Title  グリーン・カード 51  緑の札 51  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月三十日(火曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 四  Description  中央結婚承認祈----  圓い十二層に區切られた建物、 この市街では珍らしい形式の建物 だ。  屋上には青い樹木が茂つてゐ て、美しいといふより凡て青春を 思はせる建物だ。  こゝではこの國のあらゆる人達 の結婚、離婚の承認登録と裁定が 遂行されてゐる。  その必要のため、こゝでは何百 萬人かの人々がカードにその經歴 が記録されてゐる。  人々は誰でも指定してその人に 關するあらゆる知識を得ることが できる。  スミダ・タケル----彼はこゝの 所長である。彼は所長室にをさま つて興奮煙をくゆらしながら新聞 を讀んでゐた。  間もなく訪問者が現はれた。  〃ウズキ・シノブ。〃  有名なハザクラ・テアトルのウ ズキ・シノブをスミダ所長が知ら ないといふ道理がない。彼の顏に 久し振りな明るい微笑が湧いた。 「ようこそ。」  スミダ所長が歩きながら、さう いつた。 「あたし、たうとうお訪ねしまし たわ、可笑しい?」           ヽヽヽヽ  立つたまゝで、心持はにかんだ 樣子を見せると、すぐその心を紛 らすやうにシノブは笑つた。 「どうして!可笑しいことぢやな い、こゝをお訪ねになるのがほん とうです----。」 「スミダ所長!でもあたしいつか 所長にいつたことを、思ひ返すと ………。」 「ハヽヽ。そんなことはどうだつ て構はない。一生結婚する人がな いなんて----それはあの時の貴女 の意地です、で、相手の人が見つ かつたとでも----?」  スミダ所長は立ち停つて、腰を 伸ばすとシノブを正視した。 「スミダ所長。」  彼女はバンド・サツクの中から    グリーン、カード3 一枚の緑の札を取り出した。 「昨夜、シヤンハイの街で拾つ  グリーン、カード3 た緑の札、ちよいとこの人を調 べて下さらない----?」 「捨つた?」 「えゝ」 「番號は?」 「五千の三十九!」 「五千の三十九號……。」  不意にまた、スミダ所長は歩き 始めた。彼は歩きながら、記憶を 辿つてゐるらしい。    カード1   カード1 「その札は素晴らしい札だな」 彼は不意に立止つてさういつた。 「所長、素晴らしいつて誰?」 「さ----當てゝ見る氣はありませ んか。」 「だつて、たゞ素晴らしいぢや。」 「イヤ、あなたはすでに知つてゐ るはず、會つてゐる人だ。」  シノブはちよつと小首を傾けた がすぐに 「判らないわ、だつて妾、印象に 殘るやうな男性に會つた覺えはな いんですもの----」 「ホホウこれは手きびしい----し かしこの男だけは知つてゐるはず だが。」  しかしシノブは知らぬといつ た。スミダはたうとうまけていつ た。 「誰でもない、このカードはハナ ド・アキラだ、知つてゐるでせ う。」 「ハナド・アキラ?」  豫想に返してシノブの返亊は無 感激だつた。 「知りませんか?」 「ヱー」 「イヤあなたは會つてるはずだ、 ホテル・アジアで----あの夜祝賀 會の主賓ですよ。」 「あゝさう/\妾思ひ出したわ、 何だか若い人がゐましたね。」  スミダは案外なシノブの言葉、 この素晴らしい人氣のハナドを知 らぬ女性を、今更のやうに見まも るのだつた。  End  Data  トツプ見出し:   補償生絲廿萬梱   善後處理案決す   一年九ケ月延長と金額追加   來月二日の委員會に附議  廣告:   眼鏡印 肝油 ヴイタミンA及D含有量第一  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月三十日(火曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月23日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc51.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $