Title  グリーン・カード 50  緑の札 50  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二十八日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  緑の札 三  Description 「ほんとうですとも!ほんとう ですとも!僕等はアジアの唄に まゐらされたのです!」  え?!----と驚き喜んだのはジユ ンではなくてシノブであつた。 「みんな、じや、もう一度あたし と一緒にアジアの唄を唄ひませ う、さうして今夜は夜びて祝盃!」  シノブは彼等に命令した。  ブラボオ2 「萬歳!!」  彼等は狂氣して跳り上つた。  〃起て、起て、起て奮ひ起て   權富貪賤、自我も反意も----  アジアの唄が終つた。  忽ち彼等の姿は、十數台の飛行 機内に消えた。  ホワイト・スワル3 「白い燕」がすーと舞ひ上つた。 續いて一台、ニ台、三台、四台 五台……。     ×  上海の酒塲。レツド・ムウーン。 レツド・ムウーン!。  上海、地上街五十六番。二十五 層の四角な光りの家だ。  今、その屋上に數台の飛祈機が 着留した。たしかにそれはニホン       ホワイト・スワル3 の、しかも「白い燕」に先導され たハザクラ・テアトルの屋上を出 發した飛行機だ、  ホール----。  〃醉どれた人生!〃  まつたく醉どれた人生の展開で ある。こゝでは國境が無視されて ゐる。凡ゆる世界人が、何の約束 もなく、禮義もなく、醉どれて、 唄つて踊つてゐるのだ。     テイブル2  中央の卓子。そこにウズキ・シ ノブと彼女の一黨が「夜びて呑む」 約束を果してゐる。 「おい!見ろい! ニホンのウズ キ・シノブが向ふにゐる!」  突然、若いトルコ人が叫んだ。  ホールの人々の醉眼が一度に彼 女の顏へ集ひ寄つた。 「おゝ!ウズキだ!」 「ニホンのウズキ・シノブだ」  同時に人々は立ち上つて彼女の 名を讚唱した。  このとき餘りの騷々しい眼の光 りに、チビ公は慌てゝシノブの膝 から驅け降りた。 「おゝ!女王の戀人は逃げた!」  チビ公はホールを驅け出して、 ヱスカレーターに飛び乘つた。  階下へ、階下へと流れて行くヱ スカレータ----。  シノブは無意識に、そのあとを 追つた。  夜の街路----。  レツド・ムウーンの建物から、 ひらりとチビ公が飛び出した。チ      ヽヽ ビ公はそのもの音に驚いて、又し ても街路樹の下を南へ/\と逃げ 去つた。 「覺えておいで!どうするか」  はずみに----シノブは街路樹の 根につまづいてピシヤリと倒れ た、首かざりの寶石が飛んだ。 「あ!」  と、刹那にシノブが叫んだ。街         カード1 路樹の根に一枚の札が落されて ゐる。そのカードの上に、寶石が 落ちてゐるのだ。            カード1  シノブは夢中で寶石の札を取 り上げた。   グリーン・カード3           グリーン・カード3  〃緑の札!!ニホンの緑の札!!〃  カード1  札は中央結婚承認所から交付さ れた----5039----の記號札だ。  不思議にシノブの心が波立つた【。】  グリーン・カード3  緑の札!。これは男の札であ る。樹の上の空には美しい星がダ イヤモンドのやうにきらめいてゐ る、彼女は空をながめた、街路樹 に寄つて、大空を眺めてゐる若い 空の詩人が、彼女の頭を占有し た。今までに感じたこともなかつ た淡い甘い虹が彼女の心臟を貫い た。 「青春!」          グリーン・カード3  彼女はシツカリと緑の札を握 りしめた。  End  Data  トツプ見出し:   新補充計畫案で   海軍巨頭會見す   けふも三參議官出頭   軍令部長の説明聽取  廣告:   赤マムシ活精絞り汁 養命酒 携帶用 一圓廿錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二十八日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月23日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc50.txt,v 1.8 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $