、「きみはたうとき亊かぎりなし。みちのほとりのうへ人は、いやしきものなり。しかるを、御馬よりおりて、かたらひ給ひ、又うたをたまふ。そのしぬるにをよびてあつくはうぶらる。」と申ければ、その人々をめして、かたをかに行て、つかをあけて見るべしと仰られければ、ゆきてあけてみるに、そのかばねなし。棺のうちはなはだかうばし。たまへりける物とはたゝみて棺のうへにをけり。たゞ太子のたてまつりし紫の御そのみぞなかりける。まうち君たちおほきにあやしみなげきて、そのよし申ければ、太子ふかく戀慕し給ひて、つねにその歌を誦したまひけり。  聖武天皇東大寺をつくり給ひて、供養あらむとての日、行基菩薩、難波の岸に出て、南天竺の波羅門僧正をむかへられける時、僧正菩提の岸につきて、たがひに手をとり、ゑみをふくみて、物がたりし給ひて、行基菩薩のよみ給ひけるうた、  0009: 靈山の釋迦のみまへにちぎりてし眞如くちせずあひみつるかな。 【国文研/拾遺和歌集/拾遺和歌集巻第二十/哀傷】 【1348/南天竺より東大寺供養にあひに、菩提かなきさにきつきたりける時よめる/】 【霊山の/釈迦のみまへに/契てし/臣如くちせす/あひみつるかな】  波羅門僧正の返し  0010: かひらゑにともにちぎりしかひありて文珠のみかほあひみつるかな 【国文研/拾遺和歌集/拾遺和歌集巻第二十/哀傷】 【返し/波羅門僧正】 【1349かひらゑに/ともに契し/かひありて/文珠のみかほ/あひ見つる哉】  又、行基菩薩まだわかくおはしける時、智光法師に論議にあひ給ひけるを、智光すこしけうまんのこゝろにや有けん。わかきかたきにあひたりとおもへけるけしきなりければ、歌をよみかけられける。  0011: まふくたが修行にいでしかたはかまわれこそぬいしそのかたはかま 【不明】  かくいはれて、二生の人にこそおはしけれと歸伏しにけり。此亊行基菩薩のさきの身に、大和の國なりける長者などいひけるは、國の大領などやうの物にやありけむ。その家のむすめのいみじくかしづきけるが、かたちなどいとおかしかりけるを、門守するをみなのありけるが、子にまふくたといふ童有けり。十七八ばかりなりけるが、その家のむすめをほのかにみて、人しれずやまひになりて、しぬべくなりにける時、はゝの女、そのよしをとひきゝて、我子いけてたまひてんやと、もらしいひ入たりければ、むすめ、「おほかたはやすかるべきやうなる亊なれど、むげにその童のまゝにては、さすがなりぬべし。さるべからむ。寺にゆきて、法師になりて、學問よくして、さえある僧になりてきたらむ時あはん」といはせたりければ、かくときゝていそぎ出たちける。「わらはのきるべかりけるはかまは、もてこ。われぬいでとらせん」といひければ、はゝの女よろこびながら、しのびてまいらせたりけるを、かたはかまをなむぬいてとらせたりける。さて、寺にゆきて、法師につきて、がくもんをよるひるしければ、二三年ばかりに、ほどなく、ことのほかの智者に、なりにけり。さて後きたりければ、こよひといひてあひたりけるほどに、此むすめ、にわかにきえいるやうにてなくなりにけり。法師あさましくかなしく覺て、やがて寺に歸て、道心ふかくおこして、いよ/\たうとくなりにけり。それなむ智光法師なりける。されどわが童名まふくたといふこと、僧のなかには、さしもしらせざりけるを、年へて、行基といふわかき智者のいできたりけるに、論義にあひたるほどに、そのむかしの名をかくいひて、我こそぬいしがそのかたはかまといひけるに思ひつゞくれば、我もと道心おこしはじめし女は、すなはち、この行基にこそおはしけれど、我身をたうとき僧になさむとて、しばしかりにかの女とうまれてみえたりけると心をうるに、いよ/\たうとくめでたくもはぢも覺けるなり。善智識は、まことに、大の因縁なる物なり。この智光は、智光頼光といひて、一雙のたうとき物なり。頼光はさきに極樂にまいりにけり。智光はその生所をみんとねがひて、のちに夢に極樂にまいりて、極樂のありさま、まんだらにかきて、智光のまんだらとて、よにつたへたる人なり。又行基菩薩菅原寺の東南院にして、おはりとりたまひける時、もろ/\の弟子どもにをしへいましめていはく、「口の虎は身をやぶる舌の劔は命をたつ、くちをしてはなのごとくにすれば、のちあやまることなし。虎はしにてかはをのこす。人はしにて名をとらむ。」とさてよみたまいける歌  0012: かりそめのやさしかる世をいまさらにものなおもひそほとけとをなれ 【国文研/続後撰和歌集/続後撰和歌集巻第十/釈教歌】 【0584/天平廿一年、いこまの山のふもとにて、をはりとり侍ける遺戒歌/大僧正行基】 【かりそめの/宿かる我そ/今更に/物なおもひそ/仏とをなれ】  又いはく  0013: のりの月ひさしくもがなとおもへどもさよふけぬらし光かくしつ 【国文研/新勅撰和歌集/新勅撰和歌集巻第十/釈教歌】 【0576/伊駒の山のふもとにて、をはりとり侍けるに/大僧正行基】 【のりの月/ひさしくもかなと/思へとも/さ夜更にけり/ひかりかくしつ】  かくよみて身心安穩にしてぞおはり給ひける。  傳教大師ひえの山を建立すとてよみ給へる歌  0014: 阿耨多羅三藐三菩提のほとけたちわがたつそまに冥加あらせ給へ 【国文研/新古今和歌集/新古今和歌集巻第二十/釈教歌】 【1923/比叡山中堂建立の時/伝教大師】 【阿耨多羅/三■三菩提の/仏たち/我立杣に/冥加あらせたまへ】  かゝれば、このくににむまれもし、きたりもする人は、權者も正者も、みな歌をよむ亊となれるなるべし。但上古のうたは、わざとすがたをかざり詞をみがかむとせざれども、代もあがり、人のこゝろもすなほにして、たゞ詞にまかせていひいだせれども、心もふかく、すがたもたかくきこゆるなるべし。又そのかみは、ことに撰集などいふ亊も、なかりけるにや。たゞ山上憶良といひける人なむ、類聚歌林といふものをあつめたりけれど、勅亊などにしもあらざりければにや、ことにかきとゞむる人もすくなくやありけん。代にもなべてつたはらず、見たる人もすくなかるべし。たゞ萬葉集のことばに、山上憶良が類聚歌林にいはくなどかきたるばかりにぞ、さる亊ありけりとみえたる。宇治の平等院の寶藏にぞあなるときくとぞ、少納言入道通憲と申し、よく物しりたりしもの、むかし鳥羽院にて物がたりのついでにかたり侍し。この憶良と申は、柿本朝臣人丸などおなじ時のものなり。すこし人丸よりは後進には有けむとぞみえて侍る。憶良も遣唐使に〔て落タルカ〕唐にわたりなどしたるものなり。その後、ならのみやこ聖武天皇の御時になむ、橘諸兄の大臣と申人、勅をうけ給はりて、萬葉集を撰られける。そのころまでは、歌のよしあしきなど、しいてえらぶことは、いともなかりけるにや。公宴の歌も、わたくしの家々の歌も、そのむしろによめるほどのうたは、かすのまゝにもいりたるやうにぞあるべき。それよりさきに、柿本朝臣人丸なむ、ことにうたのひじりにはありける。これは、つねの人にはあらざりけるにや、かの歌どもは、その時のうたのすがた心にかなへるのみにもあらず。とき代はさま%\あらたまり、人の心も歌のすがたも、おりにつけつゝうつりかはるものなれど、かの人の歌どもは、上古・中古いまのすゑの代までをかくみけるにや、むかしの世にも、すゑの代にも、みなかなひてなむみゆめる。其後延喜のひじりのみかどの御時、紀友則・紀貫之、凡河内躬恆・壬生忠峯などいふ物ども、このみちにふりかゝりけるをきこしめして、勅撰あるべしとて、古今集はえらびたてまつらしめ給ひけるなり。此集のころおひよりぞ、歌のよしあしきも、ことにえらびさだめられたれば、歌の本躰には、たゞ古今集をあふぎ信ずべき亊なり。萬葉集よりのち、古今集のえらばるゝこと、代々おほくへだゝり、とし%\かずつもりて、歌のすがた詞づかひも、ことのほかにかはれるべし。其後村上の御時、又みち/\おこさせ給けるに、歌のことをも、ことにあがめおぼしめしけるにあはせて、かみに左右の大臣にて、小野の宮のおとゞ清愼公・九條のおとゞ師輔、をのをの此道にふかくいたれる人々なるうへに、しもに又、大中臣のよしのぶ、清原元輔・源のしたがふ・坂上是則などいふものどもさヘきこえけるをめして、梨壺にさぶらはせ給ひて、撰和歌所となづけて、一條攝政伊尹は、その時藏人少將にものしけるを、その所の別當とさだめおほせられて、かつは、萬葉集をも和し講ぜられ、さらぬふる歌どもをも、しるしたてまつらしめ給ひける。さてなむ勅ありて、後撰集は撰したてまつらしめ給ひける。撰者には、猶、小野宮おとゞなむうけ給りたまへりける。萬葉集は、もとは、ひとへに眞名がなといふ物にかきたるものにて、才智あるものはよみ、文學しらぬ人、まして女などは、えよまぬ物にてぞありけるを、この御時、なしつぼの五人、かつはさだめあはせて、源順むねと才智ある物にかく和してなむ、つねのかなをばつけはじめたりける。それより後なん、いまは、女なども、見ることにはなれるなるべし。古今集の後に、撰集のえらばるゝ亊は、延喜五年より後朱雀院の御時こそをはへだてたれば、わづかに四十よねんなどやほどへて侍けん。されば、時の大臣よりはじめて、大中納言より、しもざま大納言にて、西宮のおとゞ高明公師氏の大納言・朝忠の中納言などことに歌よみおほかりけるうへ、古今集にいれる人々の、其後よめるうたもおほく、女も、いせ中務承香殿の大輔などいひても、すべて、歌よみおほかりけるゆへに、君も詩歌の道ふかくおはしまして、勅撰もかさねて有けるなるべし。こののち花山の法皇、拾遺集をえらばせ給て、古今・後撰ふたつの集にのこれるうたをひろへるよしにて、拾遺集となづけられたるなり。よりて、古今・後撰・拾遺、これを三代集と申なる。しかるを、大納言公任卿、この拾遺集を抄して拾遺抄となづけてありける。よの人これをいますこしもてあそぶほどに、拾遺集はあいなくすこしをされにけるなるべし。此拾遺集も又、後撰集の後、いくばくひさしからざれども、なを古今・後撰にもれたる歌もおほく、當時の歌よみのうたも、よき歌おほかりけるうへに、萬葉集のうた、人丸、赤人歌をもおほくいれられたれば、よきうたもまことにおほく、又すこしみだれたる亊もまじれるゆへに、抄はことによきうたのみおほく、又時よもやう/\くだりにければ、いまの世の人心にも、ことにかなふにや、ちかき代の人の歌よむ風體、おほくはたゞ拾遺抄の歌をこひねがふなるべし。其後ひさしく撰集はなくて、うたよみはおほくつもりにけるほどに、白川院の御時、勅撰のありて、通俊卿うけ給はりて、後拾遺はまた後にのこれるをひろへる集となづけられたるなり。此集どもの歌をみるに、うたの道の、すこしづゝかはりゆけるありさまは、みゆるものなり。古今の後の後撰は、いかなるにか、うたもふるきすがたをむねとし、ことばもことにふるきさまにかゝれたるが、いみじき亊なりとぞ、申つたふめる。歌の中にぞ贈答などのおほく、つゞきたる所の、すこしみだれたる所もあるなるべし。後拾遺のうたは、かみ村上の御時の、なしつぼの五人が歌をむねとして、それよりこなた、拾遺の後、ひさしく撰集なくして、世に歌よみはおほくつもりにければ、公任卿をはじめとして、長能・道なり・道のぶ・實方等の朝臣、女は、小大君・いづみ式部・むらさき式部・清少納言・赤染衞門・伊勢大輔・小式部・小辨などおほく、歌よみどもの歌つもれるころおひ撰ければ、いかによき歌おほく侍けん。されば、げにまことに、おもしくろく、ちかく物に心得たるさまのうたどもにて、おかしくはみゆるを、撰者のこのむすぢにや、ひとへにおかしき風體なりけむ。ことによき歌どもはさる亊にて、はさまの地の歌の、すこしさき%\の撰集にみあはすには、たけのたちくだりにけるなるべし。又其御時、大納言經信卿、いますこし先達なるをおきて、中納言通俊卿參議の時、勅撰をうけ給はるといへること、すこしはおぼつかなきことなり。さればにや、難後拾遺といふ物ありけりとかや。彼大納言の歌の風體は、又ことにうたのたけをこのみ、ふるきすがたをのみこのめる人とみえたれば、後拾遺の風體を、いかにさういしてみ侍けむかし。このゝち、おなじき君、位おりさせ給ひて、堀川院の御時、このみちこのませ給ひ、百首の歌人々にめす亊などありて、歌又つもりにけるのち、鳥羽院なを位おりさせ給、花見の御幸などいふ亊ありけるのち、わが御時の勅撰、後拾遺ばかりはあかずやおぼしめされけむ、かさねて撰集あるべしとてなむ、 源俊頼朝臣勅をうけ給はりて、金葉集えらばれたるなり。其後、又、崇徳院位おりさせ給ひて、後、左京のかみ顯輔卿うけ給はりてえらべる、これを詞花集と申なり。大かた撰集は、萬葉集よりはじめて、後拾遺までも、卷軸廿卷、歌のかず大都千うたあまり、つねの亊なり。拾遺抄こそ抄なれば、十卷に抄せるを、金葉詞花は、拾遺抄をそんしけるにや、二の集は十卷に撰したるなり。又後拾遺よりさきの、勅撰にはあらで、わたくしにえらべる集ども、あまたあるべし。能因法師は玄々集といひ、良暹法師はうちきゝといふ。又撰者たれともなくて、麗花集といひ、樹下集などいひて、あまたあるを、後拾遺えらぶとき、能因法師の玄々集をばなにとかありけん、のぞけるを、詞花集には、勅撰にあらねばとて、玄々集の歌をおほく入られたればにや、後拾遺の歌よりも、たけある歌どもの入て、集のたけもよくみゆるを、又いまの世の人の歌の、さまでならぬにや、ことのほかの歌どものありとぞ人申べき。又地の歌は、おほくはみな誹諧歌の體にみなされ、おかしくぞみえたるべき。歌のありさまのかはり行ほども撰者の心々も、撰集にみなみゆる亊なるべし。かくて其後又故後白川院のおほせ亊にて、老法師撰集のやうなる物つかうまつりてたてまつり侍し。千載集と申すむかしのかしこき人々に、をよぶべからぬ身にて、撰集のつらにしるし申は、きはめてかたはらいたき亊なれど、すでに勅によりてえらびたてまつりて、君又御納受ありて、蓮華王院の寶藏に、おさめられ侍にしかば、撰集のつゞきに、はばかりながら、申つらぬるものなり。おほかたはこのちかき世となりて、わたくしのうちきゝ撰集せぬものはすくなかるべし。そのおもむきは、當時のうたおほく、又をの/\がひきひきにしたがひて、歌のかずよきほどにはからひつゝぞしたるべき。それを、此千載集は、たゞわがをろかなるこゝろひとへに、よろしとみゆるをば、その人はいくらこそといふこともなくしるしつけて、侍しほどに、いみじく會釋すくなきやうにて すげなかるべき集にて侍るなり。しかあれば、今は、その亊ちからをよばぬことになむありける。おほかたうたのみち、よしあしさだむる亊は、さきにも申たるやうに、こと葉をもて申のべがたし。漢家の詩など申物は、その體かぎりありて、五言七言といひ、韻ををき、聲をさるところ/\かぎりあるうへに、上下の句を對し、あるひは、四韻六韻八韻十韻ともみなさだまれるゆへに、よしあしもあらはにみえ、又人の學問したるほどもあらはるゝ物なれば、さすがにをして人もえあなづらぬ物なり。しかるにこのやまと歌を、たゞかなの四十七字のうちよりいでゝ、五七五七七の句三十一字としりぬれば、さすがにやすきやうなるによりて、くちおしく、人にあなづらるゝかたの侍なり。中々ふかくさかひに入ぬるに、こそ、むなしき空のかぎりもなく、わだの原なみのはてもきはめもしらずば、おぼゆべきことには侍べかめれ。さていまは、歌のすがたこと葉も、おりにつけて、やう/\かはりまかること、撰集どもにみえたるを、まづ萬葉集よりはし/\申侍へし。しかるをこの集は、はじめには、四季をたて春の歌よりなどもせず、たゞ大都は時代をたてゝ、ふかきことをはじめとしたるなるべし。はじめのまきのはじめは、泊瀬朝倉の宮の御宇天皇代、大泊瀬稚武天皇の御製をぞはじめの歌とはしるしをきて侍める。これは雄略天皇と申神武天皇より二十二代にあたらせ給へるにや。されどもこの御製なるうた侍れば、これをば略して、たゞ三十一字のうたを、はし/\しるし侍るべきなり。これを、四季をたてなどなにかはとて、たゞはじめのまきよりしるしつけ侍なり。しかるを、まづ長歌短歌と云亊、もとよりあらそひあることなり。しかれども、まづこれには、萬葉集につきて長歌をば略すと申侍なり。この亊は、古今集よりうたがひの侍るなり。そのゆへは、雜體のまきに、短歌部とかきて、まさしきその歌のことばのところには、貫之が、ふる歌たてまつる時、そへてたてまつれるなるうたとかき、みつね・たゞみねが歌のところにも、おなじくそへてたてまつりける長歌とかきて侍なり。それを、崇徳院に百首の歌人々にめしゝ時、をの/\が述懷のうたは、みな短歌をよみてたてまつれと仰られ侍しかば、をの/\短歌とかきて、なが歌をたてまつり侍にき。又俊頼朝臣の口傳にも、たしかには申きらざるべし。それ清輔朝臣と申し、物の奧義とかいひて、髓腦とてかきて侍るなる物には、ひとへに、ながきを短歌とさだめかきて侍るとかや。おほかたは、かやうの亊、萬葉集をぞ證據とはすべき所に、萬葉には、すべて三十一字のうたをば、短歌反歌などかきて、いかにも長歌とはかゝず侍なり。たとへば、柿本朝臣人丸が作歌一首并短歌二首もとも、三首もとも申たるは、みな短歌といへるかずには三十一字のうたにて、ながきをば、たゞむねとの亊にて、長ともかゝず、まして短歌とかゝず、たゞ作歌一首もとも二首もともいへるは、みな長歌にて侍なり。されば、ながきをも、長歌とはかゝざれども、三十一字をみな短歌反歌とかきつれば、ながきうたがひなく、長歌とみえぬ三十一字のうたを、長歌とかける所は、ひと所もなきなり。それをば、いかゞをして三十一字を長歌とは申べき。たゞしながきをみじか歌といふ心は、こと葉のとくうつりわたるなりといへるも、さまでとくうつらぬところ/\も、ふるき歌どもには侍めり。これは、詠ずるにながくは詠ぜられず。みじかくいひきり/\詠ずるなり。又三十一字のうたは、詠ずるにながく詠ぜらるゝなり。よりて詠のこゑにつきて、短歌といひ、ながうたとも申なるべし。いかにも歌は、詠のこゑによるべき物なるがゆへなり。しかれども、萬葉集には、まさしくみじかければ、三十一字を短部といへり。しかれば、又、長をば長歌といふべしとみえたるなり。されば古今集にも、短歌部とはたてながら、ことばには、そへてたてまつる長歌とかきたれば、ふたつの説にして、亊をきるまじとおもへ侍にや。よろづのことに兩説あるつねの亊なり。しかれども、萬葉集の亊をいひながら、ひとへに、三十一字の反歌短歌をなが歌といふらんずいなうは、萬葉集をくはしくみざるににたり。又拾遺集には、とかくこととはず、長歌部とかきて、人丸がよしのの宮にたてまつれるなが歌とかけり。源したがふ・よしのぶとが贈答せるうたも、又、東三條の入道おとゞの、圓融院の御時たてまつられたる長歌など、みな侍めり。よりてなをこれには、ながきをば長歌、みじかきをば短歌反歌としるし侍めり。  0015:  藤原宮御宇天皇代  天皇御製 持統女帝 春過而夏來良之白妙能衣乾有天之香來山 春すぎて夏ぞきぬらししろたへのころもかはかすあまのかく山 【吉村研】 【#[番号]01/0028】 【#[題詞]藤原宮御宇天皇代[高天原廣野姫天皇 元年丁亥十一年譲位軽太子 <尊>号曰太上天皇] / 天皇御製歌】 【#[原文]春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山】 【#[訓読]春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山】 【#[仮名],はるすぎて,なつきたるらし,しろたへの,ころもほしたり,あめのかぐやま】 【#[左注]】 【#[校異]<> -> 尊 [元][冷][紀]】 【#[事項],雑歌,作者:持統天皇,飛鳥,季節,地名,枕詞】  0016:  過近江荒都時柿本朝臣人丸反歌  二首 樂浪之思賀乃辛崎雖幸有大宮人之船麻知兼津 さゞなみやしがのからさきさちはあれどおほみや人のふねまちかねつ 【吉村研】 【#[番号]01/0030】 【#[題詞](過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌】 【#[原文]樂浪之 思賀乃辛碕 雖幸有 大宮人之 船麻知兼津】 【#[訓読]楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ】 【#[仮名],ささなみの,しがのからさき,さきくあれど,おほみやひとの,ふねまちかねつ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂,荒都歌,大津,鎮魂,地名,滋賀】  0017: 左散難美乃志我能大和太與抒六友昔人二亦母相目八毛 さゞなみのしがのおほわだよどむともむかしの人に又もあはめやも 【吉村研】 【#[番号]01/0031】 【#[題詞]((過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌)】 【#[原文]左散難弥乃 志我能 [一云 比良乃] 大和太 與杼六友 昔人二 亦母相目八毛 [一云 将會跡母戸八]】 【#[訓読]楽浪の志賀の [一云 比良の] 大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも [一云 逢はむと思へや]】 【#[仮名],ささなみの,しがの,[ひらの],おほわだ,よどむとも,むかしのひとに,またもあはめやも,[あはむとおもへや]】 【#[左注]】 【#[校異]二 [類][古] 尓】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂,荒都歌,大津,鎮魂,地名,滋賀】  0018:  幸于伊勢國時河嶋皇子作歌或云山上臣憶良作云 白浪乃濱松之枝乃手向草幾代左右二賀年之經去良武 しら波のはま松の枝のたむけぐさにくよまでにか年のへぬらん 【吉村研】 【#[番号]01/0034】 【#[題詞]幸于紀伊國時川嶋皇子御作歌 [或云山上臣憶良作]】 【#[原文]白浪乃 濱松之枝乃 手向草 幾代左右二賀 年乃經去良武 [一云 年者經尓計武]】 【#[訓読]白波の浜松が枝の手向け草幾代までにか年の経ぬらむ [一云 年は経にけむ]】 【#[仮名],しらなみの,はままつがえの,たむけくさ,いくよまでにか,としのへぬらむ,[としはへにけむ]】 【#[左注]日本紀曰朱鳥四年庚寅秋九月天皇幸紀伊國也】 【#[校異]曰 [冷][紀][細] 云】 【#[事項],雑歌,作者:川島皇子,山上憶良,代作,紀州,和歌山,行幸,植物,地名】  0019:  幸于紀伊國時留京柿本人丸 潮左爲二五十等兒乃嶋邊榜船荷 妹乘良六鹿荒嶋廻乎      〔と〕 しほさゐにいらこのしまにこぐ舟にいものるらんかあらきしまわを 【吉村研】 【#[番号]01/0042】 【#[題詞](幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌)】 【#[原文]潮左為二 五十等兒乃嶋邊 榜船荷 妹乗良六鹿 荒嶋廻乎】 【#[訓読]潮騒に伊良虞の島辺漕ぐ舟に妹乗るらむか荒き島廻を】 【#[仮名],しほさゐに,いらごのしまへ,こぐふねに,いものるらむか,あらきしまみを】 【#[左注](右日本紀曰 朱鳥六年壬辰春三月丙寅朔戊辰浄<廣>肆廣瀬王等為留守官 於是中納言三輪朝臣高市麻呂脱其冠位E上於朝重諌曰 農作之前車駕未可以動 辛未天皇不従諌 遂幸伊勢 五月乙丑朔庚午御阿胡行宮)】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂,留京,留守,伊勢行幸,地名】  0020:  山上臣憶良在大唐時憶本郷作歌 去來子等早日本邊大伴乃御津乃濱松待戀奴良武 いざこどもはや日のもとへおほとものみつのはままつまちこひぬらん 【吉村研】 【#[番号]01/0063】 【#[題詞]山上臣憶良在大唐時憶本郷作歌】 【#[原文]去来子等 早日本邊 大伴乃 御津乃濱松 待戀奴良武】 【#[訓読]いざ子ども早く日本へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ】 【#[仮名],いざこども,はやくやまとへ,おほともの,みつのはままつ,まちこひぬらむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:山上憶良,唐,望郷,地名】  0021:  文武天皇慶雲三年丙午幸于難波宮時志貴皇子作歌 葦邊行鴨之羽我比爾霜零而寒暮夕倭之所念 あしべ行かものはがひに霜ふりてさむきゆふべにやまとしぞ思ふ 【吉村研】 【#[番号]01/0064】 【#[題詞]慶雲三年丙午幸于難波宮時 / 志貴皇子御作歌】 【#[原文]葦邊行 鴨之羽我比尓 霜零而 寒暮夕 <倭>之所念】 【#[訓読]葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ】 【#[仮名],あしへゆく,かものはがひに,しもふりて,さむきゆふへは,やまとしおもほゆ】 【#[左注]】 【#[校異]和 -> 倭 [元][冷][紀]】 【#[事項],雑歌,慶雲3年,年紀,作者:志貴皇子,難波,行幸,従駕,大阪,望郷,文武,羈旅,動物,植物,地名】  0022:  太上天皇幸于難波宮時歌 大伴の高師能濱乃松之根乎枕宿杼家之所思由 おほとものたかしのはまの松がねを枕にぬれといとへとぞおもほゆ 【吉村研】 【#[番号]01/0066】 【#[題詞]太上天皇幸于難波宮時歌】 【#[原文]大伴乃 高師能濱乃 松之根乎 枕宿杼 家之所偲由】 【#[訓読]大伴の高師の浜の松が根を枕き寝れど家し偲はゆ】 【#[仮名],おほともの,たかしのはまの,まつがねを,まくらきぬれど,いへししのはゆ】 【#[左注]右一首置始東人】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:置始東人,難波,行幸,従駕,大阪,持統,望郷,羈旅,地名,植物】  0023:  大行天皇幸吉野宮時 みよしのゝ山の下風さむけくにはたやこよひもわがひとりねん 【吉村研】 【#[番号]01/0074】 【#[題詞]大行天皇幸于吉野宮時歌】 【#[原文]見吉野乃 山下風之 寒久尓 為當也今夜毛 我獨宿牟】 【#[訓読]み吉野の山のあらしの寒けくにはたや今夜も我が独り寝む】 【#[仮名],みよしのの,やまのあらしの,さむけくに,はたやこよひも,わがひとりねむ】 【#[左注]右一首或云 天皇御製歌】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:文武,吉野,行幸,望郷,妹,異伝,地名】  0024:  和銅元年戊申  元明天皇御製 大夫之鞆の音爲奈利物部乃大臣楯立良思母 ますらをのとものねすなりものゝふのおほまうち君たてたつらしも 【吉村研】 【#[番号]01/0076】 【#[題詞]和銅元年戊申 / 天皇<御製>】 【#[原文]大夫之 鞆乃音為奈利 物部乃 大臣 楯立良思母】 【#[訓読]ますらをの鞆の音すなり物部の大臣盾立つらしも】 【#[仮名],ますらをの,とものおとすなり,もののふの,おほまへつきみ,たてたつらしも】 【#[左注]】 【#[校異]御製歌 -> 御製 [冷][紀]】 【#[事項],雑歌,和銅1年,年紀,作者:元明,和銅,儀式】  此おほむうたなどこそ、女帝の御歌に、まことにめでたくありがたくおぼえ侍れ。  0025:  和銅三年庚戌二月從藤原宮遷于寧樂宮時御輿停長屋原廻望古郷作歌  一書云太上天皇御製也 飛鳥明日香能里乎置而伊奈波君之當者不所見香聞安良武 とぶとりの、あすかの里をおきていなば君かあたりはみえずもあらむ、 【吉村研】 【#[番号]01/0078】 【#[題詞]和銅三年庚戌春二月従藤原宮遷于寧樂宮時御輿停長屋原<廻>望古郷<作歌> [一書云 太上天皇御製]】 【#[原文]飛鳥 明日香能里乎 置而伊奈婆 君之當者 不所見香聞安良武 [一云 君之當乎 不見而香毛安良牟]】 【#[訓読]飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ [一云 君があたりを見ずてかもあらむ]】 【#[仮名],とぶとりの,あすかのさとを,おきていなば,きみがあたりは,みえずかもあらむ,[きみがあたりを,みずてかもあらむ]】 【#[左注]】 【#[校異]迥 -> 廻 [元][類] / 御作歌 -> 作歌 [類][古][冷][紀]】 【#[事項],雑歌,和銅3年,年紀,作者:元明,持統,古歌,転用,遷都,望郷,恋情,枕詞,愛惜】  已上第一卷  0026:  難波高津宮御宇天皇代、仁徳天皇  磐姫皇后思天皇御作歌 四首之内 君之行氣長成奴山多都禰 迎加將行待爾可將待 君がゆきけながくなりぬやまたづねむかへかゆかんまちにかまたむ  右歌山上憶良類聚歌林載也 【吉村研】 【#[番号]02/0085】 【#[題詞]相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御作歌四首】 【#[原文]君之行 氣長成奴 山多都祢 迎加将行 <待尓>可将待】 【#[訓読]君が行き日長くなりぬ山尋ね迎へか行かむ待ちにか待たむ】 【#[仮名],きみがゆき,けながくなりぬ,やまたづね,むかへかゆかむ,まちにかまたむ】 【#[左注]右一首歌山上憶良臣類聚歌林載焉】 【#[校異]尓待 -> 待尓 [西(訂正)][紀][金][温]】 【#[事項],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌】  0027: 秋田之穗上爾霧相朝霞何時邊乃方二我戀將息 秋の田のほのうへにきりあひあさがすみいつべのかたにわがこひやまむ 【吉村研】 【#[番号]02/0088】 【#[題詞](相聞 / 難波高津宮御宇天皇代 [大鷦鷯天皇 謚曰仁徳天皇] / 磐姫皇后思天皇御作歌四首)】 【#[原文]秋田之 穂上尓霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀将息】 【#[訓読]秋の田の穂の上に霧らふ朝霞いつへの方に我が恋やまむ】 【#[仮名],あきのたの,ほのへにきらふ,あさかすみ,いつへのかたに,あがこひやまむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,仁徳天皇,作者:磐姫皇后,律令,情詩,閨房詩,大阪,伝承,仮託,恋情,女歌】  かすみは、かくあきの歌にもよみて侍なり。まことにも夏も冬も、風ふかず、しづかなるあさげには、山ぎはかすみわたりて侍るものなり。  0028:  大津皇子贈石川郎女御歌 【日】 足月木乃山之四付爾妹待跡吾立所沾山之四付二 あし引の山のしづくにいもまつとわれたちぬれぬやまのしづくに 【吉村研】 【#[番号]02/0107】 【#[題詞]大津皇子贈石川郎女御歌一首】 【#[原文]足日木乃 山之四付二 妹待跡 吾立所<沾> 山之四附二】 【#[訓読]あしひきの山のしづくに妹待つと我れ立ち濡れぬ山のしづくに】 【#[仮名],あしひきの,やまのしづくに,いもまつと,われたちぬれぬ,やまのしづくに】 【#[左注]】 【#[校異]沽 -> 沾 [金][細][京]】 【#[事項],相聞,作者:大津皇子,石川郎女,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞】  0029:  石川郎女奉和歌 吾乎待跡君之沾計武足日本能山之四付爾成益物乎 われをまつと君がぬれけん足引の山のしづくにならまし物を 【吉村研】 【#[番号]02/0108】 【#[題詞]石川郎女奉和歌一首】 【#[原文]吾乎待跡 君之<沾>計武 足日木能 山之四附二 成益物乎】 【#[訓読]我を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを】 【#[仮名],あをまつと,きみがぬれけむ,あしひきの,やまのしづくに,ならましものを】 【#[左注]】 【#[校異]沽 -> 沾 [金][細][京]】 【#[事項],相聞,作者:石川郎女,大津皇子,歌垣,掛け合い歌,歌語り,枕詞】  0030:  從吉野折取蘿生松柯遣時額田王奉入歌 三吉野乃玉松之枝波思吉聞君之御言乎持而加欲波久   【のの】 みよしのたま松のえははしきかも君がみことをもちてかよはく 【吉村研】 【#[番号]02/0113】 【#[題詞]従吉野折取蘿生松柯遣時額田王奉入歌一首】 【#[原文]三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之御言乎 持而加欲波久】 【#[訓読]み吉野の玉松が枝ははしきかも君が御言を持ちて通はく】 【#[仮名],みよしのの,たままつがえは,はしきかも,きみがみことを,もちてかよはく】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:額田王,弓削皇子,吉野,行幸,地名,植物,持統】  0031:  舍人皇子御歌   【片】 大夫哉行戀爲跡嘆友鬼乃益卜雄尚戀爾家里 ますらをやかたこひせむとなげけどもをにのますらをなをこひにけり 【吉村研】 【#[番号]02/0117】 【#[題詞]舎人皇子御歌一首】 【#[原文]大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里】 【#[訓読]ますらをや片恋せむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり】 【#[仮名],ますらをや,かたこひせむと,なげけども,しこのますらを,なほこひにけり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:舎人皇子,大夫,恋愛】  0032:  柿本朝臣人丸從石見國別妻上來時歌長歌等之内反歌 石見乃之高角山之木際從我振袖乎妹見都良武香 いはみのやたかつの山の木のまよりわがふる袖をいもみつらんか 【吉村研】 【#[番号]02/0132】 【#[題詞](柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌])反歌二首】 【#[原文]石見乃也 高角山之 木際従 我振袖乎 妹見都良武香】 【#[訓読]石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか】 【#[仮名],いはみのや,たかつのやまの,このまより,わがふるそでを,いもみつらむか】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:柿本人麻呂,依羅娘子,離別,石見相聞歌,上京,地方官,島根,地名,悲別】  0033:  後岡本宮御宇天皇代有間皇子自傷結松枝歌 磐白之濱松之枝乎引結眞幸有者亦還見武 いはしろのはま松の枝を引むすびまさきくあらば又かへりこん 【吉村研】 【#[番号]02/0141】 【#[題詞]挽歌 / 後岡本宮御宇天皇代 [天豊財重日足姫天皇譲位後即後岡本宮] / 有間皇子自傷結松枝歌二首】 【#[原文]磐白乃 濱松之枝乎 引結 真幸有者 亦還見武】 【#[訓読]磐白の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた帰り見む】 【#[仮名],いはしろの,はままつがえを,ひきむすび,まさきくあらば,またかへりみむ】 【#[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<准>擬歌意 故以載于挽歌類焉)】 【#[校異]】 【#[事項],挽歌,作者:有間皇子,結び松,自傷,歌語り,謀反,羈旅,鎮魂,和歌山,地名】  0034: 家有者笥爾盛飯乎草枕旅爾之有者椎之葉爾盛 いへにあればけにもるいひを草枕旅にしあればしゐのはにもる 【吉村研】 【#[番号]02/0142】 【#[題詞](有間皇子自傷結松枝歌二首)】 【#[原文]家有者 笥尓盛飯乎 草枕 旅尓之有者 椎之葉尓盛】 【#[訓読]家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る】 【#[仮名],いへにあれば,けにもるいひを,くさまくら,たびにしあれば,しひのはにもる】 【#[左注](右件歌等雖不挽柩之時所作<准>擬歌意 故以載于挽歌類焉)】 【#[校異]】 【#[事項],挽歌,作者:有間皇子,手向け,羈旅,鎮魂,和歌山,地名】  飯などいふ亊は、此ころの人は、うち/\にはしりたれど、歌などによむべくもあらねど、むかしの人は、心のけはれなくて、かくよみけるなるべし。此歌、うたざまは、いみじくをかしき歌也。  0035:  大寶元年辛丑幸于紀伊國時見結松歌 後將見跡君之結有磐代乃松之宇禮乎又將見香聞 後みんと君がむすべるいはしろの松がうれをまたもみんかも 【吉村研】 【#[番号]02/0146】 【#[題詞]大寶元年辛丑幸于紀伊國時<見>結松歌一首 [柿本朝臣人麻呂歌集中出也]】 【#[原文]後将見跡 君之結有 磐代乃 子松之宇礼乎 又将見香聞】 【#[訓読]後見むと君が結べる磐代の小松がうれをまたも見むかも】 【#[仮名],のちみむと,きみがむすべる,いはしろの,こまつがうれを,またもみむかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],挽歌,柿本人麻呂歌集,結び松,和歌山,地名,植物】  已上第二卷  0036:  柿本朝臣人丸從近江國上來時至宇治川邊作歌 物部能八十氏河乃阿白木爾不知代經浪乃去邊白不母 ものゝふのやそうぢ川のあじろぎにいざよふ浪のよるべしらずも 【吉村研】 【#[番号]03/0264】 【#[題詞]柿本朝臣人麻呂従近江國上来時至宇治河邊作歌一首】 【#[原文]物乃部能 八十氏河乃 阿白木尓 不知代經浪乃 去邊白不母】 【#[訓読]もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも】 【#[仮名],もののふの,やそうぢかはの,あじろきに,いさよふなみの,ゆくへしらずも】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,不安,宇治,京都,地名,枕詞】  0037: 淡海乃海夕浪千鳥汝鳴者情毛思努爾古所念 あふみの海ゆふ波千どりながなけば心もしのにいにしへおもほゆ 【吉村研】 【#[番号]03/0266】 【#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌一首】 【#[原文]淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思<努>尓 古所念】 【#[訓読]近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ】 【#[仮名],あふみのうみ,ゆふなみちどり,ながなけば,こころもしのに,いにしへおもほゆ】 【#[左注]】 【#[校異]奴 -> 努 [西(補入)][類][紀]】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,懐古,荒都歌,鎮魂,滋賀,地名,動物】  しのにといふことばは、むかしの歌には、つねにかくよみて侍なり。  0038:  長屋王〓(馬十至)馬寧樂山作歌 佐保過而寧樂乃手祭爾置幣者妹乎目不離相見染跡衣 さほすぎてならのたむけにをくぬさはいもをめかれずあひみしめとぞ 【吉村研】 【#[番号]03/0300】 【#[題詞]長屋王駐馬寧樂山作歌二首】 【#[原文]佐保過而 寧樂乃手祭尓 置幣者 妹乎目不離 相見染跡衣】 【#[訓読]佐保過ぎて奈良の手向けに置く幣は妹を目離れず相見しめとぞ】 【#[仮名],さほすぎて,ならのたむけに,おくぬさは,いもをめかれず,あひみしめとぞ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:長屋王,羈旅,手向け,奈良,望郷,地名】  0039: いはかねのこりしく5 磐金之凝敷山乎こえかねてなきはなくとも色にいでんやも 【吉村研】 【#[番号]03/0301】 【#[題詞](長屋王駐馬寧樂山作歌二首)】 【#[原文]磐金之 凝敷山乎 超不勝而 哭者泣友 色尓将出八方】 【#[訓読]岩が根のこごしき山を越えかねて音には泣くとも色に出でめやも】 【#[仮名],いはがねの,こごしきやまを,こえかねて,ねにはなくとも,いろにいでめやも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:長屋王,羈旅,望郷,奈良,地名】  0040:  大宰帥大伴卿讚酒歌 十三首之内 さけの名をひじりと思ひし、いにしヘのおほきひじりのことのよろしさ 【吉村研】 【#[番号]03/0339】 【#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)】 【#[原文]酒名乎 聖跡負師 古昔 大聖之 言乃宜左】 【#[訓読]酒の名を聖と負ほせしいにしへの大き聖の言の宣しさ】 【#[仮名],さけのなを,ひじりとおほせし,いにしへの,おほきひじりの,ことのよろしさ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名】  0041: なか/\に人とあらずはさかつぼになりみてしがもさけにしみなん 【吉村研】 【#[番号]03/0343】 【#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)】 【#[原文]中々尓 人跡不有者 酒壷二 成而師鴨 酒二染甞】 【#[訓読]なかなかに人とあらずは酒壷になりにてしかも酒に染みなむ】 【#[仮名],なかなかに,ひととあらずは,さかつぼに,なりにてしかも,さけにしみなむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名】  0042: たゞにゐてかたらひするはさけのみてゑひなきするになをしかずけり 【吉村研】 【#[番号]03/0350】 【#[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)】 【#[原文]黙然居而 賢良為者 飲酒而 酔泣為尓 尚不如来】 【#[訓読]黙居りて賢しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほしかずけり】 【#[仮名],もだをりて,さかしらするは,さけのみて,ゑひなきするに,なほしかずけり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:大伴旅人,讃酒,太宰府,奈良,福岡,地名】  さけなども、このごろの人も、うち/\には、ことのほかにゑひにのうむなれど、大饗などのはれには、まねばかりなるを、はやくは、はれにも、おかしきことになむしける。さればこの人も、かくほめてよみけるなるべし。  0043:  沙彌滿誓歌 世間乎何物爾將譬且開〓(才+旁)去船之跡无如 【吉村研】 【#[番号]03/0351】 【#[題詞]沙弥満誓歌一首】 【#[原文]世間乎 何物尓将譬 <旦>開 榜去師船之 跡無如】 【#[訓読]世間を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし】 【#[仮名],よのなかを,なににたとへむ,あさびらき,こぎいにしふねの,あとなきごとし】 【#[左注]】 【#[校異]且 -> 旦 [古][紀][矢]】 【#[事項],雑歌,作者:沙弥満誓,無常,太宰府,福岡,地名】  已上第三卷  0044:  相聞  崗本天皇御製  長歌等之内  反歌 山羽爾味村驂去奈禮騰吾者左夫思惠君二思不在者 やまのはにあらむらこまはすぐれども我はさむしゑ君にしあらねば 【吉村研】 【#[番号]04/0486】 【#[題詞](<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌】 【#[原文]山羽尓 味村驂 去奈礼騰 吾者左夫思恵 君二四不<在>者】 【#[訓読]山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば】 【#[仮名],やまのはに,あぢむらさわき,ゆくなれど,われはさぶしゑ,きみにしあらねば】 【#[左注](右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 存 -> 在 [西(右書)][元][類]】 【#[事項],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,挽歌発想】  0045: 淡海路乃鳥籠之山有不知哉川氣乃己呂其侶波戀乍裳將有 あふみぢのとこの山なるいざや川けのころ%\はこひつゝもあらむ 【吉村研】 【#[番号]04/0487】 【#[題詞]((<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌)】 【#[原文]淡海路乃 鳥篭之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有】 【#[訓読]近江道の鳥篭の山なる不知哉川日のころごろは恋ひつつもあらむ】 【#[仮名],あふみちの,とこのやまなる,いさやかは,けのころごろは,こひつつもあらむ】 【#[左注]右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指】 【#[校異]岳 -> 崗 [元][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀]】 【#[事項],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,序詞】  0046:  柿本朝臣人丸歌 三首之内 未通女等之袖振山乃水垣之久時從憶寸吾者 【吉村研】 【#[番号]04/0501】 【#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌三首】 【#[原文]未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者】 【#[訓読]娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは】 【#[仮名],をとめらが,そでふるやまの,みづかきの,ひさしきときゆ,おもひきわれは】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],相聞,作者:柿本人麻呂,歌垣,枕詞,序詞】  0047: 夏野去小壮鹿之角乃束間毛妹之心乎忘而念哉 なつのゆくをじかのつののつかのまもいもの心をわすれておもへや 【吉村研】 【#[番号]04/0502】 【#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌三首)】 【#[原文]夏野去 小<壮>鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉】 【#[訓読]夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや】 【#[仮名],なつのゆく,をしかのつのの,つかのまも,いもがこころを,わすれておもへや】 【#[左注]】 【#[校異]牡 -> 壯 [金][紀]】 【#[事項],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,動物,序詞】  0048:  大納言兼大將軍大伴卿歌 神樹爾毛手者觸云乎打細丹人妻跡云者不觸物可波 さかきにも手はふるといふをうつたへにひとづまといへばふれぬ物かは 【吉村研】 【#[番号]04/0517】 【#[題詞]大納言兼大将軍大伴卿歌一首】 【#[原文]神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞】 【#[訓読]神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも】 【#[仮名],かむきにも,てはふるといふを,うつたへに,ひとづまといへば,ふれぬものかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:大伴安麻呂,人妻】  0049:  藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌 庭立麻手苅干布慕東女乎忘賜名 庭にたつあさてかりほししきしのぶあづまをんなをわすれ給ふな 【吉村研】 【#[番号]04/0521】 【#[題詞]藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌一首】 【#[原文]庭立 麻手苅干 布<暴> 東女乎 忘賜名】 【#[訓読]庭に立つ麻手刈り干し布曝す東女を忘れたまふな】 【#[仮名],にはにたつ,あさでかりほし,ぬのさらす,あづまをみなを,わすれたまふな】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 慕 -> 暴 [元]】 【#[事項],相聞,作者:常陸娘子,藤原宇合,餞別,植物】  0050:  大伴郎女歌之内 狹穗河乃小石踐渡夜干玉之黒馬之來夜者年爾母有糠 さほ川のさゞれふみわたりむば玉のこまのくるよはとしにもあるか  右郎女者佐保大納言卿之女也初嫁一品穗積皇子被寵而皇子薨之後者原麿大夫娉之 【吉村研】 【#[番号]04/0525】 【#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首】 【#[原文]狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳】 【#[訓読]佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか】 【#[仮名],さほがはの,こいしふみわたり,ぬばたまの,くろまくるよは,としにもあらぬか】 【#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,恋情,贈答,地名,奈良,動物,枕詞】  0051:  大宰大監大伴宿禰百代戀歌之内    【後】 孤悲死牟時者何爲牟生日之爲社妹乎欲見爲禮 こひしなむ後はなにせむいける日のためこそいもをみまほしみすれ 【吉村研】 【#[番号]04/0560】 【#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)】 【#[原文]孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼】 【#[訓読]恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ】 【#[仮名],こひしなむ,のちはなにせむ,いけるひの,ためこそいもを,みまくほりすれ】 【#[左注]】 【#[校異]後 [元][桂][紀] 時】 【#[事項],相聞,作者:大伴百代,恋情】  0052:  笠女郎賜大伴宿禰家持歌 廿四首之内 やをか行はまのまさごもわが戀にあにまさらめやおきつしまもり 【吉村研】 【#[番号]04/0596】 【#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)】 【#[原文]八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守】 【#[訓読]八百日行く浜の真砂も我が恋にあにまさらじか沖つ島守】 【#[仮名],やほかゆく,はまのまなごも,あがこひに,あにまさらじか,おきつしまもり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答,掛詞】  0053: みな人をねよとのかねはうつなれどきみをし思へばいねがてにかも 【吉村研】 【#[番号]04/0607】 【#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)】 【#[原文]皆人乎 宿与殿金者 打礼杼 君乎之念者 寐不勝鴨】 【#[訓読]皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも】 【#[仮名],みなひとを,ねよとのかねは,うつなれど,きみをしおもへば,いねかてぬかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恋情,贈答】  0054: あひおもはぬ人を思ふはおほでらの餓鬼のしりゑにぬかづくがごと 【吉村研】 【#[番号]04/0608】 【#[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)】 【#[原文]不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尓 額衝如】 【#[訓読]相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額つくごとし】 【#[仮名],あひおもはぬ,ひとをおもふは,おほてらの,がきのしりへに,ぬかつくごとし】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:笠女郎,大伴家持,恨み,贈答】  これは、垣のしりゑにと申なり。されど又、餓鬼をも、寺には、かきてもつくりてもあれば、かよはしてかけるなり。  0055:  湯原王賜娘子歌 波之家也思不遂里乎雲居爾也戀管將居毛不經國 はしきやしまぢかき里を雲居にやこひゝをらむつきもへなくに 【吉村研】 【#[番号]04/0640】 【#[題詞]湯原王亦贈歌一首】 【#[原文]波之家也思 不遠里乎 雲<居>尓也 戀管将居 月毛不經國】 【#[訓読]はしけやし間近き里を雲居にや恋ひつつ居らむ月も経なくに】 【#[仮名],はしけやし,まちかきさとを,くもゐにや,こひつつをらむ,つきもへなくに】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 / 井 -> 居 [元][金][紀]】 【#[事項],相聞,作者:湯原王,娘子,恋情,贈答】  0056:  廣河女王歌 穗積皇子孫女道王女也 戀草呼力車爾七車積而戀良苦吾心柄 こひ草をちからくるまになゝぐるまつみてこふらくわが心から 【吉村研】 【#[番号]04/0694】 【#[題詞]廣河女王歌二首 [穂積皇子之孫女上道王之女也]】 【#[原文]戀草呼 力車二 七車 積而戀良苦 吾心柄】 【#[訓読]恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から】 【#[仮名],こひくさを,ちからくるまに,ななくるま,つみてこふらく,わがこころから】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],相聞,作者:廣河女王,恋情,比喩】  0057:  大伴宿禰家持贈坂上家大孃歌  離經數年復會相聞往來 萱草吾下紐爾着有跡鬼乃志許草亊二思安利家里 わすれ草わがしたひもにつけたれどおにのしこ草ことにありけり 【吉村研】 【#[番号]04/0727】 【#[題詞]大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 [<離>絶數年復會相聞徃来]】 【#[原文]萱草 吾下紐尓 著有跡 鬼乃志許草 事二思安利家理】 【#[訓読]忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり】 【#[仮名],わすれくさ,わがしたひもに,つけたれど,しこのしこくさ,ことにしありけり】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 雖 -> 離 [桂][元][紀] / 復 [元][類] 後】 【#[事項],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,植物】  0058:  家持和坂上大孃歌 月夜爾波門爾出立夕占問足卜曾爲之行乎欲焉 つきよにはかどに出たちゆふげとひあしうらをぞせしゆかまくをほり 【吉村研】 【#[番号]04/0736】 【#[題詞]又家持和坂上大嬢歌一首】 【#[原文]月夜尓波 門尓出立 夕占問 足卜乎曽為之 行乎欲焉】 【#[訓読]月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り】 【#[仮名],つくよには,かどにいでたち,ゆふけとひ,あしうらをぞせし,ゆかまくをほり】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],相聞,作者:大伴家持,大伴坂上大嬢,贈答】  0059:  同大孃贈家持歌                  【君】 云々人者雖云若狹道乃後瀬山之後毛將會吾 とにかくに人はいふともわかさぢののちせのやまの後もあはん君 【吉村研】 【#[番号]04/0737】 【#[題詞]同大嬢贈家持歌二首】 【#[原文]云々 人者雖云 若狭道乃 後瀬山之 後毛将<會>君】 【#[訓読]かにかくに人は言ふとも若狭道の後瀬の山の後も逢はむ君】 【#[仮名],かにかくに,ひとはいふとも,わかさぢの,のちせのやまの,のちもあはむきみ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 念 -> 會 [万葉考]】 【#[事項],相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持,福井,地名,歌枕,贈答】  0060:  更大伴宿禰家持贈坂上大孃歌之内 吾戀者千引乃石乎七許頸二將繋母神之諸伏 わが戀はちびきのいしをなゝばかりくびにかけてもかみのもろふし  坂上大孃者左大辨大伴宿禰奈磨卿女也。郷居田村里號曰田村大孃但妹坂上大孃者母居坂上里仍曰坂上大孃也 【吉村研】 【#[番号]04/0743】 【#[題詞](更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)】 【#[原文]吾戀者 千引乃石乎 七許 頚二将繋母 神之諸伏】 【#[訓読]我が恋は千引の石を七ばかり首に懸けむも神のまにまに】 【#[仮名],あがこひは,ちびきのいはを,ななばかり,くびにかけむも,かみのまにまに】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,比喩,贈答】  已上第四卷  0061:  大伴淡等謹状  梧桐日本琴 一面 對馬結石山孫枝  此琴夢化娘子曰余託根遙嶋之崇巒晞〓((朝−月)+夸)九陽之休光長帶烟霞逍遙山川之阿遠望風波出入鴈木之間唯恐百年之後空朽溝壑偶遭良匠敢散小琴不顧質麁音少恆君子左琴即歌曰 伊可爾安郎武日能等伎爾可母許恵之良武比等能比射乃倍和我摩久良可武 いかにあらんひのときにかもこゑしらむ人のひざのへわがまくらせん 【吉村研】 【#[番号]05/0810】 【#[題詞]大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰】 【#[原文]伊可尓安良武 日能等伎尓可母 許恵之良武 比等能比射乃倍 和我麻久良可武】 【#[訓読]いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ】 【#[仮名],いかにあらむ,ひのときにかも,こゑしらむ,ひとのひざのへ,わがまくらかむ】 【#[左注]】 【#[校異]蠻 -> 巒 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],作者:大伴旅人,創作,藤原房前,贈り物,老荘,朝隠,書簡,対馬,琴賦,天平1年10月7日,年紀】  0062:   〔詩カ〕  僕報詞詠曰 許等々波奴樹爾波安里等母宇流波之者伎美我手奈禮能許等爾之安流倍志 こととはぬきにはありともうるはしき君がてなれのことにあるべし  琴娘子答曰  敬奉徳音幸甚々々行時覺即感於夢言慨然不得止默故附公使聊以進御耳謹状   天平元年十月七日      附使進上 【吉村研】 【#[番号]05/0811】 【#[題詞](大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰)僕報詩詠曰】 【#[原文]許等々波奴 樹尓波安里等母 宇流波之吉 伎美我手奈礼能 許等尓之安流倍志】 【#[訓読]言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし】 【#[仮名],こととはぬ,きにはありとも,うるはしき,きみがたなれの,ことにしあるべし】 【#[左注]琴娘子答曰 / 敬奉徳音 幸甚々々 片事覺 即感於夢言慨然不得止黙 故附公使聊以進御耳 [謹状不具] / 天平元年十月七日附使進上 / 謹通 中衛高明閤下 謹空】 【#[校異]止黙 [矢][京] 黙止】 【#[事項],作者:大伴旅人,創作,藤原房前,贈り物,老荘,朝隠,書簡,対馬,天平1年10月7日,年紀】  ????  天平二年七月十一日築前國司山上憶良  0063: 得保都必等麻通良佐用比米都麻胡非爾比例布利之用利於返流夜麻能奈 とをつひとまつらさよひめつまこひにひれふりしよりおへる山のな 【吉村研】 【#[番号]05/0871】 【#[題詞]大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰】 【#[原文]得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非尓 比例布利之用利 於返流夜麻能奈】 【#[訓読]遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名】 【#[仮名],とほつひと,まつらさよひめ,つまごひに,ひれふりしより,おへるやまのな】 【#[左注]】 【#[校異]黙 -> 黯 [古] / 歌 [西] 謌】 【#[事項],山上憶良,鏡山,唐津,大伴佐提比古,松浦佐用姫,領布振伝説,地名】  このまつらさよひめは、大伴佐提比古が妻也。さてまづ大唐にわたりけるとき、しゐてわかれをおしみて、山の峯にのぼりて、ひれをふり、こぎはなれゆくふねにみせけるなり。それよりかの山を、まつら山と申也。松浦山は在肥前國也  0064:  敢布 私懷歌  三首之内 阿麻社迦留比奈爾伊都等世周麻比都美夜故能提夫利和周良延爾家利 あまざかるひなにいつとせすまひつゝみやこのてぶりわすられにけり  このみやこのてぶりは、みやこのふるまひといふ亊なり。 【吉村研】 【#[番号]05/0880】 【#[題詞]敢布私懐歌三首】 【#[原文]阿麻社迦留 比奈尓伊都等世 周麻比都々 美夜故能提夫利 和周良延尓家利】 【#[訓読]天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり】 【#[仮名],あまざかる,ひなにいつとせ,すまひつつ,みやこのてぶり,わすらえにけり】 【#[左注](天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上)】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],作者:山上憶良,大伴旅人,太宰府,福岡,餞別,宴席,帰京,地名,天平2年12月6日,年紀】  已上第五卷  0065:  神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿禰赤人作歌  反歌 若浦爾鹽滿來者滷乎無美葦邊乎指天多頭鳴渡 わかの浦にしほみちくればかたをなみあし邊をさしてたづなきわたる  右年月不記但稱從駕玉津嶋也因今檢注  行幸年月以載之焉 【吉村研】 【#[番号]06/0919】 【#[題詞]((神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首)】 【#[原文]若浦尓 塩満来者 滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡】 【#[訓読]若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る】 【#[仮名],わかのうらに,しほみちくれば,かたをなみ,あしへをさして,たづなきわたる】 【#[左注]右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,土地讃美,羈旅,地名,動物,神亀1年10月5日,年紀】  0066:  神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時  反歌        笠朝臣金村作歌 萬代見友將飽八三芳野乃多藝都河内之大宮所 よろづ代にみるともあかめやみよしのゝたぎつかうちのおほみどころ 【吉村研】 【#[番号]06/0921】 【#[題詞](神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首】 【#[原文]萬代 見友将飽八 三芳野乃 多藝都河内乃 大宮所】 【#[訓読]万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所】 【#[仮名],よろづよに,みともあかめや,みよしのの,たぎつかふちの,おほみやところ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,地名】  0067:  三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南郡時  反歌        笠朝臣金村作歌之内 玉藻刈海未通女等見爾將去船梶毛欲得浪高友 たまもかるあまをとめらをみにゆかんふなかぢもがな浪たかくとも 【吉村研】 【#[番号]06/0936】 【#[題詞](三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首】 【#[原文]玉藻苅 海未通女等 見尓将去 船梶毛欲得 浪高友】 【#[訓読]玉藻刈る海人娘子ども見に行かむ舟楫もがも波高くとも】 【#[仮名],たまもかる,あまをとめども,みにゆかむ,ふなかぢもがも,なみたかくとも】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,年紀,植物,地名】  0068:  山邊宿禰赤人作歌之内  反歌 不欲見野乃淺茅押靡左宿夜之氣長在者家之小篠生 いなみのゝあさぢをしなみさぬる夜のけながくあればいへのしのぶる 【吉村研】 【#[番号]06/0940】 【#[題詞]((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)】 【#[原文]不欲見野乃 淺茅押靡 左宿夜之 氣長<在>者 家之小篠生】 【#[訓読]印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ】 【#[仮名],いなみのの,あさぢおしなべ,さぬるよの,けながくしあれば,いへししのはゆ】 【#[左注]】 【#[校異]有 -> 在 [元][類][紀]】 【#[事項],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,望郷,地名】  0069:  天平五年癸酉  山上臣憶良沈痾之時歌 士也母空應有萬代爾語續可名者不立之而 ひとなればむなしかるべしよろづよにかたりつぐべきなはたてずして  右一首山上憶良臣沈痾之時藤原朝臣八束使河邊朝臣東人令問所疾之状於是憶良臣報語已了有須拭涕悲嘆吟此歌 【吉村研】 【#[番号]06/0978】 【#[題詞]山上臣憶良沈痾之時歌一首】 【#[原文]士也母 空應有 萬代尓 語續可 名者不立之而】 【#[訓読]士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして】 【#[仮名],をのこやも,むなしくあるべき,よろづよに,かたりつぐべき,なはたてずして】 【#[左注]右一首山上憶良臣沈痾之時 藤原<朝>臣八束使河邊朝臣東人 令問所疾之状 於是憶良臣報語已畢 有須拭涕悲嘆口吟此歌】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 朝 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:山上憶良,辞世,大夫,天平5年,年紀】  0070:         【月】  天平八年丙子夏六尹幸于芳野離宮時山部宿禰赤人應詔作歌之内  反歌 神代よりよしのゝみやにありかよひたかくしれるは山かはをよみ 【吉村研】 【#[番号]06/1006】 【#[題詞](八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山<邊>宿祢赤人應詔作歌一首[并短歌])反歌一首】 【#[原文]自神代 芳野宮尓 蟻通 高所知者 山河乎吉三】 【#[訓読]神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ】 【#[仮名],かむよより,よしののみやに,ありがよひ,たかしらせるは,やまかはをよみ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:山部赤人,行幸,従駕,応詔,吉野,離宮,讃美,天平8年6月,年紀,地名】  0071:  諸兄其時參議左大辨也天平九年任大納言同十年任右大臣天平十六年任左大臣也、冬十一月左大臣葛城王等賜姓橘氏時  御製 橘者實左倍花左倍其葉左倍枝爾霜雖降益常葉之樹 たち花はみさへ花さへそのはさへ枝に霜をけどましときはにして 【吉村研】 【#[番号]06/1009】 【#[題詞]冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首】 【#[原文]橘者 實左倍花左倍 其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之<樹>】 【#[訓読]橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木】 【#[仮名],たちばなは,みさへはなさへ,そのはさへ,えにしもふれど,いやとこはのき】 【#[左注]右冬十一月九日 従三位葛城王従四位上佐為王等 辞皇族之高名 賜外家之橘姓已訖 於時太上天皇々后共在于皇后宮 以為肆宴而即御製賀橘之歌 并賜御酒宿祢等也 或云 此歌一首太上天皇御歌 但天皇々后御歌各有一首者 其歌遺落未得<探>求焉 今檢案内 八年十一月九日葛城王等願橘宿祢之姓上表 以十七日依表乞賜橘宿祢】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 樹 [西(上書訂正)][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌 / 御歌 [西] 御哥 [西(訂正)] 御歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 其歌 [西] 其謌 [西(訂正)] 其歌 / 採 -> 探 [元][紀]】 【#[事項],雑歌,作者:聖武天皇,元正天皇,作者異伝,讃美,宴席,寿歌,祝い,天平8年11月,植物】  已上第六卷  0072:  雜歌  詠天 あまの川雲のなみたち月のふねほしのはやしに漕かくされぬ  右一首柿本朝臣人丸歌集出 云々 【吉村研】 【#[番号]07/1068】 【#[題詞]雜歌 / 詠天】 【#[原文]天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見】 【#[訓読]天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ】 【#[仮名],あめのうみに,くものなみたち,つきのふね,ほしのはやしに,こぎかくるみゆ】 【#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出】 【#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体】  0073:  詠月 山末爾不知夜經月乎何時母吾待座夜者深去乍 山のはにいざよふ月をいつとかもわがまちをらむよはふけにつゝ 【吉村研】 【#[番号]07/1084】 【#[題詞](詠月)】 【#[原文]山末尓 不知夜經月乎 何時母 吾待将座 夜者深去乍】 【#[訓読]山の端にいさよふ月をいつとかも我は待ち居らむ夜は更けにつつ】 【#[仮名],やまのはに,いさよふつきを,いつとかも,わはまちをらむ,よはふけにつつ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,恋情】  0074:  詠雲 あなし川かはなみたちぬまきもくの槻がたかねにくもゐ立つらん 【吉村研】 【#[番号]07/1087】 【#[題詞]詠雲】 【#[原文]痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志】 【#[訓読]穴師川川波立ちぬ巻向の弓月が岳に雲居立てるらし】 【#[仮名],あなしがは,かはなみたちぬ,まきむくの,ゆつきがたけに,くもゐたてるらし】 【#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]立有 [細](塙) 立 / 志 [類][紀][温] 思】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,龍王山,奈良,非略体,地名】  0075:  詠山 いにしへのことはしらぬをわれみてもひさしくなりぬあまのかく山 【吉村研】 【#[番号]07/1096】 【#[題詞](詠山)】 【#[原文]昔者之 事波不知乎 我見而毛 久成奴 天之香具山】 【#[訓読]いにしへのことは知らぬを我れ見ても久しくなりぬ天の香具山】 【#[仮名],いにしへの,ことはしらぬを,われみても,ひさしくなりぬ,あめのかぐやま】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,香具山,飛鳥,地名】  0076:  詠河 はつせ川ながるゝ水尾のせをはやみゐ提こす浪の音のさやけさ 【吉村研】 【#[番号]07/1108】 【#[題詞](詠河)】 【#[原文]泊瀬川 流水尾之 湍乎早 井提越浪之 音之清久】 【#[訓読]泊瀬川流るる水脈の瀬を早みゐで越す波の音の清けく】 【#[仮名],はつせがは,ながるるみをの,せをはやみ,ゐでこすなみの,おとのきよけく】 【#[左注]】 【#[校異]提 [西(貼紙訂正)] 堤】 【#[事項],雑歌,初瀬,奈良,土地讃美,地名】  0077: 作檜のくまひのくま川の瀬をはやみきみしてとらばよらんいひかも 【吉村研】 【#[番号]07/1109】 【#[題詞](詠河)】 【#[原文]佐桧乃熊 桧隅川之 瀬乎早 君之手取者 将縁言毳】 【#[訓読]さ桧の隈桧隈川の瀬を早み君が手取らば言寄せむかも】 【#[仮名],さひのくま,ひのくまがはの,せをはやみ,きみがてとらば,ことよせむかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,飛鳥,恋愛,地名】  0078:  羇旅歌 非太人のまきながすてふにふの川ことばかよへどふねぞかよはぬ 【吉村研】 【#[番号]07/1173】 【#[題詞](覊旅作)】 【#[原文]斐太人之 真木流云 尓布乃河 事者雖通 船會不通】 【#[訓読]飛騨人の真木流すといふ丹生の川言は通へど舟ぞ通はぬ】 【#[仮名],ひだひとの,まきながすといふ,にふのかは,ことはかよへど,ふねぞかよはぬ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,羈旅,岐阜県,小八賀川,謡物,地名】  0079: 君がためうきぬのいけにひしとると我そめそてのぬれにけるかな  右一首人丸集出 云々 【吉村研】 【#[番号]07/1249】 【#[題詞](覊旅作)】 【#[原文]君為 浮沼池 菱採 我染袖 沾在哉】 【#[訓読]君がため浮沼の池の菱摘むと我が染めし袖濡れにけるかも】 【#[仮名],きみがため,うきぬのいけの,ひしつむと,わがそめしそで,ぬれにけるかも】 【#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,島根,略体,植物,地名】  0080:  寄草 月草に衣はすらむあさ霧にぬれての後はうつろひぬとも 【吉村研】 【#[番号]07/1351】 【#[題詞](寄草)】 【#[原文]月草尓 衣者将<揩> 朝露尓 所沾而後者 <徙>去友】 【#[訓読]月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後はうつろひぬとも】 【#[仮名],つきくさに,ころもはすらむ,あさつゆに,ぬれてののちは,うつろひぬとも】 【#[左注]】 【#[校異]摺 -> 揩 [元] / 徒 -> 徙 [元][古][温]】 【#[事項],譬喩歌,恋愛,移ろい,植物】  0081:  寄稻 いそのかみふるのわさ田をひでずともつなだにはへよもりつゝをらん 【吉村研】 【#[番号]07/1353】 【#[題詞]寄稲】 【#[原文]石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居】 【#[訓読]石上布留の早稲田を秀でずとも縄だに延へよ守りつつ居らむ】 【#[仮名],いそのかみ,ふるのわさだを,ひでずとも,なはだにはへよ,もりつつをらむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],譬喩歌,奈良,恋愛,地名,植物】  0082:  寄藻 しほみてばいりぬる磯の草なれやみらくすくなくこふらくのおほき 【吉村研】 【#[番号]07/1394】 【#[題詞]寄藻】 【#[原文]塩満者 入流礒之 草有哉 見良久少 戀良久乃太寸】 【#[訓読]潮満てば入りぬる礒の草なれや見らく少く恋ふらくの多き】 【#[仮名],しほみてば,いりぬるいその,くさなれや,みらくすくなく,こふらくのおほき】 【#[左注]】 【#[校異]太 [類][紀] 大】 【#[事項],譬喩歌,恋愛】  已上第七卷  0083:  春雜歌  志貴皇子御歌 岩そゝぐたるみのうへのさわらびのもえ出る春になりにけるかも 【吉村研】 【#[番号]08/1418】 【#[題詞]春雜歌 / 志貴皇子懽御歌一首】 【#[原文]石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨】 【#[訓読]石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも】 【#[仮名],いはばしる,たるみのうへの,さわらびの,もえいづるはるに,なりにけるかも】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 激 [類] 灑】 【#[事項],春雑歌,作者:志貴皇子,喜び,植物】  0084:  山部宿禰赤人歌 あすよりはわかなつまむとしめしのに昨日もけふも雪はふりつゝ 【吉村研】 【#[番号]08/1427】 【#[題詞](山部宿祢赤人歌四首)】 【#[原文]従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日<母> 雪波布利管】 【#[訓読]明日よりは春菜摘まむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ】 【#[仮名],あすよりは,はるなつまむと,しめしのに,きのふもけふも,ゆきはふりつつ】 【#[左注]】 【#[校異]毛 -> 母 [類][紀]】 【#[事項],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,比喩】  0085: わがせこにみせむと思ひしむめの花それとも見えず雪のふれゝば 【吉村研】 【#[番号]08/1426】 【#[題詞](山部宿祢赤人歌四首)】 【#[原文]吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者】 【#[訓読]我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば】 【#[仮名],わがせこに,みせむとおもひし,うめのはな,それともみえず,ゆきのふれれば】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,植物】  0086:  厚見王歌 かはづなくかみなび川にかげみえていまかさくらんやまぶきの花 【吉村研】 【#[番号]08/1435】 【#[題詞]厚見王歌一首】 【#[原文]河津鳴 甘南備河尓 陰所見<而> 今香開良武 山振乃花】 【#[訓読]かはづ鳴く神奈備川に影見えて今か咲くらむ山吹の花】 【#[仮名],かはづなく,かむなびかはに,かげみえて,いまかさくらむ,やまぶきのはな】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 而 [類][紀]】 【#[事項],春雑歌,作者:厚見王,飛鳥川,竜田川,地名,植物】  0087:  夏雜歌  山部宿禰赤人歌 こひしくばかた見にせむとわがやどのうへしふぢなみいまさきにけり 【吉村研】 【#[番号]08/1471】 【#[題詞]山部宿祢赤人歌一首】 【#[原文]戀之家婆 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里】 【#[訓読]恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり】 【#[仮名],こひしけば,かたみにせむと,わがやどに,うゑしふぢなみ,いまさきにけり】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],夏雑歌,作者:山部赤人,恋情,植物】  0088:  大伴宿禰家持唐棣花歌 なつまけてさきたるはねすのひさかたの雨うちふらばうつろひなんか 【吉村研】 【#[番号]08/1485】 【#[題詞]大伴家持唐棣花歌一首】 【#[原文],夏儲而 開有波祢受 久方乃 雨打零者 将移香】 【#[訓読]夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか】 【#[仮名],なつまけて,さきたるはねず,ひさかたの,あめうちふらば,うつろひなむか】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],夏雑歌,作者:大伴家持,植物】  0089:  夏相聞  大伴坂上郎女 夏の野のしげみにさけるひめゆりのしられぬ戀はくるしきものを 【吉村研】 【#[番号]08/1500】 【#[題詞]大伴坂上郎女歌一首】 【#[原文]夏野<之> 繁見丹開有 姫由理乃 不所知戀者 苦物曽】 【#[訓読]夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ】 【#[仮名],なつののの,しげみにさける,ひめゆりの,しらえぬこひは,くるしきものぞ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 -> 之 [類][紀][矢][京]】 【#[事項],夏相聞,作者:坂上郎女,片思い,忍恋い,恋情,植物】  0090:  秋雜歌  岡本天皇御製歌 夕さればをぐらの山になくしかのこよひはなかずいねにけらしも 【吉村研】 【#[番号]08/1511】 【#[題詞]秋雜歌 / 崗本天皇御製歌一首】 【#[原文]暮去者 小倉乃山尓 鳴鹿者 今夜波不鳴 寐<宿>家良思母】 【#[訓読]夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも】 【#[仮名],ゆふされば,をぐらのやまに,なくしかは,こよひはなかず,いねにけらしも】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 宿 [西(右書)][類][紀][細]】 【#[事項],秋雑歌,作者:舒明天皇,斉明天皇,地名,動物】  0091:  湯原王きり%\すのうた 暮月夜心毛思努爾白露のをくこのにはにきり%\すなくも 【吉村研】 【#[番号]08/1552】 【#[題詞]湯原王蟋蟀歌一首】 【#[原文]暮月夜 心毛思努尓 白露乃 置此庭尓 蟋蟀鳴毛】 【#[訓読]夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも】 【#[仮名],ゆふづくよ,こころもしのに,しらつゆの,おくこのにはに,こほろぎなくも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋雑歌,作者:湯原王,動物,季節,叙景】  0092:  冬雜歌  太上天皇御製 波太須殊支尾花迷葺黒木用造有宿者迄萬代 はだすゝきを花さかふきくろきもてつくれるやどは萬代までに 【吉村研】 【#[番号]08/1637】 【#[題詞]太上天皇御製歌一首】 【#[原文]波太須珠寸 尾花逆葺 黒木用 造有室者 迄萬代】 【#[訓読]はだすすき尾花逆葺き黒木もち造れる室は万代までに】 【#[仮名],はだすすき,をばなさかふき,くろきもち,つくれるむろは,よろづよまでに】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],冬雑歌,作者:元正天皇,室讃め,宴席,長屋王,植物】  この第八卷始終四季をたてたり  已上第八卷  0093:  大寶元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌 十三首之内 いもがためわれたまもとむおきべなるしら玉よせこ奧津しら浪 【吉村研】 【#[番号]09/1665】 【#[題詞]崗本宮御宇天皇幸紀伊國時歌二首】 【#[原文]為妹 吾玉拾 奥邊有 玉縁持来 奥津白浪】 【#[訓読]妹がため我れ玉拾ふ沖辺なる玉寄せ持ち来沖つ白波】 【#[仮名],いもがため,われたまひりふ,おきへなる,たまよせもちこ,おきつしらなみ】 【#[左注](右二首作者未詳)】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:斉明天皇,行幸,羈旅,紀州,和歌山,地名】  0094: ふぢしろのみさかをこゆと白たへのわが衣手はぬれにけるかも 【吉村研】 【#[番号]09/1675】 【#[題詞](大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)】 【#[原文]藤白之 三坂乎越跡 白栲之 我衣乎者 所沾香裳】 【#[訓読]藤白の御坂を越ゆと白栲の我が衣手は濡れにけるかも】 【#[仮名],ふぢしろの,みさかをこゆと,しろたへの,わがころもでは,ぬれにけるかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,持統天皇,文武天皇,行幸,羈旅,紀州,和歌山,地名,大宝1年10月,年紀】  0095: きのくにのむかし弓雄のひゞくやも鹿とりなびかしさかのうへにぞある 【吉村研】 【#[番号]09/1678】 【#[題詞](大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)】 【#[原文]木國之 昔弓雄之 響矢用 鹿取靡 坂上尓曽安留】 【#[訓読]紀の国の昔弓雄の鳴り矢もち鹿取り靡けし坂の上にぞある】 【#[仮名],きのくにの,むかしさつをの,なりやもち,かとりなびけし,さかのうへにぞある】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,持統天皇,文武天皇,行幸,羈旅,紀州,和歌山,地名,大宝1年10月,年紀】  0096:  獻弓削皇子之内 さよなかとよはふけぬらしかりがねのきこゆる空に月わたるみゆ 【吉村研】 【#[番号]09/1701】 【#[題詞]獻弓削皇子歌三首】 【#[原文]佐宵中等 夜者深去良斯 鴈音 所聞空 月渡見】 【#[訓読]さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月渡る見ゆ】 【#[仮名],さよなかと,よはふけぬらし,かりがねの,きこゆるそらゆ,つきわたるみゆ】 【#[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)】 【#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,弓削皇子,献呈歌,非略体,動物】  已上第九卷  0097:  春雜歌 久かたのあまのかこ山このくれにかすみたなびく春たちぬとか 【吉村研】 【#[番号]10/1812】 【#[題詞]春雜歌】 【#[原文]久方之 天芳山 此夕 霞霏d 春立下】 【#[訓読]ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも】 【#[仮名],ひさかたの,あめのかぐやま,このゆふへ,かすみたなびく,はるたつらしも】 【#[左注](右柿本朝臣人麻呂歌集出)】 【#[校異]歌 [西] 謌】 【#[事項],春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,飛鳥,地名,枕詞,季節】  0098: きのふこそ年はくれしか春がすみかすがの山にはやたちにけり 【吉村研】 【#[番号]10/1843】 【#[題詞]詠霞】 【#[原文]昨日社 年者極之賀 春霞 春日山尓 速立尓来】 【#[訓読]昨日こそ年は果てしか春霞春日の山に早立ちにけり】 【#[仮名],きのふこそ,としははてしか,はるかすみ,かすがのやまに,はやたちにけり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],春雑歌,奈良,地名,季節】  0099:  春相聞  寄鳥 春さればもずの草ぐきみえずともわれはみやらん君があたりは 【吉村研】 【#[番号]10/1897】 【#[題詞]寄鳥】 【#[原文]春之在者 伯勞鳥之草具吉 雖不所見 吾者見<将遣> 君之當<乎>婆】 【#[訓読]春さればもずの草ぐき見えずとも我れは見やらむ君があたりをば】 【#[仮名],はるされば,もずのくさぐき,みえずとも,われはみやらむ,きみがあたりをば】 【#[左注]】 【#[校異]遣将 -> 将遣 [元][矢][京] / <> -> 乎 [元][類][紀]】 【#[事項],春相聞,植物,恋情】  0100:  寄花 かはのうへのいつものはなのいつも/\きませわがせこときわかめやも 【吉村研】 【#[番号]10/1931】 【#[題詞](問答)】 【#[原文]川上之 伊都藻之花乃 何時々々 来座吾背子 時自異目八方】 【#[訓読]川の上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも】 【#[仮名],かはのうへの,いつものはなの,いつもいつも,きませわがせこ,ときじけめやも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],春相聞,序詞,植物,恋情,問答】  0101:  夏雜歌  詠蝉 もだもあらむときもなかなむ日ぐらしの物思ふ時になきつゝもとな 【吉村研】 【#[番号]10/1964】 【#[題詞]詠蝉】 【#[原文]黙然毛将有 時母鳴奈武 日晩乃 物念時尓 鳴管本名】 【#[訓読]黙もあらむ時も鳴かなむひぐらしの物思ふ時に鳴きつつもとな】 【#[仮名],もだもあらむ,ときもなかなむ,ひぐらしの,ものもふときに,なきつつもとな】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],夏雑歌,動物】  0102:  詠鳥 きゝつやと君がとはせるほとゝぎす小竹にぬれてこゝになるなり 【吉村研】 【#[番号]10/1977】 【#[題詞](問答)】 【#[原文]聞津八跡 君之問世流 霍公鳥 小竹野尓所沾而 従此鳴綿類】 【#[訓読]聞きつやと君が問はせる霍公鳥しののに濡れてこゆ鳴き渡る】 【#[仮名],ききつやと,きみがとはせる,ほととぎす,しののにぬれて,こゆなきわたる】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],夏雑歌,問答,動物,叙景】  0103:  頁相聞  寄花 よそにのみみつゝやこひんくれなゐのすゑつむ花の色に出ずとも 【吉村研】 【#[番号]10/1993】 【#[題詞](寄花)】 【#[原文]外耳 見筒戀牟 紅乃 末採花之 色不出友】 【#[訓読]外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも】 【#[仮名],よそのみに,みつつこひなむ,くれなゐの,すゑつむはなの,いろにいでずとも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],夏相聞,植物】  0104:  秋雜歌 わがまちし白茅子さきぬ今だにもにほひにゆかなをちかた人に 【吉村研】 【#[番号]10/2014】 【#[題詞](七夕)】 【#[原文]吾等待之 白芽子開奴 今谷毛 尓寶比尓徃奈 越方人邇】 【#[訓読]我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に】 【#[仮名],わがまちし,あきはぎさきぬ,いまだにも,にほひにゆかな,をちかたひとに】 【#[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕】  0105: みな人ははぎを秋といふいなわれはをばながすゑを秋とはいはん 【吉村研】 【#[番号]10/2110】 【#[題詞](詠花)】 【#[原文]人皆者 芽子乎秋云 縦吾等者 乎花之末乎 秋跡者将言】 【#[訓読]人皆は萩を秋と言ふよし我れは尾花が末を秋とは言はむ】 【#[仮名],ひとみなは,はぎをあきといふ,よしわれは,をばながうれを,あきとはいはむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋雑歌,植物】  0106:  詠蝦 みよしのゝ岩もとさらずなくかはづむべもなきけり川のせきよみ 【吉村研】 【#[番号]10/2161】 【#[題詞]詠蝦】 【#[原文]三吉野乃 石本不避 鳴川津 諾文鳴来 河乎浄】 【#[訓読]み吉野の岩もとさらず鳴くかはづうべも鳴きけり川をさやけみ】 【#[仮名],みよしのの,いはもとさらず,なくかはづ,うべもなきけり,かはをさやけみ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋雑歌,吉野,地名,動物,叙景】  0107:  詠鳥 秋ののをばながすゑになくもずの聲聞らんかかたきくわきもこ 【吉村研】 【#[番号]10/2167】 【#[題詞](詠鳥)】 【#[原文]秋野之 草花我末 鳴<百舌>鳥 音聞濫香 片聞吾妹】 【#[訓読]秋の野の尾花が末に鳴くもずの声聞きけむか片聞け我妹】 【#[仮名],あきののの,をばながうれに,なくもずの,こゑききけむか,かたきけわぎも】 【#[左注]】 【#[校異]舌百 -> 百舌 [類] / 濫 [元][類][紀](塙) 監】 【#[事項],秋雑歌,植物,動物】  0108:  詠水田 あし引の山田つくるこ秀ずとも繩谷延與もるとしるがね 【吉村研】 【#[番号]10/2219】 【#[題詞]詠水田】 【#[原文]足曳之 山田佃子 不秀友 縄谷延与 守登知金】 【#[訓読]あしひきの山田作る子秀でずとも縄だに延へよ守ると知るがね】 【#[仮名],あしひきの,やまたつくるこ,ひでずとも,なはだにはへよ,もるとしるがね】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋雑歌,比喩】  0109:  寄露 秋穗乎之努爾押靡置露消鴨死益戀乍不有者 あきのほをしのにをしなみをく露のけかもしなましこひつゝあらずは 【吉村研】 【#[番号]10/2256】 【#[題詞](寄露)】 【#[原文]秋穂乎 之努尓<押>靡 置露 消鴨死益 戀乍不有者】 【#[訓読]秋の穂をしのに押しなべ置く露の消かもしなまし恋ひつつあらずは】 【#[仮名],あきのほを,しのにおしなべ,おくつゆの,けかもしなまし,こひつつあらずは】 【#[左注]】 【#[校異]狎 -> 押 [元][類][紀]】 【#[事項],秋相聞,恋情】  この歌につきて申べき亊のかつは此すぎぬるころ侍りしなり。  その亊はかはやしろと申亊は萬葉集にはみえぬことなれど、貫之集に朱雀院の御時屏風の歌に夏かへらといふことをよめる歌の二首侍なり。その一首は  0110: かはやしろしのにおりはへほす花いかほをのかなぬかひざらん 【日文研/貫之集/第四】 【0415】 【かはやしろ/しのにおりはへ/ほすころも/いかにほせはか/なぬかひさらむ】 【国文研/新古今和歌集/新古今和歌集巻第十九/神祗歌】 【延喜御時、屏風に、夏神楽のこゝろをよみ侍ける/貫之 】 【1918あやしろの/しのにをりはへ/ほす衣/いかにほせはか/なぬかひさらん】  いま一首は  0111: ゆく水のうへにいはへる川やしろいはなみたかくあかふなるかな 【日文研/貫之集/第四】 【0484】 【ゆくみつの/うへにいはへる/かはやしろ/かはなみたかく/あそふなるかな】  これを俊頼朝臣の歌の口傳にこの河社の亊いとしれる人なし。たゞをしけりにや水の上にやしろをいはひて夏神樂をするなりと、さればゆく水の歌は夏かぐらとみえたり。はじめの歌は神樂のよしもいはず。おもひがけぬ花をほしてひさしくひぬゆをいへる神樂にはかなはずやとそらおぼれるやいへる也。それを内大臣家に百首歌を歌合につかはれて侍しに顯昭法師と申ものゝかはやしろといふ亊とよみて方人にとはれて申ていはく。これは夏神樂といふ亊なり。その神樂にはきよき川にさかきをたて、しのをおりてたるにかけて神禮をそなふ夏神樂の譜にみえたりと申たるを夏神樂は久しくたえたりときこゆ、それをしかかきたる譜あらばはやくその譜をいだすべしとなんじて侍し也。此歌を申やうはこのつらゆきがしのにおりはへの歌は夏神樂とさして、こと葉にはいださざれどもかの御屏風のゑに川やしろにて神樂したるありさまばかりをよみて侍りけるなるべし。しのにおりはへといへるは萬葉集の詞につねにうちはへなどいへることばにつねによめるなり。おりはへといへる又おなじ心なり、ほすころもとよめるはまことの花にはあらず、かのぬのびきの瀧などいふやうにたきの水のつねにおちたるを、いかにほをはる七日ひざらんといへるなり。つねにといはんとてひさしきよしを七日とも八日ともいふ。又歌のならひさればかの四季の御屏風にたきおちたるところにて夏神樂したるをそのありさまをかくよめるなるべし。よりて二首の歌ともにかすやしろの夏神樂におなじ心なるものなり。それを俊頼朝臣のころもほしたる歌は神樂ともおぼえずとかきたるを、神樂の家のものゝ我神樂をしれり。このつらゆきが歌を夏かぐらの歌にてぞあらむとて、萬葉集のしのゝことばをばへて心えずして、しのをおりてたなにかくなりと譜をもつくりたるにや。それを萬葉くはしくみたらむものうたがひ(と)ふべきを、ひとへにしのぶおりはへの詞につきて篠をおりたなにつくるなりと清輔もかきて侍とかや、さて顯昭法師もそれまでに申けるなるべし。貫之は萬葉集のことばにつきてよみて侍るをかやうに心え申なすをつらゆきみはべらばいかにおかしくも歌拵にもおもひ侍らまし。  0112:  寄蝦 朝霞鹿火屋之下爾鳴(蝦)聲谷聞者吾將戀八方 あさがすみかひやのしたになくかはづ聲だにきかばわがこひしやは 【吉村研】 【#[番号]10/2265】 【#[題詞]寄蝦】 【#[原文]朝霞 鹿火屋之下尓 鳴蝦 聲谷聞者 吾将戀八方】 【#[訓読]朝霞鹿火屋が下に鳴くかはづ声だに聞かば我れ恋ひめやも】 【#[仮名],あさかすみ,かひやがしたに,なくかはづ,こゑだにきかば,あれこひめやも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋相聞,動物,恋情】  このかひやのしたの歌又もとよりやう/\に人申亊なり、是山ざとゐなかなどに山田つくるものはなつ田うへさる後より秋になるまでは、いほりをつくりてあやしのものゝこどもなどをすへをきつゝまもらせ侍なり。またなへなど申てわかばなる時より、鹿ゐのしゝなど申物にもまうできて、ふみそとくひなどするを、おはむれうにまもらするなり。それによるは又蚊など申物も人げにつきてつどふ亊なれば、蚊遣火のためにもその火に人のかみなにか香ある物どもをとり入て、ふすぼらせ煙をたやさねば鹿猪なども、人げをのきてまうでこざなれば、その火をいねにたゝざらむため、ゐたるいほりのしたに又こしをかさねて、そのけぶりを雨などにもけだしかためにいほりのしたに蚊火をたておきて侍なるに、又山田のあたりなればかはづのあつまりきて、ゐのしゝなどにおちて人げにつきてつねとなくにこそ侍なれ。あさがすみとはさきにもみえたるやうに、秋も夏もましてたやさぬ煙なども、山ぎわにかすみわたれるなるべし。この歌はかみはおなじ亊にて、しもはすこしかすりて此集に二ところいりて侍なり。いま一首かすみの句はしのびつゝありとつげんこもかもといへり。これもかれも戀によせたるなり。かく山のなかにさとをはなれていほにすゑたるものを、おの/\やどをこふらむのよしによそへたるなり。これを又河のよどみなどにふしつけるといふ亊のやうにして、いほゝあつめてとらむとてやをつくりおほいくいをかへば、かひやといふぞと申なるべし。それに又かはづもつどふにや、さらばかはづをかふにこそ。又ちかく内大臣家の百首のとき顯昭法師かひこの蠶室にかへるのあつまりくるなりとさへ申たりきむだにみぐるしかるべし。又此集にはかひやとは又はさゝざれども山田もるをのをく蚊火ともいひ、又こゝろあへばあひぬるものをを山田の鹿猪田もることなどもよめり。これらも山田もるいほどものおほし心なり。さればかひやりしたはうたがひなく山田のいほなるべき。  0113:  寄花 さをしかのいるのゝすゝきはつ尾花いつしかいもが手枕にせん 【吉村研】 【#[番号]10/2277】 【#[題詞](寄花)】 【#[原文]左小<壮>鹿之 入野乃為酢寸 初尾花 何時<加> 妹之<手将>枕】 【#[訓読]さを鹿の入野のすすき初尾花いづれの時か妹が手まかむ】 【#[仮名],さをしかの,いりののすすき,はつをばな,いづれのときか,いもがてまかむ】 【#[左注]】 【#[校異]牡 -> 壮 [類] / 如 -> 加 [元][紀][温] / 将手 -> 手将 [元][類][紀]】 【#[事項],秋相聞,地名,動物,植物】  0114: さきぬともしらずしあらばもたもあるをこの秋荻をみをつくもとる 【吉村研】 【#[番号]10/2293】 【#[題詞](寄花)】 【#[原文]咲友 不知師有者 黙然将有 此秋芽子乎 令視管本名】 【#[訓読]咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの秋萩を見せつつもとな】 【#[仮名],さけりとも,しらずしあらば,もだもあらむ,このあきはぎを,みせつつもとな】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],秋相聞,植物】  0115:  冬雜歌  相聞 ふる雪の空にふぬべくこふれどもあふよしなくてつきそへぬらし 【吉村研】 【#[番号]10/2333】 【#[題詞]冬相聞】 【#[原文]零雪 虚空可消 雖戀 相依無 月經在】 【#[訓読]降る雪の空に消ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける】 【#[仮名],ふるゆきの,そらにけぬべく,こふれども,あふよしなしに,つきぞへにける】 【#[左注]右柿本朝臣人麻呂之歌集出】 【#[校異]】 【#[事項],冬相聞,作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情】  0116: あわ雪の千里ふかしきこひしくばけながくわれやみつゝしのばん  右歌柿本朝臣人丸歌集出 三首 【吉村研】 【#[番号]10/2334】 【#[題詞]】 【#[原文]<阿和>雪 千<重>零敷 戀為来 食永我 見偲】 【#[訓読]沫雪は千重に降りしけ恋ひしくの日長き我れは見つつ偲はむ】 【#[仮名],あわゆきは,ちへにふりしけ,こひしくの,けながきわれは,みつつしのはむ】 【#[左注]右柿本朝臣人麻呂之歌集出】 【#[校異]沫 -> 阿和 [元][類][紀][温] / 里 -> 重 [元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌】 【#[事項],冬相聞,作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情】  已上第十卷  0117:  古今相聞  正述心緒歌 一百四十九首之内 何爲命繼吾妹不戀前花物 なにせむにいのちつぎけんわきもこにこひせぬさきにしなましものを 【吉村研】 【#[番号]11/2377】 【#[題詞](正述心緒)】 【#[原文]何為 命継 吾妹 不戀前 死物】 【#[訓読]何せむに命継ぎけむ我妹子に恋ひぬ前にも死なましものを】 【#[仮名],なにせむに,いのちつぎけむ,わぎもこに,こひぬさきにも,しなましものを】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情】  0118: 思依見依物有一日間忘 おもふよりみるより物はあるものをひとひへたつるわすると思ふな 【吉村研】 【#[番号]11/2404】 【#[題詞](正述心緒)】 【#[原文]思依 見依 物有 一日間 忘念】 【#[訓読]思ひ寄り見ては寄りにしものにあれば一日の間も忘れて思へや】 【#[仮名],おもひより,みてはよりにし,ものにあれば,ひとひのあひだも,わすれておもへや】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情】  0119:  寄物陳思 石上振神杉神成戀我更爲鴨 いそのかみふるの神すぎかみなれや戀をも我はさらにするかも 【吉村研】 【#[番号]11/2417】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]石上 振神杉 神成 戀我 更為鴨】 【#[訓読]石上布留の神杉神さぶる恋をも我れはさらにするかも】 【#[仮名],いそのかみ,ふるのかむすぎ,かむさぶる,こひをもあれは,さらにするかも】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,恋情,奈良,天理,地名】  0120: やましなのこわだの山にむまはあれどかちよりぞくる君を思ふかね 【吉村研】 【#[番号]11/2425】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]山科 強田山 馬雖在 歩吾来 汝念不得】 【#[訓読]山科の木幡の山を馬はあれど徒歩より我が来し汝を思ひかねて】 【#[仮名],やましなの,こはたのやまを,うまはあれど,かちよりわがこし,なをおもひかねて】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,京都,地名,恋情,羈旅】  0121: みちのへのいちごのはなのいちじるく人みなしりぬわが戀つまと 【吉村研】 【#[番号]11/2480】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]路邊 壹師花 灼然 人皆知 我戀つ [或本歌<曰> 灼然 人知尓家里 継而之念者] 】 【#[訓読]道の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は [或本歌曰 いちしろく人知りにけり継ぎてし思へば] 】 【#[仮名],みちのへの,いちしのはなの,いちしろく,ひとみなしりぬ,あがこひづまは,[いちしろく,ひとしりにけり,つぎてしおもへば]】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]歌 [西] 謌 / 云 -> 曰 [嘉][類]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,うわさ,露見,異伝】  0122: たらちねのおやのかふこのまゆこもりこもれるいもをみるよしもがな 【十一巻不明】 【吉村研】 【#[番号]12/2991】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]垂乳根之 母我養蚕乃 眉隠 馬聲蜂音石花蜘ろ荒鹿 異母二不相而】 【#[訓読]たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして】 【#[仮名],たらちねの,ははがかふこの,まよごもり,いぶせくもあるか,いもにあはずして】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],枕詞,繭,恋情,戯書】  0123: 劔刀諸刄利足蹈死々公依 つるぎたちもろはのときにのぼりたちしにゝもしなん君によりては 【吉村研】 【#[番号]11/2498】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]剱刀 諸刃利 足踏 死々 公依】 【#[訓読]剣大刀諸刃の利きに足踏みて死なば死なむよ君によりては】 【#[仮名],つるぎたち,もろはのときに,あしふみて,しなばしなむよ,きみによりては】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情】  0124: ことたまのやそのちまたにゆふけけふうらまさにせよいもにあはんよ 【吉村研】 【#[番号]11/2506】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]事霊 八十衢 夕占問 占正謂 妹相依】 【#[訓読]言霊の八十の街に夕占問ふ占まさに告る妹は相寄らむ】 【#[仮名],ことだまの,やそのちまたに,ゆふけとふ,うらまさにのる,いもはあひよらむ】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,占い,恋情】  0125: たまぼこのみちゆきうらにうらなへばいもにあはんとわれにいひつる  右歌等皆柿本朝臣人丸集 之首 【吉村研】 【#[番号]11/2507】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]玉桙 路徃占 占相 妹逢 我謂】 【#[訓読]玉桙の道行き占に占なへば妹に逢はむと我れに告りつも】 【#[仮名],たまほこの,みちゆきうらに,うらなへば,いもにあはむと,われにのりつも】 【#[左注](以前一百四十九首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,占い,恋情】  0126:  正述心緒 ひとりぬとことくちめやもあやむしろをになるまでに君をしまたん 【吉村研】 【#[番号]11/2538】 【#[題詞](正述心緒)】 【#[原文]獨寝等 ゆ朽目八方 綾席 緒尓成及 君乎之将待】 【#[訓読]ひとり寝と薦朽ちめやも綾席緒になるまでに君をし待たむ】 【#[仮名],ひとりぬと,こもくちめやも,あやむしろ,をになるまでに,きみをしまたむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],女歌,恋情,植物】  0127: わかくさのにゐたまくらを卷そめてよをやへだてんにくからなくに 【吉村研】 【#[番号]11/2542】 【#[題詞](正述心緒)】 【#[原文]若草乃 新手枕乎 巻始而 夜哉将間 二八十一不在國】 【#[訓読]若草の新手枕をまきそめて夜をや隔てむ憎くあらなくに】 【#[仮名],わかくさの,にひたまくらを,まきそめて,よをやへだてむ,にくくあらなくに】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],恋情】  0128:  寄物陳思 結紐解日遠敷細吾木枕蘿生來 むすぶひもとかん日とをししきたへのわがこまくらにこけおひにけり 【吉村研】 【#[番号]11/2630】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]結紐 解日遠 敷細 吾木枕 蘿生来】 【#[訓読]結へる紐解かむ日遠み敷栲の我が木枕は苔生しにけり】 【#[仮名],ゆへるひも,とかむひとほみ,しきたへの,わがこまくらは,こけむしにけり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],枕詞,女歌,閨怨】  0129: をはたゞのいた田のはしのこぼれなばけたよりゆかんこふなわきもこ 【吉村研】 【#[番号]11/2644】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]小墾田之 板田乃橋之 壊者 従桁将去 莫戀吾妹】 【#[訓読]小治田の板田の橋の壊れなば桁より行かむな恋ひそ我妹】 【#[仮名],をはりだの,いただのはしの,こほれなば,けたよりゆかむ,なこひそわぎも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],地名,奈良県,明日香,恋愛】  0130: 宮材引いづみのうまにたつたみのやむときもなく戀わたるかも 【吉村研】 【#[番号]11/2645】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]宮材引 泉之追馬喚犬二 立民乃 息時無 戀<渡>可聞】 【#[訓読]宮材引く泉の杣に立つ民のやむ時もなく恋ひわたるかも】 【#[仮名],みやぎひく,いづみのそまに,たつたみの,やむときもなく,こひわたるかも】 【#[左注]】 【#[校異]度 -> 渡 [嘉][文][類]】 【#[事項],地名,京都府,序詞,恋愛】  0131: あし引の山田もる翁のをく蚊火のしたこがれのみわがこひをらく 【吉村研】 【#[番号]11/2649】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]足日木之 山田守翁 置蚊火之 <下>粉枯耳 余戀居久】 【#[訓読]あしひきの山田守る翁が置く鹿火の下焦れのみ我が恋ひ居らむ】 【#[仮名],あしひきの,やまたもるをぢが,おくかひの,したこがれのみ,あがこひをらむ】 【#[左注]】 【#[校異]<> -> 下 [西(訂正)][嘉][文][類][紀]】 【#[事項],枕詞,序詞,恋愛】  右歌さきにかひかやの亊に申つるうた也。こゝには蚊火とかけるなり。  0132: 千はやふる神のいがきもこえぬべし。いまはわが身のおしけくもなし 【吉村研】 【#[番号]11/2663】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]千葉破 神之伊垣毛 可越 今者吾名之 惜無】 【#[訓読]ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし今は我が名の惜しけくもなし】 【#[仮名],ちはやぶる,かみのいかきも,こえぬべし,いまはわがなの,をしけくもなし】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],枕詞,うわさ】  0133: たまもかるゐでのしがらみうすきかもこひのよどめるわが心かも 【吉村研】 【#[番号]11/2721】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]玉藻苅 井<堤>乃四賀良美 薄可毛 戀乃余杼女留 吾情可聞】 【#[訓読]玉藻刈るゐでのしがらみ薄みかも恋の淀める我が心かも】 【#[仮名],たまもかる,ゐでのしがらみ,うすみかも,こひのよどめる,あがこころかも】 【#[左注]】 【#[校異]提 -> 堤 [西(訂正)][文]】 【#[事項],枕詞,恋愛】  0134: みなといりのあしわけをぶねさはりおほみわが思ふ君にあはぬ比かも 【吉村研】 【#[番号]11/2745】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]湊入之 葦別小<舟> 障多見 吾念<公>尓 不相頃者鴨】 【#[訓読]港入りの葦別け小舟障り多み我が思ふ君に逢はぬころかも】 【#[仮名],みなといりの,あしわけをぶね,さはりおほみ,あがおもふきみに,あはぬころかも】 【#[左注]】 【#[校異]船 -> 舟 [嘉][文] / 君 -> 公 [嘉][文][類][紀]】 【#[事項],序詞,うわさ,障害,恋情】  0135: 浪まよりみゆるこじまの濱久木ひさしくなりぬ君にあはずして 【吉村研】 【#[番号]11/2753】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]浪間従 所見小嶋 濱久木 久成奴 君尓不相四手】 【#[訓読]波の間ゆ見ゆる小島の浜久木久しくなりぬ君に逢はずして】 【#[仮名],なみのまゆ,みゆるこしまの,はまひさぎ,ひさしくなりぬ,きみにあはずして】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],植物,序詞,恋情】  0136: いほはらのおきつなわのりうちなびき心もしぬにおもほゆるかも 【吉村研】 【#[番号]11/2779】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]海原之 奥津縄乗 打靡 心裳<四>怒尓 所念鴨】 【#[訓読]海原の沖つ縄海苔うち靡き心もしのに思ほゆるかも】 【#[仮名],うなはらの,おきつなはのり,うちなびき,こころもしのに,おもほゆるかも】 【#[左注]】 【#[校異]原字不明 -> 四 [西(上書訂正)][嘉][文][類][紀]】 【#[事項],植物,序詞,恋情】  0137:  譬喩歌 くれなゐのこぞめの衣したにきば人のみらくに匂ひ出んかも 【吉村研】 【#[番号]11/2828】 【#[題詞]譬喩】 【#[原文]紅之 深染乃衣乎 下著者 人之見久尓 仁寳比将出鴨】 【#[訓読]紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも】 【#[仮名],くれなゐの,こそめのきぬを,したにきば,ひとのみらくに,にほひいでむかも】 【#[左注](右二首寄衣喩思)】 【#[校異]】 【#[事項],人目,うわさ,比喩】  0138: かくしてやなおややみなんおほあらぎのうき田のもりのしめならなくに 【吉村研】 【#[番号]11/2839】 【#[題詞](譬喩)】 【#[原文]如是為哉 猶八成牛鳴 大荒木之 浮田之<社>之 標尓不有尓】 【#[訓読]かくしてやなほやまもらむ大荒木の浮田の社の標にあらなくに】 【#[仮名],かくしてや,なほやまもらむ,おほあらきの,うきたのもりの,しめにあらなくに】 【#[左注]右一首寄標喩思】 【#[校異]成 [紀] 戌 / 杜 -> 社 [嘉][類][紀][文]】 【#[事項],地名,奈良県,五条市,恋愛】  已上第十一卷  0139:  寄物陳思 山代のいはだのもりに心をそくたむけしたればいもにあひがたき 【吉村研】 【#[番号]12/2856】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]山代 石田<社> 心鈍 手向為在 妹相難】 【#[訓読]山背の石田の社に心おそく手向けしたれや妹に逢ひかたき】 【#[仮名],やましろの,いはたのもりに,こころおそく,たむけしたれや,いもにあひかたき】 【#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)】 【#[校異]杜 -> 社 [西(朱書訂正)][類][紀][温]】 【#[事項],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,京都府,伏見,恋情】  0140: 心あへばあひぬるものを小山田の鹿猪田もることもりしもらすも 【吉村研】 【#[番号]12/3000】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳 [一云 母之守之師] 】 【#[訓読]魂合へば相寝るものを小山田の鹿猪田守るごと母し守らすも [一云 母が守らしし] 】 【#[仮名],たまあへば,あひぬるものを,をやまだの,ししだもるごと,ははしもらすも,[ははがもらしし]】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],異伝,動物,障害,恋愛】  0141: 如神きこゆるたきのしら浪のおもしろく君がみえぬこのごろ 【吉村研】 【#[番号]12/3015】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]如神 所聞瀧之 白浪乃 面知君之 不所見比日】 【#[訓読]神のごと聞こゆる瀧の白波の面知る君が見えぬこのころ】 【#[仮名],かみのごと,きこゆるたきの,しらなみの,おもしるきみが,みえぬこのころ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],序詞,女歌,恋愛】  たきをばかくこの集にも神の如などよみたればかはやしろもたきある川かみにてするなるべし  0142: いしばしるたるひの水のはしきやし君にこふらくわが心から 【吉村研】 【#[番号]12/3025】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]石走 垂水之水能 早敷八師 君尓戀良久 吾情柄】 【#[訓読]石走る垂水の水のはしきやし君に恋ふらく我が心から】 【#[仮名],いはばしる,たるみのみづの,はしきやし,きみにこふらく,わがこころから】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],枕詞,序詞,恋情】  0143: 君があたりみつゝもおらむいこま山雲なかくしそあめはふるとも 【吉村研】 【#[番号]12/3032】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]君之當 見乍母将居 伊駒山 雲莫蒙 雨者雖零】 【#[訓読]君があたり見つつも居らむ生駒山雲なたなびき雨は降るとも】 【#[仮名],きみがあたり,みつつもをらむ,いこまやま,くもなたなびき,あめはふるとも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],地名,奈良,恋情】  0144: 忘草かきもしみゝにおふれどもをにのしこ草猶こひにたり 【吉村研】 【#[番号]12/3062】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]萱草 垣毛繁森 雖殖有 鬼之志許草 猶戀尓家利】 【#[訓読]忘れ草垣もしみみに植ゑたれど醜の醜草なほ恋ひにけり】 【#[仮名],わすれくさ,かきもしみみに,うゑたれど,しこのしこくさ,なほこひにけり】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],植物,恋情】  0145: なか/\に人とならずば桑子にもならまし物をたまのをばかり 【吉村研】 【#[番号]12/3086】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒<許>】 【#[訓読]なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり】 【#[仮名],なかなかに,ひととあらずは,くはこにも,ならましものを,たまのをばかり】 【#[左注]】 【#[校異]計 -> 許 [元][類][紀]】 【#[事項],恋情】  0146: さひのくまひのくま川に駒とゞめむまに水かへわれよそにみん 【吉村研】 【#[番号]12/3097】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]左桧隈 <桧隈>河尓 駐馬 馬尓水令飲 吾外将見】 【#[訓読]さ桧隈桧隈川に馬留め馬に水飼へ我れ外に見む】 【#[仮名],さひのくま,ひのくまかはに,うまとどめ,うまにみづかへ,われよそにみむ】 【#[左注]】 【#[校異]々々 -> 桧隈 [元][類][紀]】 【#[事項],地名,明日香,奈良,動物,恋情,歌垣】  0147:  羇旅發思 玉勝間あへしま山のゆふ露にたびねしかね所ながきこの夜を 【吉村研】 【#[番号]12/3152】 【#[題詞](羇旅發思)】 【#[原文]玉勝間 安倍嶋山之 暮露尓 旅宿得為也 長此夜乎】 【#[訓読]玉かつま安倍島山の夕露に旅寝えせめや長きこの夜を】 【#[仮名],たまかつま,あへしまやまの,ゆふつゆに,たびねえせめや,ながきこのよを】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],枕詞,地名,孤独,羈旅】  0148: すみよしの岸にむかへるあはぢしまあはれと君をいはぬ日はなし 【吉村研】 【#[番号]12/3197】 【#[題詞](悲別歌)】 【#[原文]住吉乃 崖尓向有 淡路嶋 A怜登君乎 不言日者无】 【#[訓読]住吉の岸に向へる淡路島あはれと君を言はぬ日はなし】 【#[仮名],すみのえの,きしにむかへる,あはぢしま,あはれときみを,いはぬひはなし】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],地名,大阪,序詞,兵庫,淡路,恋愛,羈旅】  已上第十二卷  0149:  雜歌 いくしたてみわすゑまつる神ぬしのうずのたまかげみればともしも 【吉村研】 【#[番号]13/3229】 【#[題詞](反歌)】 【#[原文]五十串立 神酒座奉 神主部之 雲聚<玉>蔭 見者乏文】 【#[訓読]斎串立てみわ据ゑ奉る祝部がうずの玉かげ見ればともしも】 【#[仮名],いぐしたて,みわすゑまつる,はふりへが,うずのたまかげ,みればともしも】 【#[左注]右三首 但或書此短歌一首無有載之也】 【#[校異]王 -> 玉 [元][天][類]】 【#[事項],雑歌,婚礼,神祭り,寿歌,新婚】  0150: 月も日もかはりゆけどもひさにふるみむろの山のとつみやどころ 【吉村研】 【#[番号]13/3231】 【#[題詞]反歌】 【#[原文]月日 攝友 久經流 三諸之山 礪津宮地】 【#[訓読]月は日は変らひぬとも久に経る三諸の山の離宮ところ】 【#[仮名],つきひは,かはらひぬとも,ひさにふる,みもろのやまの,とつみやところ】 【#[左注]右二首 但或本歌曰 故王都跡津宮地也】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,地名,明日香,奈良,聖武天皇,宮廷讃美,寿歌】  已上第十三卷  0151:  雜歌  相聞 駿河國歌 さぬらくはたまのをばかりこふらくはふじのたかねのなるさはのこと 【吉村研】 【#[番号]14/3358】 【#[題詞]】 【#[原文]佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 <古>布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登】 【#[訓読]さ寝らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと】 【#[仮名],さぬらくは,たまのをばかり,こふらくは,ふじのたかねの,なるさはのごと】 【#[左注]或本歌曰 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 一本歌曰 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 / (右五首駿河國歌)】 【#[校異]右 -> 古 [西(訂正右書)][類][紀][温] / 久波 [細](塙) 久】 【#[事項],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,恋情,歌謡,民謡,歌垣】  0152:  武藏國 こひしけばそでもふらんをむさしのゝうけらが花の色にいづなゆめ 【吉村研】 【#[番号]14/3376】 【#[題詞]】 【#[原文]古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米】 【#[訓読]恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ】 【#[仮名],こひしけば,そでもふらむを,むざしのの,うけらがはなの,いろにづなゆめ】 【#[左注]或本歌曰 伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟 / (右九首武蔵國歌)】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,植物,うわさ,人目,恋情,女歌】  0153:  下總國 にほどりのかつしかわせをかへすともそのかなしきをとにたてめやめ 【吉村研】 【#[番号]14/3386】 【#[題詞]】 【#[原文]尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母】 【#[訓読]にほ鳥の葛飾早稲をにへすともその愛しきを外に立てめやも】 【#[仮名],にほどりの,かづしかわせを,にへすとも,そのかなしきを,とにたてめやも】 【#[左注](右四首下総國歌)】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,千葉県,地名,葛飾,新嘗,祭り,恋情,女歌】  0154: あのをとせずゆかんこまもがかつしかのまゝのつぎはしやまずかよはん 【吉村研】 【#[番号]14/3387】 【#[題詞]】 【#[原文]安能於登世受 由可牟古馬母我 可豆思加乃 麻末乃都藝波思 夜麻受可欲波牟】 【#[訓読]足の音せず行かむ駒もが葛飾の真間の継橋やまず通はむ】 【#[仮名],あのおとせず,ゆかむこまもが,かづしかの,ままのつぎはし,やまずかよはむ】 【#[左注]右四首下総國歌】 【#[校異]豆 [元][類](塙) 都】 【#[事項],東歌,相聞,千葉県,地名,葛飾,市川,恋情】  0155:  常陸國 つくばねのそがひにみゆるあしほやまあしかるとかもさねみえなくに 【吉村研】 【#[番号]14/3391】 【#[題詞]】 【#[原文]筑波祢尓 曽我比尓美由流 安之保夜麻 安志可流登我毛 左祢見延奈久尓】 【#[訓読]筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに】 【#[仮名],つくはねに,そがひにみゆる,あしほやま,あしかるとがも,さねみえなくに】 【#[左注](右十首常陸國歌)】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,足尾山,序詞,恋情】  そがひとはおひすがひなどいふやうにみゆるなり。さればかのきくの歌に  0156: かのみゆるきしべにたてるそがきくのしげみさえだの色のこてらさ 【吉村研】 【国文研/拾遺和歌集/拾遺和歌集巻第十七/雑秋】 【1120/よみ人しらす】 【かのみゆる/池へにたてる/そかきくの/しけみさえたの/色のてこらさ】  といへる歌もむかひのきしにそがひにみゆるとよめるにや  承和のみかどのきなるいろをこのみたまひければき菊をそわきくといふなりと申亊はいつよりいふ亊におぼつかなし  0157:  上野國 かみつけのくろほのねろのくすはかたかなしけこらにいやさかりくも 【吉村研】 【#[番号]14/3412】 【#[題詞]】 【#[原文]賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母】 【#[訓読]上つ毛野久路保の嶺ろの葛葉がた愛しけ子らにいや離り来も】 【#[仮名],かみつけの,くろほのねろの,くずはがた,かなしけこらに,いやざかりくも】 【#[左注](右廿二首上野國歌)】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,群馬県,地名,赤城山,序詞,恋情】  0158:  陸奧國歌 あひつねのくにをさとほみあはなはゞ斯努比にせんとひもむすばさね 【吉村研】 【#[番号]14/3426】 【#[題詞]】 【#[原文]安比豆祢能 久尓乎佐杼抱美 安波奈波婆 斯努比尓勢毛等 比毛牟須婆佐祢】 【#[訓読]会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね】 【#[仮名],あひづねの,くにをさどほみ,あはなはば,しのひにせもと,ひもむすばさね】 【#[左注](右三首陸奥國歌)】 【#[校異]毛 [細] 牟】 【#[事項],東歌,相聞,福島県,東北地方,地名,会津,磐梯山,悲別,恋情】  0159:  譬喩歌  遠江國 とをつあふみいなさほそえのみほつくしわれをたのめてあさまし物を 【吉村研】 【#[番号]14/3429】 【#[題詞]譬喩歌】 【#[原文]等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎】 【#[訓読]遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを】 【#[仮名],とほつあふみ,いなさほそえの,みをつくし,あれをたのめて,あさましものを】 【#[左注]右一首遠江國歌】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,譬喩歌,静岡県,地名,浜名湖,怨恨,恋愛】  0160:  雜歌  相聞 山とりのおろのはつをにかゞみかけとなふべみこそなきよそりけめ 【吉村研】 【#[番号]14/3468】 【#[題詞]】 【#[原文]夜麻杼里乃 乎呂能<波>都乎尓 可賀美可家 刀奈布倍美許曽 奈尓与曽利鶏米】 【#[訓読]山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ】 【#[仮名],やまとりの,をろのはつをに,かがみかけ,となふべみこそ,なによそりけめ】 【#[左注]】 【#[校異]<> -> 波 [西(左書)][元][類][紀]】 【#[事項],東歌,相聞,うわさ,恋愛,神祭り】  0161: あさかがたしほひのゆたにおもへらばうけらが花の色にいでめやも 【吉村研】 【#[番号]14/3503】 【#[題詞]】 【#[原文]安齊可我多 志保悲乃由多尓 於毛敝良婆 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖米也母】 【#[訓読]安齊可潟潮干のゆたに思へらばうけらが花の色に出めやも】 【#[仮名],あせかがた,しほひのゆたに,おもへらば,うけらがはなの,いろにでめやも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,地名,植物,恋情,序詞】  0162: はるべさく藤のうら葉のうらやすにさぬるよぞなきころをしとへば 【吉村研】 【#[番号]14/3504】 【#[題詞]】 【#[原文]波流敝左久 布治能宇良葉乃 宇良夜須尓 左奴流夜曽奈伎 兒呂乎之毛倍婆】 【#[訓読]春へ咲く藤の末葉のうら安にさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば】 【#[仮名],はるへさく,ふぢのうらばの,うらやすに,さぬるよぞなき,ころをしもへば】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,植物,序詞,恋情】  0163: にひむろのこときにいたればはたすゝきほに出し君がみえぬこの比 【吉村研】 【#[番号]14/3506】 【#[題詞]】 【#[原文]尓比牟路能 許騰伎尓伊多礼婆 波太須酒伎 穂尓弖之伎美我 見延奴己能許呂】 【#[訓読]新室のこどきに至ればはだすすき穂に出し君が見えぬこのころ】 【#[仮名],にひむろの,こどきにいたれば,はだすすき,ほにでしきみが,みえぬこのころ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,諸物,恋情,女歌】  0164: みそら行君にもがもなけふゆきていもにことゝひあすかへりこむ 【吉村研】 【#[番号]14/3510】 【#[題詞]】 【#[原文]美蘇良由久 <君>母尓毛我母奈 家布由伎弖 伊母尓許等<杼>比 安須可敝里許武】 【#[訓読]み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む】 【#[仮名],みそらゆく,くもにもがもな,けふゆきて,いもにことどひ,あすかへりこむ】 【#[左注]】 【#[校異]君尓 -> 君 [西(訂正)][類][紀][細] / 抒 -> 杼 [類][紀][細]】 【#[事項],東歌,相聞,恋情,羈旅,別離】  0165: からすてふおほをそどりのまさてにもきまさぬ君をころとくぞなく 【吉村研】 【#[番号]14/3521】 【#[題詞]】 【#[原文]可良須等布 於保乎曽杼里能 麻左R尓毛 伎麻左奴伎美乎 許呂久等曽奈久】 【#[訓読]烏とふ大をそ鳥のまさでにも来まさぬ君をころくとぞ鳴く】 【#[仮名],からすとふ,おほをそとりの,まさでにも,きまさぬきみを,ころくとぞなく】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,相聞,動物,恋情,女歌】  0166:  譬喩歌 みやしろのすかへにたてるかほがはななさきいでそねこめてしのばん 【吉村研】 【#[番号]14/3575】 【#[題詞]】 【#[原文]美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武】 【#[訓読]美夜自呂のすかへに立てるかほが花な咲き出でそねこめて偲はむ】 【#[仮名],みやじろの,すかへにたてる,かほがはな,なさきいでそね,こめてしのはむ】 【#[左注]】 【#[校異]渚 -> 須 [類][古] / 弖 -> R [類][紀]】 【#[事項],東歌,譬喩歌,地名,植物,恋情】  この歌もそがへにたてるといへるなり  0167:  挽歌 かなしいもをいづちゆかめとやますげの曾我比にねしていましくやしも  以前歌詞等國土山川名也云々 【吉村研】 【#[番号]14/3577】 【#[題詞]挽歌】 【#[原文]可奈思伊毛乎 伊都知由可米等 夜麻須氣乃 曽我比尓宿思久 伊麻之久夜思母】 【#[訓読]愛し妹をいづち行かめと山菅のそがひに寝しく今し悔しも】 【#[仮名],かなしいもを,いづちゆかめと,やますげの,そがひにねしく,いましくやしも】 【#[左注]以前歌詞未得勘知國土山川之名也】 【#[校異]】 【#[事項],東歌,挽歌,植物,恋情,後悔,恋愛】  已上第十四卷  0168:  天平八年丙子夏六月遣使新羅國時使人等各悲刑贈答及海路上慟旅陳思作歌之内 おほふねもいものる物にあらませばはぐゝみもちてゆかましものを 【吉村研】 【#[番号]15/3579】 【#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)】 【#[原文]大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎】 【#[訓読]大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを】 【#[仮名],おほぶねに,いものるものに,あらませば,はぐくみもちて,ゆかましものを】 【#[左注](右十一首贈答)】 【#[校異]波 -> 婆 [類]】 【#[事項],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,恋情,悲別,出発,羈旅,難波,大阪】  0169: 大伴のみつにふなのりこぎいでてはいづれのしまにいほりせんわれ 【吉村研】 【#[番号]15/3593】 【#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)】 【#[原文]大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼】 【#[訓読]大伴の御津に船乗り漕ぎ出てはいづれの島に廬りせむ我れ】 【#[仮名],おほともの,みつにふなのり,こぎでては,いづれのしまに,いほりせむわれ】 【#[左注]右三首臨發之時作歌】 【#[校異]】 【#[事項],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,出発,難波,大阪,地名】  0170: あまさかるひなのなかぢをこひくればあかしのとまりいゑのあたりみゆ  右歌柿本人麿歌云々 【吉村研】 【#[番号]15/3608】 【#[題詞](當所誦詠古歌)】 【#[原文]安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由】 【#[訓読]天離る鄙の長道を恋ひ来れば明石の門より家のあたり見ゆ】 【#[仮名],あまざかる,ひなのながちを,こひくれば,あかしのとより,いへのあたりみゆ】 【#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 夜麻等思麻見由】 【#[校異]】 【#[事項],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,柿本人麻呂,羈旅,地名,明石,兵庫,望郷,転用】  已上十五卷  0171:  有由縁雜歌 安積香山影制所見山井之淺心乎吾念莫國 あさか山かげさへみゆる山のゐのあさき心をわがおもはなくに  右歌傳云葛城王遣于陸奧國之時國司祇承緩怠異甚于時王意不悦怒色顯面雖設飮饌不肯宴樂於是有前采女風流娘子左手捧觴右手持氷撃之王膠而詠此歌爾乃王意解悦樂飮終日 【吉村研】 【#[番号]16/3807】 【#[題詞]】 【#[原文]安積香山 影副所見 山井之 淺心乎 吾念莫國】 【#[訓読]安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに】 【#[仮名],あさかやま,かげさへみゆる,やまのゐの,あさきこころを,わがおもはなくに】 【#[左注]右歌傳云 葛城王遣于陸奥<國>之時國司祇承緩怠異甚 於時王意不悦 怒色顕面 雖設飲饌不肯宴樂 於是有前采女 風流娘子 左手捧觴右手持水 撃之王膝而詠此歌 尓乃王意解悦樂飲終日】 【#[校異]<> -> 國 [西(右書)][尼][類][古]】 【#[事項],雑歌,物語,歌物語,伝承,地名,福島県,葛城王,女歌,橘諸兄,恋愛,序詞,作者:采女】  0172: 朝霞香火屋下乃鳴川津之努比管有常將告兒毛欲得 あさ霞かひやがしたになくかはづしのびつゝありとつげんこもがも  右歌又さきに申つるかひやがしたのうたなり  集右状云河村王宴居之時彈琴而即先誦此歌以爲常行也云々 【吉村研】 【#[番号]16/3818】 【#[題詞]】 【#[原文]朝霞 香火屋之下乃 鳴川津 之努比管有常 将告兒毛欲得】 【#[訓読]朝霞鹿火屋が下の鳴くかはづ偲ひつつありと告げむ子もがも】 【#[仮名],あさかすみ,かひやがしたの,なくかはづ,しのひつつありと,つげむこもがも】 【#[左注]右歌二首河村王宴居之時弾琴而即先誦此歌以為常行也】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:河村王,誦詠,伝承,宴席,戯笑,恋愛】  0173:  詠王掃鎌天木香來歌 玉掃苅來鎌麿室乃樹與棗本可吉將掃爲 たまはゝきかりこかまゝろむろの木となつめがもとゝかきはかんため 【吉村研】 【#[番号]16/3830】 【#[題詞]詠玉掃鎌天木香棗歌】 【#[原文]玉掃 苅来鎌麻呂 室乃樹 與棗本 可吉将掃為】 【#[訓読]玉掃刈り来鎌麻呂むろの木と棗が本とかき掃かむため】 【#[仮名],たまばはき,かりこかままろ,むろのきと,なつめがもとと,かきはかむため】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠,植物】  0174:  境部王詠數種物歌之内 穗積親王 虎爾乘古屋乎越而青淵爾鮫龍取將來劔刀毛我 とらにのりふるやをこえてあをふちにたつとりてこんつるぎたちもか 【吉村研】 【#[番号]16/3833】 【#[題詞]境部王詠數種物歌一首 [穂積親王之子也]】 【#[原文]虎尓乗 古屋乎越而 青淵尓 鮫龍取将来 劒刀毛我】 【#[訓読]虎に乗り古屋を越えて青淵に蛟龍捕り来む剣太刀もが】 【#[仮名],とらにのり,ふるやをこえて,あをふちに,みつちとりこむ,つるぎたちもが】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,動物,作者:境部王,物名,宴席,即興,穂積王,誦詠】  0175:  獻新田新王歌 勝間田之池者我知蓮無然言君之鬢無如之 かつまたのいけはわれしるはちすなししかいふ君のひげなきがごと 【吉村研】 【#[番号]16/3835】 【#[題詞]獻新田部親王歌一首 [未詳]】 【#[原文]勝間田之 池者我知 蓮無 然言君之 鬚無如之】 【#[訓読]勝間田の池は我れ知る蓮なししか言ふ君が鬚なきごとし】 【#[仮名],かつまたの,いけはわれしる,はちすなし,しかいふきみが,ひげなきごとし】 【#[左注]右或有人聞之曰 新田部親王出遊于堵裏御見勝間田之池感緒御心之中 還自彼池不任怜愛 於時語婦人曰 今日遊行見勝<間>田池 水影涛々蓮花 灼々 A怜断腸不可得言 尓乃婦人作此戯歌專輙吟詠也】 【#[校異]<> -> 間 [古][温][矢][京]】 【#[事項],雑歌,伝承,新田部皇子,植物,地名,奈良,物名,戯笑,宴席】  0176:  謗佞人歌 奈良山乃兒手柏之兩面爾左毛右毛侫人之友 なら山のこのてかしはのふたおもてとにもかくにもねじけ人かも 【吉村研】 【#[番号]16/3836】 【#[題詞]謗<侫>人歌一首】 【#[原文]奈良山乃 兒手柏之 兩面尓 左毛右毛 <侫>人之友】 【#[訓読]奈良山の児手柏の両面にかにもかくにも侫人の伴】 【#[仮名],ならやまの,このてかしはの,ふたおもに,かにもかくにも,こびひとがとも】 【#[左注]右歌一首博士消奈行文大夫作之】 【#[校異]ケ -> 侫 [尼][細][温] / ケ -> 侫 [尼]】 【#[事項],雑歌,作者:消奈行文,嘲笑,戯笑,宴席,地名,奈良,植物】  0177:  池田朝臣嗤大神乃男餓鬼被給而其子將幡 寺々之女餓鬼申久大神乃男餓鬼被給而其子將幡 てら%\のめがきまうさくおほみのをがきたはりてそのこはらまん 【吉村研】 【#[番号]16/3840】 【#[題詞]池田朝臣嗤大神朝臣奥守歌一首 [池田朝臣名忘失也]】 【#[原文]寺々之 女餓鬼申久 大神乃 男餓鬼被給而 其子将播】 【#[訓読]寺々の女餓鬼申さく大神の男餓鬼賜りてその子産まはむ】 【#[仮名],てらてらの,めがきまをさく,おほかみの,をがきたばりて,そのこうまはむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,作者:池田真枚,大神奥守,嘲笑,戯笑,誦詠】  0178:  大神朝臣奧守報嗤歌 佛造眞朱不足者水停池田乃阿曾我鼻上乎穿禮 ほとけつくるあかにたらずばみづとゞめいけだの朝臣がはなの上をほれ 【吉村研】 【#[番号]16/3841】 【#[題詞]大神朝臣奥守報嗤歌一首】 【#[原文]佛造 真朱不足者 水渟 池田乃阿曽我 鼻上乎穿礼】 【#[訓読]仏造るま朱足らずは水溜まる池田の朝臣が鼻の上を掘れ】 【#[仮名],ほとけつくる,まそほたらずは,みづたまる,いけだのあそが,はなのうへをほれ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 哥】 【#[事項],雑歌,作者:大神奥守,池田真枚,嘲笑,戯笑,誦詠】  0179:  平郡朝臣嗤歌 小兒等草者勿苅八穗蓼乎穗積乃阿曾我腋草乎歌禮 わらはべも草はなかりそやほたでをほづみのあそうがわきくさをかれ 【吉村研】 【#[番号]16/3842】 【#[題詞]或云 / 平群朝臣<嗤>歌一首】 【#[原文]小兒等 草者勿苅 八穂蓼乎 穂積乃阿曽我 腋草乎可礼】 【#[訓読]童ども草はな刈りそ八穂蓼を穂積の朝臣が腋草を刈れ】 【#[仮名],わらはども,くさはなかりそ,やほたでを,ほづみのあそが,わきくさをかれ】 【#[左注]】 【#[校異]<> -> 嗤 [尼][古][紀]】 【#[事項],雑歌,作者:平群広成,穂積老人,嘲笑,戯笑,誦詠,枕詞】  0180:  穗積朝臣和歌 何所曾眞朱穿岳薦疊平郡乃阿曾我鼻上乎穿禮 いづこにぞあかにほるをかこもたゝみへぐりのあそがはなのうヘをほれ 【吉村研】 【#[番号]16/3843】 【#[題詞]穂積朝臣和歌一首】 【#[原文]何所曽 真朱穿岳 薦疊 平群乃阿曽我 鼻上乎穿礼】 【#[訓読]いづくにぞま朱掘る岡薦畳平群の朝臣が鼻の上を掘れ】 【#[仮名],いづくにぞ,まそほほるをか,こもたたみ,へぐりのあそが,はなのうへをほれ】 【#[左注]】 【#[校異]歌 [西] 謌】 【#[事項],雑歌,作者:穂積老人,平群広成,嘲笑,戯笑,誦詠,枕詞】  0181:  豐前國白水郎歌一首 とよくにのきくのいけなるひしのうれをつむとやいもがみそでぬるらん 【吉村研】 【#[番号]16/3876】 【#[題詞]豊前國白水郎歌一首】 【#[原文]豊國 企玖乃池奈流 菱之宇礼乎 採跡也妹之 御袖所沾計武】 【#[訓読]豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ】 【#[仮名],とよくにの,きくのいけなる,ひしのうれを,つむやといもが,みそでぬれけむ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],雑歌,福岡,採菱,労働,民謡,地名】  已上第十六卷  0182:  天平十八年正月白雪多零積地數寸也於時左大臣橘卿率大納言藤原豐成朝臣及諸王諸臣等參入太上天皇御在所<中宮西院>於是降詔大臣參議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌 布流由吉乃白髮までにおほぎみにつかへまつればたうとくもあるか 【吉村研】 【#[番号]17/3922】 【#[題詞]天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌 / 左大臣橘宿祢應詔歌一首】 【#[原文]布流由吉乃 之路髪麻泥尓 大皇尓 都可倍麻都礼婆 貴久母安流香】 【#[訓読]降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか】 【#[仮名],ふるゆきの,しろかみまでに,おほきみに,つかへまつれば,たふとくもあるか】 【#[左注](藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)】 【#[校異]天平十八 [元] 十八 / 諸臣 [元] 諸 / 卿等 [元] 卿 / 歌 [西] 謌】 【#[事項],天平18年1月,年紀,作者:橘諸兄,肆宴,宴席,奈良,宮廷,寿歌,大君讃美,応詔】  0183:  紀朝臣清人應詔歌一首 天下須泥爾おほひてふるゆきのひかりをみればたうとくもあるか 【吉村研】 【#[番号]17/3923】 【#[題詞](天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 紀朝臣清人應詔歌一首】 【#[原文]天下 須泥尓於保比C 布流雪乃 比加里乎見礼婆 多敷刀久母安流香】 【#[訓読]天の下すでに覆ひて降る雪の光りを見れば貴くもあるか】 【#[仮名],あめのした,すでにおほひて,ふるゆきの,ひかりをみれば,たふとくもあるか】 【#[左注](藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)】 【#[校異]】 【#[事項],天平18年1月,年紀,作者:紀清人,肆宴,宴席,奈良,宮廷,寿歌,応詔】  0184:  葛井連諸會應詔歌一首 新年のはじめに豐乃登之しるすとならしゆきのふれるは 【吉村研】 【#[番号]17/3925】 【#[題詞](天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 葛井連諸會應詔歌一首】 【#[原文]新 年乃婆自米尓 豊乃登之 思流須登奈良思 雪能敷礼流波】 【#[訓読]新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは】 【#[仮名],あらたしき,としのはじめに,とよのとし,しるすとならし,ゆきのふれるは】 【#[左注](藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)】 【#[校異]】 【#[事項],天平18年1月,年紀,作者:葛井諸会,肆宴,宴席,奈良,宮廷,寿歌,応詔】  0185:  大伴宿禰家持述戀緒歌之内 反歌 安良多摩乃登之可敝流麻泥安比見禰婆許己呂毛之努爾於母保由流香聞 あらたまの年かへるまであひみねば心もしのにおもほゆるかも 【吉村研】 【#[番号]17/3979】 【#[題詞](述戀緒歌一首[并短歌])】 【#[原文]安良多麻<乃> 登之可敝流麻泥 安比見祢婆 許己呂毛之努尓 於母保由流香聞】 【#[訓読]あらたまの年返るまで相見ねば心もしのに思ほゆるかも】 【#[仮名],あらたまの,としかへるまで,あひみねば,こころもしのに,おもほゆるかも】 【#[左注](右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持)】 【#[校異]之 -> 乃 [元][細]】 【#[事項],天平19年3月20日,年紀,作者:大伴家持,望郷,恋情,悲別,枕詞,高岡,富山】  0186: 東風<越俗稱東風謂之安由乃可是也>伊多久布久良之奈呉乃安麻能都利須流乎夫禰許藝可久流見由 あゆのかぜいたく吹らしなこのあまのつりするをぶねこぎかへるみゆ 【吉村研】 【#[番号]17/4017】 【#[題詞]】 【#[原文]東風 [越俗語東風謂<之>安由乃可是也] 伊多久布久良之 奈呉乃安麻能 都利須流乎夫祢 許藝可久流見由 】 【#[訓読]あゆの風 [越俗語東風謂之あゆの風是也] いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小船漕ぎ隠る見ゆ 】 【#[仮名],あゆのかぜ,いたくふくらし,なごのあまの,つりするをぶね,こぎかくるみゆ】 【#[左注](右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持)】 【#[校異]<> -> 之 [元][類]】 【#[事項],天平20年1月29日,年紀,作者:大伴家持,地名,高岡,富山,叙景,方言】  0187: こしのうみの信濃の濱をゆきくらしながき春日もわすれて思へや  右歌等天平廿年春正月廿九日  大伴宿禰家持歌 【吉村研】 【#[番号]17/4020】 【#[題詞]】 【#[原文]故之能宇美能 信濃[濱名也]乃波麻乎 由伎久良之 奈我伎波流比毛 和須礼弖於毛倍也 】 【#[訓読]越の海の信濃[濱名也]の浜を行き暮らし長き春日も忘れて思へや】 【#[仮名],こしのうみの,しなぬ,のはまを,ゆきくらし,ながきはるひも,わすれておもへや】 【#[左注]右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持】 【#[校異]天平廿 [元] 廿】 【#[事項],天平20年1月29日,年紀,作者:大伴家持,地名,高岡,富山,望郷】  0188:  見潛〓(盧+鳥)人作歌 賣比河波能波夜伎瀬其等爾可我里佐之夜蘇登毛能乎波宇加波多知家里 めひかはのはやきせごとにかゞりさしやそとものをはうかはたちけり  右歌巡行諸郡當時所屬目作之  大伴宿禰家持 【吉村研】 【#[番号]17/4023】 【#[題詞]見潜鵜人作歌一首】 【#[原文]賣比河波能 波夜伎瀬其等尓 可我里佐之 夜蘇登毛乃乎波 宇加波多知家里】 【#[訓読]婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり】 【#[仮名],めひがはの,はやきせごとに,かがりさし,やそとものをは,うかはたちけり】 【#[左注](右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)】 【#[校異]】 【#[事項],天平20年春,年紀,作者:大伴家持,地名,富山,動物,叙景,部内巡航,羈旅】  已上第十七卷  0189:  太上天皇御在於難波宮之時歌七首内  左大臣橘宿禰歌一首 保里江爾波多麻之可麻之乎太皇之美敷禰許我牟登可年弖之里勢婆 ほりえにはたましかましをおほぎみのみふねこがんとかねてしりせば 【吉村研】 【#[番号]18/4056】 【#[題詞]太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也] / 左大臣橘宿祢歌一首】 【#[原文]保里江尓波 多麻之可麻之乎 大皇乎 美敷祢許我牟登 可年弖之里勢婆】 【#[訓読]堀江には玉敷かましを大君を御船漕がむとかねて知りせば】 【#[仮名],ほりえには,たましかましを,おほきみを,みふねこがむと,かねてしりせば】 【#[左注](右<二>首件歌者御船泝江遊宴之日左大臣奏并御製)】 【#[校異]】 【#[事項],作者:橘諸兄,地名,難波,大阪,宴席,歓迎,元正天皇,伝誦,行幸】  0190:  御製歌一首和 多萬之賀受伎美我久伊弖伊布保里江爾波多摩之伎美弖々都藝弖可欲波牟 たましかす君がくひていふほりえにはたましきみてゝつきてかよはん 【吉村研】 【#[番号]18/4057】 【#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) / 御製歌一首[和]】 【#[原文]多萬之賀受 伎美我久伊弖伊布 保里江尓波 多麻之伎美弖々 都藝弖可欲波牟 [或云 多麻古伎之伎弖] 】 【#[訓読]玉敷かず君が悔いて言ふ堀江には玉敷き満てて継ぎて通はむ [或云 玉扱き敷きて] 】 【#[仮名],たましかず,きみがくいていふ,ほりえには,たましきみてて,つぎてかよはむ,[たまこきしきて]】 【#[左注]右<二>首件歌者御船泝江遊宴之日左大臣奏并御製】 【#[校異]一 -> 二 [代匠記精撰本]】 【#[事項],作者:元正天皇,橘諸兄,宴席,地名,難波,大阪,異伝,推敲,伝誦,行幸】  已上第十八卷  0191:  天平勝寶二年三月一日暮眺矚春苑桃李花作 春苑くれなゐにほふもゝのはなしたてるみちにいでたてるかも 【吉村研】 【#[番号]19/4139】 【#[題詞]天平勝寶二年三月一日之暮眺矚春苑桃李花<作>二首】 【#[原文]春苑 紅尓保布 桃花 下<照>道尓 出立D嬬】 【#[訓読]春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子】 【#[仮名],はるのその,くれなゐにほふ,もものはな,したでるみちに,いでたつをとめ】 【#[左注]】 【#[校異]作歌 -> 作 [元][文][紀] / 昭 -> 照 [元][類][紀]】 【#[事項],天平勝宝2年3月1日,年紀,作者:大伴家持,植物,絵画,高岡,富山】  0192: 吾園之すもゝのはなか庭にちるはたれのいまたのこりたるかも 【吉村研】 【#[番号]19/4140】 【#[題詞](天平勝寶二年三月一日之暮眺矚春苑桃李花<作>二首)】 【#[原文]吾園之 李花可 庭尓落 波太礼能未 遣在可母】 【#[訓読]吾が園の李の花か庭に散るはだれのいまだ残りたるかも】 【#[仮名],わがそのの,すもものはなか,にはにちる,はだれのいまだ,のこりたるかも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝2年3月1日,年紀,作者:大伴家持,植物,高岡,富山】  0193:  攀折堅香子草花歌一首 物部乃八十〓(女+感)嬬等之〓(才+(刀/巴))亂寺井之於乃堅香子之花 もののべのやそのいもらのくみまがふてら井の上のかたかしのはな 【吉村研】 【#[番号]19/4143】 【#[題詞]攀折堅香子草花歌一首】 【#[原文]物部<乃> 八<十>D嬬等之 は乱 寺井之於乃 堅香子之花】 【#[訓読]もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花】 【#[仮名],もののふの,やそをとめらが,くみまがふ,てらゐのうへの,かたかごのはな】 【#[左注]】 【#[校異]能 -> 乃 [元][類][古] / 十乃 -> 十 [元][古]】 【#[事項],天平勝宝2年3月2日,年紀,作者:大伴家持,植物,高岡,富山,枕詞】  0194:  夜裏聞千鳥喧歌二首之内 夜具多知爾寐覺而居者河瀬尋情毛之努爾鳴知等理賀毛 よくたちにねざめてをればかはせとめ心もしのになくちどりかも 【吉村研】 【#[番号]19/4146】 【#[題詞]夜裏聞千鳥<喧>歌二首】 【#[原文]夜具多知尓 寐覺而居者 河瀬尋 情<毛>之<努>尓 鳴知等理賀毛】 【#[訓読]夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め心もしのに鳴く千鳥かも】 【#[仮名],よぐたちに,ねざめてをれば,かはせとめ,こころもしのに,なくちどりかも】 【#[左注]】 【#[校異]鳴 -> 喧 [元][類] / 母 -> 毛 [元][類][文][紀] / 奴 -> 努 [元][類]】 【#[事項],天平勝宝2年3月2日,年紀,作者:大伴家持,動物,懐古,望郷,高岡,富山】  0195:  過澁谿埼巖上樹歌一首 樹名都萬麻 磯上之都萬麻乎見者根乎延而年深有之神左備爾家里 【吉村研】 【#[番号]19/4159】 【#[題詞]季春三月九日擬出擧之政行於舊江村道上属目物花之詠并興中所作之歌 / 過澁谿】埼見巌上樹歌一首 [樹名都萬麻]】 【#[原文]礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神<左>備尓家里】 【#[訓読]礒の上のつままを見れば根を延へて年深からし神さびにけり】 【#[仮名],いそのうへの,つままをみれば,ねをはへて,としふかからし,かむさびにけり】 【#[左注]】 【#[校異]佐 -> 左 [元][類][古]】 【#[事項],天平勝宝2年3月9日,年紀,作者:大伴家持,植物,土地讃美,氷見,富山,寿歌,出挙,部内巡行】  0196:  四月十二日遊覽布勢水海船泊於多〓(示+古)灣望見藤花  各述懷四首之内 藤奈美のかげなるうみのそこきよみしつくいそをもたまとぞわがみる  守大伴宿禰家持也 【吉村研】 【#[番号]19/4188】 【#[題詞](六日遊覧布勢水海作歌一首[并短歌])】 【#[原文]藤奈美能 花盛尓 如此許曽 浦己藝廻都追 年尓之努波米】 【#[訓読]藤波の花の盛りにかくしこそ浦漕ぎ廻つつ年に偲はめ】 【#[仮名],ふぢなみの,はなのさかりに,かくしこそ,うらこぎみつつ,としにしのはめ】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝2年4月6日,年紀,作者:大伴家持,氷見,富山,遊覧,土地讃美,植物】  0197: たこのうらのそこさへにほふふぢなみをかざしてゆかんみぬ人のため  次官内藏忌寸繩麿歌也 【吉村研】 【#[番号]19/4200】 【#[題詞](十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)】 【#[原文]多I乃浦能 底左倍尓保布 藤奈美乎 加射之C将去 不見人之為】 【#[訓読]多胡の浦の底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人のため】 【#[仮名],たこのうらの,そこさへにほふ,ふぢなみを,かざしてゆかむ,みぬひとのため】 【#[左注]次官内蔵忌寸縄麻呂】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝2年4月12日,年紀,作者:内蔵縄麻呂,遊覧,氷見,富山,植物,地名】  0198:  天平勝寶三年 新年之初者彌年爾雪踏平之常如此爾毛我 あたらしきとしのはじめはいやとしにゆきふみならしつねかくにもか  右一首歌正月二日守館集宴于時零雪殊多積有四尺焉即主人大伴宿禰家持作此歌也 【吉村研】 【#[番号]19/4229】 【#[題詞]天平勝寶三年】 【#[原文]新 年之初者 弥年尓 雪踏平之 常如此尓毛我】 【#[訓読]新しき年の初めはいや年に雪踏み平し常かくにもが】 【#[仮名],あらたしき,としのはじめは,いやとしに,ゆきふみならし,つねかくにもが】 【#[左注]右一首歌者 正月二日守舘集宴 於時零雪殊多積有四尺焉 即主人大伴宿祢家持作此歌也】 【#[校異]我 [元] 義】 【#[事項],天平勝宝3年1月2日,年紀,作者:大伴家持,寿歌,予祝,宴席,高岡,富山】  0199:  以七月十七日遷任少納言仍作悲別之歌贈貽朝集使掾久米朝臣廣繩之館二首 荒玉乃年緒長相見低之彼心引忘也毛 あらたまの年のをながくあひみてしかの心ひきわすられめやも 【吉村研】 【#[番号]19/4248】 【#[題詞]以七月十七日遷任少納言 仍作悲別之歌贈貽朝集使<掾>久米朝臣廣縄之館二首 /既満六載之期忽値遷替之運 於是別舊之悽心中欝結 拭な之袖何以能旱 因作悲歌二首式遺莫忘之志 其詞曰】 【#[原文]荒玉乃 年緒長久 相見C之 彼心引 将忘也毛】 【#[訓読]あらたまの年の緒長く相見てしその心引き忘らえめやも】 【#[仮名],あらたまの,としのをながく,あひみてし,そのこころひき,わすらえめやも】 【#[左注](右八月四日贈之)】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝3年8月4日,年紀,,作者:大伴家持,,宴席,餞別,悲別,羈旅,出発,久米広縄,高岡,富山,枕詞】  0200: 伊波世野爾秋芽子之努藝馬並始鷹獵太爾不爲哉將別 いはせのに秋はぎしのぎこまなめてこたかかりだにせでやわかれん 【吉村研】 【#[番号]19/4249】 【#[題詞](以七月十七日遷任少納言 仍作悲別之歌贈貽朝集使<掾>久米朝臣廣縄之館二首 /既満六載之期忽値遷替之運 於是別舊之悽心中欝結 拭な之袖何以能旱 因作悲歌二首式遺莫忘之志 其詞曰)】 【#[原文]伊波世野尓 秋芽子之努藝 馬並 始鷹猟太尓 不為哉将別】 【#[訓読]石瀬野に秋萩しのぎ馬並めて初鷹猟だにせずや別れむ】 【#[仮名],いはせのに,あきはぎしのぎ,うまなめて,はつとがりだに,せずやわかれむ】 【#[左注]右八月四日贈之】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝3年8月4日,年紀,作者:大伴家持,地名,富山,鷹狩り,宴席,餞別,悲別,出発,久米広縄,高岡,富山】  0201:  便附大悵使取八月五日應入京師因此以四日設國廳之饌於介内藏伊美吉繩麿餞之于時大伴宿禰家持作歌一首 之奈謝可流越爾五箇年住々而立別麻久惜初夜可毛 しなさかるこしにいつとせすみなれてたちわかれまくおしきよひかも 【吉村研】 【#[番号]19/4250】 【#[題詞]便附大帳使取八月五日應入京師 因此以四日設國厨之饌於介内蔵伊美吉縄麻呂舘餞之 于時大伴宿祢家持作歌一首】 【#[原文]之奈謝可流 越尓五箇年 住々而 立別麻久 惜初夜可<毛>】 【#[訓読]しなざかる越に五年住み住みて立ち別れまく惜しき宵かも】 【#[仮名],しなざかる,こしにいつとせ,すみすみて,たちわかれまく,をしきよひかも】 【#[左注]】 【#[校異]作歌 [元] 作 / 母 -> 毛 [元][類][文]】 【#[事項],天平勝宝3年8月5日,年紀,作者:大伴家持,枕詞,餞別,悲別,宴席,内蔵縄麻呂,出発,羈旅,高岡,富山】  0202:  五日平且上道仍國司次官已下諸僚皆共視送於時射水郡大領安努君廣嶋門前之林中預設餞饌之宴于此大悵使大伴宿禰家持和内藏伊美吉繩麿棒盞之歌 一首 たまぼこのみちにいでたち行われはきみがことゝを思ひてしゆかん 【吉村研】 【#[番号]19/4251】 【#[題詞]五日平旦上道 仍國司次官已下諸僚皆共視送 於時射水郡大領安努君廣嶋 門前之林中預設<餞饌>之宴 于<此>大帳使大伴宿祢家持和内蔵伊美吉縄麻呂捧盞之歌一首】 【#[原文]玉桙之 道尓出立 徃吾者 公之事跡乎 負而之将去】 【#[訓読]玉桙の道に出で立ち行く我れは君が事跡を負ひてし行かむ】 【#[仮名],たまほこの,みちにいでたち,ゆくわれは,きみがこととを,おひてしゆかむ】 【#[左注]】 【#[校異]饌餞 -> 餞饌 [元][類] / 時 -> 此 [元][類]】 【#[事項],天平勝宝3年8月5日,年紀,作者:大伴家持,餞別,出発,羈旅,悲別,枕詞,内蔵縄麻呂,高岡,富山】  已上第十九卷  0203:  天平勝寶六年正月四日氏族人等賀集于少納言大伴宿禰家持之宅宴飮歌三首之内 霜の上にあられたばしりいやましにあれはまいこむとしのをながく 【吉村研】 【#[番号]20/4298】 【#[題詞]六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首】 【#[原文]霜上尓 安良礼多<婆>之里 伊夜麻之尓 安礼<波>麻為許牟 年緒奈我久 [古今未詳]】 【#[訓読]霜の上に霰た走りいやましに我れは参ゐ来む年の緒長く [古今未詳]】 【#[仮名],しものうへに,あられたばしり,いやましに,あれはまゐこむ,としのをながく】 【#[左注]右一首左兵衛督大伴宿祢千室】 【#[校異]波 -> 婆 [元][類][紀] / 婆 -> 波 [元][類]】 【#[事項],天平勝宝6年1月4日,年紀,作者:大伴千室,賀歌,寿歌,大伴家持,宴席,古歌,伝誦】  0204: 霞立春のはじめをけふのごとみつとおもへばたのしとぞ思ふ  右一首左京少進大伴宿禰池主也 【吉村研】 【#[番号]20/4300】 【#[題詞](六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首)】 【#[原文]可須美多都 春初乎 家布能其等 見牟登於毛倍波 多努之等曽毛布】 【#[訓読]霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ】 【#[仮名],かすみたつ,はるのはじめを,けふのごと,みむとおもへば,たのしとぞもふ】 【#[左注]右一首左京少進大伴宿祢池主】 【#[校異]波 [元](塙) 婆】 【#[事項],天平勝宝6年1月4日,年紀,作者:大伴池主,宴席,賀歌,寿歌】  0205:  惜龍田山櫻花歌 たつた山みつゝこえこしさくら花ちりかすぎなんわがかへるとに 【吉村研】 【#[番号]20/4395】 【#[題詞]獨惜龍田山櫻花歌一首】 【#[原文]多都多夜麻 見都々古要許之 佐久良波奈 知利加須疑奈牟 和我可敝流刀<尓>】 【#[訓読]龍田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに】 【#[仮名],たつたやま,みつつこえこし,さくらばな,ちりかすぎなむ,わがかへるとに】 【#[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)】 【#[校異]祢 -> 尓 [元][類]】 【#[事項],天平勝宝7年2月17日,年紀,作者:大伴家持,独詠,地名,龍田,奈良,植物,難波,大阪】  0206:  獨見江水浮漂糞怨恨貝玉不依作歌 ほり江よりあさしほみちによるこつみかひにありせばつとにせましを  右二首兵部少輔大伴宿禰家持作歌 【吉村研】 【#[番号]20/4396】 【#[題詞]獨見江水浮漂糞怨恨貝玉不依作歌一首】 【#[原文]保理江欲利 安佐之保美知尓 与流許都美 可比尓安里世波 都刀尓勢麻之乎】 【#[訓読]堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを】 【#[仮名],ほりえより,あさしほみちに,よるこつみ,かひにありせば,つとにせましを】 【#[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)】 【#[校異]】 【#[事項],天平勝宝7年2月17日,年紀,作者:大伴家持,独詠,地名,難波,大阪,望郷】  0207:  反歌  エツト 伊幣都刀爾かひぞひろへるはま浪はいやしく/\にたかくよすれと 【吉村研】 【#[番号]20/4411】 【#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])】 【#[原文]伊弊都刀尓 可比曽比里弊流 波麻奈美波 伊也<之>久々々二 多可久与須礼騰】 【#[訓読]家づとに貝ぞ拾へる浜波はいやしくしくに高く寄すれど】 【#[仮名],いへづとに,かひぞひりへる,はまなみは,いやしくしくに,たかくよすれど】 【#[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)】 【#[校異]之之 -> 之 [西(訂正)][元][類][紀]】 【#[事項],天平勝宝7年2月23日,年紀,作者:大伴家持,防人歌,望郷,悲別,同情】  0208: 和我世奈乎つくしへやりてうつくしみおひはとかなくあやにかもねも  右一首妻服部呰女 【吉村研】 【#[番号]20/4422】 【#[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)】 【#[原文]和我世奈乎 都久之倍夜里弖 宇都久之美 於妣<波>等可奈々 阿也尓加母祢毛】 【#[訓読]我が背なを筑紫へ遣りて愛しみ帯は解かななあやにかも寝も】 【#[仮名],わがせなを,つくしへやりて,うつくしみ,おびはとかなな,あやにかもねも】 【#[左注]右一首妻服部呰女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)】 【#[校異]婆 -> 波 [元][類][紀][細]】 【#[事項],天平勝宝7年2月29日,年紀,作者:妻服部呰女,防人歌,女歌,恋情,埼玉,安曇三國】  萬葉集第二十     抄之畢  Description  さてこの萬葉集をば後拾遺の序に申たるは、この集の心はやすきことをかくしかたき亊をあらはせり。よりてまどへるものおほしとぞかきたるを、いとさにはあらぬにやとおぼえ侍なり。此集のころまでは歌のこと葉に人のつねによめる亊どもをとき、よのうつりかはるまゝにはよまずなりにたることばどものあまたあるなるべし。もろこしにも文體三たびあらたまるなど申たるやうに、此歌のすがた詞も時代のへだゝるにしたがひてかはりまかるなり。むかしの人のかたき亊をあらはし、やすきことをかたくなして人をまどはさむとおもへるにはあらざるべし。たゞしかきやうのもじづかひにとりてぞ、うちまかせてそのことにつかふもじをもかゝず、とかくかきなしたる亊ぞおほかるべき。たとへば春の花とも秋の月ともいへる歌を、やすくさはかゝでまなかなにひともじづつかきて、波流乃波奈阿伎之都伎などやうにかき、又おなじく一字にかくにとりてもこゝかしこもじをかへつゝもかき、卅一字の物をたゞ十餘もじ廿よもじなどにもかきなしたる所々の侍なり。まことにすこしはまどはさむとにやとも申つベかめれど、それもこと葉をかよはしてかくもいふぞなどみせんとなるべし。されど近來もさやうのもじつかひには、かゝれてまどふ物もあるなるべし。又歌どもはまことに心もおかしくことばづかひもこのもしくみゆる歌どもはおほかるべし。又萬葉集にあればとてよまむ亊はいかゞとみゆる亊どもも侍なり。第三の卷にや大宰帥大伴卿さけをほめたる歌ども十三首までいれり。又十六卷にやいけだの朝臣おほそはの朝臣などやうの物どもの、かたみにたはぶれのりかはしたる歌などはまなぶべしともみえざるべし。かつはこれらはこの集にとりての誹諧歌と申歌にこそ侍めれ。又まことに證歌にもなりぬべくもじづかひも證になりぬべき歌ごもゝおほくおもしろくも侍ればかたはしとはおもふたまへながらおほくなりにて侍なり。又ふるきこと葉どものいまは人よまずなりにたるもかくこそありけれど、人にみせんためしるしいれて侍り、又拾遺源などにもいりて、さらでもをのづから人のくちにある歌ももらさむもくちをしくて、かきしるし侍るほどになにとなくかずおほくなりて侍るなり。萬葉集の歌はよく心をへてとりてもよむべき亊とぞふるき人申をきたるべき。又ふるき歌はかみのくにいへることをすゑにかへしてふたゝびいふことは、つねの亊なるをいつよりいひそめけることにか、やまひとなづけてよまずなりにけり。これらはかの古今集の紀淑望がまなの序にいへる大津皇子のはじめて詩賦をこのみしより、かの漢家の文をうつしてわが日域の俗とす。民業ひとたびあらたまりて和歌やうやくおとろへにたりといへり。もしかのころおひよりこのかた詩のやまひとて、さる亊どもになずらへていひそめけることにや、歌の式といふ物は光仁天皇と申おほんとき參議藤原濱成つくりたると申ぞ式のはじめなるべき。其後こなたざまひこひめ喜撰などかしきとて、さまさまのやまひどもをたておきて侍やそのなかおなじ亊かへして、ふたゝびよむ亊と又おなじ心ふたところよむ亊むねとさるべきことにいまはなりはてにて侍り、そのほかのやまひどもはさりあふべきともみえ侍らず。されど式どもに申たる名ばかりはさる亊ありとばかりは、人しるべくやとてかきつけ侍也   濱成卿式に七病と云は  一ニハ頭尾 二ニハ胸尾 三ニハ腰尾 四ニハ黶子 五ニハ遊風 六ニハ聲韻 七ニハ遍身 といへり   やまひのありざまども式にみえたり、略之畢御らんずべからん人は式どもを御らんずべし   喜撰が式あるひは四病をたてたり  一ニハ岸樹 二ニハ風燭 三ニハ浪船 四ニハ落花 あるひは八病をたてたり  一ニハ同心 二ニハ亂思 三ニハ欄蝶 四ニハ渚鴻  五ニハ花橘 六ニハ老楓 七ニハ中飽 八ニハ後悔  これらも式にみえたり。此中にはじめの同心のやまひぞむねとさるべき亊とみえたるのこりはさりあふべきにあらざる亊也。それをさらばふるきよき歌どもみなことやぶれ侍ぬべし  ?四條大納言公任卿の新撰髓腦という物あり。俊頼朝臣の口傳と申か髓腦と申か又能因法師の書たる物などふるくもちかくもさま%\かきをきて待めり。これらはおもはゞみなおなじ亊どもに侍めればしるし申にをよばず。御らんずべからむ人は、それらをたづねて御らんずべし。これらはたゞさる亊ありとばかりに、その名ばかりをしるし申侍なり。そのなかにむかしの歌におなじことふたゝびかへしてよめることをきんたうの卿としよりの朝臣などさへいかに思ひ申たる亊にかなにはづの歌をさへこの花はむめの花なり。いまは春べとさくやこの花といふは、よろづの花なれば、やまひにあらずといひあさかやまの歌もはじめの山の名はにごりていふべし。あさくはといへるは山の井のあさき心なり。又みやまには松の雪だにきえなくにといへる歌も、はじめはおくやまをいふみやこはのべといふは宮なり。さればこれらはやまひならぬよしに申たること、いかにさは侍るにかただむかしの歌はわざと二たびいへるなり。病といふなる亊は時代のあらたまりへだゝりて、物しりたてける人どものしきをつくりなどしける程に、やまひどもをたてゝいひなやましてけるぞとてこそあらまほしけれ。ふるき歌どもをさへあらぬさまにいひなせる亊あやしくみえ侍亊也、先達の亊を申はよしなけれども、又今すこしあがりての人のよみけん心えたがひていひなす亊は、いますこしはゞかりあるべき亊なれば申侍る也、又このちかきころもうけ給はれば長歌にも短歌反歌にも韻の字のなど申なるいとみぐるしき亊也。詩の病など申亊はなずらへて式をつくり、やまひをたてなどするほどに、韻の字のなど申亊はたゞ歌にとりては、かみの五七五のおはりの句しもの七々の句のおはりのもじなどを、韻の字をおなじもじををけるははばかるべしなどいふばかりなり。まことには歌にはなにしにか韻はまことにはあるべき、詩には切韻といふ物ありてその韻の韻に入ぬれば、その韻のもじどもをつくればこそまことに韻といふ亊は申ことなれ、歌にはたゞ上の句のおはりの字、下の句のおはりのじのなにとなむあるなどこそ申を、詩の韻になずらへてはてのもじの亊いはむとて、いんの字のなどうち申ばかりにこそあるを、まことしくほどなき三十一字の歌うちなどに、むねの句には五七の七の句のおはりなかの五字のおはり七々の句ごとのおはりなどを韻の字など申らん亊どもいとゞみぐるしく侍亊なり、漢家の學問などもせぬものなどの物しりがほせんとてかたのごとくふみのはし/\などを老の後にならひても詩にいへるは、史記にいへるはなど申らむ亊いとみぐるしく侍り、歌はたゞかまへて心すがたよくよまむとこそすべき亊に侍れ。  萬葉集より後古今集の撰せらるゝ亊は、としは百四五十年代は十四五代にやなりて侍らむ。そのほどだにふるきこと葉ののこれるはつもかもけしべらなりなどやうのことばかりやあらむ。さらで萬葉集につねによめるはしきやしゑやもとはなどやうのことばは、むげにたえにけることはとみえたり。されば萬葉集のこの後より歌のありさまのかはりにけるほどは、これにてをしはからるゝ亊也。又萬葉集にいへる歌どものなかに  0209: はつ春のはつねのけふのたまはゝきてにとるからにゆらぐたまのを 【吉村研】 【#[番号]20/4493】 【#[題詞]二年正月三日召侍従竪子王臣等令侍於内裏之東屋垣下即賜玉箒肆宴 于時内相藤原朝臣奉勅宣 諸王卿等随堪任意作歌并賦詩 仍應詔旨各陳心緒作歌賦詩 [未得諸人之賦詩并作歌也]】 【#[原文]始春乃 波都祢乃家布能 多麻婆波伎 手尓等流可良尓 由良久多麻能乎】 【#[訓読]初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒】 【#[仮名],はつはるの,はつねのけふの,たまばはき,てにとるからに,ゆらくたまのを】 【#[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持作 但依大蔵政不堪奏之也】 【#[校異]之也 [元][細](塙) 之】 【#[事項],天平宝字2年1月3日,年紀,作者:大伴家持,未奏,宮廷,肆宴,宴席,藤原仲麻呂,寿歌,宮廷讃美】  Description  この歌は萬葉集にいれる本もあり、又なき本もありと申也、これをとしよりの朝臣の口傳に申たるは、たまはゝぎといふは春のはつねの日こまつをひきくしてはゝきにつくりて、ゐなかの人の家にこかふやをねむまのとしむまれたる女のこがひするに、物よきをかひめとつけて、それしてはきそめさせていはひのことばにいふ歌なりとぞいひつたへたると申を、能因法師の師大納言經信卿にかたりけるとて申たるは、これはむかし京極のみやす所と申は本院の大臣<時平のおとゝ>のむすめなり。延喜帝の女御にたてまつらんとせられけるを、日ごろよく/\いとなみて、すでにその夜になりていだしくるまなどよせて、女房かつ/\のるほどになりて、にれかに寛平の法皇御幸ありておほんくるまよせければ、このおとゞは思ひがけぬけしきにてさはがれければ、我いだしたてんとて帳のうちにいらせ給ひにければたゞあふぎておはしけるほどに、内より藏人御つかひにてまいり夜いたくふけぬ。いかなることぞとたづね申させ給ひければ、おとゞよろこびながらこのよしをおづ%\申されければ、しばし御返亊もなくてとばかりあきてしきりにしはぶき申されければ、いとあへなくこれはおひほうじたまはりぬとおほせられければ、いとあさましきことにていだしくるまにのりける女房みなおりにけり。世の人いかゞ云さたしけむとこそおしはからるれ。くら人かヘりまいりてこのよしをそうし申ければ物おほせられざりけり。その宮すん所のむかし三井寺のかたはらに、志賀寺とてことのほかにけんし給ふ所ありとてまいり給ひけるに、かの寺ちかくおりてところのさまおもしろくおぼえたまひければ、御車の物みをひろらかにあけてみづうみのかたなどみつかはしけるほどに、いとちかくきしのうへにあさましげなる草のいほりのありけるまどのうちより、ことのほかにおいおとろへたるおいほうしのまゆのしものしたよりめをみあわせたまひたりければ、いとむつかしきものにもみえぬるかなとおぼしてひきいらせたまひにけり。さてかへらせ給ひて後、おいほうしのこしふたへなるが、つゑにすがりてまいりてけんさむし侍し。おいほうしこそまいりたれと申させ給へと申ければ、しばしはきゝいるゝ人もなかりけれどひねもすにたちてあまりにいひければかゝる亊なん申物侍と申ければ、しかさる亊あらんと仰られてみなみおもての日かくしのまにめしよせて、いかなる亊ぞととはせ給ければ、しばしばかりためらひて志賀にこの七十餘年ばかり侍て、ひとへに後世ぼだひのことをいとなみ侍りつるに、はからざるけんさむをつかうまつりて、いかにも/\ことおもひなく、いま一たびけんざんの心のみ侍りてねさぶらふにもねられず、おきてもやすくゐられず侍れば、としごろをこなひいたづらになりなん亊のかなしさにもしたすけもやせさせおはしますとてつゑにすがりて、なく/\まにりて侍也と申ければ、いとやすきことなりとのたまひて、みすをすこしあけてみえさせ給ひければ、おもてのしはかずもしらず、まゆはしろき雪などにもまさりてみなおひかはりて人ともおぼえず、まことにおそろしげなるさましてまほり入て、とばかりありてその御手をしばしたまはらんと申ければ申にしたがひて御てをさしいだし給へりけるを、わがひたひにあてゝよろづもおほえずなき入て、かのてにとるからにといふ歌をよみかけ申て、この世にむまれ侍りて後九十年におよび侍ぬるにかばかりのよろこび侍らず。このえんをもておもひのごとく彌陀の淨土にむまれ侍りなばかならずみちびきたてまつらむ、又淨土にむまれさせ給はゞみちびかせ給べしと申てなきければおほんかへし  0210: よしさらばまことのみちにしるべしてわれをいざなへゆらぐたまのを 【不明】  とぞ仰られける。これをきゝてよろこびながらかへりにけりといへるを、この歌は萬葉集の廿の卷にあれば此物がたりことのほかのそらごとなるべきを、萬葉集のよき本といふは廿の卷の歌のいま四五十首ばかりなきなり。その本にはこの歌みえず。いかなる亊にかおぼつかなしとかけり。この亊を思ひたまふるは此歌はたとひ萬葉集にあるにてもなきにても、いかにもむかしの歌にこそ侍るらめ。それをふるき歌をもいまあることのそのことにかなひたる時は、詠じいづることはある亊にや。かのしがのひじりいまよめるならば、手にとるからにといはん亊は、しかありともそのまいりたりけん、日もし春のはじめのはつねの日にしもあらずば、たまはゝぎによそふべしともおぼえずやあらん。なか/\さやうのひじりなどのこのふるき歌をしりて手にとるからにといはんれうに思ひ出ていひいでたらむは、たまはゝきもいますこしをかしくもやあるべからむ。  おほかたはこれのみにあらず、伊勢物がたりにも大和國におんなとすむおとことしごろふるほどに、かうちのくにたかやすのこほりに又いきかよふところいできにけり。かくてかよふほどにもとのをんなおきつしら浪たつた山とよめるをきゝて、後かうちへもおとこいかずなりにければ、かのたかやすの女よめるとて  0211: 君があたりみつゝををらんいこまやま雲なかくしそあめはふるとも 【吉村研】 【#[番号]12/3032】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]君之當 見乍母将居 伊駒山 雲莫蒙 雨者雖零】 【#[訓読]君があたり見つつも居らむ生駒山雲なたなびき雨は降るとも】 【#[仮名],きみがあたり,みつつもをらむ,いこまやま,くもなたなびき,あめはふるとも】 【#[左注]】 【#[校異]】 【#[事項],地名,奈良,恋情】 【国文研/新古今和歌集/新古今和歌集巻第十五/恋歌五】 【1369/】 【君かあたり/みつゝをゝらむ/伊駒山/雲なかくしそ/雨はふる共】 【JTI/伊勢物語/二三】 【 昔、ゐなかわたらひしける人のこども、ゐのもとにいでゝあそびけるを、おとなになりにければ、おとこも女もはぢかはしてありけれど、おとこはこの女をこそえめとおもふ。女はこのおとこをとおもひつゝ、おやのあはすれどもきかでなむありける。さて、このとなりのおとこのもとよりかくなむ。】 【つゝゐつのゐづゝにかけしまろがたけすぎにけらしもいもみざるまに】 【 をむな、返し】 【くらべこしふりわけ神もかたすぎぬきみならずしてたれかあぐべき】 【 などいひいひて、つゐにほいのごとくあひにけり。さてとしごろふるほどに、女、おやなくたよりなくなるまゝに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、かうちのくに、たかやすのこほりに、いきかよふ所いできにけり。さりけれど、このもとの女、あしとおもへるけしきもなくて、いだしやりければ、おとこ、こと心ありてかゝるにやあらむと思ひうたがひて、せんざいのなかにかくれゐて、かうちへいぬるかほにて見れば、この女、いとようけさうじて、うちながめて】 【風ふけばおきるしらなみたつた山夜はにやきみがひとりこゆらむ】 【 とよみけるをきゝて、かぎりなくかなしと思て、かうちへもいかずなりにけり。まれまれかのたかやすにきて見れば、はじめこそ心にくもつくりけれ、いまはうちとけて、ゝづからいゐがひとりて、けこのうつはものにもりけるを見て、心うがりていかずなりにけり。さりければ、かの女、やまとの方を見やりて、】 【きみがあたり見つゝをゝらむいこま山雲なかくしそ雨はふるとも】 【 といひて見いだすに、からうじてやまと人、こむといへり。よろこびてまつにたびたびすぎぬれば、】 【きみこむといひし夜ごとにすぎぬればたのまぬものゝこひつゝぞぬる】 【 といひけれど、おとこすまずなりにけり。】  とよみてなむいだすに、からうじてやまと人こむといへりなどかきて侍を、これ又萬葉集の第十二卷の歌なり。伊勢物がたりはまことにあることをもかけり。又ゐなか人などのありさまは、さしもなき亊をもおかしきさまにかきなし、ものをもいはせ歌をもよませたる亊もあれば、ふるき歌にあひたることのあるとき、その歌をいはせても侍らむ。又まことにふるき歌をばしらねども、ゐなか人などのよみあはせたる亊も侍らむ。又おなじき物がたりにおとこみちのくにゑてすゞろにいにけり。そこなるをんな京の人をばめづらかにやおもひけむ、せちにおもへる心なむありける。さてかのをんなのよみけるとて  0212: なか/\に人とあらずはかひこにもならましものをたまのをばかり 【吉村研】 【#[番号]12/3086】 【#[題詞](寄物陳思)】 【#[原文]中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒<許>】 【#[訓読]なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり】 【#[仮名],なかなかに,ひととあらずは,くはこにも,ならましものを,たまのをばかり】 【#[左注]】 【#[校異]計 -> 許 [元][類][紀]】 【#[事項],恋情】 【JTI/伊勢物語/十四】 【 むかし、おとこ、みちのくにゝ、すゞろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちにおもへる心なむありける。さてかの女、】 【なかなかにこひにしなずはくはこにぞなるべかりけるたまのをばかり】 【 うたさへぞひなびたりける。さすがにあはれとやおもひけむ、いきてねにけり。夜ふかくいでにけれは、女】 【夜もあけばきつにはめなでくたかけのまだきになきてせなをやりつる】 【 といへるに、おとこ、京へなむまかるとて、】 【くりはらのあねはの松の人ならば宮このつとにいざといはましを】 【 といへりければ、よろこぼひて、おもひけらし、とぞいひをりける】  これ又萬葉集のおなじき第十二の卷の歌也。されば是もみちのおくのをんなのことを、おかしくいはむとて萬葉集の歌のさもありぬべきをいはせたるにもあらむともおもふたまふるを、又大和物語にもむかし大納言のみかどにたてまつらむとて、かしづき給ひけるむすめをうとねりなりける物のみて、よろづの亊おぼえざりければ、ゆくりなくとりてみちのくにゝいにけり。あさかのこほりあさか山にいほりをしてすみけるほどに、たちいでゝ山の井にかげをみるに、ありしにもあらずなりにけるかたちをみるもはづかしくて、よみてきにかきつけてなくなりにけりとてかけるうた  0213: あさか山かげさへみゆるやまの井のあさくは人をおもふものかは 【吉村研】 【#[番号]16/3807】 【#[題詞]】 【#[原文]安積香山 影副所見 山井之 淺心乎 吾念莫國】 【#[訓読]安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を我が思はなくに】 【#[仮名],あさかやま,かげさへみゆる,やまのゐの,あさきこころを,わがおもはなくに】 【#[左注]右歌傳云 葛城王遣于陸奥<國>之時國司祇承緩怠異甚 於時王意不悦 怒色顕面 雖設飲饌不肯宴樂 於是有前采女 風流娘子 左手捧觴右手持水 撃之王膝而詠此歌 尓乃王意解悦樂飲終日】 【#[校異]<> -> 國 [西(右書)][尼][類][古]】 【#[事項],雑歌,物語,歌物語,伝承,地名,福島県,葛城王,女歌,橘諸兄,恋愛,序詞,作者:采女】 【国文研/古今和歌集/(別巻)/(異本歌)】 【1143//うねめなりける女】 【あさか山/かけさへ見ゆる/山の井の/あさくは人を/おもふものかは】 【*ナシ】 【注記【伊達本の仮名序古注にあり、采女の歌】】  とよめりけりとかけり。この歌などはまして萬葉集にとりても、むねとある歌古今集にも歌のちゝはゝとて序にもいだせる歌を、やまと物語にかくいへり。これもふる歌をかの山のなかにゐていひ出てかきつけるにや、又この物がたりのよゝのふることにて、かのかつらぎの王のうねめがふるき亊をいひて、おほきことの心をやはらげるにやともすこしはあやしき亊どもになむ。いかにもふるき歌をおりふしにつけてかなへる亊によみいづるもある亊なるべし。さればかのはつねのけふのたまはゝきの歌のみにもあらず、かゝる亊どもはあることなりとしるし申侍也。さてこの手にとるからにゆらぐ玉のをの歌は、まことにある本なきほんあることに侍めり。そのかみよりみたまへし萬葉集にはいりて侍りき、又あつたかと申ものゝ部類して四季たてたる萬葉集あまた人のもとにもちたる本也。それにも春のはじめの歌の中にかきいれて侍りき。それを當時ある人證本と申し本を書うつして侍には此歌いらず侍也。されば此抄にもかきいれず侍也。されども萬葉菓の心の歌にては一定侍べし。又おほかたは萬葉集の亊は猶申べきことも侍也。なにとなきことながら人もおほんこゝろうべくやともおぼえ侍也。この集を聖武天皇の御時撰せらるゝ亊は、うたがひなく侍うヘにまことにさぞありけんとみえて侍也。聖武天皇位に廿五年おはしましけるほど、ならびに御位おりさせ給て太上天皇とてしづかにおはしまして、天平勝寶八年五月に太上天皇かくれおはしましにけり。又橘左大臣諸兄のおとゞはそのとしの正月に致仕して、前左大臣とて侍りけるはそのとしの八月に改元ありて、天平寶字元年と申ける又の正月にたちばなのさきの左大臣八年七十四にて甍じ侍にけり。さればそのさき萬葉集はさだめて撰進し侍にけん、それに大伴宿禰家持と申歌人は、この御時はじめは宮内少輔又越中守より少納言になりて侍めり。景雲元年に左京大夫になり寶龜十一年にぞ參議になり、延暦までありて中納言になりて侍めり。この家持卿のかの越中國にあり少納言になりてのぼりけるときのうた、國の人の歌などにておほくいりて侍也。又家持卿の父大伴大納言旅人の歌などもいりて侍めり。さればこの人の歌の集などをこそは、撰者にをくりて侍りけめ、さてかの卿の歌もおほくいりにけるにこそはとみえて侍れど、すこしは猶撰者もおぼつかなくは侍る亊なるべし。なを人も御心らんために、みゆる亊どもをしるし申侍りぬるなり。  End  底本::   著名:  中世歌論集   編者:  久松 潛一 編   発行所: 岩波書店   初版:  昭和九年三月五日   発行:  昭和十三年七月三十日 第四刷  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年4月1日〜2003年4月29日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年06月03日