Title  グリーン・カード 27  緑の札 27  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月三十日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき饗宴 一  Description  九月五日がだん/\近づいて來 た。             ヽヽヽ  そのある日、機械完成のしらせ を待つてゐるアキラのところへ、 突然思ひもかけぬ電話が掛つて來 た。  アキラの機械製作を請負つてゐ る工塲の全職工がストライキを始 めたゝめ、機械の完成は當分望め ない、といふのだ。  アキラはあわてゝ、ヒカルを連 れてその工塲へ出かけて行つた。  工塲の社長は、ヒツソリと靜ま り返つた工塲の中央にある亊務所 で心配さうな顏をしてアキラを迎 へた。 「一體、どうしたのです、何の 原因でストライキを始めたので す?」  アキラは職工達に對する嫌惡を かくし切れず、いかにも苦々しげ にいつた。 「原因はあなたの機械です」  工塲長の返亊は意外だつた。 「ヱ?」 「あなたの發明が餘り偉大すぎる からです、職工達は設計圖に從つ て各々全體の性能を知らずに、部 分品の製作をやつてゐましたが、 突然シラ・ソウ夕といふ男が現は れて、その機械の性能を知らせた のです」  高壓電力無線輪送機の完成が、 いかに多くの失業者を出すか、と いふこと、それはアキラが意識的 に企畫したものであるだけに、一 さうハツキリと職工達に判つた。  シラ・ソウタの煽動的な演説に 逢つた全職工は、自ら自分達の首 を斬られるギロチンを製造してゐ ることを知つた。 「高壓電力無線輪送機の製作を中 止しろ」 「勞働者の脅迫機械をブツ壞せ」  さうした叫びは遂にストライキ となつつ現はれた。  同機の製作をやめるといふ言明 を得るまでは、一人の職工も就業 しない----さういふ意味の要求書 を叩きつけて、今朝全職工は一人 殘らず、工塲から引揚げた。 「全く弱つてしまひました」  社長は途方に暮れて語つた。 「そして機械はどの程度まで進行 してゐるんです?」  アキラは社長の苦衷も聞かず機 械のことを問ひたゞした。 「まづ九分通りまではでき上つて ゐるといつて良いでせう」 「斷然、仕亊はつゞけて貰はねば 困ります、あなたがこゝで腰を折 つて、私の機械の製作を中止する ことは、あなたや私達の屬する地 上階級が、職工達の屬する地下階 級に屈伏することです。それはあ なた個人の問題ではありません」  アキラは亢奮を押し切れなかつ た。自分の父の屍に石打つた勞 働者が、今度は自分の機械を破壞 しようと企てゝゐるのだ。 「負けて堪るものか!」  アキラは科學者としての冷靜を いつも父と母のために失つた。  アキラの熱情は、ひとたび燃え るとなか/\消え去らなかつた。 「もし職工が一人も來ないやうだ つたら、僕ひとりで、殘りの仕亊 を完成します」 「そんなこと……」 「いやできます、百人の職工の力 は一個の機械の力に及びません、 もしこの機械の完成のために、千 人の職工を必要とするならば、十 個の機械があれば、それで十分で す、僕は飽くまでそれを斷言しま す」 「…………」  社長もアキラの熱し切つた言葉 にはむしろ呆れて返亊に困つた形 だつた。 「とにかく一度拜見させていたゞ きませう」  さういつてアキラは立上つた。 「妾、ご一しよに拜見しても、い いでせうか?」  ヒカルも立上りながらいつた。 「いゝですとも、いらつしやい」  End  Data  トツプ見出し:   『外務省大阪出張所』   來年度から實現か   坂神兩港の發展に應ずるため   經費は次議會で要求に内定  廣告:   秋口の肌の御手當 カガシクリーム   コロムビア蓄音機 正價金五十圓也  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月三十日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月02日 パイレーツ・オブ・カリビアン  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月20日  $Id: gc27.txt,v 1.11 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $